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August 2010

Wednesday, August 25, 2010

成田スカイアクセスの「車輪の下」

ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」といえば、幼少期より神童、天才と呼ばれた主人公が、周囲の期待に押し潰され転落の道に嵌まり、慣れない酒に溺れて川へ転落死する悲劇のストーリーですが、今の日本の若者の現状にダブります。

誰もニートやフリーターやハケンに成りたくて成ったわけじゃないのに、良い大学出て良い会社に入れば一生安泰という終身雇用幻想に囚われた大人たちの期待に応えられず、若くしてほろ苦い酒の味を覚えてしまう現状の閉塞感は将に「車輪の下」が体現されています。

どこで道を間違えたのかわかりませんが、やはり低利用度の北総台地に緑豊かなニュータウンを夢見た大人たちは、同じ場所がマイカー天国のスプロール現象(無秩序な郊外開発)の温床となった現実をどう見ているのでしょうか。7月17日の成田スカイアクセス開業の文字通り「車輪の下」問題といえる北総線問題を取り上げます。まずはこんなニュースから。

『北総線 運賃高く生活圧迫』 住民ら国を提訴
成田スカイアクセスの開業日から丁度1ヶ月後の今月17日、沿線住民が成田スカイアクセスが北総鉄道に支払う線路使用料が安すぎるとして、それを前提としたスカイアクセス線の上限運賃認可をした国を相手に行政訴訟を起こしたもので、運賃を俎上に乗せる訴訟として前例がなく、注目されます。

とはいえ法令上は難易度の高い訴訟になりそうです。そもそも鉄道の運賃認可は、一定の基準を満たせば国は申請を認可しなければならないのであって、今回の訴訟も訴えの利益なしとして門前払いされる可能性もあります。

鉄道運賃は総括原価に基づく上限運賃の認可を受けて、その範囲内で5%程度の軽微な値引きは授業者の裁量で可能となっておりますが、例えば京浜急行電鉄で一部の駅間で値引きが行われたり、山陽電気鉄道では上限運賃を値上げした上で、改定前運賃を適用するなど、主に並行他社線対策として値引きされておりますが、一部に留まります。

総括原価というのは、売上-原価=利益の等式を売上=原価+利益と変形した左辺部分を指します。基本的には全産業平均の利益率に基づく適正利益を輸送原価に加算した総括原価を売上とバランスする水準とするものですが、積算根拠は直近の実績に原価各課目の経年変化の直近向こう3年間の平均値をレートベースで算出した推計値とするものです。年度ごとの減価償却費の推移や設備投資計画を反映させて算出された推計値が売上水準を超え利益を圧迫することを申請書類で示して値上げ申請され認可を受けるという手順となります。

逆に現在のようなデフレ状況では原価が下がることもあり得ますが、認可済みの上限運賃は事業者の権利として確定しておりますので、あえて値下げ申請は行われませんので、基本的にデフレは鉄道事業者には心地よい話になります。例外的に値下げ申請が行われたケースとして、特定都市鉄道整備促進特別措置法(特特法)関連の積立金取り崩しによるものがあり、特に1997年の京王電鉄のケースは全線に及んだという意味で異例です。当初10年限定とされた値下げ申請も10年後の2007年に値上げ申請を見送り、割安な運賃を継続しております。

当然成田スカイアクセスのような新規開業路線の場合は実績値が使えませんから、在来ルートやバスなど競合交通機関からの移転を推計し、申請運賃が適正水準にあることを説明しなければなりません。そして成田スカイアクセス(正式には京成本線(上野―東成田・空港第2ビル間)の高砂から分岐し成田空港に至る成田空港線)固有の問題として、全区間第二種鉄道事業となっていることに特徴があります。つまり輸送原価のほとんどは線路保有事業者への線路使用料支払いとなるわけです。

しかも線路保有事業者が北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道、成田空港アクセス、成田高速鉄道の4事業者に跨っており、且つ旧住都公団線だった千葉ニュータウン鉄道は北総鉄道も第二種事業者となるなど、込み入った状況で千葉ニュータウン開発の歴史過程を引きずっております。今回の住民提訴は、そのうち北総鉄道が保有する高砂―小室間の線路使用料として支払われる年間約15億円を安すぎるとするものです。

北総鉄道自身は70年代のオイルショックや90年代のバブル崩壊で沿線開発が頓挫し、34万人とされた千葉ニュータウンの開発計画は縮小され実際は8万人規模となったものの、それでも沿線人口の斬増で2000年以来営業収益100億円レベルの単年度黒字を計上しております。それでも2006年3月で1,145億円の固定負債を抱え、毎年60億円の借入金返済を続け、会社も103億円の債務超過状態で、出資自治体と金融機関の資金支援で延命されている状況です。返済金も半分以上は利払い分ですから、元本返済には尚40年はかかる計算です。

そういう中で成田スカイアクセスのルートに組み込まれ、成長分野と見なせる空港連絡輸送を取り込めれば北総線自体の輸送原価低減による運賃値下げの期待があったのに、安すぎる線路使用料で北総線の高運賃が事実上固定されることに異議を唱えたということになります。この安すぎる線路使用料はスカイアクセス線運行に関わる北総鉄道の減収分の補填ということで、丁度JR貨物のアボイダブルコスト(機会費用)方式に準じた考え方のようです。一応民と民の間の契約事項ですから正当とはいえますが、北総鉄道が京成電鉄51%出資の連結子会社であることを考えると、所謂系列取引による不当廉売と取れないこともないので、裁判になればこの辺が大きな論点になりそうです。成田スカイアクセスの弱気で疑問を呈した新ルートの列車本数の少なさは、結局線路使用料負担を減らしたかったのですね。

北総鉄道7月17日改定運賃(括弧内旧運賃)
距離 運賃(円)
- 3km 190 (200)
- 5km 290 (300)
- 7km 350 (370)
- 9km 420 (440)
- 11km 480 (500)
- 14km 540 (570)
- 17km 600 (630)
- 20km 650 (680)
- 23km 690 (730)
- 26km 720 (760)
- 29km 750 (790)
29.1km - 780 (820)
一応この問題を認識している千葉県では、沿線自治体と共同で北総線の運賃値下げにより生じる減収分を補填することで成田スカイアクセス開業日の7月17日に運賃値下げを行うことを決め、値下げ申請が行われましたが、これが焼け石に水、むしろ北総線の高運賃を温存するものとして地元の一部で反発を招き、白井市議会では減収補填金を盛り込んだ予算案が否決される混乱が生じております。白井市自身は割引率の低い北総線定期券の購入補助などを行っており、北総線の高運賃問題解決を強く求める立場だけに、沿線自治体の足並みの乱れは深刻です。7月17日改定前後の運賃は表のとおりです。

値下げ後でも首都圏の大手私鉄運賃の2倍以上という高運賃は異常ですが、オイルショックやバブル経済による資材の高騰に加え、開発計画の縮小で運賃収入が伸びなかったことが高運賃につながったものですが、それにしても地方ローカル私鉄並みの高運賃で、定期券の割引率が低く、更に京成線や都営地下鉄線などを介した合算運賃となることもあって、同水準の東葉高速鉄道が東京メトロ東西線の低運賃に助けられているのとは対照的に悪条件が重なっており、企業によっては通勤手当を認めなかったり、また場合によっては通勤手当の非課税限度額を超えて所得税負担が生じたり、北総線内各駅で京成カードでの定期券購入が可能だけど、定期券販売機に「限度額を超える場合がある」の注意書きまであるという笑えない状況です。勢い「北総監獄」とか「財布落としても定期券落とすな」などの自虐ネタの宝庫にもなっております^_^;。

結局よく言われることですが、甘い需要予測で事業着手したこと、また経済情勢の変化で事業費が高騰しても止められなかったことなどの結果が高運賃となり、また高運賃ゆえに沿線開発が進まず、会社が定期代を負担しても奥さんの買い物の電車賃は自己負担なので、首都圏近郊でもマイカー普及率の高いエリアになっており、割引のない定期外客が少ないから減収となる運賃値下げにも踏み込めず、沿線は郊外型大型量販店銀座となる一方、駅前は更地ばかりという状況です。

結局高運賃をどうにかしないと沿線開発にも踏み込めず堂々巡りという状況です。構図は高速道路無料化と似てますが、高運賃が利用忌避を生み沿線開発のきっかけがつかめないわけですから、マイカーから電車利用にシフトできるような運賃水準にしない限り、沿線への人口転入も限られることになります。このあたりは高速道路無料化エントリーのコメント欄で触れた交通基本法が制定されれば。地元自治体の意向を反映した運賃認可などが可能になります。また東京の地下鉄一元化問題で触れた大都市圏共通運賃なども取り組みやすくなると考えられます。

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Saturday, August 14, 2010

高速道路無料化で渋滞緩和の怪

高速道路無料化社会実験については既に取り上げましたが、無料化区間の交通量は平均1.8倍、並行一般道の交通量は2割減で。渋滞箇所も予想より少なく、一般道の渋滞解消で渋滞が消えるという良好な結果が得られております。

この傾向はお盆休み期間中もほぼ続いており、事前予想では「50km超の渋滞が頻発し史上空前の大渋滞」とされたものの、先月の3連休を含め、本日に至るも30km程度の渋滞が何箇所か見られ、特段無料化の悪影響は見られません。

過去ログを見直していたらこんな記事見つけちゃいましたが、昨年は7月の3連休時点で57kmの大渋滞ですから、今年の方が全体的にマイルドであるということはできます。

また今年はお盆期間中のETC割引が昨年の木金実施に対して、通常の週末同様土日限定となったことから、特にUターン渋滞が14,15日に集中し昨年より渋滞がひどくなるという予想でしたが、そもsも帰省ラッシュ渋滞のピークと言われた12日も大渋滞にはならず、帰省のUターンならば当然今日明日の渋滞もマイルドになると予想され、メディア報道では30km程度の渋滞で15日がピークとのことですが、そもそも50km超の渋滞予想だった事には触れず仕舞いです。予想より渋滞が少なかった事実は無視されたままですが、よほど高速道路無料化を潰したいらしい-_-;。

ま、もちろん帰省時期に台風が来て予定変更した人も多かったことは考えられますが、昨年も東名高速の盛土崩壊があり、交通量の多いルートが被災したことを考えると、今年以上にダメージが大きかったと考えられますから、災害による出控え説には説得力はありません。

一番考えられるのは、大渋滞予想が人々の渋滞回避行動を引き起こしたということに尽きるかと思います。具体的には夏休みをお盆時期からずらすとか、夜間利用などで利用が分散したとかだろうと思います。渋滞という外部不経済が明らかであれば、人々は可能な範囲で回避行動を取るのは当然です。というわけで、高速道路無料化で渋滞がひどくなるという反対論は何よりも現実によって否定された形です。

別の要因としては円高で海外旅行が増えた影響もあるかもしれません。確かに昨年と比べると海外旅行は盛況なようですが、それが高速道路の渋滞を減らすほどの影響があるのかどうかは定かではありません。また昨年は新型インフルエンザの影響で海外旅行を含め公共交通の利用が忌避されたという要素もありそうですが、どうも説得力に欠けます。

そういえば円高報道もひどいもんです。そもそも4-6月の国際収支で経常収支が前年同期比47.6%増と大幅に増えたんですから、それを受けて今のタイミングで円高に振れるのは教科書どおりの動きといえます。加えて8月は米国債の償還集中月で日本の機関投資家の保有債券が償還されればそれ自体が円高要因ですし、加えて日本の輸出企業が例年お盆休み前にドル売りで円資金確保に動くので、8月の円高は季節要因、テクニカル要因と考えて差し支えありません。実際12日に1ドル84円台をつけた相場は翌日には86円台まで戻しております。

むしろギリシャショックによるユーロ安に加えてアメリカの景気先行き懸念による金融追加緩和でドル安に振れ、中国人民元もここへ来て国内経済の減速で安くなっており、形の上では円独歩高となってきていることへの過剰反応なんでしょう。とはいえ黒字国のやることは内需拡大で輸入を増やすことです。円高kはむしろ追い風、菅内閣も家計消費の拡大を目指していたはずで、動揺するのはおかしな話です。

余談ですが日産がマーチのモデルチェンジで製造をタイなど新興国4カ国に移し、日本向けもタイからの輸入に切り替えましたが、輸入拡大という意味で時宜を得た行動です。重要なのはマーチは輸入するけどスカイラインやシーマは輸出しますから、付加価値の差分だけ儲けは出るわけで、巷間言われる空洞化は恐れる必要はありません。

世界ではジャパナイゼーション(日本化)が言われております。ギリシャショックで欧州各国が財政再建に舵を切り始めた結果、欧州景気が後退、欧州向け輸出を頼みとする米中両国も景気減速となり、またアメリカも赤字国としては財政出動を続けるのが難しい段階まで財政赤字を膨らましてしまい、欧米共に金融政策が頼みとなったものの、所謂量的緩和政策の政策効果は定かではなく、かつての日本のように有効な政策手段を見出せなくなってきたことが意識され始めているのです。当てない民主政治の帰結はグローバル市場という名の閉鎖市場への収斂だったという笑えないジョークです。

本題に戻しますが、そもそも25円/kmという賃率で100kmで2,500円という高すぎる高速道路料金ゆえに、無料化の経済効果がそれだけ大きく出るという要素はあります。付け加えると渋滞予想は鉄道にとっても追い風です。無料化やるべしです。

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Sunday, August 08, 2010

灼熱の氷河急行

氷河急行の事故を取り上げますが、やや長い枕にお付き合いください。

日本のメディアは完全無視しておりますが、昨年11月20日付ニューヨークタイムズで報道され世界中のメディアが追随したクライメートゲート事件(英語圏では懐疑派の呼び方で中立的でないとして「気候研究ユニット(CRU)メール流出事件」という呼び名も使われます)というのがありましてWikipediaの説明も要領を得ませんが、要は98年にネイチャー誌で発表された「ホッケースティック」と呼ばれる過去6世紀の気温変化のグラフで20世紀に急激に気温上昇が見られ、温暖化が人為によるものとする決定的な証拠として驚きと賞賛を以て受け入れられたものでしたが、CRUのサーバがクラッキングされ1,000通を超えるメールが流出し、その記述内容から気温データに意図的な改ざんがあった証拠として温暖化懐疑派を勢いづかせたニュースです。

この問題なぜか日本のメディアは完全無視ですし、Wikipediaもホッケースティックグラフの流布に加担したとして非難された経緯もあり、また情報が不正な手段で取得されたこともあって歯切れが悪いので、経済学者の池田信夫先生の見解も併せてご覧ください。日本の記者クラブメディアの問題点がはっきりします。

とはいっても、懐疑派が勢いづくものの、80年代以降の世界の気温上昇は確かにありますし、また大気中のCO2濃度が高くなっているのも事実です。両者に関連があるのは間違いないのですが、それでも以前からCO2排出増による温室効果という説で説明するにはデータのばらつきが大きく、難点はあったのです。ま、だからこそ元々学術的に中立でないIPCCの研究者たちによるデータ改ざんがあり得ることは池田先生の指摘どおりで、それを無批判に伝えた日本のメディアにとっては取り扱いに困るニュースだったわけです。しかし世界中のメディアがスキャンダルとしてではあれ一斉に報道し、おそらくコペンハーゲンのCOP15の議論にも影響したと考えられる事件を伝えないのはおかしいですね。

注意が必要なのはそれでもCO2排出増による温暖化人為説そのものが否定されたわけではないのです。元々温度上昇によって海水中に溶解しているCO2は大気中に放出されますし、シベリアの永久凍土が融解すればバクテリア分解でCO2を発生しますし、一般的に気温上昇は生命活動を活発にし、結果的にCO2が排出されるわけですから、気温上昇とCO2増加はどちらが原因であり結果であるのかは、現時点の科学的知見では確定できない問題です。重要なのは、だからこそ未来は不確実であり、その不確実性に対する保険としてCO2排出削減を行うことには意味があるのです。人為であることが確定できるデータが得られたときには手遅れになっている可能性が高いわけで、予防的にリスクヘッジするというのは価値観を含む政治的選択の問題なんです。

その価値観というのは、グローバル化で途上国の工業化が始まり、今まで以上に化石燃料消費が増えることが予想される中で、資源争奪による未来の国際紛争を未然に防止するために、CO2排出にキャップをかけ、途上国の工業化を秩序あるものにし、東西冷戦に代わり顕在化する南北対立を回避しようということです。対立する価値観として経済活動を阻害するあらゆる規制に反対する立場はあるわけですが、それに従えばイラクのクウェート侵攻さえ肯定されかねません。

そういった意味では日本のエコカーブームやエコ家電ブームは異様なんで、朝から晩まで「エコ」を連呼して商売に結びつけようというシタゴコロがミエミエで、政府もそれを後押ししているんですからおかしな話です。自動車や家電の製造工程や廃棄工程でのCO2排出には目をつぶっているエコだましもいい加減にして欲しいところです。逆にCO2の90年比25%削減の中期目標を取り下げる必要はありません。2020年までの国内製造業の衰退で楽に達成できちゃいますから、むしろ産業構造を見直す梃子に利用するぐらいの発想が必要です。

とはいえ9月末に迫ったエコカー補助金の期限切れに対する反動減を心配する声があったり、住宅版エコポイント制度の1年延長方針を決めたりと、問題の本質に近づけない日本政府の対応には疑問ばかりです。その間にアメリカは核軍縮に舵を切り、米ロで核軍縮合意を取り付けるなど実績を上げます。

オバマ大統領のアイデアは独創的で、冷戦時代の核軍拡競争でウラン濃縮をやり過ぎた旧ソ連の遺物として抱え込むロシアの濃縮ウランの民生転用でアメリカも核軍備の財政負担を軽減しようということですから、私見ですがたとえ科学者のデータ改ざんが発覚したとしても、核軍縮が実現するなら温暖化防止は意味のある選択と評価できます。とはいえここでもアメリカが今一歩踏み込めない理由が核の傘の抑止力を頼る同盟国の存在によるというのですから、「アメリカの核抑止力は必要」とか「非核三原則は堅持する」とかノー天気な首相や高官たちの無節操さに腹が立ちます。

一方オバマ大統領もメキシコ湾原油流出で失点してます。元々環境問題で反対の多かった深海底の油田開発ですが、ブッシュ政権の政策を引き継いだ形とはいえGoサインを出したのはオバマ大統領であり、問題の深刻さに気づくのも遅れて対応も後手に回り、結果的にスリーマイル島の原発事故に匹敵する大災害となり、おそらく以後の海底油田開発はストップするものと思われます。炉心メルトダウンで大地をさえ溶かし、地球の裏の中国にさえ届くという意味でチャイナ・シンドロームと呼ばれた事故でしたが、今回の原油流出は謂わば逆バージョンのチャイナ・シンドロームでしょうか。

というわけで、石油は油井を掘って油脈に届けば自噴するからこそローコストで利用できる万能資源だったわけで、放射能汚染のリスクを負いながら掘って運んで濃縮加工しなければならないウランが石油の代わりになれるわけがないのですが、温暖化を相手国の武装解除にさえ利用するアメリカはやはり外交大国です。逆にそのシナリオに乗らないイランや北朝鮮が心の底から憎いわけですが韓国哨戒間沈没事件もあり、同盟国からは当てにされるのがウザいでしょうなぁ。

というわけでタイトルに戻って氷河急行の事故ですが、スイスでも連日高温が続いていたそうで、今年の北半球の高熱は偏西風の蛇行で熱波が高緯度にもたらされたものですから、温室効果ガスによるものと言えるかは微妙です。とはいえ氷河の消失など気候変動の深刻な影響を受けているスイスは温暖化防止にも熱心な国でもあり、鉄道を活用した運輸部門のCO2排出削減にも熱心です。特にEUの市場統合で域内貿易が活性化された結果、スイス国内を通過する大型トラックが増えたこともあり、シンプロンやレッチベルグの基部トンネル建設とフェリートレイン強化で通過交通を吸収するなどしてきました。

氷河急行自体はMGBとRhBというローカル私鉄2社が運行する観光列車で、氷河急行の名の由来であるフルカ峠付近のローヌ氷河を眺められるのが売りだったとはいえ、厳しい自然環境ゆえに冬期運休を余儀なくされておりました。その氷河の景観を犠牲にしてまで建設したフルカベーストンネルが開通して通年運行が可能になったのが1982年、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代の入り口に当たります。通過交通対策となる基部トンネルと異なり、、増加する観光客を通年受け入れるために長大トンネルを建設するというのも恐れ入りますが、結局日本のバブルが助けた形です。スイスにとって観光は重要な産業ですが、観光立国とは国際経済に翻弄される覚悟も要るわけですね。

かくして通年運行で投資回収も順調だったのが、日本のバブル崩壊以後足踏みとなり、車両の老朽化などは指摘されていたところではあります。とはいえ鉄道大国として技術水準も高く、特にカーブの多い氷河急行のルートでも静かで滑らかな走行を支える線路はしっかりしていて、日本のローカル私鉄とは比べるべくもない高水準だったわけですが、そこで起きた脱線事故ということで意外性がありました。

報道によれば事故前数日間30℃を超える猛暑が続き、運転士もレールの歪みを目撃していたようで、レールの熱膨張による歪みが疑われます。特にカーブでも継ぎ目のないロングレールを用いるのは、日本では余り例がないですが、それだけ熱膨張による歪みの影響が出やすいわけで、このあたりは日本ほど暑くないから今までは問題が起きなかったと考えることもできます。となると高温の経験不足は考えられますが、機関車を含む3両目までが無事通過しているわけで、4両目の食堂車がポイントかもしれません。水や食材を積んだ食堂車は重量バランスが崩れやすく、日比谷線中目黒の脱線事故のような輪重抜けが起きカーブでせり上がり脱線を起こした可能性はあります。車両の老朽化は食堂車のような特殊設備の車両では事後的な改造で重量バランスが悪化する可能性は否定できません。

一方現地当局は列車の運転士が早くスピードを上げたことを指摘しておりますが、事故のショックで加療中の運転士から証言を得るのは時間がかかるでしょうから、事故原因が特定されるのは先になりそうです。それでも復旧,運転再開を急いだのは、サマーバケーションのシーズンを棒に振りたくなかったのでしょう。このあたりの割り切りは日本的な感覚では違和感のあるところかもしれませんが、老朽車両更新の原資を得るためとすれば是とすべきでしょう。この辺はJR福知山線事故の運転再開前倒しの論点と通底します。

スイスは日本と並ぶ私鉄王国ですが、所謂大手私鉄のような業態は存在せず、日本基準ではすべからくローカル私鉄に分類されます。世界から人を集めれば事業としては成り立つとしても、国際情勢に翻弄される脆弱さは覚悟が要るところです。日本でも観光立国を謳いますが、道のりは険しいと言うべきです。また欧州を中心に鉄道車両メーカーの合従連衡が進んだ結果、アルストム、シーメンス、ボンバルディアのビッグ3に集約されましたが、スイスも例外でなく、伝統あるブラウンボべりーはスウェーデンのアゼアと経営統合してABBとなり、鉄道関連を手放すなど、かつての技術力が薄まったのかもしれません。グローバル化はさまざまな影響を思わぬところに及ぼすものですね。

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