« May 2010 | Main | July 2010 »

June 2010

Sunday, June 27, 2010

南氷洋調査捕鯨と財政再建の覚悟

カナダ、ムスコカで始まったG8サミットで、ギリシャショックを受けて財政再建に舵を切る欧州各国に対し、今は景気配慮を重視するアメリカとで見解が分かれました。その中で一人「成長と財政再建の両立」を主張する菅首相の場違いぶりが目立ち、首脳同士の立ち話の輪にも入れなかったようです。

欧州諸国の財政再建のあおりを受け、日立が受注を狙って進めていた英国高速鉄道車両の約1兆円相当の更新が英総選挙で政権交代が起きたことでキャンセルされたことは取り上げました。労働党政権下、金融立国で成長を続けたイギリスですが、一方で製造業の空洞化が進み、国際収支は赤字基調で財政赤字は海外マネーでファイナンスされるわけですから、バブルがはじけポンド安となれば実質債務負担は重くなります。それなのに財政赤字対GDP比は日本より悪く、財政再建待ったなしの状況は日本とは違います。結果として当面の成長は阻害されますが、背に腹は変えられないわけです。しかし財政再建となればシンプルに何を止めるかを選挙で問うところに、成熟した民主政治を感じます。

日本はといえば、財政再建派と目された小泉政権下でも整備新幹線や高速道路の建設は止まらず、あまつさえ新規着工や道路公団民営化を隠れ蓑とした権益拡大さえ見られたわけですから、どだい覚悟が違います。そもそも日本では90-93年に赤字国債発行ゼロを実現しましたが、このときの歳入が60兆円規模だったのが、円高不況を受けて米クリントン政権の内需拡大要求jに応えるために財政出動で公共事業を積み増したところから、巨額財政赤字が始まったもので、それほど古い話ではないのに、財政出動の効果が現れず、ズルズルと赤字を垂れ流した結果、GDPの2倍に届きそうな水準まで累積赤字を拡大したものです。

逆に社会保障費は自然増を圧縮する方向へ舵を切られたために、国民の貯蓄性向を高めて1,200兆円程度だった家計貯蓄残高は1,400兆円を超える水準まで増えているわけで、その結果過少消費でデフレ傾向を強めているわけです。年1兆円と言われる社会保障費の自然増を考慮しても、バブル崩壊から20年、歳出規模が80兆円程度となるところ、2010年度予算では94兆円規模ですから、明らかに歳出オーバーです。

原因は赤字国債の累積で国債費が圧迫要因になっているものです。特に利払いは10兆円規模になりますから、累積赤字の怖さまざまざです。10年もの国債金利を指標とする長期金利が1%台でこれですから、何らかの原因で金利が上昇したら、金利負担で押しつぶされてしまうというのも、あながちあり得ない話ではありません。

とはいえ政府は成長戦略を唱え、官僚作文丸出しのメニューを発表してますが、景気回復局面では設備投資が活発になりますから、資金需要が拡大し金利を押し上げます。つまり成長すると財政を圧迫するんですが、この点を不問に付しているのが変です。また日銀の金融緩和によるインフレ目標政策に与党内にも期待感があるのですが、仮に何らかの理由でインフレ期待が生じれば、それを織り込む形で金利が上昇します。日銀が政策的に動かせるのは1年以内の短期金利だけですから、長短金利差が大きくなるわけで、新発国債の金利は上昇します。一方銀行などが保有する既発国債は金利上昇分だけ評価額が下がりますので、金融不安の引き金を引く恐れがあります。当然企業の設備投資も金利上昇で冷水を浴びせられます。

そしてインフレ期待は消費税率アップでも生じます。仮に税率を10%まで上げたとして、1%につき2兆円の税収として10兆円の税収増となるわけですが(消費低減などのマイナス効果はとりあえず無視します)、長期金利が1%少々上昇すれば金利負担が10兆円程度プラスとなるわけですから、増税分は利払いで食われてしまうわけです。つまり消費税を上げても財政再建はできないわけです。また5%もの値上げを価格転嫁しきれないでしょうから、インフレと同時にデフレも起きるという悪夢のようなシナリオになります。

本気で財政再建に取り組むならば、イギリスがやったように政府の仕事を減らす以外にないのです。財政再建は当面の成長を諦めてでも取り組むことなんです。とはいえ社会保障を切り詰めれば過少消費を助長しデフレ圧力を高めますから、結局公共事業その他、無駄な事業をなくし歳出を削るしか方法がないのです。その意味では事業仕分けに力を入れるのは正しいのですが、現時点では制度改革につながらず、例えばJAXAの予算見直しの判定も、惑星探査機はやぶさの奇跡の帰還の勢いに押されて復活するなど、大甘の対応が続きます。そんな中でこんなニュースに注目しました。

IWC、商業捕鯨の合意断念、全体会合再開
日本にとっては懸案の商業捕鯨再開の期待はあったものの、結局参加国の意見の隔たりが大きく、議論は凍結されました。

実はこの議長提案ですが、アメリカの働きかけでまとめられたものだったのです。なぜアメリカかといえば、捕鯨問題で同盟国の日本とオーストラリア、ニュージーランドの対立が先鋭化しているのを危惧したオバマ政権の意向が働いたというのがもっぱらの見方です。

オバマ大統領もイラク撤退とアフガンの治安回復が思うように進まず、アフガンの司令官が大統領批判に及びワシントンに呼び寄せて更迭するなど苦しい政権運営を強いられております。他にもイラン、北朝鮮の核問題や膠着する中東和平問題、ソマリアの海賊問題に韓国哨戒艇沈没事件と難題山積の中、同盟国間の結束を強化したいという思惑から、IWCへ働きかけたようです。

特に韓国哨戒艇沈没事故はショックでした。大韓航空機爆破事件やラングーン事件などは秘密工作員による破壊工作でしたが、今回は通常兵力による同盟国艦船への攻撃ですから、軍事的には重大な意味があります。ある意味保有しても使用されることのない核兵器開発よりも深刻で、同盟国を守れなかったショックがアメリカを襲ったのです。とりもなおさず米軍のプレゼンスの低下を意味しますから。ところが同じ時期、日本のメディアは専ら普天埋設問題で鳩山前首相を攻め立て、「アメリカは怒っているぞ」とはやし立てておりましたが、そもそも米軍再配備で予算を措置しなきゃならない国防総省以外には普天間問題は知られておらず、オバマ大統領はむしろ同盟国の結束強化を画策していたわけで、日本のメディアのミスリードぶりはひどいものです。

日本のメディアは記者クラブ発表を垂れ流しているので見えませんが、南氷洋で母船方式の船団で捕鯨をしている国は今や日本1国のみ。国際世論の圧力で捕鯨大国のノルウエーやアイスランドすら近海での操業に特化している状況ですから、日本への風当たりはかなり強いのです。特にオーストラリアやニュージーランドは自国の庭先を荒らされたといような不快感を持っているわけで、豪労働党政権のラッド首相は国際司法裁判所に提訴まで踏み込んでおります。その後増税問題で人気を失ったラッド首相は退陣し、後継には女性のギラード氏が就任、増税案は撤回したものの、日本の提訴については現時点で態度を明らかにしておりませんが、親日的なオーストラリア国民にも不評な日本の南氷洋調査捕鯨ですから、国民の支持を得るためには取り下げは考えにくいところです。

そもそもこの調査捕鯨が曲者でして、(独法)日本鯨類研究所、通称鯨研というところが事業主体ですが、農水省の外郭団体で南氷洋でミンク鯨他を850頭も殺傷しながら、その成果を国民にも世界にも説明できていないのです。調査捕鯨発生品の鯨肉は市販されており、その代金が活動費に回されるのですが、捕獲頭数が多すぎるのか、在庫が増えて消化できなくなっております。IWCルールで調査捕鯨名目の捕鯨の発生品の鯨肉は廃棄処分できない決まりですが、冷凍保管されてますから、在庫を持つだけでコストが発生しますが、さりとて活動費調達のため値下げも出来ず、また商業捕鯨は禁止されており、調査捕鯨発生品の鯨肉以外に市場流通する鯨肉は存在しないわけですから、究極の独占状態でもあるわけです。こういった状況から南氷洋調査捕鯨は事実上禁止されている商業捕鯨であり、且つ商業捕鯨禁止を悪用している不見識に、世界は怒っているのです。

何かミニマムアクセス米問題に似た構図です。市場から需要されないものをわけのわからない理由で溜め込んで処理に困っている図ですが、そういった意味では今回のIWC議長提案は日本にとっても渡りに船、不自然な調査捕鯨を止めてむしろ鮎川や太地などの沿岸捕鯨を復活させるチャンスなのですが、規模は縮小しても調査捕鯨は続けたいという虫の良い言い分は通らなかったのです。逆に日本の沿岸捕鯨は鯨研の南氷洋調査捕鯨の犠牲になったとも言えるわけで、官業による民業圧迫の構図です。こんなのさっさと仕分けしちゃってください>蓮舫大臣。

| | | Comments (0) | TrackBack (0)

Saturday, June 19, 2010

再建するから金をくれ!リストラ詐欺でおJAL

経営再建中のJALですが、リストラ費用が増えたことを理由に、管財人の企業再生支援機構と共に銀行団に追加支援を要請する検討に入りました。

日航、銀行団に追加支援要請へ、1,000億円超の公算
リストラ費用、資産評価損拡大
リストラ費用の増大は、例えば昨年話題になった企業年金の減額が決まったことで、解散を前提にした試算よりも費用が膨らんだことや、早期退職制度への応募者が予想を上回ったことから、退職金上乗せ額が想定を上回ったことなどです。資産評価損はジャンボ機など古い機体の売却で相当な損が出ていることなどが原因のようです。当初から言われておりましたが、一言で言えば見通しが甘かったということです。

とはいえJAL再建はこれで何度転んだことか。その度に銀行に追加支援をお願いしてきたわけですが、その銀行自身が国際的な金融危機に伴う資本増強の規制強化や、国際会計基準(IFRS)への対応で苦しんでいるところだけに、すんなりとはいかないでしょう。元々6月末に予定されていた更生計画の裁判所提出も8月末にずれておりますが、今から交渉開始してぎりぎりのタイミングでしょう。JAL自身は羽田空港の国際化が追い風になると主張しますが、羽田発着枠がANAと同数となり有利な扱いとなったことを指すのでしょう。

何が問題なんでしょうか。リストラ費用に関しては、企業年金の減額が労使で合意した以上、今さら解散はできません。とはいえ年利1.5%の利回り水準すら、現状の金融情勢では高すぎる目標かもしれません。むしろその後も株式相場は下落してますから、その分会社負担となる積み立て不足が増えていると考えることができます。加えて早期退職者の増加による退職金積み増しが増えたとすれば、既にJAL社員は再生よりも泥舟から逃げ出すことを選択したと見るべきでしょう。外部からは窺い知れませんが、それほどJALの現場が荒廃しているとすれば、再生計画自体の実現可能性にも疑問符がつきます。

ジャンボ機など古い機体の売却損については、元々の資産査定が甘かったのでしょう。そもそも燃費が悪く座席を埋めるのが難しい大型機を喜んで買ってくれるエアラインは今どき存在しないでしょう。とはいえ保有し続ければ維持費がかかる厄介者だけに、買手の言い値で売却せざるを得ないわけです。保有資産の劣化が予想以上に進んでいたわけですが、こうなるまで手を打たなかった歴代経営陣の当事者能力のなさが恨めしいところです。本当に危なくなれば国が助けてくれるという意味で、リストラ詐欺と言いたいところですが、前のエントリーで指摘した赤字企業の損失7年繰り越しも、ある意味国が助けているとも言えるわけで、この状況で法人税減税は盗人に追い銭です(怒)。

さてこうなると政府の対応が問われます。そもそもは高すぎる日本の空港の着陸料や航空燃料税の問題が解決しなければ、更生計画にも狂いが生じる可能性は高いわけですが、法案成立6割と低水準の与党の稚拙な国会運営で、既得権にどこまで切り込めるのか、いささか不安です。しかも通常国会は既に閉会し、選挙戦モードに突入している状況で、仮に参院選で与野党逆転なんてことになればなおさらです。年初に会社更生法適用に踏み込んだ政府の対応を褒めたのですが、その後ここまで政権が迷走するとは思いもよりませんでした。

というわけで、リアルな問題として再建の頓挫も視野に入れておく必要がありそうです。前原国交相は負担軽減策を前向きに捉えています。

前原国交相、日航の軽減要望「航空産業の競争力強化に重要」
仮にJAL再建を断念することになっても、着陸料や航空燃料税の軽減はエアラインに恩恵をもたらしますし、99もの空港を整備して、結局赤字空港ばかりとなった航空行政の見直しには踏み込む意向です。

とはいえ厄介なのがANAによる大手1社体制になれば、様々な難点が出てきます。例えば日米航空協定による成田空港発着枠問題です。2国間協定で日米エアライン各2社が指名されているわけですが、JALの持分をANA1社が引き継ぐとすれば、日米で不均衡が生じるのと、航空アライアンス3陣営中、ユナイテッドとANAが加盟するスターアライアンスに偏った配分となる一方、JALが抜けたワンワールド陣営は成田の権益を失うことになり、競争政策上うまくないですね。

また世界でのANAのブランド浸透度の低さという問題もあります。これは国際線運行会社を分社してJALブランドを被せるという手はありますが、規模の点でJALの国際線部門の人員や機材をANAが引き受ける必要が生じるでしょうから、それをANAが呑むかという問題もあります。ANAはANAで国際線を分社するとしても、豪カンタス航空傘下のジェットスターのような格安航空会社(LCC)の位置づけとしたいでしょう、あとはJALグループ内でリゾート路線を中心にアウトソースしているJALウェイズ(タイ)をJALから切り離して、ANAの資本を入れて存続させ、併せてJALの成田枠の特権を維持するかといったことも考えられます。

より過激な方法としては、航空会社の外資規制を撤廃し、アメリカン航空などワンワールド陣営からの出資を募るか、場合によってはJAL完全消滅させる一方でカボタージュ(国内線就航社を国内エアラインに限定する権利)撤廃で外国エアラインの国内参入を認めるというのもありますが、米中にカボタージュ撤廃を呑ませられるならば良いのですが、可能性はほぼゼロでしょう。

菅政権発足でやたら連発される成長戦略ですが、財政出動が有効需要を創出するというオールドケインジアンの発想の域を出ておりません。それに加えて円安口先介入と見られる不適切発言や企業寄りの政策スタンスなど、口では否定する小泉改革の後追いでしかないと申し上げておきます。

幸いというか、普天間問題で8月に期限を切られた工法の決定がおそらく超えられないだろうと予想しております。鳩山政権が失速した問題ですが、明らかに官僚の巻き返しで立ち往生したと言える展開ですが、官僚の浅知恵で沖縄県民の怒りに火がつきましたから、辺野古移転容認派だった自民党系の仲井間知事まで県内移転反対に回り、公有水面埋立の認可権限を握る沖縄県の同意は不可能です。この点は実は鳩山政権の迷走以前から、沖縄県議会が反対派が多数派を占め、公有水面埋立手続きに入れなかったので、鳩山前首相がぶち壊したというのは当たらないのですが、先月末に出された日米共同声明で沖縄の負担軽減が盛り込まれ、アメリカからも地元住民の同意取り付けを求められており、現状では全く動かないと言えます。その意味で鳩山前首相は仕事したんですね(笑)。

鳩山政権が辺野古移転に傾きつつあることは予想しておりましたが、その場合は沖縄県民を説得できるような何かとセットと考えておりました。例えば米軍基地を順次自衛隊の管理下に置き、周辺事態法による自衛隊の後方支援として基地を提供するということなどです。その場合、周辺事態法の発動の判断でアメリカの軍事行動に日本政府の留保が働くわけで、且つ自衛隊基地となれば現在の日米地位協定に基づく治外法権も通用しなくなりますから、ここまで打ち出せば沖縄県民も納得するだろうと考えておりましたし、社民党も説得できたでしょう。丁度那覇空港の管制権の返還が今年行われたこともあり、タイミング的にリアリティを感じていたのですが。

しかし実際はそういったことは全くなく、政権内の閣僚などが官僚に懐柔され羽交い絞め状態で鳩山前首相は辞任に追い込まれたと見れば、この問題での鳩山政権の迷走をほぼ説明できます。となれば最初から官僚に取り込まれた菅政権ではこの問題は解決不能、参院選に敗北して責任を取って9月の民主党代表戦に出馬せず、民主党政権3人目の首相を頂いて懸案解決にまい進するも死に体となり辞任。3度政権が吹っ飛べば、いくらなんでもアメリカの態度も変わるはずですから、パンドラの箱を開けた普天間問題の最後には希望があります。

| | | Comments (2) | TrackBack (0)

Saturday, June 12, 2010

税、税、税、息切れ財政に蝕まれる官政権

タイトルは誤字ではありません。菅政権発足で所信表明演説が行われ、何やら世間では期待感が高まっておりますが、水を差したいと思います^_^;。まずはメディアチェック。

菅首相が所信表明、与野党で「財政健全化会議を」
まぁケチつけるつもりならば、ツッコミどころ満載なんですが、きりがないので控えますが、気になるのが成長への強すぎる拘りです。

既に指摘しているところですが日本のように長年経常黒字を続け、国内の資本蓄積が過大な国においては、労働と資本の代替性ゆえに労働力の投入量を減らすのは難しくない状況にあります。その結果賃下げや雇用調整で生産性を高めることが可能ですから、経済ショックの度に雇用調整が起こり、結果的に労働力の投入量が減って生産が元の水準に戻ることで、生産性が上がるわけですから、結果的に成長してしまい、他方経済格差は拡大してしまうんです。

結果バブル崩壊後20年間、年度ごとのバラつきはあるものの、年平均実質1%の成長が続いているわけです。一方で生産とほぼ同義である所得は伸びず、直近のGDPは500兆円割れしていて20年前の水準すら割り込んでいるように、生産性が上がって所得が伸びないという現象が起きているわけです。ミクロ重視の新古典派経済学では説明できないことです。

一言で言えば需給がミスマッチを起こしているということなんですが、指摘されて久しいにも拘らず全く改善されず、最近はむしろ悪化すらしております。原因は明らかなんで、グローバル化への不適応ゆえですね。ギリシャショック関連でも指摘したように、日本などの過剰な金融緩和で世界へ放出された過剰流動性が国境を越えて動き回るのがグローバル経済の正体ですから、世界レベルで見れば、常にどこかでバブルが生じ、不連続に破綻するということが日常となっている一方、過剰マネーは資本不足で経済成長が足踏みしていた途上国の経済を押し上げますから、実体経済そのものは悪くない状況が続くわけです。

その中で2003-2004年の大介入で輸出依存に大きく舵を切った日本ですが、そのツケとして外性ショックの度に繰り返される円高恐怖症から抜けられなくなりました。80年代、前川リポートで指摘された内需主導経済への転換の逆をやったんですから、当然の帰結ではありますが。

その意味で菅首相が所信表明で内需主導経済の重要性を指摘しているのは正しいところです。外需依存を薄めるには内需を深堀りして輸入を増やすことが重要なんで、結果為替市場の円高圧力が回避され、輸出企業にもプラスとなります。そのために内需の大きな部分を占めてきた「戦後行政の大掃除」を行うのは当然です。90年代、内需拡大の掛け声で公共事業を積み増して財政を悪化させただけの愚を繰り返さないのは当然、歳出改革こそ改革の本丸です。

その一方で財政再建ですが、先日の韓国、釜山で行われたG20でギリシャショックを契機とする財政再建が話し合われましたが、リーマンショック対応で行われた財政出動の出口を探る必要はあるものの、肥大化した歳出を元に戻し持続可能とすることが求められるのであって、必ずしも財政均衡が求められるわけではないということに留意が必要です。

そのあたりで鳩山政権時代に財政再建の必要性の口火を切ったのが財務相だった菅氏ということから見て、既に財務官僚に取り込まれている可能性があります。経済が成長しなければ税収が伸びないわけですから「成長戦略は重要」となりますし、「内需振興を社会保障で」となれば「安定財源が必要」となり、消費税率アップというシナリオに結びつけようとなるわけです。その流れの先に「増税しても使い途を間違わなければ成長できる」というトンデモ発言に結実し、かくして成長パラノイア的所信表明となったわけです。

そして成長戦略が出されますが、報道に接して唖然としました。以下の記事です。

大都市整備に基本法、新成長戦略、骨格固まる
ものの見事に官僚の作文が並びます。暇つぶしに上から順にダメだししてみます。

>環境・エネルギー
「環境未来都市」というのは、スマートシティのことでしょうか。どこで何をやるのかわかりませんが、補助金と金融支援で箱物作ってどーすんのって話です。スマートグリッドのパイロットプラントのつもりでしょうけど、それよりも電力自由化が先と指摘しております。スマートグリッドはエンドユーザーに小規模発電や蓄電設備を備えさせ、電力網のクラウド化となるのであって、通信で行った民間ベースの自由化策が参考になるはずです。また次世代自動車の割合を50%にするといっても、その次世代自動車なるものに買い換えるために現在のエコカー減税や補助金のような問題のある補助制度で行うのであれば、財政に負担をかけるだけです。それより公約されたガソリン税等の暫定税率廃止が望ましいのですが、わけのわからない理屈で見送られました。

ちなみにガソリンや軽油の暫定税率を存続させるにしても、やり方が稚拙です。現時点の小売り価格を基準とすれば、ガソリンで18%強、軽油で15%程度でしょうか。これを特定物品税と見なして消費税の上乗せの扱いとし、流通ルートも限られる特定品目としてインボイス(伝票)方式で流通させることにすれば、現在の蔵出し税であるために税率変更時の在庫の扱いが問題になる部分を売り上げ課税から仕入れ課税を控除するだけの取り扱いで済みますから、流通市場を混乱させないし、消費税率アップのときの複数税率採用などの予行演習にもなり、簡易課税制度などの益税問題解決の突破口になり得るチャンスを逃しました。

>健康大国
外国人患者受け入れなども必要ですが、その前に綻びだらけの国民皆保険制度の見直しを忘れないでほしいところです。内需主導と言いつつ外国人の財布を当てにするのはおかしいです。そういえば後期高齢者医療制度の見直しはどうなったのかしらん。

>アジア経済
「日本製コンテンツの発信強化」って、民主党が野党時代に批判した国営マンガ喫茶やるつもりかい。「インフラ海外展開」も、製品輸出の延長線上で考えていては失敗します。重要なのは従来内需依存だった鉄道、電力、水道その他のインフラ事業の分母を拡大して効率アップすることです。内需企業の効率アップは雇用を押し上げますし、外需依存の低下で為替の円高圧力を緩和します。完全に方向性を間違えております。

>観光・地域活性化
PFIの見直しは望ましいことです。上記のインフラ輸出とも関連しますが、例えば水道事業で東京都が海外展開を狙っておりますが、足元の国内で、人口減少で水道料金収入が減り、設備の更新が滞り、さりとて料金の値上げも出来ない自治体が増えており、一方人口急増で設備投資が追いつかない自治体もあり、例えば千葉県我孫子市のように仏水メジャーのヴェオリアに手賀沼の下水処理事業を委託しているなどがありますが、東京都自身が水道事業を完全民営化して受注を競うのではなく、51%出資の三セク「東京水道」に海外事業のコンサルティングを担わせるというのは、官業の「獲らぬ狸」でしかありません。国内でも老朽インフラの更新問題は重要で、民間資金の活用は課題です。他はゴミみたいな箱物志向の産物です。

>雇用・人材
ここにNPOなどの寄付金税制が出てくることが謎です。NPOに雇用を担わせようというのでしょうか。はっきり言ってゴマカシです。

>金融
これも80年代後半のバブル期から言われる「東京を世界の金融拠点に」とする論が形を変えただけです。その前に日本の閉鎖的な金融環境を規定する諸制度の改革が必要です。

そして成長戦略としての法人税減税を参院選の選挙公約とするそうです。

民主参院選公約、法人税下げ明記
利益に課税される法人税を下げることが成長につながるというのはけったいな論理です。企業の内部留保は増えるかもしれませんが、それを設備投資に回すとか、M&A資金として事業拡大するとかすれば、うまくいけば成長に寄与しますが、そもそも莫大な内部留保資金を抱えながら積極投資できずに投資ファンドの標的になる企業が多い日本で、法人税減税が成長を促すと本気で考えているのだとすれば悪い冗談です。

また他国との税率差で日本への外資の進出が阻まれているという論点もありますが、これは外資に積極的に来てもらって大いに競争しましょうという話なんで、競争回避的なほとんどの日本企業にとってウエルカムな話じゃないでしょう。

もう一つの論点としては、そもそも日本の法人企業で納税しているのは3割に満たず、7割以上の企業が実は税を納めていないのですが、例えば実態は個人事業主なのに節税のために会社にして自身への高額賃金を支払って会社を赤字にするなどの脱法行為が半ば黙認されていることと、政治的な理由で特定の業種や業界への租税特例法による税制優遇が恣意的に行われたことで、課税ベースが穴だらけということもあります。直近の例では小泉政権で銀行の不良債権処理を促進するために、課税所得の損失繰り越しを7年に延長したのですが、この結果例えば08年に6,000億円の赤字となったトヨタは、最大7年間課税所得控除が受けられるわけです。

現在のように外性的経済ショックがどこで起きるかわからない状況では、数年に1度の経済ショックを口実に大リストラをして単年度で赤字決算をして、以後暫く薄い儲けに甘んじれば、税金を払わなくて済むようになり、企業の存続だけを考えればそれでも良いとなれば、企業活力が低下するわけですから、このような祖特法によるゾンビ企業の延命を許さないということで政策減税を全て止めるのならば、現状でも25%程度に税率を下げることは可能です。しかしそれをやれば企業サイドから反対の大合唱となることは目に見えてますから、結局手をつけられず、国民の顔色を伺いながら「5%ぐらいは許してm(_ _)m」てな醜怪な話になるわけです。ま、これで参院選で民主党にだけは投票すまいと決めることが出来ましたが。

| | | Comments (0) | TrackBack (0)

Saturday, June 05, 2010

メディアが踊ったパンデミックな1週間の豚沈菅

怒涛のような1週間でしたが、政局報道でメディアの狂宴が続く日本を尻目に、世界は動いております。

ガザ支援船、10人が死亡、イスラエル軍急襲(5/31)
核なき世界へ道険しく、NPT会議、難題は先送り(6/1)
英BP株、一時16%下落、原油流出阻止失敗を嫌気(6/2)
韓国統一地方選、与党が大敗、対北朝鮮に影響も(6/3)
G20、財務相欠席で日本影薄く、韓国で開幕
個人的には以下のニュースも興味をそそりました。
米キャタピラー、機関車メーカーを750億円で買収
英の高速鉄道、日立への1兆円発注取りやめも
世界的な鉄道見直しの機運は、意外な買収劇をもたらします。また日立の英高速鉄道受注に暗雲ですが、先日の総選挙で財政再建を掲げた保守党と自民党の連立政権による方針転換の影響が早速現れたわけです。国民の選択がストレートに反映されるスマートさはさすがです。

特にこの1週間、イスラエルのガザ支援船襲撃が世界を震撼させました。支援船にはトルコ人を中心に世界各国からスタッフが集まり、食糧や医療品などの支援品を運んでいたため、元々良好だったイスラエルとトルコの外交関係にヒビが入りました。その影響は、イランの核開発問題で低濃縮ウランの国外処理にトルコが名乗りを上げたことにも波及、ただでさえ妥協の産物であるNPT合意の実行にも影響します。そのためここへ来て中東がキナ臭くなります。またNPTの議論でアメリカが核軍縮に具体的に踏み込んだのは評価できますが、日本や韓国などアメリカの核抑止力に依存する同盟国の存在が、より踏み込んだ立場を打ち出せない理由でもあります。日本が理想主義を掲げても、なかなか話を聞いてもらえないのはこのためでもあります。

となれば原油価格にも影響が心配されますが、むしろメキシコ湾油田の原油流出事故の深刻さの方が重大です。BPは当初僅かな油漏れの映像を公開し、事故を軽微に見せていたのですが、実際は水深1,000mを超える深海海底油田のメインパイプが外れて原油が噴出している状況で、過去のタンカーの座礁事故の比ではない大量の原油流出で、環境汚染、漁業被害も深刻、そればかりか、この事故で既に深海部しか残っていないと言われるアメリカの油田開発が滞ることは確実と見られ、同様にブラジルやロシアの深海海底油田開発も影響を受ければ、原油価格を押し上げると言われ、オバマ大統領も3度に亘って現地入り、アジア歴訪などの外交日程もキャンセルされました。

韓国哨戒艇沈没事件で強硬姿勢の与党ハンナラ党がまさかの大敗北となった韓国統一地方選では、戦争回避の心理が働いたようで、ここへ来て韓国の対応がトーンダウン、対話と圧力の両睨みにシフトしてきてます。元々実効性のある制裁が難しい中、国連安保理への提訴方針は変わらず、日米が全面支持を打ち出しておりますが、挑発をエスカレートしかねかい有事対応までは踏み込めず、普天間問題で話題となった沖縄米軍の抑止力も機能しているのかどうか微妙です。

となると沖縄県民は何のために基地を抱えて苦しんでいるのか、再度説明を求められるわけです。既にグアム移転が決まっている米海兵隊で、普天間に代わる代替基地が必要な理由は必ずしも明確ではなく、アメリカは2006年の日米合意を理由に辺野古移転の現行案を前提にしようとしておりますが、その合意内容はあまり明らかにされておらず、いわば密約のようなものですが、明らかに前政権から鳩山政権への引継ぎも行われていない中での辺野古移転を明記した日米共同声明の発表は、実は鳩山政権が官僚に取り込まれたことを示します。「腹案」も存在していたと思いますが、何らかの理由で封印され日の目を見なかったのでしょう。

その辺を考えると、今回の政局を反小沢、親小沢の構図で解説されていることに違和感を覚えます。以前から憂慮しておりましたが、官僚に取り込まれた鳩山政権の獅子身中の虫は政権内の閣僚や政務三役に居たはずで、与党幹事長だった小沢氏は無関係なはずです。それを反小沢、親小沢の構図で語ることは、むしろ権力闘争の実態を隠すことになります。

小沢氏は確かに金権的で数の論理を振りかざし、豪腕と言われる力づくの政治手法が目立ちますし、わかりやすい悪党面で多くを語らず、本人もメディア嫌いということもあり、ストーリーを作りやすくイジりやすいということなんでしょう。でもそんな報道姿勢はゴシップ追っかけのパパラッチと変わりません。報道で明らかにすべきは公権力が公正に行使されているかどうかです。ま、小沢氏の政治資金規正法違反疑惑の報道を見る限り、検察の権限行使を追認するだけの姿勢しか見られません。

そういえば4/19のTBS報道番組で野中元官房長官が官房機密費をメディア対策に配っていたことを暴露、有名政治評論家や大手メディア政治部デスクなどに配られて世論操作をしていたと報じられましたが、この件ではTBSも含め既存メディアの追跡取材はなく、5月に入ってジャーナリストの上杉隆氏が週刊ポスト誌上で取り上げ、東京新聞の若手記者が自社の政治部デスクを取材して「受け取っていない」旨の発言を得て紙上に掲載しましたが、他のメディアは全く無視してます。

鳩山政権の火だるまぶりを見れば、官房機密費によるメディア対策は行われていないのは明らかですが、同時に官房機密費自体は支出されているという妙なことが起きてます。一体何に使われていたのでしょうか。政権のメディア対策が行われない中、明らかに宮崎県の初動ミスで被害を拡大した口蹄疫問題でも、専ら赤松農水相に矛先を向けます。確かに農水関係の専門ではないことが弱点となってはおりますが、叩かれることは不本意なはず。そんな折、車や靴を消毒もせずに被災地域をうろついたTVクルーが居たそうで、とんでもない話です。新型インフルエンザなど、人間が感染する病気なら、取材する方も慎重にするでしょうけど、人間には感染しないということで、無防備な取材陣がうろつき回ったわけですが、悪いのは政府になってしまうんですね。

んで、韓国で行われているG20財務相中央銀行総裁会議に菅財務相は欠席。そこでギリシャ危機を受けた財政再建の議論がされ、また欧米それぞれが独自に検討している金融規制のすり合わせも行われますが、日本不在は痛いところ。とはいえ主張の乖離は激しく、どうせまとまらないから結果オーライかも。とはいえ郵貯・簡保の限度額アップをWTOへ提訴も検討される中、議論にすら加われない日本の立ち位置は、結局実務者が国際会議の決め事として錦の御旗を振るわけで、菅政権の先行きを暗くします。

結局政局とはメディアが捏造するものか。

| | | Comments (0) | TrackBack (0)

« May 2010 | Main | July 2010 »