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Saturday, December 25, 2010

集めればカードが立つ1Cカード乗車券と電子マネー

2007年、電子マネー元年と言われましたが、その後交通系、通信系、流通系と百花繚乱。複数のカードを収める財布は厚くなるばかり。そんな皮肉を込めたタイトルです。サイドバーのフェリカの真実を読んだ上で、このニュースをどう読むか、そんな話です。

1枚あればOK…IC乗車券10種、相互利用へ : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
とはいえこのニュース自体、一部のメディアにのみ掲載されている状況でして、勘の良い人ならばとなりのメトロのTBSニュースがガセだったことを思い出されるのではないでしょうか。もちろんその後東京の地下鉄一元化の議論がスタートしたわけですが、TBS報道のニュアンスからは大幅後退しております。言うまでもなく東京都関係者のリークを裏も取らずに流したTBSの勇み足だったわけで、今回もそれに似ています。

ICカード乗車券の共通化は乗客の要望も強いようですし、検討開始はするんでしょうけど、どうも世論喚起の観測気球ではないかと思います。共通化自体は望ましいことですから、こうして情報が明らかになれば、とりあえず前へ進む力学が働くわけですね。

読売の記事中にある相互利用状況をまとめた図にあるように、JR各社はJR東日本のSuicaとの共通化はされてますが、例えばKitacaとSUGOCAなどは共通化されておりませんし、首都圏はSuicaとPASMOで幅広くカバーされ、近畿圏のICOCAとPiTaPa、福岡都市圏のSUGOCAとnimocaとはやかけんはそれぞれ共通化されているものの、共通化されているSuicaとnimocaを除く地域の異なるJR系と私鉄系のカード、あるいは私鉄系カード同士は共通化されていないなどの問題があり、特に後発のカードほど利便性が制限される一方、導入コストは高くなるわけで、先発のSuicaが一人勝ち状態にあります。

もう一つややこしいのは、スルッとKANSAI陣営が導入したPiTaPaがポストペイ式で事実上の簡易クレジットカードとなるため、事前審査が煩雑で発行枚数が伸びていないということもあり、京阪電気鉄道のように独自にICOCAに相乗りしてICOCA-Kカードというプリペイド型カードを発行するとか、広域に路線網を持つ近鉄では青山町以西限定だったりなどして足並みが乱れております。

プリペイド型ICカード乗車券は、基本的に日本鉄道サイバネティクス協議会という組織で共通化フォーマットの検討がされていて、特に磁気式ストアードフェアカードの共通化に失敗していただけに、当初から共通化はテーマだったのですが、各社の思惑が一致せず、現行のような状態になってしまいました。

ただしフォーマットは共通で、且つ同じソニーのフェリカシステムを採用してますから、共通化自体は可能なのが救いですが、それを阻む複雑な事情があります。

ちとややこしいんですが、基本的にフェリカシステムを用いたSuicaのシステムは、香港のオクトパスカードのそれをほぼ移植し、前記サイバネ協議会のフォーマットを反映させたものですが、1人のソニーの技術者の機転でメモリーを共通領域と専用領域に分け、前者に電子マネー、後者に乗車券システムなどのサイバネ規格を搭載し、両者を統合する管理レイヤーを置いたのですが、この意味はソニー首脳陣には理解されませんでした。

その一方でドル、ユーロ、円に代わる第4の通貨として電子マネーのEdyプロジェクトが始動しますが、詳しい経緯は省きますが、Edyを普及させフェリカビジネスを軌道に乗せたいと考えたソニーの開発担当者はEdyをフェリカのメモリーの共通領域に置き、専用領域にアプリケーションを置くことで、交通系に限らず銀行やクレジットカード会社や小売業など多くの事業会社の協力を得て普及させようと考えていたのですが、そんな折にJR東日本からSuicaへのEdy搭載の打診がありました。

少し解説しますと、元々Suicaの原型であるオクトパスカードでは乗車券カード機能の他に電子マネー機能も持っており、システム上はSuica単独で電子マネー事業は可能なんですが、小売店への端末設置など単独でできるはずもなく、Edy事業に相乗りしてwin-winの関係を築こうとしたわけです。

当然ソニーにとっても渡りに船の申し出だったのですが、あいにく当時の幹部の判断はEdy事業を打ち出の小槌と勘違いして単独でやることに拘り、JR東日本の申し出を断ってしまいます。結果EdyとSuicaは電子マネーとしてライバル関係となり、加盟店開拓でしのぎを削るのみならず、小売店のレジ脇にタッチセンサーが乱立することになってしまいました。

あげくに携帯電話へのフェリカチップ搭載を睨んでNTTドコモとの合弁(ソニー60%ドコモ40%)のフェリカネットワークスという会社を立ち上げるのですが、その結果奇妙なことが起こります。所謂おさいふケータイですが、1通信キャリアに過ぎないNTTドコモとの合弁により、他のキャリアへ端末を供給する際にも、ドコモの資本が入るフェリカネットワークスにロイヤリティの支払いが発生してしまうという事態となります。

また技術開発の都合上メモリーの管理レイヤーの権限をフェリカネットワークスに移してしまったため、ソニー子飼いのEdyにまでフェリカネットワークスへの手数料支払いが発生し、ただでさえ加盟店へのタッチセンサー設置などの投資負担がきついのに、決済額の3%程度しかない手数料収入の半分を掠め取られてしまう事態となり、Edyを展開するビットワレット社は楽天の出資を受け入れる形で事実上の身売りをする羽目となります。

おかげでドコモは他社キャリアとの差別化で大いに潤ったのですが、一方でフェリカチップ搭載端末は日本国内向けにほぼ限定され、i-Phoneなどのスマートフォンが普及する中、所謂ガラパゴス化を助長する結果となりました。特定キャリアの色がついた技術を世界の端末メーカーが採用しにくいのは当然で、ソニーの視点では「技術で勝ってビジネスで失敗」という上記参考図書の副題が実現してしまったわけです。ソニーにとってのミッドウエー海戦です。

というわけで、読売の記事では明記されておりませんが、交通系カードの共通化には、乗車券カードとしての共通化の他に、電子マネーとしての共通化問題も隠れております。また乗車券カードとしても、おさいふケータイ対応のモバイルSuicaやJR東海のEX-ICなどのサービスが、乗客を新幹線利用へ誘導する手段として使われるなど、電子マネー本来の汎用性とは逆の方向へ向かっており、混乱した状態にあります。

その意味でSuicaにEdyを搭載するというJR東日本の申し出をソニーが断ったのが痛いところです。実現していればEdyの普及が加速し、後発の交通系カードとの提携は純粋に乗車券部分だけの話になりますから、話はシンプルだったわけです。また電子マネー機能をEdyに依存することで、コストを抑制し事業者の参入障壁を低下させることもできたでしょう。

またフェリカが非接触ICカードとして国際規格であるISO規格を取得できなかったことも、不運ではありますが、フェリカビジネスの国際展開を阻みます。オクトパスカードでは乗車券や電子マネーなどのアプリケーション込みでの入札でしたし、WTO規制対象となるJR東日本のICカード乗車券の入札では、磁気利用のニア・フィールド・コミュニケーション(NFC)という通信規格としてISO認証を受けることでクリアするという苦肉の策となりました。だからといって国際展開がラクラク可能というわけではありません。

その意味ではオクトパスカードで香港に足場を築いたのは大きなアドバンスではあります。既に東アジア地域の交通系乗車券カードの共通化は国も模索しているようです。となると一部メディアへリークしたのは関係省庁の官僚である可能性が高いといえます。世界ではウィキリークスによる米外交公電漏出が問題視されてますが、既存メディアを利用した情報リークも実は結構頻繁に起きているのです。逆にそうやって易々と利用されてしまう既存メディアの自覚のなさの方が問題ありですね。

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