満員電車とウサギ小屋
為替単独介入から1週間、効果は守って半月の予想に反し、1週間で円高がジワリと進みます。原因は新興国の外貨準備拡大、つまり為替介入による通貨安競争が原因です。だから言わんこっちゃないんですが、欧米しか視野に入っていないからこうなるんです。
さて本題、国土交通省は21日、2010年7月1日現在の基準地価を発表しました。
基準地価、下落続く 全国平均10年3.7% 3大都市圏、下げ幅縮小下げ幅は縮小したものの、下落傾向は止まらず、不動産不況の出口は見えません。足許ではマンション販売が好調ですが、2006-07年頃のミニバブルの崩壊による価格低下と、居住用不動産の贈与税特例の拡大(本則500万円→1,500万円)や住宅ローン減税、フラット35の優遇策などによる政策効果と見られており、持続性には疑問符がつきます。
加えて2015年問題が影を落とします。既に2005年から日本の人口は減少に転じており、子の自立、離婚の増加、配偶者の死別などによる単身世帯の増加によって世帯数は増えているのですが、それも2015年までということで、現在のように新築中心に住宅供給を増やすのはいよいよ限界という局面になっております。しかも耐用年数の短い戸建て住宅と違って長寿命であり、且つ区分所有法により区分所有権者の合意を必要とする建て替えのハードルが高いマンションでは、建て替えに期待するのは無理ですから、現在のような新築中心の住宅市場は早晩行き詰ります。
この辺は京王電鉄の新たな沿線活性化策や京王アイボリー時代で取り上げた論点ですが、需給ギャップの生まれる既存住宅ストックを用途変更することで、高齢者が高度経済成長期に取得した郊外の戸建て住宅を子育て世代に賃貸することでキャッシュフローを生み出し、それを高齢者のセカンドライフ住宅として利便性に優れた都心のマンションや地方の農地付き別荘の購入費に充てる仕組みとして実現してはいるものの、政権交代後も政府の視野には入っていないようで残念です。
そのほかにも空室の多い賃貸住宅の自治体借り上げによる公営住宅強化や、強度に優れた低層マンションの減築や2区分統合による占有面積拡大などで、中古住宅の需給のミスマッチを埋め、品質を高めることで、新たな需要を掘り起こす余地は大きく、特に減築や区分統合は総戸数の減少で需給を引き締めますから、結果的に新築需要を押し上げる効果もあるのですが、デベロッパーや住宅メーカーの関心は、都心再開発による高層タワーマンションや長寿命住宅やソーラーハウスなど新築に偏っており、需給の悪化は避けられない状況です。
一部には上海など中国の不動産価格の高騰で中国人富裕層による日本のマンションへの投資熱が報じられ業界は期待しているようですが、実は中国富裕層の目から見ても日本の住宅の小ささは異常に写っているようです。マンション業者に引き合いは来ているものの、成約には至らないということで、円高の影響も指摘されてますが、中国人目から見ても日本の住宅は貧弱に見えるということで、住宅ストックの質の向上はこの点からも必要です。
例えば現在でも低層住宅の多い中央区月島地区で大規模再開発が計画されておりますが、完成時点で居住人口が拡大したときに何が起こるかは慎重に考えるべきでしょう。お隣の勝どき駅周辺は、駅勢県内の晴海地区も含めて再開発が集中した結果、平日朝は毎日駅の入場制限が行われる事態を招いております。小断面リニア地下鉄が災いして、輸送能力の限界を迎えてしまったのです。結果都心に程近い好立地なのに電車に乗るのに待ち時間が発生する結果、都心のオフィス街へは自転車が最速という笑えない状況になってしまいました。
月島の場合は有楽町線の輸送力が頼みとなりますので、勝どきの悲劇はないでしょうけど、逆に大枚はたいて勝どきにマンションを買った人たちにとっては、利便性の差から物件価格の下落を心配する必要があります。つまり身を切って安値で売って損切りするか、不便を承知で住み続けるかの究極の二択を迫られるわけです。こうして国民の住宅購買力は食い物にされるんですね(涙)。
より深刻なのがオフィス不況です。クラウド化によって大規模サーバールームが海外のデータセンターへ代替される流れの中で、オフィス供給は増え続けており、リーマンショック後のオフィスリストラの影響も続く底なし状態であることは既に取り上げましたが、企業がユーザーとなるオフィスに関しては、家計の購買力から逆算される所謂値ごろ感とは無縁で、安ければ安いほど歓迎されます。ゆえに需給が軟化すれば賃料が下落し、収益還元価格として算出される資産評価を下げる結果となります。
となればますます都心のタワーマンション開発に重心が移ると考えられます。東北縦貫線開業で用途廃止となる品川の操車場跡地開発のような大型案件が残っている状況ですから、既存オフィスのコンバージョン(用途変更)も含めて、都心のマンション供給も高水準を維持しそうです。しかし買う人がいない、住む人がいないとなれば、結局マクロに見ても値崩れは避けられず、住宅を購入する人は、ローンの負担を抱えて資産を目減りさせることになります。アメリカでは住宅ローンといえばノンリコースローン(非遡及型融資)で担保差し押さえ後に債務が残らないのに対し、日本ではリコースローンで家を失い債務も追いかけてくる地獄のような話になります。タダでさえ賃金上昇が見込めず雇用も不安定な中、住宅ローンの貸し倒れ率は10%を超えております。ローンを組んだ10人に1人は破綻するということです。
さてどうするかですが、結局勝どきの悲劇に見るように大都市の再開発で集積度を高める政策にそもそも無理があるのであって、しかも今後都心マンションの購入層は購買力のある高齢富裕層に限られるとなると、集積度が上がっても生産には寄与せず都市の活力を高めないということになります。高齢者の集積に唯一意義があるとすれば、高齢者の所在確認が容易になり、行政や介護サービスの生産性が上がるということはありますが、行政サービスや介護サービスを供給する若年世代が住めないならば効果は限られます。
基本的には大都市の集積度を下げてでも地方の定住人口を増やすことを考えるしかないと思います。人口減少はつまるところ土地の需要を下げますが、逆に言えば資源として土地を必要とする産業にとってはチャンスでもあります。例えば農業であり林業であるわけですが、従来規制に守られて競争力を持たず、また技術革新で労働生産性が上昇したこともあり、雇用を生み出すのは難しいところはあります。農業も林業もそれを核とした食品加工や木工加工などの関連産業の育成とセットで考える必要があります。
逆に高齢者層のセカンドライフ住宅として地方都市を考えれば、別のものが見えてきます。必ずしも農地付き別荘でなくても、例えば富山市の富山ライトレール沿線のように、戸建て住宅を中心とした落ち着いた住宅が集積で、LRTで通院や買い物が不自由なく行えるまちづくりということですね。所謂コンパクトシティというやつですが、地方都市ならば戸建てでも大都市圏より低価格で購入可能ですし、また行政サービスや介護サービスの担い手たる若年世代にも住みやすいといったまちづくりが可能ならば、今後団塊世代の大量退職で生じる年金富裕層を呼び込むことで高齢者関連サービスで雇用が生まれるという好循環も可能です。問題はそれをどう後押しするかです。
実際北海道伊達市では市役所に移住係を置いて積極的に高齢者誘致を行っております。北海道としては比較的温暖な気候で積雪もないなど有利な条件はあるものの、アクセスの交通手段はほぼJR室蘭本線だけで、空港も遠く高速道路も未開通だけど、移住希望者は多いようです。高齢者に合わせて段差のないまちづくりにも留意しており、結果的に住みやすさが人を呼び込み、過疎地には珍しく人口増となっております。
このように結局は地域の特性を活かした取り組み以外に出口はないのですが、この観点から言えば、需要地の市場へのアクセスを改善する高速道路無料化は、かなりの後押しとなると期待されます。バスも来ない最果ての過疎地に住んでみろと言われても、イザというときの移動手段が確保されているかどうかは重要です。だからといって全国に100誓い民間空港を整備して需要を散逸させたり、時間も費用もかかる整備新幹線の建設を行う余裕はないわけです。
しかし特に地方で利用率の低い高速道路に注目すれば、並行一般道は市街地のボトルネックで渋滞を引き起こし、、バイパス整備の必要に迫られていたりします。それならバイパス整備の費用を高速道路無料開放の原資とすれば、無駄な道路工事を省け、しかも工事の完成を待たずに成果が得られるわけですね。地方自治体にとっても、直轄事業となる国道のバイパス整備で事業費の2/3の負担がなくなる分、地方単独のアクセス道路整備や、高速道路直結の地域特産品を扱う道の駅設置などで、農業など1次産業の複合産業化が図れます。この結果雇用が生まれれば、地方の定住人口が増加する分、大都市圏の過密が緩和され、タイトルにある満員電車とウサギ小屋解消が現実味を帯びます。JRに文句を言われたぐらいで後退させるべきではありません。
というわけで、日本のエネルギー消費が少ないのは満員電車とウサギ小屋のおかげかもしれないけれど、同時に単身世帯が増えて家電品が増えた結果、エネルギー消費量を増やしているのですが、高速道路無料化で首都圏の通勤ラッシュが緩和され、住宅の居住環境が改善されるならば高速道路無料化は大いなる可能性を秘めているといえます。
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