高速道路無料化社会実験で見えてきたもの
先月28日から始まった全国37路線50区間の高速道路無料化社会実験の結果が出てきております。うまくFREEになれたでしょうか。
高速無料化、初の週末は交通量67%増
高速無料化、初日は交通量79%増 渋滞も4区間平日はほぼ8割増、週末も7割増といったところで、週末の増加率が低いのは、元々ETC1,000円割引で通行量が増えていたからですが、無料化の効果は現れています。
一方並行一般道の交通量は18%減となり、渋滞緩和に効果があったものと見られます。近所のR1東海道の茅ヶ崎市内などは、確かに流れがスムーズになっており、来年3月末までと言わず続けて欲しいところです。
というわけで無料化で高速道の交通量は7-8割増、並行一般道の交通量は2割減ということで、おそらくトラフィック自体は増えているものの、信号停止や渋滞が減っておりますから、CO2排出量は増えていないと考えられます。むしろCO2単位排出量当たりの生産性は上昇したと言えるわけで、エコに反するという反論の無意味さを証明したと言えるのではないでしょうか。
とはいえ現段階ではあくまでも社会実験ですから、料金所ゲートは残っており、料金0円で通行させている形でゲート通過車両をカウントして通行量を記録している状態です。本格実施となればゲートが撤去されてより流れがスムーズになりますし、一部で見られた渋滞も、結局出口渋滞で、高速道と一般道の速度差の分だけ流れが悪くなるのですから、一般道の整備や出口ランプの増設で渋滞解消は可能ですし、また地域の実情に合わせて出口やアクセス道路の設計を行うことで、地域のモビリティを高めることも可能です。こういったことが実現すれば、民主党が掲げる地域主権の具体例ともなるわけです。
ところが参院選のマニフェストでは表現が後退しており、段階的に進めるとしながら原則無料化の看板は取り下げております。完全実施で1.3兆円と見積もられる予算が、財源問題で壁に当たっていることはわかりますが、それで実施が遅れることはあっても、看板を下ろすべきではないでしょう。政府試算で7.8兆円もの経済効果が見込まれており、財政支出の6倍の効果が期待できるわけで、下手な公共事業よりも、また子ども手当など社会保障よりも経済効果は高く、菅首相が寝言のように述べる「強い経済」の一里塚にもなります。
そういや財務相時代に代表質問で政策の乗数効果についてシドロモドロになっていた菅さんですが、質問する方にも一言、乗数効果はケインズの有効需要創出政策に付随して語られますが、ケインズ自身はこの言葉を使っておりません。{乗数」というぐらいですから、指数関数でなければならないわけですが、とすれば乗数2の事業は100万円の財政支出で100兆円の経済効果を生むことになりますがあり得ません。経済用語としては「貨幣の信用乗数」という使い方はあります。これは発行された貨幣が繰り返し取引に使われることで、額面の何倍もの経済活動を支えるという意味ですが、政府の財政支出とは無関係です。国会論戦でくだらない俗説が飛び交う日本の国会ってアホかいなとも思いますが、そんな代表しか選べない日本人って悲しい(涙)。
昨年JR7社連名で高速道路無料化見直しの申し入れがされましたが、結論から申し上げまして、10年3月期決算で各社収益減に見舞われてはおりますが、不況による出張減少や新型インフルエンザの影響もあり、それらを除くと高速道路ETC1,000円割引で大きな影響を受けたのはJR四国だけです。仮に高速道路無料化の公共交通機関への影響を考慮するにしても、当面JR四国とJR貨物の線路使用量が生命線となる整備新幹線並行在来線三セクのIGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道、肥薩おれんじ鉄道と、今後開業する北陸新幹線などの並行在来線に限られます。この範囲ならば公的助成も許容範囲ではないでしょうか。
フェリーに関しても元々小規模事業者が乱立していたので、整理統合して規模の経済を追及することが必要でしょう。例えば宇高航路などは事業者ごとに埠頭も桟橋も別々で客を奪い合ってきたわけですし、小豆島航路との調整も併せれば存続は可能でしょう。事業者の言い分を鵜呑みにして現体制を維持するのではなく、これを期に業界再編まで視野に入れるべきでしょう。
JR四国に関しても、瀬戸大橋開業に沸いた89年が輸送量、収益共にピークで、以後四国内の高速道路整備が進む中乗客を失ったことからもわかるように、基本的に競合に打ち勝つ競争力増強が必要になります。とはいえ四国に新幹線は非現実的ですから、例えば土讃線の琴平と阿波池田を長大トンネルでつなぐショートカット線の建設とか、大鳴門橋の鉄道併用橋構造をj活用した淡路島経由の阪神地区進出、例えば洲本市から大阪府岬町までの海底トンネル建設などで支援することを考えるべきでしょう。その際に例えば低落傾向の南海電気鉄道との資本を含む提携やスルッとKANSAIへの参加など民間ベースで可能な経営強化策を併せて考えるべきです。現状では高速道路無料化の如何に関わらずどのみち長期低落傾向から抜けられないのですから、ピンチをチャンスに変える発想力こそが問われます。
並行在来線三セクに関しては、物流モーダルシフトの観点から政府がJR貨物に資本を入れ、並行在来線三セクに出資する形が考えられます。実際肥薩おれんじ鉄道にはJR貨物が出資し、旅客列車がワンマンディーゼル列車になったのに、貨物のための電化設備を維持しております。今後例えば北海道新幹線新函館開業で予想される江差線の分離に際し、三セクが「旅客列車をDMVにする」なんて言えば貨物との共存は不可能ですから、資本を入れざるを得ないでしょう。
あとその他のローカル私鉄や観光鉄道に関しては、地域活性化でむしろ追い風にできるので、敢えて公的に支援する必要はないでしょう。むしろ富山のようにLRTの整備など地域が主体で交通のあり方を決めていくことが望ましいと考えます。この点は民主党が野党時代にLRT新法を準備したことがありますが、与党となった現在、堂々と実現するぐらいの気概を持って欲しいところです。
ついでですが、マニフェストの目玉だった子ども手当に関しても、26,000円の満額支給が13,000円からの上乗せの表現となり、地域の実情に応じて現物給付も可とするという見直しが行われましたが、国が支給する子ども手当の新しさは、従来は例えば保育所待機自動解消のために自治体や社会福祉法人に補助金を出すところを、家計への直接補助としたことが目玉だったはずです。つまり中間組織を省いて直接支援するから行政コストを低減できるのであって、現物支給は現場を熟知した自治体の裁量で行うべきです。その意味で子ども手当の上乗せ分の現物給付は制度のフィロソフィーを損なうものであって、修正の域を超えております。こういった重要なところでブレているから有権者が離れているので、消費税増税問題もその文脈で理解すべきでしょう。
ですから今さら「議論を始めます」と述べただけです、と言われても腹水盆に還らず、民主党敗色濃厚ですが、自業自得と言うほかありません。
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