南氷洋調査捕鯨と財政再建の覚悟
カナダ、ムスコカで始まったG8サミットで、ギリシャショックを受けて財政再建に舵を切る欧州各国に対し、今は景気配慮を重視するアメリカとで見解が分かれました。その中で一人「成長と財政再建の両立」を主張する菅首相の場違いぶりが目立ち、首脳同士の立ち話の輪にも入れなかったようです。
欧州諸国の財政再建のあおりを受け、日立が受注を狙って進めていた英国高速鉄道車両の約1兆円相当の更新が英総選挙で政権交代が起きたことでキャンセルされたことは取り上げました。労働党政権下、金融立国で成長を続けたイギリスですが、一方で製造業の空洞化が進み、国際収支は赤字基調で財政赤字は海外マネーでファイナンスされるわけですから、バブルがはじけポンド安となれば実質債務負担は重くなります。それなのに財政赤字対GDP比は日本より悪く、財政再建待ったなしの状況は日本とは違います。結果として当面の成長は阻害されますが、背に腹は変えられないわけです。しかし財政再建となればシンプルに何を止めるかを選挙で問うところに、成熟した民主政治を感じます。
日本はといえば、財政再建派と目された小泉政権下でも整備新幹線や高速道路の建設は止まらず、あまつさえ新規着工や道路公団民営化を隠れ蓑とした権益拡大さえ見られたわけですから、どだい覚悟が違います。そもそも日本では90-93年に赤字国債発行ゼロを実現しましたが、このときの歳入が60兆円規模だったのが、円高不況を受けて米クリントン政権の内需拡大要求jに応えるために財政出動で公共事業を積み増したところから、巨額財政赤字が始まったもので、それほど古い話ではないのに、財政出動の効果が現れず、ズルズルと赤字を垂れ流した結果、GDPの2倍に届きそうな水準まで累積赤字を拡大したものです。
逆に社会保障費は自然増を圧縮する方向へ舵を切られたために、国民の貯蓄性向を高めて1,200兆円程度だった家計貯蓄残高は1,400兆円を超える水準まで増えているわけで、その結果過少消費でデフレ傾向を強めているわけです。年1兆円と言われる社会保障費の自然増を考慮しても、バブル崩壊から20年、歳出規模が80兆円程度となるところ、2010年度予算では94兆円規模ですから、明らかに歳出オーバーです。
原因は赤字国債の累積で国債費が圧迫要因になっているものです。特に利払いは10兆円規模になりますから、累積赤字の怖さまざまざです。10年もの国債金利を指標とする長期金利が1%台でこれですから、何らかの原因で金利が上昇したら、金利負担で押しつぶされてしまうというのも、あながちあり得ない話ではありません。
とはいえ政府は成長戦略を唱え、官僚作文丸出しのメニューを発表してますが、景気回復局面では設備投資が活発になりますから、資金需要が拡大し金利を押し上げます。つまり成長すると財政を圧迫するんですが、この点を不問に付しているのが変です。また日銀の金融緩和によるインフレ目標政策に与党内にも期待感があるのですが、仮に何らかの理由でインフレ期待が生じれば、それを織り込む形で金利が上昇します。日銀が政策的に動かせるのは1年以内の短期金利だけですから、長短金利差が大きくなるわけで、新発国債の金利は上昇します。一方銀行などが保有する既発国債は金利上昇分だけ評価額が下がりますので、金融不安の引き金を引く恐れがあります。当然企業の設備投資も金利上昇で冷水を浴びせられます。
そしてインフレ期待は消費税率アップでも生じます。仮に税率を10%まで上げたとして、1%につき2兆円の税収として10兆円の税収増となるわけですが(消費低減などのマイナス効果はとりあえず無視します)、長期金利が1%少々上昇すれば金利負担が10兆円程度プラスとなるわけですから、増税分は利払いで食われてしまうわけです。つまり消費税を上げても財政再建はできないわけです。また5%もの値上げを価格転嫁しきれないでしょうから、インフレと同時にデフレも起きるという悪夢のようなシナリオになります。
本気で財政再建に取り組むならば、イギリスがやったように政府の仕事を減らす以外にないのです。財政再建は当面の成長を諦めてでも取り組むことなんです。とはいえ社会保障を切り詰めれば過少消費を助長しデフレ圧力を高めますから、結局公共事業その他、無駄な事業をなくし歳出を削るしか方法がないのです。その意味では事業仕分けに力を入れるのは正しいのですが、現時点では制度改革につながらず、例えばJAXAの予算見直しの判定も、惑星探査機はやぶさの奇跡の帰還の勢いに押されて復活するなど、大甘の対応が続きます。そんな中でこんなニュースに注目しました。
IWC、商業捕鯨の合意断念、全体会合再開日本にとっては懸案の商業捕鯨再開の期待はあったものの、結局参加国の意見の隔たりが大きく、議論は凍結されました。
実はこの議長提案ですが、アメリカの働きかけでまとめられたものだったのです。なぜアメリカかといえば、捕鯨問題で同盟国の日本とオーストラリア、ニュージーランドの対立が先鋭化しているのを危惧したオバマ政権の意向が働いたというのがもっぱらの見方です。
オバマ大統領もイラク撤退とアフガンの治安回復が思うように進まず、アフガンの司令官が大統領批判に及びワシントンに呼び寄せて更迭するなど苦しい政権運営を強いられております。他にもイラン、北朝鮮の核問題や膠着する中東和平問題、ソマリアの海賊問題に韓国哨戒艇沈没事件と難題山積の中、同盟国間の結束を強化したいという思惑から、IWCへ働きかけたようです。
特に韓国哨戒艇沈没事故はショックでした。大韓航空機爆破事件やラングーン事件などは秘密工作員による破壊工作でしたが、今回は通常兵力による同盟国艦船への攻撃ですから、軍事的には重大な意味があります。ある意味保有しても使用されることのない核兵器開発よりも深刻で、同盟国を守れなかったショックがアメリカを襲ったのです。とりもなおさず米軍のプレゼンスの低下を意味しますから。ところが同じ時期、日本のメディアは専ら普天埋設問題で鳩山前首相を攻め立て、「アメリカは怒っているぞ」とはやし立てておりましたが、そもそも米軍再配備で予算を措置しなきゃならない国防総省以外には普天間問題は知られておらず、オバマ大統領はむしろ同盟国の結束強化を画策していたわけで、日本のメディアのミスリードぶりはひどいものです。
日本のメディアは記者クラブ発表を垂れ流しているので見えませんが、南氷洋で母船方式の船団で捕鯨をしている国は今や日本1国のみ。国際世論の圧力で捕鯨大国のノルウエーやアイスランドすら近海での操業に特化している状況ですから、日本への風当たりはかなり強いのです。特にオーストラリアやニュージーランドは自国の庭先を荒らされたといような不快感を持っているわけで、豪労働党政権のラッド首相は国際司法裁判所に提訴まで踏み込んでおります。その後増税問題で人気を失ったラッド首相は退陣し、後継には女性のギラード氏が就任、増税案は撤回したものの、日本の提訴については現時点で態度を明らかにしておりませんが、親日的なオーストラリア国民にも不評な日本の南氷洋調査捕鯨ですから、国民の支持を得るためには取り下げは考えにくいところです。
そもそもこの調査捕鯨が曲者でして、(独法)日本鯨類研究所、通称鯨研というところが事業主体ですが、農水省の外郭団体で南氷洋でミンク鯨他を850頭も殺傷しながら、その成果を国民にも世界にも説明できていないのです。調査捕鯨発生品の鯨肉は市販されており、その代金が活動費に回されるのですが、捕獲頭数が多すぎるのか、在庫が増えて消化できなくなっております。IWCルールで調査捕鯨名目の捕鯨の発生品の鯨肉は廃棄処分できない決まりですが、冷凍保管されてますから、在庫を持つだけでコストが発生しますが、さりとて活動費調達のため値下げも出来ず、また商業捕鯨は禁止されており、調査捕鯨発生品の鯨肉以外に市場流通する鯨肉は存在しないわけですから、究極の独占状態でもあるわけです。こういった状況から南氷洋調査捕鯨は事実上禁止されている商業捕鯨であり、且つ商業捕鯨禁止を悪用している不見識に、世界は怒っているのです。
何かミニマムアクセス米問題に似た構図です。市場から需要されないものをわけのわからない理由で溜め込んで処理に困っている図ですが、そういった意味では今回のIWC議長提案は日本にとっても渡りに船、不自然な調査捕鯨を止めてむしろ鮎川や太地などの沿岸捕鯨を復活させるチャンスなのですが、規模は縮小しても調査捕鯨は続けたいという虫の良い言い分は通らなかったのです。逆に日本の沿岸捕鯨は鯨研の南氷洋調査捕鯨の犠牲になったとも言えるわけで、官業による民業圧迫の構図です。こんなのさっさと仕分けしちゃってください>蓮舫大臣。
| Permalink | 0
| Comments (0)
| TrackBack (0)
Recent Comments