ペリカン便統合で配達遅れ、ほろ苦いゆうパックの新スタート
ゆうパックとペリカン便の統合は2007年10月のニュースで、当ブログでも取り上げましたが、紆余曲折を経て今年7月1日に新体制でスタートしたものの、配達遅れで大手2強の背中が遠のきました。一応7日にはほぼ遅れ解消したものの、課題を抱えたスタートとなりました。
「ゆうパック」配達遅れ、ほぼ解消 混乱鎮静化へ遅配個数約34万個で、主に千葉県と埼玉県の元ペリカン便集配拠点で発生した仕分け機械の操作ミスなどの不手際が原因ということで、日本郵便は問題の集配所に臨時で応援要員を派遣し、トラック便も増やして何とか収束させたものですが、生鮮食糧品など傷んだ品物の損害賠償や再送代金、手数料負担などはこれからです。
郵便小包事業を発展させたゆうパック事業は、郵政民営化による収益部門の1つとして期待されたのですが、既にヤマトと佐川の大手2強体制が出来上がっている中、かつてしのぎを削った福山通運、西濃運輸、トナミ運輸、名鉄運輸などは、電子部品など特定企業荷主のサプライチェーン構築に特化したいわゆるシステム物流にシフトしたり、航空貨物分野のフォワ―ダーに転進するなどしてきた中、取り残された日通のペリカン便との統合による規模の拡大は、2強体制を追撃する上で必要だったのでしょうが、そもそも負け組だったペリカン便のリストラに利用されたとも言えます。郵政改革のインチキぶりが透けて見えます。
2008年10月には日本郵便と日本通運がそれぞれゆうパック事業とペリカン便事業を本体から切り離し、合弁の新会社JPエクスプレスへ合流する予定だったのですが、麻生政権時代に鳩山邦夫総務相が認可に待ったをかけたために、ゆうパック事業の切り離しが滞り、日通のペリカン便事業のみを引き継いでJPエクスプレスをスタートせざるを得なくなりました。当ブログで郵政眠永化?として指摘した一連の一部ですが、結果的に規模の拡大ができなかった新会社JPエクスプレスは赤字を垂れ流すことになります。
余談ですがこのとき障害者向け郵便割引(第三種郵便物)制度を悪用したとして厚労省現役局長が逮捕、起訴されましたが、局長の指示とした部下の自供が公判で覆され、冤罪となりそうです。丁度国会で障害者自立支援法の審議中の出来事として、野党対策だったという検察のシナリオが崩れた形ですが、民主党石井一議員の関与が取りざたされたりもしていて、小沢前幹事長の政治資金問題同様、検察による政治介入が疑われます。
話を戻しますが、このような経緯で宙に浮いたJPエクスプレスを日本郵便が引き取り、ゆうパックとの事業統合を行うことで後始末をつけようとした結果、混乱のスタートとなったわけで、ある意味気の毒ではありますが、そもそもお中元シーズンで荷物が増える時期の統合に無理があるのですが、現場を知らない元官僚のトップの判断が裏目となったわけです。それ以前に2008年10月に発足以来、ゆうパックとの統合は規定路線だったはずですから、準備期間は十分だったはずなのに、今まで何をやってきたのかとも思いますが、結局日本郵便側の人員中心の再編だったために、ペリカン便仕様の機器類が使いこなせなかったということになり、今回の郵政見直しのいい加減さの帰結とも言えます。
結果的に高くついたゆうパックの新体制ですが、遅配を伝える報道番組でフィギュアスケートの高橋大輔が新スタートをアピールするゆうパックCMが流れて、哀れを誘います(涙)。民間企業スポンサーならば即座にCMを止め、公共広告機構CMに差し替えられるところですが、官業体質が抜けない日本郵便にそんな知恵はないようです。
またペリカン便の有力荷主だった一部百貨店も今回の問題でヤマトや佐川へ逸走しておりますが、元々長期低落傾向が続いていたペリカン便との統合の意義が問われます。それを裏付けるこんなニュースがあります。
宅配便の取扱個数、2年連続減、09年度そもそも人口減で減少傾向の中、大手2強の寡占が強まっておりますが、今回の騒動はそれを助長しますね。
というわけで、しょーもない郵政見直しですが、これだけビジネスとしての感性の鈍さがあるとすると、廃案となった郵政見直し法案での郵貯・簡保の限度額引き上げも、恐れることはないのかもしれません。所詮お金を集めても運用スキルがないですから、むしろ銀行も運用難で国債を購入している状況ですから、預金流出は渡りに船、リーマンショック対応で将来資本増強が求められることは確実ですが、銀行にとって負債となる預金の減少は渡りに船。また貸金業法完全施行で年収の2/3に与信が制限されますが、銀行のカードローンは対象外ですので、ある意味銀行の消費者ローン拡大のチャンスでもあります。
とはいえその銀行も日銀の低金利政策に助けられてはいるものの、リスクを取りきれずに利益を得られないで、おります。収益力ではジャパンネット銀行やセブン銀行などリアル店舗を持たないに後れを取っている体たらくです。特にセブン銀行は決済専門銀行として敢えて預金を集めず、ゆえに運用すべきアセットを持たず、他行から受け取る手数料でビジネスを成立させており、リーマンショックにも動じませんでした。
逆に言えば郵貯も限度額を敢えて下げて預金量を減らし、ATMネットワークを開放して手数料で稼ぐビジネスモデルを志向することができたのではないかと思います。郵貯ATMで例えば民間銀行のカードローン取り扱いができれば、消費者ローン各社を廃業に追い込むポテンシャルすらあったと思います。その意味では決済システムが旧式すぎる現状を踏まえ、システム投資をきちんとやっておくべきだったのですが後の祭りです。
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