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May 2010

Sunday, May 30, 2010

成田スカイアクセスの弱気

成田スカイアクセス開業の7月17日の京成線ダイヤ改正(PDF)が発表されました。関連して羽田空港―成田空港間の直通列車復活を京急webでも発表されました。京急は京急蒲田駅周辺の上り線高架化に伴う羽田空港アクセス強化の改正をしたばかりですから、ダイヤの骨格は変わらないものの、相互直通系統の行き先が変更となるわけですね。というわけで京成のプレス発表に力が入るのは当然ですが、中身は微妙です。

ダイヤの骨格はピーク時に有料のスカイライナー3本/時、新ルート経由の料金不要アクセス特急3本/時、在来線経由一般列車3本/時の合計9本となり、昼間は間引かれてスカイライナーが上野発00分と40分の2本に在来線経由の旧スカイライナー改めシティライナーが毎時50分発で都合3本/時となり、アクセス特急が40分ヘッドと、有料のスカイライナーと料金不要列車のラウンドタイムにズレが見られます。結果北総線列車などが退避で各駅の時刻がバラつく可能性があります。

また別途7月5日に金町線高砂駅の高架化で、金町線は終日線内折り返しとなり、上野―金町間に4連で運行していた普通を系統分割し、上野側は6-8連に増強されます。また新設のアクセス特急と差し替えとなる快速は上野発着となり、千住大橋を停車駅に加え普通との緩急接続を図るということで、在来線側は現行ダイヤの修正が中心のようです。

というわけで、中断していた羽田空港―成田空港間の直通列車が復活することになりますが、所掌時間最速103分は、途中乗り継ぎとなる現行ダイヤからは20分の時間短縮にはなりますが、かつてのエアポート快特/特急時代の最速列車は110分程度でしたから、実は新ルートで最高速120km/h運転でも、時間短縮効果は10分程度となり、運賃が200円上がることを考えると、どの程度利用されるかは微妙なところです。両空港を1時間で結ぶとして都営浅草線区間のバイパス線建設が検討されてますが、それで可能な時間短縮はせいぜい5-10分程度でしょうから、費用の割には効果は薄いでしょう。直通1時間の達成は容易ではありません。車両運用は120km/h運転対応となることから、京成3050形と京急車が充当されることになりそうです。

結局新ルートの運賃料金の値上げにより、在来線ルートとの分担がどうなるか読みきれない中で、目玉のスカイライナーの増発以外は、保守的な布陣かと思います。運賃を強気で設定したために、ダイヤは弱気ということか。しかもそのために力技の改札分離でコストアップしているわけですが、この辺の判断は吉と出るかどうか、注目したいところです。

一方成田空港を巡る状況は流動的です。羽田空港の第4滑走路供用開始と新ターミナル建設による国際化と日米オープンスカイ協定締結により、成田空港の位置づけが微妙です。羽田空港の国際線就航は便数の上では少ないものの、立地の利便性は圧倒的で、今後も発着枠の国際線への割り当てが増えると考えられます。成田空港も新滑走路延長で発着枠が増えるものの、立地面での不利は拭えません。

また今年のGWではささやかながら異変もありました。曜日付きの悪さと新型インフルエンザの影響で冴えなかった昨年との比較では利用は増えたものの、今年オープンの茨城空港で国際チャーター便が多数運行されたこともあり、その分成田の利用は食われたと考えられます。

あとちょっとややこしい話なんですが、JALの再建問題が事態を複雑にしています。日米オープンスカイ協定に基づく羽田発着の太平洋線の日米4往復ずつの割り当てで、米側がデルタ2往復、アメリカン1往復、ハワイアン1往復で、日本川の提携エアラインのないスカイチーム所属のデルタに2往復、JALと同じワンワールド所属のアメリカン1往復で、ANAと同じスターアライアンス所属のユナイテッドには割り当てないとなったのは以前の記事の通りですが、結果JALの所属するワンワールドがアメリカンの1往復を加えて3往復の一方、ANAの2往復のみのスターアライアンス、デルタ2往復のみのスカイチームとの間で配分が不公平になる上、JALが公的支援を得て経営再建中であることから、不公正競争というのがANAの言い分です。実際欧州では経営再建中のエアラインの就航制限を行っており、ANAの言い分にも一理あります。

加えて現在は国際線中心で高額の着陸料を設定している成田空港ですが、今後アメリカ以外ともオープンスカイを進めるのであれば。この内外価格差も見直しを迫られます。となれば成田空港にとっては減収要因となりますが、逆に値下げで就航便を集めやすくなる可能性もあります。そして上記のように両空港間の移動手段として鉄道が機能する状況にはないですから、今後の需要には読みにくさが付きまといます。この辺を視野に入れると、成田スカイアクセスの運賃設定は微妙なんですね。アクセス鉄道で改札分離までしてコストをかけて使い勝手を悪くするというのは、疑問の残るところです。

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Tuesday, May 25, 2010

当てない民主政治で損くらってます

タイトルだけでは意味不明ですが、ギリシャショックについて書いておこうと思います。古代ギリシャのアテナイの民主政治は、基本的に奴隷制をベースとした特権市民だけの民主制で、主に戦争で征服した周辺国の民を奴隷として徴用することで、哲学や数学など真理の探究に明け暮れた古代文明の地で、現代的な民主政治の破綻に直面しようとは思いもよりませんでしたが。

気になるのは所謂ソブリンリスクという用語がメディアで多く露出しているのですが、財政赤字の対GDP比がギリシャより悪い日本の財政を戒めるニュアンスで取り上げられますが、とんだお門違いです。経常赤字が累積する純債務国と経常黒字が累積する銃債権国の財政を同列で扱うことは出来ません。経常黒字の累積は即ち家計貯蓄となります。ザックリ言えば国全体の産出高の内、国内で消費されない分が輸出へ回り黒字となるわけですから、産出は所得とほぼ同義ですから、消費へ回らなかった分は貯蓄となるのは小学生でもわかる道理です。その貯蓄の範囲内で政府財政の赤字がファイナンスされている内は、財政破綻はあり得ないのです。

ギリシャは赤字国即ち純債務国ですから、政府財政の赤字は外国から調達して埋め合わせる必要があるわけで、しかも引受先がイタリアやスペインやアイルランドの金融機関で、彼の国々も財政赤字にあえいでいるわけで、早い話がEU加盟国同士で赤字国債の持ち合いをしていたわけです。何か日本の民間企業の株式持合いと似ているような^_^;。

だから日本の90年代の株安と銀行の不良債権の負の連鎖を想起させ、危機が拡がることを恐れられているのです。そして同じEU加盟国で通貨ユーロ導入16カ国中、ドイツ、オランダ、ベルギー、フィンランドの黒字4カ国がアンカーとならざるを得ず、金融機関の不良債権化した保有債券の償却を時間をかけて支援せざるを得ない状況です。丁度日本の90年代、バブル崩壊後の金融機関が実体経済の足を引っ張る構図と同じです。つまり欧州は日本の失われた90年代以降と同じ停滞期に入ったということです。

リーマンショック後の国際協調による財政出動で景気は回復してはいるものの、どこの国も短期的な財政出動から財政再建へ舵を切る出口戦略に苦慮しているわけですが、財政赤字問題だけで言えば、ギリシャだけを責められないほど他の加盟国の財政も痛んでいる中で、ギリシャの財政が破綻したら、ドミノ倒しのように他国へ波及し、ユーロの信認にも傷がつきかねないわけです。だからといってドイツ国民にとっては、自分たちの国富でギリシャのインモラルな財政破綻を救うことに抵抗感があるわけで、ドイツメルケル政権を苦しめており、実際地方選挙では与党が敗北するなどして、焦ったドイツは国民受けしそうな国債先物取引の規制を発表し、それがドイツの銀行の救済策と取られて市場にドイツの銀行の資産劣化を疑われ、先週の世界規模の株安に火をつけました。金融がグローバル化した現状では、1国だけで規制をしても意味がないどころか、むしろ裏をかかれてしまうわけです。何か90年代の日本を見ているようですね。

というわけでユーロ安となるわけですが、ユーロ導入16カ国はEU加盟国で既に相互の関税が撤廃され、同一通貨を用いるのみならず移住制限も撤廃され労働力移動も流動化し、リスボン条約も発効し欧州大統領も選ばれているわけですから、そもそもギリシャの財政危機をソブリンリスクと認識するのは正しくないのではないでしょうか。少なくともユーロ圏16カ国を1つの国と見る方が見えてくるものがありそうです。

この観点からは、上記の黒字4カ国を日本の太平洋ベルト地帯に、PIIGSと言われる財政破綻懸念のある国々をその他の地方と見れば、ユーロ圏事情が日本とよく似ていることに驚かされます。日本でも夕張ショックというのがありましたけど、ギリシャの財政破綻はさしずめ東北あたりの現状と対比すればわかりやすいでしょうか。EUの開発プログラムに沿って資金援助を受けてインフラ整備をしてきた周辺国は、さしずめ高速道路や空港や整備新幹線をおねだりする地方と同じで、実際天から降ってきたお金で投資ブームが沸き起こり、地価と株価を押し上げた様は、日本の80年代後半にも匹敵する熱狂ぶりで、それをドイツなど黒字国の貯蓄がファイナンス、加えてロンドン経由で欧州に流れ込んだアラブのオイルマネーも文字通り火にアブラ^_^;。しかしはじけるときはあっけないものです。そういやドバイショックなんてのもありましたが、お金の入り口と出口の関係で見れば、過剰なマネーが動き回っているだけというのがわかります。またユーロ安は黒字4カ国にとっては追い風ですが、2003-2004年の日本の大介入による円安誘導と同じ効果があるわけで、いずれ欧州企業の競争力を削ぐことになり、ここでも日本化が進みます。

ギリシャの財政危機が発覚したのは総選挙で政権交代が起きて、財政を精査したら国の経済統計に作為的改ざんが発覚し、表に出たものです。何かアジアのどっかの国でも似たようなことが起きてますが、政権交代後、予算編成してみたら、あまりにも財政状況が悪すぎて、選挙で約束したマニフェストの実行が難しいということで、マニフェストを変更するかどうかでゴタついております。そういや谷ツ場ダムはどーなったかというと、本体工事が凍結中でも県発注の関連工事は次々に発注され、しかも落札率90%超であからさまな談合状態ですが、政府はそれを止められないどころか、国交省の公共工事関連一括交付金で支援までする始末。地方が天から降ってきた金を貪る構図はギリシャ顔負けです。鳴り物入りの事業仕分けで埋蔵金発掘が期待されてますが、突っついてみたら隠れ借金が出てきたなんて事もありうるわけで、百鬼夜行の政権運営は続きそうです。

というわけでバブルがはじけて20年、日本は消滅せずに低位安定を保っております。となれば欧州の未来も同様、グローバルに進む日本化(苦笑)は、やっと欧州も日本に追いついたってわけです。80年代の日本のバブルは日本市場の閉鎖性の証しだったけれど、グローバル化が進み世界が単一市場に収斂されればこれ即ち究極の閉鎖市場ですから、かつての日本の出来事を世界がトレースするだけの話です。これで少し安心して眠れますかね^_^;。

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Monday, May 24, 2010

辻堂駅ホーム拡幅工事でマニアックな臨時ダイヤ

22日17:30頃から23日6:00頃まで、辻堂駅ホーム拡幅工事に伴う線路付け替えのため、東海道線が臨時ダイヤで運行されました。辻堂駅上り旅客線を北側へ移設し、旧上り旅客線のスペース分だけホームが拡幅されたわけですが、そのためにこの時間帯の東海道線上り列車は特急踊り子なども含めて茅ヶ崎から上り貨物線に転線する形となります。

茅ヶ崎側から辻堂へ向かうには藤沢から折り返し下り列車に乗り換える形となります。そして藤沢から羽沢経由の東海道貨物線を辿り、新鶴見(信)で横須賀線(通称品鶴線と呼ばれる東海道線別線)へ転線、品川で東海道線旅客線へ転線して東京へ向かうというマニアックなルートです。そのために藤沢の次は武蔵小杉、品川となり、大船、戸塚、横浜、川崎へは直接行けません。

それをカバーするために、藤沢駅始発の横浜経由東京行きの上り列車を設定し、藤沢駅下り側の折り返しY線留置線が活用されました。それゆえ貨物線経由はライナーホームの1番線、横浜経由は通常の3番線発となり、これも異例です。かつて朝に始発列車が設定されていたのは、横須賀線が分離される前ですから40年も昔の話、153系が充当されていたので、朝の貴重な着席列車として重宝されたのも今は昔です。

そしてこの留置線にかかる踏切があるため、15連だと車両留置中は踏切は遮断状態となることもあり、10連列車中心の運行となったため、土曜の夜の時ならぬ混雑となり、車内放送は平身低頭のお詫び放送が繰り返されました。貨物線運行列車も品川駅進入時に下り旅客線との平面交差横断があるので、10連が中心だったようで、中には普段15連固定編成で運用されるE233系3000番台も10連となるなどの椿事もあったようです。あいにく目撃は出来ませんでしたが。また運用増となるせいか、211系も多数動員され、こちらも普段は見られない10連で走っており、セミクロス車では立席スペースの狭さが恨めしいところでした。

また湘南新宿ラインも南行列車を新宿や大崎で折り返して間引くことで、今は大崎駅構内となっている旧蛇窪(信)の平面s交差支障を減らすなどしており、ダイヤの変更はかなり大掛かりなものです。鉄の虫が疼いて仕方なかったのですが^_^;、夜ということもあり、それほど暇でもないので諦めましたが、案の定、撮り鉄が集まっていたようです。夜だからフラッシュ焚いた不心得者が出なかったか気にかかります。

ここまでは単なる見たまま情報ですが、ここまでして行った辻堂駅のホーム拡幅工事となそもそも何だったのかということですが、簡単に言えば旅客の安全空間の確保ということになります。ホームを拡幅して旅客の線路転落やホーム上での触車事故など人身事故防止のための工事だったわけです。そのために橋上駅舎化と貨物集約で空きスペースとなっていて、駅ビルやコイン駐車場に使われていたものを、駅ビルを解体しコイン駐車場を潰して上り貨物線から順次北側へ線路を付け替えていた工事が最終段階として上り旅客線の付け替えと旧上り旅客線スペース分のホーム拡幅工事を行うための大掛かりな臨時ダイヤとなったわけです。

早い話一足早く旧東横線横浜駅スペースを利用した横浜線9,10番線横須賀線ホームの拡幅工事と同様、人身事故防止のために行う近郊区間駅ホーム拡幅の一環という位置づけです。つまり2008年発表のJR東日本中期経営計画で謳われた輸送の安全に取り組むとされた中の一環で、山手線のホームドア設置工事と同じ流れです。上記のようにテナントの入っていた駅ビルを解体してまで実施しており、本気度の高さを裏付けます。

22日は久々に山手線にも乗車しましたが、7号車にサハE231600番台を組み込んだ編成で、マクラギ方向に3列の吊り輪が並ぶE233系仕様ながら、つり手の色をグレーにしているせいか、さほど違和感はありません。10号車の46000番台は線路保守で京浜東北線列車が走行する場合に備えてドア位置をずらしているのがご愛嬌、しかも負荷荷重の関係でE233系先頭車とも微妙にずれたドア位置で座席を減らし立席スペースを広めに取るなど、苦労が偲ばれる作りですが、同時に若干のドア位置のずれは容認されるということでしょうか。そうなると山手線以外の線区への拡大も視野に入っているかもしれません。とりあえず今年から目黒、恵比寿両駅で始まる3年間の検証期間に注目です。

一方で羽田アクセスで上り線が高架化された京急蒲田駅で、地元からエアポート快特の「蒲田飛ばし」が問題視され、地元では「高架化に協力したのに」といった恨み節がある一方、石原都知事の「近いんだから自転車で行け」の問題発言もあって揉めてますが、そもそもはR15(第一京浜国道)と都道環状八号線の踏切除去のための連続立体化に併せて羽田空港アクセス改善を行うという事業であり、危険性の除去と道路渋滞の解消、市街地の分断の解消などの趣旨からすれば「協力したから列車を停めろ」は完全に言いがかりです。

またそもそも上り線だけの立体化で空港線は事実上大鳥居までは単線並列で横浜方面からのエアポート急行などは逆線走行を余儀なくされるのですから、京急蒲田での客扱いはダイや編成上難しいですし、何より大荷物を持った空港利用者が乗車する空港アクセス列車として、停車駅が少ないというのは、非空港客との競合防止で双方の利便に合致しますし、ライバルの東京モノレールが浜松町からノンストップの空港快速を走らせている状況からも、競争上必要な措置といえます。そもそも連続立体化事業は道路側の事業であり京急単独事業ではなく、京急は営利企業として受益分の負担をしているのですから、列車運行は京急の専管事項であるはずです。

ちょっと横道にそれましたが、同じように危険の除去を用意周到に行った鉄道事業者が、謂れのない非難を受けるのは納得できません。京急蒲田の場合は下り線の切替時にどうなるかということもありますし、羽田空港行きが交互に地上の1番線と2階の3番線から発車し、特に地上ホームは駅舎から地下通路で連絡するため、乗り遅れたとき次の列車に乗るために延々階段を移動させられるなど、未完成故に強いられる負担もあるわけですが、過度期の問題として理解することも必要でしょう。

丁度普天間問題で辺野古沖移転の政府案が決まったというニュースが流れましたが、普天間の危険性除去という目的のための過度的な措置であることを鳩山首相は述べております。最終的にグアムやテニアンに移設するにしても、それまで普天間を使い続ける選択肢は取り得ないですし、より大きな問題として、治外法権と言われる日米地位協定の見直しや、既に実現している那覇空港の管制権の返還、基地に頼らない沖縄の経済振興など総合的に取り組むべき問題の大きさを明らかにしただけでも、今回の政権の迷走劇は無駄ではなかったといえます。大きな変革には時間もかかれば副作用もあるわけで、プロセスを見える化したという意味で評価すべきでしょう。反対のための反対では出口は永遠に見えません。

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Saturday, May 15, 2010

"さくら"さくよりも"はや"くしたいけど"て"もち"ぶさ"たなE5系

11日、JR東日本より今年12月4日に東北新幹線新青森開業が発表されました。

東北新幹線新青森開業等について(PDF)
当面E2系"はやて"により運行され、E5系は来年3月から最高速300km/hで運行開始となります。その際の新愛称が"はやぶさ"ということで、九州夜行のイメージから鉄ちゃんの間で驚きが走りました
新しい東北新幹線の列車愛称等の決定について~20011年3月から新型高速新幹線車両(E5系)営業運転開始~(PDF)
同時にE5系10号車のスーパーグリーン車正式名称"グランクラス"も決定されました。
新型高速新幹線車両(E5系)「スーパーグリーン車(仮称)」の正式名称・インテリアデザイン決定について(PDF)
何だかややこしい発表ですが、理由があります。というのも、来年3月に博多開業、新大阪―鹿児島中央間直通運転が始まる九州新幹線との関係です。本来ならば開業と同時にE5系デビューで華々しくといきたいところですが、九州新幹線と同時開業では目立たないということで、工事を早めて年内開業にこぎつけたものの、E5系の増備と走り込み、乗務員訓練などのスケジュールは動かせませんから、結果的にこのような形になったわけです。

というわけで、愛称も"さくら"の上を行きたいから"はやぶさ"、幸い"はやて"の進化形との強弁も可能(笑)という結構笑えないJR東日本の本気が垣間見えます。加えて足の遅い200系、400系、E4系を一掃しE2系、E3系の275km/h走行で揃えないと、福島駅のやまびこ・つばさ分割併合中にはやてを通過させる東北新幹線のダイや構成上E5系の性能は活かせないということもあり、段階的にスピードアップせざるを得ないのです。東北新幹線もダイヤが詰まってきているわけです。

とはいえ12月はスキーシーズンではあるものの、十和田湖や八甲田山などの有名観光地は休眠中ですから、わざわざ開業時期を前倒しする意味は見出しにくいのですが、話題性の面で九州とのバッティングは避けたかったのですね。加えて"はやぶさ"の愛称ですから、ある意味九州にあやかってまでも話題性づくりをしたかったんですね。逆にそれぐらい新青森開業の前途は厳しいということでもあります。

基本的に産業立地からビジネス利用はほとんど見込めませんから、観光をメインにせざるを得ないですし、数を頼めないから客単価を高くしたいのでスーパーグリーン車を"グランクラス"としました。このあたりはカシオペアや北斗星の豪華列車路線の新幹線版という見方も可能です。

さてそうなると、開業後の在来線の方が難問山積なんですが、まず新青森の立地の問題で、北海道へ向かう津軽海峡線と直接連絡できませんが、接続列車となる白鳥を青森でスイッチバックさせて新青森発着とするのでしょうか。あるいは"つがる"と一体化して弘前―函館間列車とするかもしれません。

それと八戸―青森間の在来線が青い森鉄道に移管される予定ですが、そうなると八戸線と大湊線が孤立することになります。運賃は打ち切り合算で現状よりも高くなると考えられますから、非電化2線沿線利用者は新幹線の恩恵もないのに不利益を蒙ることになりかねません。特に六ヶ所村の核燃料再処理工場やプルサーマル専用の大間原発を受け入れた地域の人たちには納得しがたいのではないかと余計な心配をしてしまいます。

これも長野新幹線開業でしなの鉄道移管の際に、乗客の多い篠ノ井―長野間をJRで残した結果、しなの鉄道の経営を苦しめたことの反省に立っているのですが、結局在来線は切り捨てられ、整備新幹線が単なる目くらましに過ぎないことは明白です。

余談ですが、14年ぶりに運転再開した福井県敦賀市の高速増殖炉もんじゅが早速トラブル続きで前途多難をうかがわせます。実用炉は2050年ごろと言われておりますが、それは一番順調にいった場合の話で、この調子では今世紀中の実用化は限りなく難しいところです。加えて六ヶ所村の再処理工場もトラブル続き、プルサーマル用MOX燃料工場も、高速増殖炉向けの再処理工場や燃料工場も全く白紙ですが、整備新幹線をえさに地方を釣るようなことはいつまでもできないでしょう。

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Sunday, May 09, 2010

羽田アクセスバトル

タイトルでお分かりのように成田アクセスバトルの続編です。京浜急行電鉄では、来る5月16日にダイヤ改正を実施、新逗子―羽田空港間のエアポート急行が登場することになりました。

5月16日(日)ダイヤ改正を実施します
従来、新逗子発普通を金沢文庫で三崎口発快特に併結し、京急川崎で分割し特急羽田空港行きとする運行形態を見直し、8連の急行として復活するものです。併せて停車駅を見直し、Suica,PASMO関連で連絡運輸駅となった杉田(新杉田)と仲木戸(東神奈川)に停車、一方かつてのD急行停車駅だった黄金町、子安、生麦が停車駅から外れます。JR根岸線、横浜線沿線客の取り込みを意識したものですね。

品川方面も鎌田通過のノンストップ運行となるエアポート快特が登場、日中20分ヘッドの運行となります。そのほか10月の新滑走路供用開始による24時間化を睨み、早朝深夜の列車を新設、朝夕ラッシュ時間帯も既設列車の延長の形で羽田空港直通列車を増強しております。

迎え撃つJR東日本は、傘下の東京モノレールの新国際線ターミナル駅新設に伴うルート変更を4月1日に実施、現在は新駅を通過扱いとしておりますが、天空橋―羽田空港間に新駅建設中の京急共々ややフライング気味に動いております。それだけ羽田の国際線就航のインパクトは大きいということでしょう。

ここで思い出していただきたいのが、7月17日に予定される成田スカイアクセスの開業です。既に最高速160km/hの新型スカイライナーや最高速120km/hの一般特急に投入される京成3050形が登場し試運転も始まっておりますが、いずれも上野発着となりそうなので、ここへ来て京成と京急の空港連絡輸送が又裂き状態となります。羽田―成田直通1時間で両空港一体は夢と消えそうです。

そういえば記事執筆時点でも株安でしたが、その後リーマンショックもあり当時よりも相場が下がっており、ギリシャショックで大騒ぎです。とはいえ相変わらず騒ぐだけの報道姿勢は相変わらずです。確かにギリシャの騒乱状態は収束が見えませんが、EUとIMFが支援を決めており、それを受けて議会は融資条件の財政再建計画を決定、ギリシャ支援に消極的とされるドイツも承認しており、G7緊急電話会議や日銀など各国中央銀行の機動的なアクションもあり、当面は落ち着くと見られます。

そもそも7日のニューヨーク市場の1,000ドル規模の価格下落は、特定はされていないものの、シティグループのトレーダーによる発注ミスと見られており、16millonを16billionと打ち間違えたらしいと言われます。シティは否定しておりますが、人為ミスとしか思えない不自然な相場の下落があり、それにアルゴリズム取引と言われる相場の動きに連度した小口自動売買が追随して傷口を拡げたようです。何か2006年のみずほ証券による株式誤発注事件を思わせます。グローバルな金融自由化で、金融市場そのものがかなり不安定になっているのは確かですが、いちいち過剰反応しないことが肝要です。

話を戻しますが、羽田空港と成田空港の棲み分けがどうなるかは、航空側からのアプローチにも注目です。日米オープンスカイ協定締結を受けて、米航空会社に割り当てられた太平洋線4往復の発着枠に米航空各社の申請が多数出されておりましたが、米運輸省の認可が3社に下りました。

羽田―ホノルルに定期便 来年1月までに
米運輸省、3社に羽田便認可
絶妙なバランスです。ユナイテッドとコンチネンタルの経営統合とANAとのアライアンスが考慮され却下、同じくJALとのアライアンス関係になるアメリカンに1往復とし、日本のエアラインとアライアンスのないデルタに2往復とした上、日本路線新規参入のハワイアン航空を加えてます。日本側は未定ですが、JALとANAで分け合うのか、日米アライアンスを考慮して新規参入社を加えるのか注目されます。

とはいえ太平洋線に参入できる新規参入社は現状では見当たらず、スカイマークの安全軽視による業務改善命令もあり、日本側の発着枠配分は一筋縄ではいかないようです。今後発着枠の追加も見込まれており、成田との棲み分けがどうなるか目が離せません。

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Wednesday, May 05, 2010

信濃川欲得の饗宴

鉄ちゃん的にはあまり愉快な話題ではありませんが、重大なニュースですが、その割りにメディアへの露出は少ないですね。というか、最近のメディアの迷走ぶりにはうんざりです。

例えば普天間問題、結局県外移転は難しく、辺野古沖案の手直しと一部徳之島他への機能の分散になりそうということが明らかになりましたが、いろいろな見方があることを承知で申し上げますが、鳩山首相は現実的な選択をしたといえます。問題は辺野古沖埋立案が、公有水面埋立認可の権限を有する沖縄県が容認派の中井間知事を擁しながら、県議会の同意が得られずに膠着していたので、辺野古へ戻すのも容易ではないんです。

その意味で桟橋方式が検討されたのでしょう。埋立と違って工作物の設置ですから、厳密にはいろいろありますが、国の権限で押し切ることができるということです。当然政府は地元の説得に努めるでしょうけど、実はこの点が一番重要なんですが、最悪国の権限で押し切れるということを意味します。ある意味腹くくったわけです。

というのも、元々普天間の海兵隊は、既に米軍再編計画で主力部隊のグアム移転が決まっておりますが、有事の拠点としての沖縄を手放したくないのが米軍の本音です。日本が本気で求めれば全面撤退もありうるでしょう。しかし日本の防衛を担う米軍のディフェンスラインを後退させることを意味しますから、実は日本側の問題なんですが、国民意識として現時点で海兵隊に「出て行ってくれ」と言えるほどの覚悟が共有されているとはとても言えない状況です。鳩山首相を悪者にしても何も解決しない問題です。

同時に徳之島の拒否反応でわかるように、沖縄の負担軽減に積極的に手を上げる自治体は皆無ですが、そもそもは沖縄の負担軽減のための移転だったのに、国民レベルでの分かち合いには程遠い状況こそ憂うべきでしょう。とはいえ遅々として進まない日米地位協定の見直しの状況を考えると無理からぬところで、結局移転先をどこに決めるかよりもより大きな問題が横たわっているのですが、鳩山政権の迷走を伝えるメディアにそのような問題意識は見当たりません。

前置きが長くなりましたが^_^;、メディアへの露出が元々少ないので、現時点で参照できる記事がみつからず、ウィキペディアに情報がまとまっておりました

JR東日本信濃川発電所の不正取水問題-wikipedia
信濃川水力発電所は知る人ぞ知る施設ですが、国鉄時代から主に首都圏のラッシュ輸送時のピーク電力対応に利用されておりました。そのために新潟県から東京までの専用送電線まで国鉄が保有し管理しており、国鉄分割民営化時にJR東日本に引き継がれました。

そのJR東日本で10年間にわたってプログラム改ざんによる宮中ダムの不正取水を行っていたことが発覚、河川法による水利権取り消し処分を受けました。信濃川の異常渇水は以前から指摘されていたtころですが、民営化の影の部分と言えるかもしれません。JR東日本としては、自前電力を増やせば電力会社からの買電を減らせますから、結果的に利益を多く取れるわけで、民間企業にありがちな不正というか不祥事です。特に国営事業の民営化企業が陥りやすいということも言えるかもしれません。

そんなところを見習わなくてもと思いますが、実は上場有名企業の不祥事は結構多くて、発覚してはお詫び会見というのは珍しくありません。利潤で動機付けられる営利企業ですから、放っておけばある意味不正利得を得ようとすることは容易に理解できますが、同時に事後的な処罰を強化することで、法を犯してまでの営利行為を規律付けようという考え方がいわゆる法化社会です。

元々法人格を有する営利企業は、誤魔化して利益を拡大しようとする動機が存在するわけですから、不正が発覚したら、それに伴う利益を召し上げる以上の損失を与えるのは当然なんですが、日本の企業法制は概して甘いものです。例えばJR西日本福知山線尼崎事故で、利益優先体質を作った歴代3社長を訴追できないなど、制度面の穴が多いのです。

そういう観点から見ると、JR東日本の水利権停止自体は厳しい処分ですが、刑事訴追には至らないようですから、やはり甘さはあります。また停止された水利権をJR東日本は再申請しており、それも認められる方向です。結局宮中ダムの取水停止は1年余、これを長いと見るか短いと見るかは微妙です。

前の記事で電力自由化の話題を取り上げたばかりですが、国鉄から継承した自主電源はJR東日本にとっては重要な財産でしょう。何しろその稼働状況如何で電力会社への支払額が上下するわけですから、水利権が停止されて使えませんでは株主への説明もつかないでしょう。

ですから再申請は当然の結果ですが、そのために自治体のみならず漁協、土地改良区など複数の団体の同意が必要なんですが、この過程で飯山線と北越急行ほくほく線の活性化や関連企業の誘致、祭りやイベントの協賛など、ここぞとばかりにおねだりオンパレードで、一部は飯山線の長岡直通列車増発や信州デスティネーションキャンペーンで十日町地区を相乗りさせるなどの形で実現しております。

魚心あれば水心とはいいますが、不祥事が弱みとなって地元にたかられる図です。ある意味JR東日本は弱みを握られたわけで、なるほどこれがジャパニーズ法化社会かい^_^;とも思いますが、JR東日本にとっては高くつく話です。とはいえ公正・透明とは程遠いところです。

最後に蛇足ですが、電力自由化の議論で、巨大な送電網を自前で持っている鉄道会社に電力供給事業への参入を後押しすることで、10大電力会社の地域支配に風穴を開けるぐらいやらないと、日本のスマートグリッドは進まないと思うんですが、政府肝いりの研究会にもJRの参加は見られず、本気度が疑われます。

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Monday, May 03, 2010

成長しちゃうから環境しよう

「現政権の成長戦略が見えない」と言われて久しいところですが、民主党政権の迷走ぶりは確かにすさまじいところです。郵政民営化見直しの問題点は既に指摘したとおりですが、単なる郵貯マネーの肥大化という風な問題の捉え方をすると、より大きな問題を見失うことになります。

実は郵貯、簡保の限度額アップを民業圧迫と捉えるのは銀行協会の建前に過ぎないんで、融資先が見つからず苦しんでいる地方中小金融機関の中には、本音として郵貯拡大を内心歓迎しているところもあります。というのも、銀行にとって預金は負債であるということです。預金者から預かったお金には利息をつけなければならないわけですが、融資先が見当たらず運用に苦しんでいるので、郵貯肥大化で預金が流出するならば、むしろ経営は楽になるというからくりです。実際民間銀行も大量の国債を購入しており、財政肥大化の懸念から日本国債の格下げ見通しもあり、国債暴落を心配する市場の声も拡大しております。

そんな中で郵貯が民間銀行の過剰預金を引き取ってくれるならば、願ったり叶ったりなんです。政権交代で今後の財政運営に不透明感漂う中で、かつリーマンショック後の金融規制強化なかんずく自己資本規制強化の国際的な流れの中で、負債勘定となる預金の減少は、必然的に自己資本比率を押し上げますから、暴落前に国債を売ってリスク回避を図れるということを意味します。言ってみれば郵貯による国債暴落リスクの肩代わりという構図です。

加えて銀行が預金保険機構に支払う預金保険料の見直しの議論が絡んできます。90年代末の金融危機を受けて0.12%から7倍の0.84%に上げられた預金保険料ですが、銀行の不良債権処理が進み危機対抗の支出が減ったことで預金保険機構が黒字化し、預金保険料を見直すタイミングでもあり、見直されれば利ざやが改善され収支にプラスとなります。

それを梃子に亀井郵政金融相がペイオフの上限見直しと預金保険料値下げというアメをちらつかせ、郵貯限度額アップの地ならしをしたわけですね。このやり方には問題大ありですが、上記のような本音を抱える銀行サイドも、民業圧迫のお題目を繰り返すしか能がない体たらくです。郵貯肥大化を逆手に取って、少額貯蓄は郵貯に任せて限度額以下の預金者から口座維持手数料を取るぐらいの発想がなぜないのか。銀行の護送船団体質にも問題があります。

あと原口総務相が言う郵貯マネーの成長分野への投融資ですが、実際は上記のような国債暴落リスクを引き受けた上でなおかつベンチャー投資や新興国投資へ資金を振り向けるというのは、かなり悪質な思いつきです。いったい誰が責任を負ってリスクテイクするつもりなでしょうか。結局損しても暗黙の政府保証のある郵貯の過剰なリスクテイクは、アメリカのサブプライム問題で表面化した政府支援法人(GSE)のファニーメイやフレディマックの破綻処理で税金が投入されたように、結局財政の重荷になります。

そんな中で政府の対応を「見ちゃおれん」とばかりに日銀が30日の政策決定会合で異例の踏み込んだ政策を発表しました。

日銀、成長促進で新貸出制度 環境向けなど低利で
正直なところこのニュースに接した最初の感想は、旧日銀法の窓口規制の復活かいなと思いました。それぐらい違和感のある決定です。

旧日銀法による窓口規制というのは、民間銀行の融資先に対する箇所付けとでも言えばわかりやすいかもしれませんが、当時の通産省の産業政策に沿った形で、日銀が銀行に対して融資先企業の業種などを細かく指示していたものです。個別行はその基準に則って具体的な取引先企業を選別し融資を実行していたわけですが、加工貿易立国で重化学工業重視が鮮明だった高度成長時代には、主に輸出製造業に対する強力な金融支援として働き、日本企業の躍進を大いに助けましたが、その結果対米通商摩擦が生じ、また日本は名目上変動相場制を取りながら、為替の調整には消極的で、円高圧力に抗い続けたのですが、85年のプラザ合意で円高が進むと、パラダイムシフト待ったなし、内需拡大やむなしとなって、結果的に銀行の不動産融資を後押しすることとなります。円安誘導の思惑もあって低金利政策が維持されたことも相まって、不動産バブルを生じさせました。

その反省もあって改正された日銀法では、中央銀行の独立性という世界の趨勢を反映し、窓口規制の廃止はもちろん、政府による金融政策への介入も制限されることとなりました。とはいえ日銀の独立性は機能したかといえば、歴代政権や与党議員有力者による圧力発言は引きもきらず、また御用学者や近視眼エコノミストたちによるインフレ誘導の大合唱などなど、とても先進国の中央銀行と言えないような状況が続いております。

日銀総裁人事をめぐる問題は以前取り上げましたが、野党時代にゴタゴタの末、白川総裁の人事に同意したことが、実は民主党政権の一番まともな経済政策かもしれません^_^;。自分たちで選んだ総裁だからクビにはできず、デフレが止まらない中、政府や与党から日銀によるより積極的な対応を期待する発言が相次ぎますが、野党時代に政府与党の圧力発言を批判したのを忘れたかと憤ります。結局立場が変われば言うことも変わるんかい(怒)。

一方の白川日銀総裁は、そんな圧力をかわすために、目新しいことをせざるを得ないのでしょう。目先を変えてインフレ誘導圧力をかわそうということです。白川総裁が持論として、デフレの原因を需要不足ではなく供給過剰にあると見ており、デフレの原因となる需給ギャップを財政出動による有効需要政策だけでは実現できないと考えているわけです。

日本のように資本装備率の高い国の経済においては、労働力の投入量を減らすことは難しくないわけで、リーマンショックのようなリセッションでは、生産調整を迅速に行うために、雇用調整が行われる素地は強いのです。しかも雇用調整の結果労働市場に下押し圧力がかかり、就職難となります。

加えて1,400兆円と言われる家計貯蓄残高は、全てではないにしても少なからぬ家計で失業し所得が途絶えても生きてはいけるわけで、所得の減少ほどには消費は減らず実質1%程度の成長は結果的に起こります。となればインフレ誘導は不可能なんで、需給ギャップ解消は供給側の構造改革によるしかないということです。具体的には規制緩和や社会保障、環境対策などでのイノベーションによる新産業創出で雇用吸収以外に出口がないと見ているわけです。それが新制度の趣旨と考えることができます。

とはいえあくまでも銀行貸出の支援によるイノベーションの後押しということで、制度の詳細は現時点で不明ですが、実効性を持たせることは難しいでしょう。となるとイノベーションをもたらす規制緩和や制度の見直しなどを政府に促す狙いの方が大きいと考えられます。例えば環境分野ですが、温暖化ガス25%削減を謳ったものの、具体策が定まりません。自然エネルギー利用やスマートグリッドなどでも、議論が歪んでおります。

欧米のスマートグリッドはそもそも電力自由化の落とし児です。欧米では発電と送電を分離し、発電事業への新規参入を促すと共に、送電網をオープンアクセスとして送電事業者に開放を義務付けたことで、より低コストで末端ユーザーに電気を届ける競争が生じました。それは一方で価格競争を呼び起こし、送電網の更新投資の抑制などで電力の不安定化などのマイナスももたらしましたが、逆に価格競争回避のために、事業者による自然エネルギー利用をアピールすることで、環境意識の高い個人ユーザーや、温暖化ガス排出量規制を受ける企業ユーザーを獲得することにもなり、風力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー利用が進んだのです。

また送電網の設備更新が滞った結果、大規模改修待ったなしの状況となり、むしろシステムを一気に作りかえるチャンスとして捉えられており、関連技術の開発ブームも起きて、経済を底上げしているわけですね。丁度NTTの前身の電電公社による独占事業だった公衆電気通信事業に新規参入を促して通信費が劇的に低下した状況を電力網で実現しているわけですし、フィードインタリフ(電力買取制度)による小口発電の送電網接続も進めやすいわけです。

翻って日本では、地域独占を前提とする発送電一体型の電力会社が君臨し、発電部門の自由化はなされたものの、企業ユーザー限定の自由化であり、元々自家発電設備を有していた製造工場が余剰電力を売れるようになったという程度の意味しかなく、風力発電は巨大扇風機になるから否ということで、スマートグリッドは進みません。加えて50hzと60hzの2つの商用周波数の壁が、送電網自由化を阻んでいるわけで、政府の掛け声だけでは実現できる可能性はゼロに近いです。

ゆえに電機メーカーはシステム輸出に望みをつないでいますが、国内市場で試せないシステムをどうやって売り込むのか、自国市場で実績を積む欧米勢と互角に戦えるわけがありません。太陽光発電の電力買取制度も単なるアリバイ作りで、電力会社も親密先である電機メーカーの顔を立てはするけれど、風力やガス会社が進める家庭用燃料電池には冷淡です。

太陽光発電は元々コスト面で自然エネルギーとして本命視されていないのが世界の趨勢、日本でも太陽光電力の買取にはイロをつけて高値買取してますが、それでもユーザーが元を取れる保障はなし、むしろ電力料金への転嫁で電力料金が上がると、ガス由来の家庭用燃料電池の方が安上がりになると言われてます。エコを売りとするオール電化は温暖化防止のコストを家計に転嫁する口実です。

というわけで、日銀の新融資制度は、日銀に圧力かける暇があったら制度改革をやってイノベーションを起こせというメッセージではないかと考えられます。

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