財源の議論に隠れた復興バブル
震災復興会議なるものが発足したそうですが、何だか会議ばっかりやってる今の政府の迷走ぶりはひどいもんです。会議ばっかりやって、しかも事務局に官僚を配置すれば、ろくでもない結果しか出てこないってもんですが、早速復興債の発行と、その償還を復興税で行う構想が取り上げられそうです。
復興増税否定せず 首相「東電は民間でがんばれ」 :日本経済新聞早い話が「復興のため」という錦の御旗で国債増発や増税を免罪しようということですが、いかにもな役人発想です。予算が足りないならば、公務員給与の一律カットで財源を出せば良いです。民主党も公務員給与2割カットをマニフェストで約束してるんですから、マニフェストに沿って、かつ財源捻出の要請にも応えられる妙案です。ざっくり2兆円以上の財源が出ます。我慢すべきは公僕からです。
まだあります、既に火事場泥棒的に箇所付けされた公共事業費の執行停止で5.7兆円が捻出できます。しかも機材や資材や人員などの建設リソースが開放されますから、被災地の瓦礫の撤去や交通インフラの復旧に回せますし、資材費の高騰も防げます。
加えて高速道路のETC割引財源とされる1.4兆円を加えれば、合計9兆円を超えますから、予備費を足せば10兆円規模の復興財源はひねり出せます。公的年金の国庫負担を減らして年金積立金を取り崩す必要はありません。
東電の原発事故補償問題でも、東電の民間企業としての事業継続を前提とするということは、ザックリ言えば補償費用を電気料金に上乗せして国民に負担を転嫁するということに外なりません。そのために国庫金に加え原発保有の電力会社の出資で預金保険機構のような新機構を設立し、東電の優先株購入による資本注入をしようという構想です。資本注入でガバナンスに介入し、補償の実施を監視するということですが、それなら東電を国有化する方が早いんじゃない?という疑問が出ます。丁度民主党が野党時代に与党に丸呑みさせた金融再生法のような形で、国有化して東電のガバナンスを直接改善し、事後的に株式再上場することで、結果的に国民負担を回避するというスキームで、この方がむしろ民主党らしいのでは?
新機構への出資分は電力会社が利益剰余金の一部を拠出する形となり、超長期割賦払いで対応しようということですが、総括原価積算による現行の電気料金を前提とする限り、電気料金の値上げで対応することに外なりません。それならば最初から国庫による補償を考える方が誠実です。
不思議なのがなぜ電力オークションを実施しないかです。30分単位で電力使用量を把握できる工場などの大口契約者は、割当電力を明示すれば、それを前提とした生産計画を組むことは可能ですし、実際電気事業法27条の総量規制に従う義務があります。ならば大口契約者毎に電力削減量の割当を行い、毎日翌日分の電力使用計画を提出させた上で、余剰分の売却と不足分の購買を取引市場でマッチングさせれば、結果的に調整コストをかけずに省電力が可能です。
加えて特定規模電気事業者(PPS)や他地域の一般電気事業者の応札を認めれば、劇的に状況は改善すると考えられます。よく言われる東日本の50Hzエリアと西日本の60Hzエリアの問題も、実は技術的問題というよりは制度的問題なんです。現状電力変換変電所は3ヶ所で100万kwと言われますが、現行施設の設備増強で500万kw程度にすることはさほど難しい話ではありません。むしろ電力不足確実な東日本エリアで確実に電力を売れるならば、更にこの手の投資を後押しすることになります。
加えて東日本企業のPPSへの参入を後押しすることにもなります。例えば六本木ヒルズでは、地下に6基のガスタービン発電機を備え、通常所要電力は自家発電で賄っております。東電とも契約はしてますが、あくまでも発電機のメンテナンスに備えたバックアップが目的で、加えて非常用ディーゼル発電機も備えてメンテと停電が重複しても最低限の電力確保ができる仕組みですが、それを逆手にとって一部設備の休止で生み出した余剰電力を東電に供給してPPSに名乗りを上げました。これは例えば被災した工場で本業の復旧が難しい場合の代替事業にもなり、結果的に被災企業を救うことにもなります。こうして投資が誘発され、結果的に供給のボトルネック解消にもつながるので、財政に頼らない有効需要創出策でもあります。
あと意外に難しいのが鉄道の完全復旧です。東北本線や東北新幹線は、余震の影響による一進一退はあるものの、比較的順調に復旧が進んでますが、問題は常磐線北部や仙石線、石巻線、大船渡線、山田線、八戸線と三陸鉄道北リアス線、南リアス線など津波被害を受けた海岸沿いの路線です。空港と共に津波被害を受けた仙台空港鉄道と共に、被害の甚大さによる費用負担の問題と共に、地域の復興計画との整合性に問題を残します。
鉄道の災害復旧は、国と自治体が1/4ずつを負担する仕組みで、総額の半分を事業者が負担すればよいのですが、特に第三セクターの三陸鉄道と仙台空港鉄道では、公的支援があるとはいえ負担力が乏しく、また第三セクターゆえに出資自治体の足並みが揃わないと増資も難しいというガバナンスの弱点もあります。
加えて三陸鉄道では高架橋やトンネルなどのインフラ部分を自治体保有とする公設民営形の上下分離が行われており、特に高架橋の破損部分の復旧工事については、事業者保有ではないために、復旧費用の拠出をどうするという問題が横たわります。つまり保有する自治体を事業者と見なすと、実質国庫負担1/4自治体負担3/4となり、ただでさえ被災して財政余力のない自治体の負担が過大となります。
鉄道復旧でもう一つ頭の痛い問題は、復興計画との整合性です。津波対策として防潮堤や防潮林などが役に立たず、居住地の高所移転がほぼ唯一の防災復興法であることは間違いないですが、そうすると既存集落を縫うように建設された元々の鉄道ルートが無人地帯になることを意味します。逆に鉄道を単純に復旧すれば、利便性から低地への人の居住を止められずに防災復興の阻害要因になるわけです。こうなると徒に復旧を急ぐのが正しいかどうかも微妙になります。
とはいえ鉄道事業の災害復旧補助はあくまでも原状回復が基本ですから、逆に集落移転を伴う復興計画が具体化すれば、鉄道の復旧は絶望的ということにもなります。集落を結ぶという鉄道本来の機能を維持しようとすれば、それは復旧ではなく限りなく新線建設に近づくことになりますが、元々過疎地のローカル線だった路線を新線として引き直すというのは現実的に無理な相談です。
これ何かに構図が似てます。水害で橋梁や路盤の流出被害がひどく、再建を断念した高千穂鉄道を思い起こさせます。高千穂鉄道の場合は、五ヶ瀬川に寄り添う旧国鉄日之影線由来の区間で被害がひどく、単純な原状回復で27億円と見積もられたのですが、仮に復旧しても、同様の水害に遭う確率も高いわけで、併せて安全な位置への路盤移転を前提とする復興計画案も提案され、約40億円と見積もられましたが、当然原状回復ではないので、全額事業者負担となり、より困難な話となるわけです。
災害復旧という観点で、ユニークなのはJR西日本の越美北線の事例です。やはり台風被害で運休したものの、大野市など地元自治体の定期券購入補助が行われていたこともあり、傘下の西日本JRバスが専用営業所を開設して鉄道代行輸送でつなぎながら、最終的には福井県の資金拠出により3年かけて復旧を実現しました。
同様に水害で運休中のJR東海名松線ですが、こちらは自治体の動きは鈍かったのですが、昨年11月24日のJR東海山田社長の定例会見で自治体の支援如何では復旧工事を行う旨の発言があり、それを受けて県と津市が取り組みを表明しました。
asahi.com(朝日新聞社):台風で不通の名松線、復旧目標は16年度 津市事業計画 - 鉄道 - トラベル注目されるのが、災害を繰り返さない観点から県の治山事業と津市の水路事業の取り組みを条件とした復旧工事であるということで、単純な原状回復とは一線を画しております。
三陸鉄道などが加盟する東北鉄道協会は、国交省に国の支援拡充を求めました。
東北のローカル線、復旧は時間との闘い :日本経済新聞国交省側も理解を示したようですが、非常事態を口実とした超法規的解釈による国庫金注入ならば問題があります。京阪中之島線や阪神なんば線で用いられた都市鉄道における償還型上下分離などと整合性のある制度として法改正をすべきですし、政府はそのためにこそ動くべきです。実効性に疑問符がつく多数の会議体で時間を浪費することをやめて国会論戦をこそ真面目にやってほしいです。
最後になりますが、増税で喜ぶのは復興予算を食い物にと狙う土建屋共であり、それはバブルの再来の呼び込みになるだけです。
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Comments
財源に法人税の減税見送りも加えていただきたい。 黒字の企業にかかるものですし、日本経団連会長ですら条件付きで申し出ていたかと。
Posted by: 焚火派GALゲー戦線 | Sunday, April 17, 2011 07:46 PM
復興予算をどのようにねん出するか、たいへん難しい問題ですね。
しかし、「この碑より下に家を建てるな」と描いてある石碑の下に家を建てて津波に流されたというような『人災』の場合にも、何らかの費用を負担させられるのは納得できないような気がします。
地震、津波、原発の3つの災害で、地震だけが本当のいみで「天災」といえるのではないでしょうか。
Posted by: Hybrid | Sunday, April 17, 2011 08:10 PM
コメントありがとうございます。
> 焚火派GALゲー戦線さん
法人税減税の見送りは、1時補正で財源とされてますが、不十分です。むしろ法人税の課税特例で政策減税されているものを無くすことの方が重要です。それを財源に被災企業向けに特例を設けることでバランスさせるぐらいまで踏み込んで欲しいですね。
>Hybridさん
被災して作り直してまた被災するというのが、今までの災害対策だったわけで、結果的に土建屋を潤しただけです。その連関から抜け出せるかどうかが問われますね。
制度上も、土地利用計画や建築確認は自治体の権限に属し、土地に関わる私権が強すぎる結果、津波の危険箇所でも家を建てたいと申請されれば、要件を満たす限り拒否できないという極端な私権優先の法体系は世界でも日本だけです。見直しが必要です。
Posted by: 走ルンです | Sunday, April 17, 2011 10:22 PM
日頃楽しく読ませていただいております。
復興予算ですか、頭いたい話ですね。
実際に被災してみると地震の被害はインフラがとまって実生活に苦しんだ以外は(東北に限るなら)今回は少なかったほうです。
集団疎開せざるをえなかった原発周りとか津波被災地域に重点配分してあげたほうが被害の比重にはかみ合うでしょうね。
ただ、ない袖とお金は振れないわけで追加税制と短絡するんでしょうが、多分、今仕掛けたら東北の景気がもう一段下がるんじゃないでしょうかね。
東北全般の企業、個人に言えることなんですが現在多くが資金ショート気味になってしまっていまして、(被災していても食料は買わないといけませんし電気ガス、水道代、家賃ももちろん取られますので)いまセーフティーを組むために対処療法的に税制いじる事自体、早計ではないかと考えます。
税制まで踏み込むなら三陸の都市計画や、年単位の長い目で見た税制も含めて考えたほうがよさそうです。
ただ、悩ましい話があって上記に書いたとおり法人・個人問わず資金ショート気味の中で、JRはともかく資金力の乏しいインフラ企業である地方の鉄道企業たちは一端何かの応急手当を当ててあげないと、半年くらいで連続でダウンし始めるかも知れません。
良い手があればよいんですがお金が絡むと本当に難しいですね。
Posted by: 幻月 | Monday, April 18, 2011 07:25 PM
確かに今回、地震そのものの被害よりも、津波と原発事故の方が目立ちます。
そもそも治山治水や防災は政府の主要なミッションだったけれど、津波被害を防げなかったわけですから、少なくとも行政職の減給処分は妥当性があります。
加えて原子力政策も政府が国策として推進してきて今回破綻したわけですから、これも減給処分相当ということで、公務員給与カットは暴論ではないと考えます。
企業や個人の資金繰り問題も深刻ですが、企業向けには仙台銀行に続いて七十七銀行も公的資金注入申請を行い、企業の資金繰り支援の体制は整いつつありますが、個人には恩恵がありません。
結局企業がビジョンを持って前向きな投資を行い、雇用を創出する段階に至る必要がありますが、それを法制度の整備で後押しすることが、政治の仕事でしょう。リターンを生む投資ならば財政出動は不要です。
Posted by: 走ルンです | Monday, April 18, 2011 10:03 PM
返答ありがとうございます。
そうですね、法制度のいち早い整備をして欲しいものです。
あと、七十七銀は良い意味でも悪い意味でも優良銀行なので、こういうときほど当てにならないというのが現地での一般的な評価です。
ただ、地域でのフラッグバンクではあるので、他の銀行たちが後に続いて公的資金注入申請を受けてくれることによる全体的な底上げにはなると期待してます。
Posted by: 幻月 | Tuesday, April 19, 2011 10:12 PM
平時の「優良銀行」が非常時に頼りになるかどうかは微妙ですが、企業の資金繰り不安の緩和は朗報ですね。
本当はもう一歩踏み込んで銀行同士の統合まで視野に入れ、オーバーバンキングと言われる地方金融機関の整理統合まで視野に入れて欲しいところです。
Posted by: 走ルンです | Wednesday, April 20, 2011 12:02 AM
流れを断ち切ってすみませんが、私はどうしても国や地方自治体の債務が増え続けることのほうが心配してしまいます。
増税が良くないという主張はわかるのですが、大災害はこれでおしまいというわけではないですし。
また、財源不足のために必要な援助がなされないことも、今は注目されていますからそんなことはないでしょうが、時間が経てばなってしまうことも充分有り得ると思います。
ただ、たしかに公務員給与カットや被災地・防災に関係のない(その判断が難問ですが…)公共事業を削減する意見が、批判する側からも出ないのはどうかと思います。
かわりに出てくるのは、年少扶養控除をなくしたままでの子ども手当の廃止だったりで、うんざりします。
不平等な負担増だったらまだ増税のほうがマシだと思ってしまいます。
Posted by: takehope2 | Saturday, April 23, 2011 03:52 PM
大災害がこれでおしまいではないからこそ、増税で対応すれば災害復旧工事や復興過程で発生する建設需要が肥大化してしまいます。
つまりは壊れたらまた作るということですから、その循環を断ち切らない限り、今回のような悲劇が繰り返されます。実際震災後ゼネコン株は上昇してますし。
もちろん財政再建は大事ですが、財務省が言うように財政均衡が必要なんではなく、対GDP比で適正に管理されていることが重要なんです。その意味でGDPを萎縮させる増税は、むしろ財政赤字の対GDP比を悪化させますし、今議論すべきことじゃありません。
Posted by: 走ルンです | Saturday, April 23, 2011 08:28 PM
公共事業の削減が必要というところでは意見が一致していますのに、こだわり続けてすみませんが、財源不足になったときに削減されるのは、結局社会保障となりがちです。もともと余力がある人に対する増税なら頑張って収入を増やすという対処の仕方があるのに対して、それしか頼りのない社会保障を削られると消費を絞り込むことでしか対処の仕様がありません。
Posted by: takehope2 | Sunday, April 24, 2011 05:09 PM
社会保障と増税をリンクさせるのは、財務省の作戦です。社会保障を削る前に無駄な支出を抑えて行政の効率化をしなければならないのに、そちらは手付かずです。
本来は国民の代表である政治家で構成された内閣がそれをチェックしなければならないのに、一緒になって増税を画策しているのですから、有権者に対する裏切りです。
もちろん社会保障の制度設計如何では増税の必要性はありますが、今回の一次補正で年金積立金に手を付けるなど、許し難いことをやっており、完全に官僚ベースで話が進んでいます。もう滅茶苦茶ですね。
Posted by: 走ルンです | Sunday, April 24, 2011 10:31 PM
私のむきになってしまった意見に丁寧に答えてくださいましてありがとうございます。社会保障に頼るしかない人にとっては、官僚の作戦と知りつつもそれに乗らざるをえません。いわば人質にとられたようなもので、そう考えると悔しいですね。
Posted by: takehope2 | Monday, April 25, 2011 08:06 PM
うーん、冷静に考えて欲しいんですが、企業会計でも災害その他で資産が毀損した場合には、特別損失として営業費や一般管理費などの経常経費と別枠で処理します。政府財政も同じなんです。
社会保障のように毎年発生する費目は税で対応し、公共事業などの政策的経費は、別枠で対応するのがセオリーです。これを増税で賄うのは火事場泥棒そのものです。
多分強行すれば民主党が割れると思いますので、通らないとは思いますが。
Posted by: 走ルンです | Monday, April 25, 2011 08:26 PM