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Friday, March 25, 2011

被害は西へ、波及する3,11症候群

こんなニュースがあります。

JR西が運転本数減 モーター部品調達困難、JR東にも懸念  :日本経済新聞
鉄道用直流モーターのブラシが足りないということで、何とJR西日本が減便という驚くべき事態です。影響は私鉄にも波及する可能性があります。

今や鉄道車両用モーターといえば交流モーター全盛で、特に三相かご型誘導電動機は、構造が単純でしかもパワー半導体の技術革新で制御が容易になったこともあり、大手私鉄でも京王電鉄のように全所属車両を誘導モーター搭載のVVVF制御車で統一するところさえ出てきてますが、元々制御が容易で安価な直流モーターは長く鉄道車両用として主流でしたし、また鉄道車両の使用期間が長期間となることもあり、数の上では直流モーター駆動の鉄道車両は相当数が現役です。

特にJRは旧国鉄時代には常磐緩行線用の207系900番台10連1本を例外として、電気車は全て直流モーターとなっております。つまりJR西日本はそれだけ旧国鉄時代の旧型車が多数在籍していることの反映でもあります。とはいえ民営化後も暫くはJR各社は直流モーター駆動車を投入しており、民営化前後で分かれるわけではありません。

とはいえJR西日本のいわゆるN40工事と称する車体更新は、延命で40年使用を前提とするもので、かなり極端です。こうしなければならない理由は、簡単に言えば221系以来のオリジナル車がスペック重視で量産に向かず、価格面で老朽車の全交換が難しいことの反映で、走ルンですで気前良く旧型車を置き換えるJR東日本とは対照的です。

直流モーターに使われるブラシは、メンテナンス上は弱点でして、電気子軸の回転に合わせて電極の+-を変換し電機子の磁極を反転させて回転運動を生む重要部品ですが、摺動による磨耗と電気接点の断続によるアーク発生で劣化しますから、頻繁に交換しなければなりませんし、電機子の整流子にバネで圧着させるわけですから、調整も難しい部分です。

また大電流を遮断するため十分な絶縁空間を取る必要もあり、それだけモーターのサイズの制約要因にもなり大出力化が難しいということで、小型高出力でメンテナンスフリーの三相誘導モーターで、自由度の高い制御が可能となったVVVFインバータの技術開発と共に主流の座を明け渡したわけです。

しかし気になるのが日立市の原料工場の被災のみならず、最終加工工場が福島第一原発の事故で避難区域に指定された福島県浪江町にあり、操業再開のメドは立っておりません。3号機のタービン建屋内で作業員が大量被曝する事故が起きましたが、燃料の露出が疑われております。本当にチェルノブイリに近づいております。しかし危険な原発内の作業で原子力の専門家が現場を監督せずに下請けに丸投げというのは、不真面目ですね。

悩ましいのがブラシは上記のように枯れた旧式の技術であり、メーカーはおそらく減価償却済みの生産設備を延命させて対応しているものと思われます。つまり代替生産設備の投資はまずあり得ないわけで、供給不足が長期化すれば、JR西日本に留まらず多くの鉄道会社が影響を受ける可能性があります。こうなると京王電鉄のように改造も含め全在籍車両をVVVF化する選択も考えなければならないわけで、鉄道会社にとっては頭の痛い問題です。

逆に電機メーカーにとっては電装品換装を売り込むチャンスでもあります。東京メトロや大阪市交通局のようにメーカー提案をホイホイ採り入れる事業者もありますし、地下鉄事業者で採用が多い電気子チョッパ制御は素子の経年劣化もありますし、VVVF化して直流モーター関連の部品を下取りして他の事業者向けに回すなどの裏技も使えるかもしれません。

メトロの新しもん好きぶりは、例えば直流分巻モーターを用いた4象限チョッパ制御とか、千代田線16000系に採用されたマグネット同期モーターなどにも現れております。分巻モーターは電気子と界磁が別回路で個別にチョッパ制御されるので、4象限となり自由度の高い制御となるのですが、フォロワーが現れず量産効果は出ませんでした。

同期モーターはJR東日本のE331系で試験採用されておりますが、あくまでも歯車装置を省略した直接駆動(DDM)のためであり、誘導モーターよりも太いトルクを出せるから可能なんですが、メトロ16000系は通常のカルダンドライブですから、意味不明です。新しもん好きでも例えば小田急は4000系で密閉型誘導モーターを採用しております。密閉型とすることで騒音を低減し埃の侵入を防げるので絶縁劣化を起こさず安定した性能となるなど「使える」新技術です。

国交省は影響を調査して対応を検討するということですが、省エネにもなりますし、電装品換装を後押しするような方向で考えて欲しいところです。こういったことが、いわゆる産業の復興になるということで、単純に失われたものを復旧してはならないでしょう。

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Comments

直流モータのブラシの件ですが、JRはどうして国内調達にこだわるのでしょうか?

あの程度の部品、国際調達にかければ、現状より安い部品がすぐに手に入るはず。

純国産にこだわってきたツケが回ってきたとも思えます。

Posted by: Hybrid | Saturday, March 26, 2011 at 11:56 AM

JRが国内調達に拘る理由ですが、単に前例踏襲に陥っているだけかもしれませんね。

JR東日本がE501系で国際入札の結果独シーメンスのチャルメラインバータを採用したことがありますが、商慣習の違いなどで意思疎通に齟齬があったようで、60両の少数派となった理由も、本当はその辺が絡んでいるのかもしれません。

現実的には電装品換装は時間がかかりますし、国際調達がセカンドベストでしょうけど、国が邪魔するかもしれませんね。

Posted by: 走ルンです | Saturday, March 26, 2011 at 08:53 PM

おっしゃる通りですね。

緊急事態への対処能力の問題でしょう。
「前例がない」とか「指示がないとできません」とか、日本中の会社でありそうな話です。

Posted by: Hybrid | Sunday, March 27, 2011 at 10:56 AM

前例のない事態でもですからね。

原発の津波被害も同じ理屈で逃げ回ってますが、いい加減楽観シナリオに寄り添うのを止めて、事態を直視して欲しいですね。

Posted by: 走ルンです | Monday, March 28, 2011 at 10:20 AM

JR西に限らず関西圏の鉄道会社はどこもハイスペックな車両を値切って買うという、一言でいえば地域性なんでしょうね。
ただ、その地域性を他の地域にまで押しつけられたら、たまったものじゃないんですが・・・。

広島圏でも115/113系のリニューアル車が増えたおかげで、着座定員が減り都市間輸送で立席が大量に出るという状況です。更に、域内輸送ですら立席スペースの少なさに短編成化と相まってラッシュ時にはすし詰め状態・・・。
快適な移動には程遠いそんな状況で、115/113系の後継になる223/225系を投入されても「新車になったね」程度で、利用者の満足感は満たされないでしょう。

そう意味で、同じ4両編成でも223/225系の様な高級車より、E231/233系近郊型の様な4扉セミクロ仕様で域内輸送も都市間輸送も両立出来る大衆車を検討して欲しい所です。

まぁ、昨年のダイ改でのこだま減便で都市間輸送を半ば諦めたJR西に期待は無駄なのかもしれません。
今回の減便はそのまま既成事実になりそうな予感です。

Posted by: shimono | Tuesday, March 29, 2011 at 12:57 PM

なるほど、減便の既成事実化の口実ですか。困ったもんです。

JR西日本の場合は新幹線が対航空で劣勢にあるため、近畿圏が稼ぎ頭ということで引き摺られるのでしょうけど、無理を重ねている感じですね。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, March 29, 2011 at 09:55 PM

501って取手以北の利用者からトイレがないと苦情が多かったので、という結末じゃなかったでしたっけ? で、結局531にとってかわられたと。

Posted by: foo | Saturday, April 02, 2011 at 09:50 AM

えーと、電装品の話なんで、トイレは本質的に関係ありません。

繰り返しますが、シーメンスの電装品はJR東日本ではE501系60両で打ち止めになりました。その後他形式も含めてJR東日本では採用されず、京急では大増殖しましたが、当時京急の要求性能を国産品で満たせなかったという事情はあります。

しかもE501系の上野口撤退で水戸線に転用された5蓮口20両は電装品を換装しており、ますますシーメンスの電装品は少数派になっております。ちなみに転用時にトイレが設置されましたので、この面からも無関係ですね。

以上は全て事実関係のみの記述ですが、商慣習の違いに戸惑ったという話はちらほら聞こえる噂話ですから、真偽のほどは保証の限りではありませんが悪しからず。

Posted by: 走ルンです | Saturday, April 02, 2011 at 08:21 PM

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