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Sunday, August 08, 2010

灼熱の氷河急行

氷河急行の事故を取り上げますが、やや長い枕にお付き合いください。

日本のメディアは完全無視しておりますが、昨年11月20日付ニューヨークタイムズで報道され世界中のメディアが追随したクライメートゲート事件(英語圏では懐疑派の呼び方で中立的でないとして「気候研究ユニット(CRU)メール流出事件」という呼び名も使われます)というのがありましてWikipediaの説明も要領を得ませんが、要は98年にネイチャー誌で発表された「ホッケースティック」と呼ばれる過去6世紀の気温変化のグラフで20世紀に急激に気温上昇が見られ、温暖化が人為によるものとする決定的な証拠として驚きと賞賛を以て受け入れられたものでしたが、CRUのサーバがクラッキングされ1,000通を超えるメールが流出し、その記述内容から気温データに意図的な改ざんがあった証拠として温暖化懐疑派を勢いづかせたニュースです。

この問題なぜか日本のメディアは完全無視ですし、Wikipediaもホッケースティックグラフの流布に加担したとして非難された経緯もあり、また情報が不正な手段で取得されたこともあって歯切れが悪いので、経済学者の池田信夫先生の見解も併せてご覧ください。日本の記者クラブメディアの問題点がはっきりします。

とはいっても、懐疑派が勢いづくものの、80年代以降の世界の気温上昇は確かにありますし、また大気中のCO2濃度が高くなっているのも事実です。両者に関連があるのは間違いないのですが、それでも以前からCO2排出増による温室効果という説で説明するにはデータのばらつきが大きく、難点はあったのです。ま、だからこそ元々学術的に中立でないIPCCの研究者たちによるデータ改ざんがあり得ることは池田先生の指摘どおりで、それを無批判に伝えた日本のメディアにとっては取り扱いに困るニュースだったわけです。しかし世界中のメディアがスキャンダルとしてではあれ一斉に報道し、おそらくコペンハーゲンのCOP15の議論にも影響したと考えられる事件を伝えないのはおかしいですね。

注意が必要なのはそれでもCO2排出増による温暖化人為説そのものが否定されたわけではないのです。元々温度上昇によって海水中に溶解しているCO2は大気中に放出されますし、シベリアの永久凍土が融解すればバクテリア分解でCO2を発生しますし、一般的に気温上昇は生命活動を活発にし、結果的にCO2が排出されるわけですから、気温上昇とCO2増加はどちらが原因であり結果であるのかは、現時点の科学的知見では確定できない問題です。重要なのは、だからこそ未来は不確実であり、その不確実性に対する保険としてCO2排出削減を行うことには意味があるのです。人為であることが確定できるデータが得られたときには手遅れになっている可能性が高いわけで、予防的にリスクヘッジするというのは価値観を含む政治的選択の問題なんです。

その価値観というのは、グローバル化で途上国の工業化が始まり、今まで以上に化石燃料消費が増えることが予想される中で、資源争奪による未来の国際紛争を未然に防止するために、CO2排出にキャップをかけ、途上国の工業化を秩序あるものにし、東西冷戦に代わり顕在化する南北対立を回避しようということです。対立する価値観として経済活動を阻害するあらゆる規制に反対する立場はあるわけですが、それに従えばイラクのクウェート侵攻さえ肯定されかねません。

そういった意味では日本のエコカーブームやエコ家電ブームは異様なんで、朝から晩まで「エコ」を連呼して商売に結びつけようというシタゴコロがミエミエで、政府もそれを後押ししているんですからおかしな話です。自動車や家電の製造工程や廃棄工程でのCO2排出には目をつぶっているエコだましもいい加減にして欲しいところです。逆にCO2の90年比25%削減の中期目標を取り下げる必要はありません。2020年までの国内製造業の衰退で楽に達成できちゃいますから、むしろ産業構造を見直す梃子に利用するぐらいの発想が必要です。

とはいえ9月末に迫ったエコカー補助金の期限切れに対する反動減を心配する声があったり、住宅版エコポイント制度の1年延長方針を決めたりと、問題の本質に近づけない日本政府の対応には疑問ばかりです。その間にアメリカは核軍縮に舵を切り、米ロで核軍縮合意を取り付けるなど実績を上げます。

オバマ大統領のアイデアは独創的で、冷戦時代の核軍拡競争でウラン濃縮をやり過ぎた旧ソ連の遺物として抱え込むロシアの濃縮ウランの民生転用でアメリカも核軍備の財政負担を軽減しようということですから、私見ですがたとえ科学者のデータ改ざんが発覚したとしても、核軍縮が実現するなら温暖化防止は意味のある選択と評価できます。とはいえここでもアメリカが今一歩踏み込めない理由が核の傘の抑止力を頼る同盟国の存在によるというのですから、「アメリカの核抑止力は必要」とか「非核三原則は堅持する」とかノー天気な首相や高官たちの無節操さに腹が立ちます。

一方オバマ大統領もメキシコ湾原油流出で失点してます。元々環境問題で反対の多かった深海底の油田開発ですが、ブッシュ政権の政策を引き継いだ形とはいえGoサインを出したのはオバマ大統領であり、問題の深刻さに気づくのも遅れて対応も後手に回り、結果的にスリーマイル島の原発事故に匹敵する大災害となり、おそらく以後の海底油田開発はストップするものと思われます。炉心メルトダウンで大地をさえ溶かし、地球の裏の中国にさえ届くという意味でチャイナ・シンドロームと呼ばれた事故でしたが、今回の原油流出は謂わば逆バージョンのチャイナ・シンドロームでしょうか。

というわけで、石油は油井を掘って油脈に届けば自噴するからこそローコストで利用できる万能資源だったわけで、放射能汚染のリスクを負いながら掘って運んで濃縮加工しなければならないウランが石油の代わりになれるわけがないのですが、温暖化を相手国の武装解除にさえ利用するアメリカはやはり外交大国です。逆にそのシナリオに乗らないイランや北朝鮮が心の底から憎いわけですが韓国哨戒間沈没事件もあり、同盟国からは当てにされるのがウザいでしょうなぁ。

というわけでタイトルに戻って氷河急行の事故ですが、スイスでも連日高温が続いていたそうで、今年の北半球の高熱は偏西風の蛇行で熱波が高緯度にもたらされたものですから、温室効果ガスによるものと言えるかは微妙です。とはいえ氷河の消失など気候変動の深刻な影響を受けているスイスは温暖化防止にも熱心な国でもあり、鉄道を活用した運輸部門のCO2排出削減にも熱心です。特にEUの市場統合で域内貿易が活性化された結果、スイス国内を通過する大型トラックが増えたこともあり、シンプロンやレッチベルグの基部トンネル建設とフェリートレイン強化で通過交通を吸収するなどしてきました。

氷河急行自体はMGBとRhBというローカル私鉄2社が運行する観光列車で、氷河急行の名の由来であるフルカ峠付近のローヌ氷河を眺められるのが売りだったとはいえ、厳しい自然環境ゆえに冬期運休を余儀なくされておりました。その氷河の景観を犠牲にしてまで建設したフルカベーストンネルが開通して通年運行が可能になったのが1982年、ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代の入り口に当たります。通過交通対策となる基部トンネルと異なり、、増加する観光客を通年受け入れるために長大トンネルを建設するというのも恐れ入りますが、結局日本のバブルが助けた形です。スイスにとって観光は重要な産業ですが、観光立国とは国際経済に翻弄される覚悟も要るわけですね。

かくして通年運行で投資回収も順調だったのが、日本のバブル崩壊以後足踏みとなり、車両の老朽化などは指摘されていたところではあります。とはいえ鉄道大国として技術水準も高く、特にカーブの多い氷河急行のルートでも静かで滑らかな走行を支える線路はしっかりしていて、日本のローカル私鉄とは比べるべくもない高水準だったわけですが、そこで起きた脱線事故ということで意外性がありました。

報道によれば事故前数日間30℃を超える猛暑が続き、運転士もレールの歪みを目撃していたようで、レールの熱膨張による歪みが疑われます。特にカーブでも継ぎ目のないロングレールを用いるのは、日本では余り例がないですが、それだけ熱膨張による歪みの影響が出やすいわけで、このあたりは日本ほど暑くないから今までは問題が起きなかったと考えることもできます。となると高温の経験不足は考えられますが、機関車を含む3両目までが無事通過しているわけで、4両目の食堂車がポイントかもしれません。水や食材を積んだ食堂車は重量バランスが崩れやすく、日比谷線中目黒の脱線事故のような輪重抜けが起きカーブでせり上がり脱線を起こした可能性はあります。車両の老朽化は食堂車のような特殊設備の車両では事後的な改造で重量バランスが悪化する可能性は否定できません。

一方現地当局は列車の運転士が早くスピードを上げたことを指摘しておりますが、事故のショックで加療中の運転士から証言を得るのは時間がかかるでしょうから、事故原因が特定されるのは先になりそうです。それでも復旧,運転再開を急いだのは、サマーバケーションのシーズンを棒に振りたくなかったのでしょう。このあたりの割り切りは日本的な感覚では違和感のあるところかもしれませんが、老朽車両更新の原資を得るためとすれば是とすべきでしょう。この辺はJR福知山線事故の運転再開前倒しの論点と通底します。

スイスは日本と並ぶ私鉄王国ですが、所謂大手私鉄のような業態は存在せず、日本基準ではすべからくローカル私鉄に分類されます。世界から人を集めれば事業としては成り立つとしても、国際情勢に翻弄される脆弱さは覚悟が要るところです。日本でも観光立国を謳いますが、道のりは険しいと言うべきです。また欧州を中心に鉄道車両メーカーの合従連衡が進んだ結果、アルストム、シーメンス、ボンバルディアのビッグ3に集約されましたが、スイスも例外でなく、伝統あるブラウンボべりーはスウェーデンのアゼアと経営統合してABBとなり、鉄道関連を手放すなど、かつての技術力が薄まったのかもしれません。グローバル化はさまざまな影響を思わぬところに及ぼすものですね。

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Comments

ツイッターアカウントを取得されたのでしたら、新しいエントリをアップの際には是非つぶやいて頂けましたらと

Posted by: SAC | Tuesday, August 17, 2010 at 02:27 AM

クロスポスト設定なう

twitter風につぶやいてみました^_^;。

アカウントを取得しながら利用法まで考えておりませんでした(笑)。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, August 17, 2010 at 09:43 PM

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