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Saturday, July 03, 2010

大江戸怨念物語 地下鉄は誰のものか

夏が近づくと、涼味溢れる怪しい話が出てくるものなのでしょうか。

都営地下鉄・東京メトロ:一元化へ協議の場を 都が国に要請へ
以前TBS報道を酷評しましたが今回は某国営放送の定時ニュース枠でも取り上げられております。情報の出所はやはり東京都で、先月28日の東京メトロの株主総会で都が国に協議を働きかけたことを報じたものですが、TBS報道と決定的に異なるのは、ニュースソースを明らかにしていることです。一応報道の体を成してはおります。

未上場で特別法で定義された特殊会社である東京メトロ。正式名は東京地下鉄株式会社ですが、国が53%、都が47%の株式を保有しており、株主は国(財務省)と都の2者だけで、会社側が前期実績、剰余金処分、根気計画、役員人事案などの議案を粛々と説明し同意を求めるという、上場企業のそれとなかなり異なった展開ですが、その中で都を代表して出席した猪瀬副知事から打診があり、会社側も国側も一応前向きな回答をしたということですが、果たして地下鉄統合は進んだのでしょうか。

答えはnoですね。猪瀬副知事は以前からの主張を繰り返しているだけですし、会社側も国側も協議には応じるけれど、都の言い分を認めるつもりはさらさらないでしょう。確かに都営地下鉄は単年度黒字を達成し、累積債務の償還も時間の問題ではあります。とはいえ償還終了は最速で20年後、当面は債務を抱えた状態は続くわけです。「20年後に会いましょう」というのが本音です。

一応都の方は上下分離で都が抱える累積債務を直接メトロに負わせないなどのアイデアをぶつけてくるでしょうけど、国が問題にしているのは、あくまでも都が保有株を手放さない姿勢を見せていることなのは変わりません。つまりは協議しても平行線は明らかで、話が進む可能性はあまりないでしょう。元々東京メトロ上場は福田政権時代に具体化した話ですが、それから延々進まないのは、都の姿勢にあることは繰り返し述べてまいりました。

整理しますと、都が株式保有継続の意向を示す一方、インフラ企業で公益性が高い鉄道や電力などの企業では、支配的株主による公益阻害の可能性があるということで、株式大量保有に制限をかけようということになるわけですが、上限20%の保有制限一杯の株式保有を都が継続するならば、国は対抗上23%程度の株式保有を残さなければならず、財政再建のためには全株売却は譲れないところだけに、都に同調を求めるしか術はないのです。

また株式の43%は公的に保有される形になれば、残り57%に民間資金が殺到するわけですが、東京メトロに関しては、JR2社や大手不動産、メガバンク、生保なども株式保有を狙っていると言われます。株式公募のやり方如何では、本来望ましい個人による株式保有を妨げることにもなり、マネーゲームを助長する可能性もあります。

その一方で4,500億円の都の累積債務がこれ以上膨らまないかも要注意です。例えば羽田―成田直通1時間構想をどうするかということです。複数案ある中で、日本橋―新橋間を外堀通りを辿って東京駅八重洲口に接着する別線ルート案が資金面で有力とされますが、せいぜい数分の時間短縮で、むしろ東京駅接着で新幹線との連携が取れることへの期待でしょう。しかしそのために都が地下鉄建設を再開するのでしょうか。

また現在の累積債務は専ら大江戸線建設費と言われますが、大江戸線効果で都区内の低開発地に高層マンションが増えて再開発が活性化されたのは確かですが、ミニ地下鉄ゆえの悩ましい状況もあります。例えば勝どき駅ですが、周辺に高層マンションが多数できて、居住人口が劇的に増えた結果、朝ラッシュで入場規制を余儀なくされる状況が続きます。ミニ地下鉄ゆえにホームもコンコースも処理能力に限界があり、拡幅工事を迫られております。

こういった要請に対して都が地下鉄統合のアイデアとする上下分離方式を用いれば、上場を予定する東京メトロのバランスシートを傷めない形で追加投資ができるわけですが、何かに似てます。そう、(独法)高速道路保有・債務返済機構による高速道路の道路会社へのリースの仕組みとそっくりですね。バランスシートから切り離したところでこっそり負担を積み増すリボルビング払い地獄の仕組みは猪瀬氏の専売特許です。氏の改革案にはこの手のオチがつきもの、インチキ極まりない話です。

というわけで、都の主張が無理スジなんで、都の取るべきスタンスは国に同調して保有株を全株売却し、都営地下鉄の累積債務の繰り上げ償還を進めることですね。そうすれば地下鉄統合も現実味を帯びます。とはいえ地下鉄統合で運賃二重払いが解消されるという議論には要注意です。例えば韓国ソウルでもSMSCとSMRTCの2事業者が存在しますが、運賃制度はシームレスに統合されています。

以前にも記した通り公正な分配ルールを工夫すれば可能なことですが、事業者任せでは進まないので、都が交通政策として共通運賃実現に汗をかく方が建設的です。その場合上限運賃を前提とする運賃制度に抵触する可能性はありますので、特定エリアの共通運賃に関して部分的に上限運賃を超える特定運賃の特例を定めるなど鉄道事業法の見直しは必要かもしれません。その枠組みならば例えば都区内ではメトロの運賃を適用する形でJRや大手私鉄各社の参加の可能性もあり、地下鉄統合以上に利便性が高まります。

都市運営でとかく強引と言われる神戸市でも、財政再建のために第三セクターを整理しましたが、その中に神戸高速鉄道もあります。神戸市の保有株式は阪急阪神HDに引き取られ、阪急阪神HDのグループ企業となりました。結果的に阪急阪神HDは、阪急グループの神戸電鉄、全但バス、阪神と親密な山陽電気鉄道、神姫バスが連なる兵庫県の独占企業体となったわけですが、公益性の観点から神戸市の株主支配は不要と見切ったわけで、見識を示しました。東京都もぜひそうして欲しいですね。

元文学者(元なのか^_^;)の某都知事はとかく強権的に物事を進めたがりますが、大手銀行への外形標準課税制度では訴訟に発展し、司法判断で行き詰る中、銀行への税還付金利息が過大となってやむなく和解に応じましたし、中小企業向け融資に特化した新銀行東京では、融資審査を単純化した事業モデルが行き詰まり赤字を抱えると、400億円の追加出資でてこ入れを計るも事業は不調。同様の事業モデルを採用した民間の日本振興銀行も行き詰っているように、元々無理な事業だったのです。

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Comments

各社局の思惑はどうであれ、利用者としては一日も早く都営とメトロを統合して欲しいですね。ベルリンの壁ならぬ九段下の壁の崩壊を望みます。

>リボルビング払い地獄
上下分離は個人的には賃貸住宅の家賃のようなイメージなのですが、リボ払いのように金利が発生するのですか?

>都が交通政策として共通運賃実現に汗をかく方が建設的
これは都営・メトロ統合以上にハードルが高い気がします。海外では事例があるようですが、日本は世界一検札が厳密ですし、運賃制度変更にはかなりコストが掛かると思います。

Posted by: yamanotesen | Saturday, July 10, 2010 at 08:25 PM

九段下の壁って都営新宿線と半蔵門線のホームを仕切る壁のことですね。猪瀬副知事が普段閉め切られている非常扉を通って地下鉄一元化をアピールしたパフォーマンスですね。

この九段下の壁が作られた美濃部都政時代にも地下鉄一元化の議論がありましたが、都が英断を急襲するという話で門前払い同様に相手にされませんでしたが、九段下の壁は都市計画10号線(都営新宿線)と11号線(半蔵門線)の同時施工を都が受託した結果で、ある意味フライングだったのですが、同様に同時施工された千代田線と6号線(都営三田線)の大手町―日比谷間では営団の施工で両者はしっかり構造壁で仕切られており、一元化に温度差があったのは昔からです。

リボルビング払いの怖さは利子を払っている自覚がないことでして、高速道路もそうですが、債務返済は元本を減らさず利払いが続きますから、利子を受け取る金持ちや金融機関にはおいしい話ですが、地下鉄を利用する庶民は搾取されるだけです。また浅草線バイパスの他にも豊洲―亀有間の有楽町支線などの建設に突き進むことが考えられますが、そもそも賃貸の家賃が上がって若者が住めなくなった東京で、住民は高額年金を受け取るジジババばかりで生産に携わらず、医療や介護で受益ばかり求める老いる都市で土建行政は財政面で破綻の可能性があります。

共通運賃は行政の対応如何です。参加社局が資金を拠出して共通の運賃プールを設け、10年程度の限定で減収事業者には減収分を補填する仕組みにすれば、結果的に乗客が増えて全体がうまく回ると考えられます。むしろICカード乗車券導入で高価な自動改札機を増やして改札分離してコストを押し上げている現状を見れば、それらをリストラして益出しもできますから、結局1歩を踏み出せるかどうかの問題と考えます。

Posted by: 走ルンです | Saturday, July 10, 2010 at 09:41 PM

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