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Monday, May 03, 2010

成長しちゃうから環境しよう

「現政権の成長戦略が見えない」と言われて久しいところですが、民主党政権の迷走ぶりは確かにすさまじいところです。郵政民営化見直しの問題点は既に指摘したとおりですが、単なる郵貯マネーの肥大化という風な問題の捉え方をすると、より大きな問題を見失うことになります。

実は郵貯、簡保の限度額アップを民業圧迫と捉えるのは銀行協会の建前に過ぎないんで、融資先が見つからず苦しんでいる地方中小金融機関の中には、本音として郵貯拡大を内心歓迎しているところもあります。というのも、銀行にとって預金は負債であるということです。預金者から預かったお金には利息をつけなければならないわけですが、融資先が見当たらず運用に苦しんでいるので、郵貯肥大化で預金が流出するならば、むしろ経営は楽になるというからくりです。実際民間銀行も大量の国債を購入しており、財政肥大化の懸念から日本国債の格下げ見通しもあり、国債暴落を心配する市場の声も拡大しております。

そんな中で郵貯が民間銀行の過剰預金を引き取ってくれるならば、願ったり叶ったりなんです。政権交代で今後の財政運営に不透明感漂う中で、かつリーマンショック後の金融規制強化なかんずく自己資本規制強化の国際的な流れの中で、負債勘定となる預金の減少は、必然的に自己資本比率を押し上げますから、暴落前に国債を売ってリスク回避を図れるということを意味します。言ってみれば郵貯による国債暴落リスクの肩代わりという構図です。

加えて銀行が預金保険機構に支払う預金保険料の見直しの議論が絡んできます。90年代末の金融危機を受けて0.12%から7倍の0.84%に上げられた預金保険料ですが、銀行の不良債権処理が進み危機対抗の支出が減ったことで預金保険機構が黒字化し、預金保険料を見直すタイミングでもあり、見直されれば利ざやが改善され収支にプラスとなります。

それを梃子に亀井郵政金融相がペイオフの上限見直しと預金保険料値下げというアメをちらつかせ、郵貯限度額アップの地ならしをしたわけですね。このやり方には問題大ありですが、上記のような本音を抱える銀行サイドも、民業圧迫のお題目を繰り返すしか能がない体たらくです。郵貯肥大化を逆手に取って、少額貯蓄は郵貯に任せて限度額以下の預金者から口座維持手数料を取るぐらいの発想がなぜないのか。銀行の護送船団体質にも問題があります。

あと原口総務相が言う郵貯マネーの成長分野への投融資ですが、実際は上記のような国債暴落リスクを引き受けた上でなおかつベンチャー投資や新興国投資へ資金を振り向けるというのは、かなり悪質な思いつきです。いったい誰が責任を負ってリスクテイクするつもりなでしょうか。結局損しても暗黙の政府保証のある郵貯の過剰なリスクテイクは、アメリカのサブプライム問題で表面化した政府支援法人(GSE)のファニーメイやフレディマックの破綻処理で税金が投入されたように、結局財政の重荷になります。

そんな中で政府の対応を「見ちゃおれん」とばかりに日銀が30日の政策決定会合で異例の踏み込んだ政策を発表しました。

日銀、成長促進で新貸出制度 環境向けなど低利で
正直なところこのニュースに接した最初の感想は、旧日銀法の窓口規制の復活かいなと思いました。それぐらい違和感のある決定です。

旧日銀法による窓口規制というのは、民間銀行の融資先に対する箇所付けとでも言えばわかりやすいかもしれませんが、当時の通産省の産業政策に沿った形で、日銀が銀行に対して融資先企業の業種などを細かく指示していたものです。個別行はその基準に則って具体的な取引先企業を選別し融資を実行していたわけですが、加工貿易立国で重化学工業重視が鮮明だった高度成長時代には、主に輸出製造業に対する強力な金融支援として働き、日本企業の躍進を大いに助けましたが、その結果対米通商摩擦が生じ、また日本は名目上変動相場制を取りながら、為替の調整には消極的で、円高圧力に抗い続けたのですが、85年のプラザ合意で円高が進むと、パラダイムシフト待ったなし、内需拡大やむなしとなって、結果的に銀行の不動産融資を後押しすることとなります。円安誘導の思惑もあって低金利政策が維持されたことも相まって、不動産バブルを生じさせました。

その反省もあって改正された日銀法では、中央銀行の独立性という世界の趨勢を反映し、窓口規制の廃止はもちろん、政府による金融政策への介入も制限されることとなりました。とはいえ日銀の独立性は機能したかといえば、歴代政権や与党議員有力者による圧力発言は引きもきらず、また御用学者や近視眼エコノミストたちによるインフレ誘導の大合唱などなど、とても先進国の中央銀行と言えないような状況が続いております。

日銀総裁人事をめぐる問題は以前取り上げましたが、野党時代にゴタゴタの末、白川総裁の人事に同意したことが、実は民主党政権の一番まともな経済政策かもしれません^_^;。自分たちで選んだ総裁だからクビにはできず、デフレが止まらない中、政府や与党から日銀によるより積極的な対応を期待する発言が相次ぎますが、野党時代に政府与党の圧力発言を批判したのを忘れたかと憤ります。結局立場が変われば言うことも変わるんかい(怒)。

一方の白川日銀総裁は、そんな圧力をかわすために、目新しいことをせざるを得ないのでしょう。目先を変えてインフレ誘導圧力をかわそうということです。白川総裁が持論として、デフレの原因を需要不足ではなく供給過剰にあると見ており、デフレの原因となる需給ギャップを財政出動による有効需要政策だけでは実現できないと考えているわけです。

日本のように資本装備率の高い国の経済においては、労働力の投入量を減らすことは難しくないわけで、リーマンショックのようなリセッションでは、生産調整を迅速に行うために、雇用調整が行われる素地は強いのです。しかも雇用調整の結果労働市場に下押し圧力がかかり、就職難となります。

加えて1,400兆円と言われる家計貯蓄残高は、全てではないにしても少なからぬ家計で失業し所得が途絶えても生きてはいけるわけで、所得の減少ほどには消費は減らず実質1%程度の成長は結果的に起こります。となればインフレ誘導は不可能なんで、需給ギャップ解消は供給側の構造改革によるしかないということです。具体的には規制緩和や社会保障、環境対策などでのイノベーションによる新産業創出で雇用吸収以外に出口がないと見ているわけです。それが新制度の趣旨と考えることができます。

とはいえあくまでも銀行貸出の支援によるイノベーションの後押しということで、制度の詳細は現時点で不明ですが、実効性を持たせることは難しいでしょう。となるとイノベーションをもたらす規制緩和や制度の見直しなどを政府に促す狙いの方が大きいと考えられます。例えば環境分野ですが、温暖化ガス25%削減を謳ったものの、具体策が定まりません。自然エネルギー利用やスマートグリッドなどでも、議論が歪んでおります。

欧米のスマートグリッドはそもそも電力自由化の落とし児です。欧米では発電と送電を分離し、発電事業への新規参入を促すと共に、送電網をオープンアクセスとして送電事業者に開放を義務付けたことで、より低コストで末端ユーザーに電気を届ける競争が生じました。それは一方で価格競争を呼び起こし、送電網の更新投資の抑制などで電力の不安定化などのマイナスももたらしましたが、逆に価格競争回避のために、事業者による自然エネルギー利用をアピールすることで、環境意識の高い個人ユーザーや、温暖化ガス排出量規制を受ける企業ユーザーを獲得することにもなり、風力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー利用が進んだのです。

また送電網の設備更新が滞った結果、大規模改修待ったなしの状況となり、むしろシステムを一気に作りかえるチャンスとして捉えられており、関連技術の開発ブームも起きて、経済を底上げしているわけですね。丁度NTTの前身の電電公社による独占事業だった公衆電気通信事業に新規参入を促して通信費が劇的に低下した状況を電力網で実現しているわけですし、フィードインタリフ(電力買取制度)による小口発電の送電網接続も進めやすいわけです。

翻って日本では、地域独占を前提とする発送電一体型の電力会社が君臨し、発電部門の自由化はなされたものの、企業ユーザー限定の自由化であり、元々自家発電設備を有していた製造工場が余剰電力を売れるようになったという程度の意味しかなく、風力発電は巨大扇風機になるから否ということで、スマートグリッドは進みません。加えて50hzと60hzの2つの商用周波数の壁が、送電網自由化を阻んでいるわけで、政府の掛け声だけでは実現できる可能性はゼロに近いです。

ゆえに電機メーカーはシステム輸出に望みをつないでいますが、国内市場で試せないシステムをどうやって売り込むのか、自国市場で実績を積む欧米勢と互角に戦えるわけがありません。太陽光発電の電力買取制度も単なるアリバイ作りで、電力会社も親密先である電機メーカーの顔を立てはするけれど、風力やガス会社が進める家庭用燃料電池には冷淡です。

太陽光発電は元々コスト面で自然エネルギーとして本命視されていないのが世界の趨勢、日本でも太陽光電力の買取にはイロをつけて高値買取してますが、それでもユーザーが元を取れる保障はなし、むしろ電力料金への転嫁で電力料金が上がると、ガス由来の家庭用燃料電池の方が安上がりになると言われてます。エコを売りとするオール電化は温暖化防止のコストを家計に転嫁する口実です。

というわけで、日銀の新融資制度は、日銀に圧力かける暇があったら制度改革をやってイノベーションを起こせというメッセージではないかと考えられます。

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