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Saturday, February 12, 2011

トヨタリコール問題終息に見るお寒いグローバルガバナンス

ムバラク大統領が辞任し、軍による執権体制移行となったエジプトですが、民主化ドミノが遂に中東アラブ諸国へ波及したものとして歴史を刻みます。

「エジプトは自由だ」 デモ参加者歓喜、広場に花火  :日本経済新聞
論点はいろいろありますが、今回はSNSのフェースブックが大きな役割を果たしたようで、新しいメディアが存在感を増す現実を見せ付けました。フランスのサルコジ大統領は早くからムバラク大統領に辞任を迫り、アメリカのオバマ大統領も、平和裏の政権移行を強く示唆するなど、外交的な動きを強めた中で、我がアキカン宰相は去年秋のロシアのメドベージェフ大統領の国後訪問を今さら「許しがたい暴挙」と述べてロシア外交筋の態度を硬化させるなど、相変わらずトンチンカンな対応ばかり。メディアも民主化の産油国への飛び火を「心配」する論調が目立つなど、どこ見てるんだかという感じです。

今回の問題は基本的に中東の天安門事件です。背景には経済問題が隠れております。観光立国のエジプトですが、9.11以降の観光客減少で窮地に会った中で、外資導入による産業化を進めたものの、経済成長が人口増加をもたらして若年層の雇用問題を引き起こし、また自らの経済成長に伴う資源需要の増加は、資源価格を押し上げますから、国内経済の成熟度が低い途上国では悪性インフレを引き起こすわけです。

その結果、チュニジアで起きた若者の焼身自殺をきっかけとする騒乱が独裁政権を追い込み、その熱狂がエジプトにも波及したわけで、一連の民主化ドミノはまだまだ続きそうです。またこうした多くの国で国民が国内政治への意識を高めることは、結果的に逃げ場の無い恨みから出るテロの芽を摘むことでもあり、歓迎すべきことです。

古くはフランス革命がアメリカの独立運動を刺激しましたし、もっと面白いのはハイチ革命でして、フランスの統治下プランテーションで強制労働を強いられていた黒人奴隷たちが、本国の革命の報に接して、その熱狂を引き継ぐように起きた独立運動だったのですが、テルミドールの反乱で政権を掌握したナポレオンは、奴隷の暴動を鎮めるために軍隊を派遣します。そして反乱奴隷たちと対峙したナポレオン軍は、奴隷たちが歌を口ずさむのを聞いたんですが、それがラ・マルセイエーズだったということで戦意喪失し、ハイチの独立は果たされました。

しかし元々貧しいイ農業国だったハイチはその後世界から忘れ去られ、政権を掌握した有力者とのコネクションが支配する閉鎖的なヒエラルキー社会となり、賄賂の横行で違法建築が放置された中で大地震が起き、壊滅的被害で政権が崩壊しました。民主化が構造改革に結びつかず、停滞に至る例として歴史のフラクタルは続きます。政権交代した日本も「民主国家だから安心」なんて言ってられるのか?

てな中で、気になったニュースがこれです。

トヨタたたき、収束へ 米当局「電子制御欠陥なし」  :日本経済新聞
トヨタの電子制御システムの不具合に関する調査結果が公表され、欠陥は無かったとする発表がされました。日経の報道にもあるように、米中間選挙を控え、経営再建中のGMへの援護射撃で票獲得という政治的意図があった可能性は否定できないんですが、忘れちゃいけないのがトヨタが虎の尾を踏んだことです。

カムリなど欧米で販売される左ハンドル車のアクセルが戻らなくなる現象を、リコールを届けなかったことで、トヨタの隠蔽体質を印象付けたのですが、それに留まらず左ハンドル者に採用された米メーカーの部品採用を「政治的配慮」とする不用意発言が、米国民には「アメリカ製部品を使ったから不具合がおきた」というニュアンスで取られたこともあり、クレーマーを呼び込んだということが言えます。アメリカより先に欧州でアクセル部品の不具合が報告されていた時点でリコールが届けられていれば、ベタ記事扱いで終わった話なんです。

ゼロ年代のトヨタは特に海外生産拠点の整備に注力し、円高による為替リスクの軽減に努めたのですが、その一方で2003-2004年の為替大介入による円安で、国内工場で生産しても十分な利益を得られる状況が続いたこともあり、なし崩しで生産規模を拡大してきました。しかしそれは世界一を目指す明確な意思なり戦略なりがあってのことではなく、なりゆきで進んだ拡大路線だったのです。だから進出先は欧米中心で、新興国はあまり視野に入っていませんでした。所得レベルの高い欧米中心で利益率も高いわけですから、投資に対するリスク許容度が下がっていたことは間違いないでしょう。

それがリーマンショックで暗転するわけですが、もろに波を被ったGMが経営不振で販売を減らし、いわば敵失によって世界一の地位が転がり込んだことで、トヨタはむしろ迷走します。年間1,700万台をピークに1,000万台まで縮んだアメリカ市場で、減少分はGMなどビッグ3による部分が中心となり、トヨタをはじめとするアジア系企業はリセッションの影響は軽微でした。当時メディアはトヨタの世界一を誇らしげに伝えておりましたが、それがリコール問題で水を差されたわけですから、お得意の陰謀説や、迷走する普天間問題の意趣返しなど、アホらしい珍説がメディアを席巻するに至りました。

おそらくミッドウエー海戦の大本営発表はかくありきだったのでしょう。元を糺せばトヨタのリコール隠しが引き起こした問題ですが、その部分は意図的に伏せて、アメリカの政治的レトリックとするのは、結局本質を捻じ曲げます。むしろグローバルに事業展開するトヨタが、主力市場のアメリカの規制に関して無知であったということです。言い換えれば三河の町工場のメンタリティのまま、深く考えずに規模拡大にまい進した結果の当然の帰結でもあります。

付け加えますと、昨年のVWとスズキの提携で、トヨタは世界一の座をアッサリ明け渡しましたが、トヨタ問題でトヨタがGMを抜いて世界一になったことを取り上げても、このことを指摘するメディアは皆無です。VWもスズキも新興国向けに廉価な小型車を供給して数を伸ばしてきたのですが、世界一を目指すなら新興国を視野に入れるのは当然です。トヨタとの戦略性の差は歴然です。

現在日本政府が参加を検討するTPP問題も、関税撤廃ばかりが話題に上りますが、むしろ各国でバラバラな規制の統一が大きなテーマです。そうなると世界標準とかけ離れた国内基準が多い日本の参加はかなり難しいといえます。エコカー減税や補助金でも、日本でしか通用せず、実質燃費と乖離していると指摘される10・15モード燃費を基準としたことで、制度開始当初輸入車が軒並み除外されたようなことは、当然許されなくなります。そうなるとTPP参加を求める財界の態度も変わる可能性があり、政府がそれを押し切ってまで進められるのかは疑問です。

米中間選挙でオバマ政権の目玉政策の一つである高速鉄道計画も、JR東海が受注を目指すフロリダ州知事が共和党の保守派となったことで、計画に黄信号が灯ります。元々JR東海が熱心な理由が、既に高速道路の中央分離帯に線路用地が確保されていて、既存の貨物鉄道との接続計画もなく、日本の新幹線方式を移植できると期待したものです。

台湾高速鉄道でRAMS規格無視発言で顰蹙を買ったJR東海は、アメリカで同じ目に逢いたくないとフロリダのプロジェクトに名乗りを上げたわけですが、TPPが発効すればおそらくRAMS規格に準じた規格が必須条件となる可能性が高いですから、保守派知事の任期中にプロジェクトが中断すれば、受注の可能性は小さくなります。

一方カリフォルニアのプロジェクトに名乗りを上げたJR東日本は、新在直通用のE6系で衝突安全基準のクリアを画策しており、Suicaの国際競争入札で国際標準に対する経験値を高めた経験値の差を見せております。

そのJR東日本もブラジルの高速鉄道計画には消極的ですが、建設、運営、譲渡(BOT)プロジェクトで事業主体としてリスク負担を強いられることに対して慎重姿勢なのです。BOTに関しては、三菱商事、三菱重工、大林組、鹿島、トルコ鉄道プラントメーカーによるドバイメトロの失敗があり、慎重姿勢は無理からぬところです。またシーメンスやアルストムも入札参加を見合わせ、結果的に韓国鉄道庁のみの入札参加となって入札そのものが延期されましたが、条件面の見直しは行われておりません。

おそらく発効すればEUに匹敵する巨大経済圏となるTPPですが、日本の参加のハードルはとてつもなく高いですし、トヨタ問題の対応を見ても、問われているのは企業自身が変われるかどうかであって、政府にTPP参加を促すだけではどうにもならないということは申し上げておきます。

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