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Sunday, September 19, 2010

アキカンのモダンタイムズ

ヘーゲルは「世界史上の大事件や大人物は2度現れる」と述べ、それを受けて「1度目は悲劇として、2度目は笑劇としてと付け加えるのを忘れた」とマルクスが述べたのは有名ですが、21世紀の日本でそれが実現するとは思いもよりませんでしたが。

民主党代表選の翌日、唐突に行われた日本の為替介入は、もう笑うしかありません。以前にも指摘いたしましたが、小泉政権時代の2003-2004年にかけての35兆円と言われる大規模介入によって、100円台から120円台への円安誘導を行ったことが、輸出企業に一息つかせ、輸出頼みの成長路線をひた走った日本ですが、野党時代に批判して止まなかった小泉改革と同じことをしていることに思いを致さないのでしょうか。

しかも当時の大介入と同様に、日銀が供給した介入資金を国債の一種である政府短期債券を発行して吸収する不胎化を行わず、市場へ放置して金融緩和を後押しする非不胎化という手法まで同じです。何のことはない、財務官僚が黒子として動いたってことです。それを野田財務相がわざわざ緊急記者会見で発表して見せて政治主導を演出するあざとさは、お笑い種です。前日まで代表選でそれどころじゃなかったのにね。

加えて外為特会の肥大化は財務官僚の仕事を増やしますので、官僚からみればしてやったり。非不胎化はつまるところ短期債券の代わりに日本銀行券を発行することでもありますから、いずれ短期債券発行で日銀券を吸収することになり隠れ借金と同じです。また日銀法改正で独立性が高まった日銀に対して政府が金融緩和を強要できる唯一の手段でもあり、結局のところ自民党時代の政治家による圧力発言と同じ悪質な介入とも取れます。加えて悪名高い霞ヶ関埋蔵金が増えて官僚のタンス預金が増え、しかもドル建て資産で売るに売れないから、取り崩しは結局短期債券発行で代替され、税外収入として予算編成に影響しますが、その金額を毎年度内閣が財務省にお伺いを立てるという倒錯した話です。これで政治主導?

しかも前のエントリーで指摘したように、GDP改定値の傾向から見える日本経済の強さや、日米のインフレ率の差の蓄積による実質実効レートで円は割安であることも指摘しており、客観情勢として単独介入が必要な状況にはありません。小泉改革は時代の変化に対応できなかった自民党の悲劇ですが、追随する民主党のそれは笑劇でしかありません。

敢えて言えば企業の9月中間決算を控え、想定レート90円台で輸出で稼いだドルを円に換えることを躊躇っていた中で進行した円高を抑え込むことで、決算をやりやすくする効果はあるでしょう。実際政府の介入を受けてドル売り円買いに動いた企業は多数に上ります。結局政府ぐるみの粉飾決算幇助であり、輸出補助金でしかないということです。しかもそのほとんどは輸出企業の内部留保に消え、下請け企業には行き渡りません。せいぜい仕事を切られるのが少し伸びるだけです。

現時点では様子見で小動きですが、国際収支の黒字拡大で円高要因は消えておりませんから、早晩介入の効果は剥落し、再度円高局面となることは間違いありません。せいぜい守って半月でしょうけど、企業の粉飾決算幇助ならそれで十分ではあります。問題は海外の反応です。

予想されたことですが、欧米の政府筋は公式には沈黙しております。代表選で菅首相が「ネガティブなことを言うなとは言っている」と暗に根回しを示唆しましたが、それ以前に欧米政府は日本円の為替水準に興味はなく注意を払っておりません。

アメリカでは人民元問題こそ本命であり、日本は既に視界の外。それでも人民元問題を扱う公聴会で「為替操作国は中国だけではない」と日本に矛先が向かいます。オバマ政権は輸出倍増で雇用創出を狙っており、80年代のプラザ合意直前の日本に対峙するように中国に対峙しようとしてます。赤字国であるアメリカにとって輸出増は当然の政策課題ですが、それすら日本では「アメリカがドル安容認しているから日本も為替介入すべき」となりますが、アメリカは為替介入は実施しておりませんので、客観的におかしな議論です。むしろ米政府はプラザ合意を受け入れた日本に後押しを期待していたでしょうから、内心裏切られたと思っているのが本音でしょう。

欧州は関税同盟、通貨同盟で域内市場の安定化を最優先としており、例えばドイツでGDPの40%が輸出と言われますが、半分以上は域内貿易ですから、そもそも為替への関心は低いのですが、ギリシャショックの影響でユーロ安となったことで、黒字国のドイツなどは恩恵を受けております・

中国も公式には論評しておりませんが、中国メディアが盛んに報道しており、明らかにアメリカの人民元切り上げ圧力をかわす口実になると考えているでしょう。加えてアメリカが嫌う元売りドル買いの代わりに、減価の心配が低い日本円を外貨準備に組み込むことで圧力をかわせます。実際中国の日本国債購入が増えており、円高要因の一部と見られております。逆に当面の財政赤字は中国が支えてくれるとなれば、日本政府が財政再建を急ぐ理由も希薄になります。

一番強く反応したのはおそらくブラジルでしょう。日本の介入を非難すると共に、これを口実に堂々と為替介入して先進国のけん制を跳ね除けようとする姿勢を見せており、ある意味正直な本音です。80年前の大恐慌の直後、今回のリーマンショックのように主要国は当初財政出動で足並みをそろえていたものの、アメリカが緊急対応の出口政策で赤字を縮小させると、各国それに追随して国内景気を冷やし、それを輸出で穴埋めしようとして通貨切り下げ競争になって国際貿易が縮小に向かったのは知られております。ブラジルの本音はそれを表すと共に、通貨切り下げ競争は近隣窮乏化路線でもあり国際関係がギクシャクする原因にもなります。事実大恐慌後の通貨切り下げ局面で主要国同士の摩擦が拡大し、世界大戦への道へ進むのですが、日本の今回の対応はその再現の可能性すらあります。平和国家が笑わせます。

という具合に、冷戦終結後の多極化世界を睨んだポストモダンな対応の欧米とモダン(近代)に目覚めた新興国の狭間で、日本の立ち位置の危うさが目立ちます。既にトヨタのライバルはGMよりヒュンダイですし、ソニーのライバルはGEよりサムスンという世界で、円/ドルレートばかり見ている日本の停滞はやむなしでしょう。思えば冷戦下の70-80年代は米ソ揃って停滞期でしたし、イギリスに至っては戦後40年にわたる停滞期を経験しましたが、それを乗り越えて今では1人当たりGDPで日本を凌駕しております。日本も道を間違えなければ将来再浮上は可能ですが、こんなことやってればそれは遠のきます。

そういう意味で菅政権の今後には多くを期待できないんですが、救いは片山元鳥取県知事の総務省就任と馬渕国交副大臣の国交相昇格でしょうか。元官僚で官僚の性癖を精通する片山氏には、ぜひ鳩山政権の宿題である地域主権改革を進めて欲しいところです。また民間企業経営者の経歴を持つ馬淵氏はおそらく実務家としては前原氏より上でしょう。ましてJRからのいちゃもんで高速道路無料化の熱意を失った鉄ちゃんで子ども大臣(笑)の前原氏よりも、高速道路無料化の実務を取り仕切ってきただけに期待できます。全面無料化の目標を降ろさない姿勢を就任会見でも明らかにしております。今年は羽田の国際化や成田の滑走路延長、JALの再建など課題も多いだけに、、活躍を期待したいと思います。

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Comments

1つリクエスト。誰が何を言ったとか民主党がどうとかという話ではなく、高速道路無料化について走ルンですさんの考えをまとめた記事を書いていただけませんか?

よくThere is no free lunchって言いますけど、結局無料化といっても、高速道路の建設費や維持費を通行料金で賄うか税金で賄うかの違いだと思います。
もちろん、それによって地域振興や物流コストを下げるといった効果があるかもしれません。他の交通機関への影響は交通基本法の整備などで、ある程度カバーできるでしょう。
そこら辺をまとめて記事にしていただければと思います。

あと、これは仮定の話ですが、もし新幹線の無料化あるいは鉄道全体を無料化したらどうなると思いますか?
鉄道は民間企業なので現実には無理ですが、可能だとしたら遠距離通勤者が増えて都市の人口密度緩和やCO2削減につながるのではないかと思います。高速道路と比較して他の交通機関を無料化するとどうなるのか気になります。

Posted by: yamanotesen | Monday, September 20, 2010 at 10:47 PM

yamanotesenさんが何に疑問を持たれているのかわかりませんが、現実に存在する高速道路債務を通行料で償還するか国債で償還するかと考えれば本質はシンプルです。

高速道路債務を高速道路利用者だけが負担することで、特に最近開通した地方の高速道路がほとんど利用されておらず、一方並行する一般道は渋滞してバイパス工事が行われる状況ならば、国債を発行してバイパス工事に充てる代わりに高速道路債務の償還に国債を充てると考えてみてください。

既に存在する高速道路を無料開放することで、無駄な道路工事がなくせるのですから、行政の無駄が省けます。また通行料で償還する現状では、財投機関である保有機構が機関債若しくは政府保証付の財投債を発行して資金調達しており、一般の国債より信用度が劣るため、リスクプレミアムと称する上乗せ金利を負担しておりますから、結果的に余分な金利負担が生じているわけですが、それを国債で借り替えれば負担減になる道理です。

加えて保有機構が債務を管理する現状では、元本の減少に応じて新規着工して元本を増やすことが可能ですから、新規着工区間が単独で採算に乗らなくても実現してしまうという問題があります。更に従来高速道路整備には充てられなかった道路財源を新直轄方式として投入できる仕組みまで組み込まれ、事実上いくらでも新規着工が可能な仕組みになっております。

こういったインチキは早く止めるべきでしょう。民主党政権にとっては正念場です。

鉄道に関しても、必要ならば公的補助金で運賃負担するkとは大いに考えられます。事実欧米のLRTは収益に占める補助金の比率は5割を超えるのが普通です。問題はそれを納税者が理解してくれるかどうかですが、ストラスブールなどでは地方行政による地道な説得紙を結んで事業化されております。要は補助金の支出が公共の便益を高めるかどうかであり、不十分ながら日本でも北総線の高すぎる運賃自治体が一部負担するような事例が出てきております。無料化も納税者が納得すれば可能性としてありえます。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, September 21, 2010 at 09:43 PM

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