リニアのルートは決まっても
リニアネタです^_^;。最初に誤解がないように申し上げておきますが、私はリニア反対派と認識されているようですが、違います。「リニアは作るな」ではなく「できない」と申し上げているんです。理由はビジネス利用が今後数十年、減少するからです。
サイドバーのデフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21) [新書] をお読みいただければわかりますが、日本が2千年に1度の人口変動で高齢化が進み、現役世代である生産年齢人口の減少により内需が縮小した結果の長期停滞局面にあることは、当ブログでも取り上げましたが、国勢調査や消費税課税関連で税務署が把握する小売り売上高などの公開された実数データで説明されていて説得力があります。ぜひご一読を。
国交相の諮問機関の交通政策審議会中央新幹線小委は13日、リニア中央新幹線のルートを20日に公表することを決め、経済効果が高い直線ルートを事実上の結論とするものと見られます。
時事ドットコム:リニア新幹線、「直線」で決着へ=近く3ルートの調査結果公表-国交省審議会ルート選定に関しては長野県が諏訪地区を経由する伊那谷ルートを推奨しJR東海と対立しておりましたが、民間単独事業でJR東海が進める事業だけに、国としては妥当な判断ではあります。
少し整理しておきますが、JR東海の単独事業であるリニア中央新幹線に国が関与する理由ですが、全国新幹線網整備法という法律で、時速200km以上の高速度で運行する鉄道として国が整備して運行するものとして新幹線が定義されており、国鉄時代ならば国イコール国鉄で良かったものが、分割民営化で国鉄が解体されたことにより、事業主体はJR旅客会社が継承したものの、整備は国が関与することになり、一連の行政手続きが定められていることによります。ネット上ではこのことを理解していない意見が散見されますが、JR東海の純民間事業であっても、ルート選定や技術評価、環境アセスメント、採算性評価などは国の行政手続きとして行うと規定されたもので、別に国がJR東海の邪魔をしているわけではありません。
ルート選定は基本計画線である中央新幹線を整備計画線に昇格させるための行政手続きの一部であり、この段階の事業費は概算で技術評価の性格が強いものと押さえておきましょう。環境アセスや採算性など他の項目がクリアされて整備計画線になったところで、工事実施計画の策定がJR東海に命令されます。「命令」はあくまでも法律用語ですので念のため。そして今度は用地の特定や工事期間や工法などの詳細な計画が策定され、基準をクリアしたと国が認定してやっと着工となるわけで、今回ルートが決まったからといっても、まだまだ先は長いわけです。
気になるのは概算の事業費が5.43兆円としてますが、中央リニア5.1兆円の記事の段階よりも微増となっており、具体化するごとに事業費が膨らんでいくのは仕方ないところではあります。実際東海道新幹線も当初より事業費が1,300億円も超過し、生みの親である十河信二総裁更迭の口実にされました。とはいえ東海道新幹線は計画段階で仮に事業費が2倍に膨らみ収益が半分でも採算性に問題なしとして着手されたわけで、この辺の事情がリニアとは大違いなんです。
前出記事で指摘したように、1992年10月にJRがリースしていた新幹線資産を国から買い取った代金のJR東海分が5.1兆円で、内4.5兆円が2017年度で償還終了となり、返済金分のキャッシュフローが浮くわけで、そのタイミングで事業着手して2027年開業というのが、JR東海の胸算用なんですが、これはあくまでも現状の収益を維持する前提での話ですから、前掲書で指摘する就業者人口の減少は、とりもなおさず東海道新幹線のビジネス客も減少することを意味します。2017年までに利用客の前年割れが連続する事態が生じれば、資金計画に狂いが生じるわけです。
また全日空が格安航空会社(LCC)参入を表明し、国内線にも就航する計画ですから、例えば成田―関空間で5,000円のフライトであれば、アクセスにN'EXとはるかを奢っても、のぞみより安く大阪へ行けるわけですから、成田の発着枠増加と相まって、リニアの事業着手を待たずに新幹線もディスカウントで対抗せざるを得なくなり、リニア建設資金を減らすことになります。つまり事業着手できないか、できたとしても死ぬほど後悔することになるわけです。だからリニアは「できない」んです。
そもそも民間航空は時間を買う必要性の強いビジネス利用に支えられてきましたし、新幹線も事情は同じです。だから鉄道の場合所要3時間で航空と対等という法則が日本のみならず高速化が進む欧州でも当てはまります。
しかしLCCの出現は従来航空を利用しなかった非ビジネス客を掘り起こし、航空需要を底上げしました。利用客には時間を買う感覚はなく、遠くて不便な空港でも安ければ都合をつけて利用するわけです。その結果民間航空は大競争時代に突入し、既存キャリアもマイレージや早割や特割など空席を埋めるためのディスカウントが日常化して経営悪化が止まらない状況になりました。再建中のJALはかくして追い込まれたわけです。
ということは、JR各社の中で収益性断トツのJR東海がJALのようになるということを意味します。ビジネス利用が減っても運行本数を削減するなどサービス低下を伴う対策はとれませんから、結局ディスカウントチケットで空席を埋めるしかありません。鉄道資産の固定費負担の高さが仇となるわけです。この状況で設備増強は結局「デフレのわな」に陥るしかないことになります。
というわけで、リニアは山梨実験線を有効利用して橋本―新甲府間で日銭を稼いで当面を凌ぐ方が良いでしょう。そうすれば100km程度の中距離超高速ピープルムーバーとして海外から引き合いが来るでしょうから、それで実績を積み量産効果でコストダウンしてから、半世紀後か1世紀後かわかりませんが、機が熟してから再度着手しても遅くはないのではないでしょうか。
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Comments
日本が人口減少社会を迎える中で、JR東海単独でリニアを建設・維持するのは難しいのはわかります。
ただ、だからといってリニアを永遠の「夢の超特急」で終わらせるのはもったいないと思うんですよね。
たとえLCCが日本で台頭したとしても、速達性ではリニアが優位なのは間違いありません。東京~大阪をたった1時間で結ぶことによる影響は(外部経済も含めて)かなり大きいと思います。またリニア開業後の東海道新幹線の活用も期待できます。
少なくとも建設費がリニアとほぼ同額の第二東名より夢があって良いと思うんですが、国の対応(自民党時代を含めて)が冷ややかなのが気になります。費用対効果を抜きにしても、整備新幹線や高速道路の整備より、同じ公共事業でも国民の納得を得られやすいと思うんですけどね。
Posted by: yamanotesen | Sunday, October 17, 2010 12:26 AM
あのー、ビジネス客の減少は、つまるところ時間を買うニーズが弱くなるんですから、リニア建設で需要は誘発されないということなんですが、お分かりになりませんか。
需要>供給ならば新規需要が誘発されますが、需要<供給ならば誘発はなく、むしろ稼働率低下で値引きを余儀なくされます。これが「デフレのわな」であって、リニア建設はそれにはまることになります。JALの二の舞になるわけですね。
政府が冷ややかなのは、1つには整備新幹線との関係もあります。元々予算不足で重点配分されている整備新幹線予算の決まりごとを無視してリニアに補助金を出せば、整備新幹線の開業を待つ地域から反発が出て収拾がつかなくなるので、動きようがないんです。
また菅首相がオープンスカイ政策に羽田と成田を組み込むと踏み込んだように、航空行政も自由化にシフトするとなれば、リニアだけ特別扱いはできません。それこそ伊丹空港の廃港と引き換えというような話になります。
公共投資の世界標準であるイコールフッティングの考え方ですが、現実に存在する作りすぎた民間空港の活用とセットで考えざるを得ないわけで、この面からも政府の支援は無理な話です。
Posted by: 走ルンです | Sunday, October 17, 2010 05:03 PM
確かにビジネス需要の伸びは厳しいですね。
でも鉄道は飛行機とは違って「大風」で欠航はない、その辺の「安定性」を上手く活用できませんかね。
たとえば「救急輸送」、最先端の医療機関を東京に置けば(すでにあるが)中部の人々が通うこともありますね。
確かにそれは大幅な需要とは言い難いですが、鉄道で東京名古屋40分は大きい、このメリットは建設費を度外視しても持つ価値はあると感じます。
その赤は誰が、それはとりも直さず国民なんですが、夢がなくなった日本でリニアの夢を追いかけるというのもあって良いじゃないですか、フリーゲージトレインや鉄路新幹線に期待するのもなんだか志が低いように思います。
JR東海がやるのが気に食わないというのであればリニアは国営でも良いかもしれません。仙台にこのところ行く機会が多いですができれば30分でついてくれるとすごく助かります。リニアが仙台にも延びてくれればとさえ感じます。
Posted by: SATO | Sunday, October 17, 2010 11:37 PM
いえ、ビジネス需要は伸びないんではなくて減るんです。90年代半ば以来東海道新幹線の輸送量は横ばいが続き、以前にも指摘したように、その間のぞみ運転開始から増発、品川駅開業で大増発と料金見直しまでして横ばいですから、努力はしているのに伸びないんです。
今後はスピードアップも増発も打ち止めですから、旅客の減少は直に始まります。リニア事業着手が予想される2017年ごろにはかなりはっきり減少傾向が出ていると考えられます。
別にリニアを諦めろとは申し上げてはおりません。日銭稼ぎは部分開業に留まらず、超伝導技術を活かした省エネ送電線で時差を利用して国境を越えてピーク電力を融通し合う国際スマートグリッドとか、同期モーターの回転子を超伝導コイルとした超伝導モーターなど、派生技術でそれはそれで夢のある展開は可能ですし、そうやって技術をつないで時を待つのも経営判断として必要なんじゃないでしょうか。
Posted by: 走ルンです | Monday, October 18, 2010 09:04 PM
いつも楽しく拝見しています。
前にもコメントさせていただいたのですが、
走ルンですさんの「リニア橋本―新甲府シャトルプラン」にとても納得します。
それこそ東海の大好きな"走り込み"としてはうってつけですし。
ただ、思い返してみると、山梨実験線があったとはいえ
最初の着工区間こそ、名古屋大阪間だったら
違っていただろうに・・・と思わなくはありません。
日本の中で100km前後離れた都市同士というと微妙で、7大都市圏の中でも
決定的な移動効果を生み出すほどの都市同士が見当たりません。
名古屋大阪間がもし20分未満で移動できたとしたら、
(近鉄の経営がかなり心配ではありますが)
他の都市間とは別格のかなりインパクトのある商品にできた気がしますし、
海外へのプロモーション効果も高かった気がします。
余談になりますが、名古屋大阪のシャトルが前提ならば
それこそ伊丹、神戸どころか中部すらもなくして
関西空港にリソースを集中することも現実的だったかも知れません。
Posted by: ポポロ | Thursday, October 21, 2010 07:18 PM
そういえばJR貨物のM250系の昼間の走り込みがありました。おかげで地味な貨物がブルーリボン賞受賞ですから、貨物は東海に感謝ですね^_^;
山梨実験線は金丸信の政治力で実現したものと言われますが、三重県あたりに有力政治家がいれば違ったのかもしれませんね。
成田空港も羽田拡張に傾いた流れを千葉県に引き戻す政治力でいわゆる「深夜の密議」があったとかなかったとか。過去のインフラ投資はかくも不透明で不合理な意思決定が繰り返された結果、身動きが取れなくなった感じですね。
とはいえ山梨リニアに車窓に富士山がありますから、外国人観光客相手の観光鉄道としての売り出しも可能なんで(笑)、案外イケるかも^_^;。東海道新幹線もビジネス客が減ったらその手で活性化はアリでしょう。
Posted by: 走ルンです | Thursday, October 21, 2010 10:43 PM
今更コメント失礼します。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20101125-OYT1T00051.htm
現実は、走ルンですさん提案の
「橋本―新甲府シャトルプラン」はおろか
「観光ビジネスプラン」すらも採用されそうです(^^;
今後は切り売りが焦点になりそうですね。
「小銭を貯めて大阪へ行こう!」がキーワードです。
Posted by: ポポロ | Thursday, November 25, 2010 01:08 AM
とりあえずは実験線での有償試乗ということですね。JR東海も日銭は欲しいのですね。
あとシュワルツネッガー知事が東北新幹線で試乗したように、アメリカへ売り込むのに現物が欲しいというのも切実なんでしょう。資料だけでプレゼンしても弱いですしね。
まずは手の届く目標をというのは、民間企業としては妥当な判断です。
Posted by: 走ルンです | Thursday, November 25, 2010 09:35 PM