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Sunday, April 10, 2011

象牙ハンターの化石脳

震災から1ヶ月経ち、電力事情が緩和したこともあり、運休が続いていた湘南新宿ラインも復活し、震災で幻となっていた南武線快速も9日から走り始めるなど、首都圏の鉄道に関しては、平常ベースに戻りつつある今日この頃ですが、復旧が進んでいた東北新幹線は7日深夜の余震で再びストップし、一進一退が続きます。

また福島第一原発の危機的状況は未だ出口が見えず、むしろ過去に例のない海洋汚染で、世界からは「海のチェルノブイリ」という有難くない言われ方までしております。そのため当初は同情的だった世界の見方は、加害者に対する非難だったり、言われなき風評だったりして地に落ちております。

原発事故と無関係の観光地で観光客が激減し、9割減などという状況で、特に外国人が激減しております。外国人に関しては観光客に留まらず、数多くの労働者が仕事を辞めて帰国するなどの異変も起きており、外国人労働者に依存していた業界では一転求人難という状況で、この問題は今後尾を引きそうです。加えて過剰な自粛ムードも手伝って、例年ならばGW臨時列車が発表されている時期に動きなしです。こうなると経済の先行きが心配です。

マクロ経済指標で見て、デフレギャップが約20兆円と言われ、今回の震災の被害額が概算16兆円―25兆円ですから、ごく荒っぽい議論としては、これから出てくる復興需要でデフレが解消される形になり、リフレ論者の待ちに待った局面のはずですが、不思議なことに復興財源問題で、復興債の日銀直接引き受けを迫るあたり、結局連中は金融緩和至上主義でしかないことを露呈しております。

復興財源を国債に求めるのは、復興需要でGDPが押し上がり、税収につながりますから、謂わばその前借りですから問題は少ないのですが、早速財務省主導で増税の議論が始まっているのは許せません。特に公的年金の国庫負担増の財源2.5兆円を復興財源に充てる案ですが、実質的に給付の不足分を年金積立金の取り崩しで賄うということになります。財務省の説明では、将来の増税で今回の取り崩し分を埋める予定としておりますが、つまるところ増税の言質を取りたいだけです。

実際に実施すれば、年金が保有する国債を売却することになりますので、市場的には新発国債を発行したのと同じ需給関係となり無意味です。年金積立金を活用するなら、むしろ外債や株式などのリスク資産と交換に復興国債の引き受けに使う方が理に適います。日銀引き受けと違って通貨の信認を揺るがすことはないですし、復興に伴う税収増で担保される復興国債は、安全資産として年金積立金の運用先としても適しています。あまり報道されませんが、こういったことで火事場泥棒を許さないようにしなきゃいけません。

とはいえ原発事故に伴う電力事情の悪化は復興の足を引っ張る問題です。直近の2月の鉱工業生産指数の速報値が96.1と回復してきましたが、震災による生産の縮小分は11ポイントほどと見積もられ、リーマン後の09年度の86.0を下回ります。リーマンショックがバブル崩壊による需要の縮小だったためにデフレギャップが拡大した一方、今回は工場や物流網の被災で供給側にボトルネックが生じた形ですから、いわゆる財政出動による需要創造はできないわけです。

企業の生産設備に関しては、震災前に復旧することがゴールではなく、むしろ統廃合による生産効率の見直しが必須となります。例えば震災前に経営統合を発表した新日本製鉄と住友金属ですが、それぞれ釜石と鹿島の事業所が被災しております。それぞれを復旧するのではなく、統合を進めながら事業所の再配置を行うことが求められるわけです。既にライバルのJFEは事業所統合を発表しております。おそらく他業種でも同様の動きが出てくるでしょう。

電力不足は長期化が予想され、仮に60Hzの西日本エリアへ移転したとしても、原発の見直し次第で需給がタイトになる可能性があり、今後数年に亘って企業を悩ませることになります。震災だけなら、あるいは津波被害を含めても、復興に伴うGDPの押し上げ効果は一定に期待できますが、電力のボトルネックは企業活動を萎縮させる可能性があります。

この問題は考えようによっては、企業にとって所要電力も数ある調達の一環という風に考えられます。大口電力割引で外部電力に依存してきたことを見直す機運が生じるでしょう。加えて電力自由化で余剰電力を売却できるようになれば、企業自ら発電事業に乗り出すことを促しますから、結果的にボトルネック解消が早まります。政治の仕事はこういったことに道筋を付けることです。

その結果CO2排出量が増えることを懸念する人がいますが、原発推進派のマインドコントロールが抜けてないと指摘しておきます。良く考えていただきたいんですが、東電福島第一、第二、東北電力女川、東通の各原発は全て停止しておりますが、原子炉内と貯蔵プールの燃料棒の冷却のために多数のポンプを作動させ電力を消費しております。つまりCO2を排出しているわけです。

7日深夜の余震で外部電力を失った女川、東通原発と日本原燃六ヶ所村再処理工場で冷却系が一時停止する事態となり、関係者が肝を冷やしましたが、裏を返せば運転していない原発は電力を消費する存在なんですね。しかも使用済み核燃料棒の崩壊熱の発生は長期間に亘り、ポンプで水を循環させ続けなければならないわけですから、トータルで見ればCO2削減効果は僅かしかないことになります。

福島第一原発の事故で3号機のプルサーマルが世界的には注目されてましたが、結局日本のメディアはまともに取り上げませんでした。一部でプルサーマルの安全性を問う声はあったものの、論点はそこにはありません。本当の論点は国策とされた核燃料サイクルが破綻したということで、以前のエントリーで簡単に触れましたが、本命は高速増殖炉で、プルサーマルはセカンドベストでしかありません。安全性に関しては、理論上ウラン燃料を使用するのと変わらないと言われておりますが、実績を示すデータはまだ蓄積されておりませんので、安全性の観点からは議論のしようがないんです。むしろ問題は泥縄でプルサーマルを始めたことにあるんです。

六ヶ所村の再処理施設は昨年10月に竣工予定だったものの、トラブル続きで竣工を2年延期しました。工場内の使用済み核燃料保管プールは既に満杯で、新たな受け入れの余地はないので、結果的に全国の使用済み核燃料保管プールから六ヶ所村へ送ることができず、各原発で保管プールの増設で凌いでいる現状があります。結果的に堅牢な格納容器などで保護されていない保管プールの冷却系ダウンが福島第一原発事故で顕在化したわけで、このまま原発の稼動を続ければ、数年で全国の原発は運転できなくなると言われていて、核燃料の再処理とMOX燃料やガラス固化体への加工を欧州企業に外注し、テロの標的になり得る危険極まりない核燃料の洋上輸送までしてとりあえず始めたのが今回のプルサーマルというわけで、泥縄を重ねて未来を捏造してきたわけです。その果てに今回の福島第一原発の事故があるわけです。

現実的には火力依存が強まりますが、天然ガスの活用で埋蔵量はほぼ無尽蔵ですし、燃焼効率が高くCO2排出量も減らせますから、脱原発の現実的な選択肢です。このあたりの議論はいわゆる「専門家」を名乗る人たちの苦手な議論なんですね。

というわけで、メディアは自らの不勉強の結果、彼ら「専門家」にコメントを求める形で報じてきたために、根拠のない楽観シナリオに乗っかって事態の悪化に右往左往してきたわけです。特に人体への影響に関しては、やはり重要な論点が抜けております。

放射性物質に限らず、毒性の評価は疫学データであるという点が全く触れられていないんですが、重要な論点です。疫学データというのは、簡単に言えば科学的に厳密な因果関係は立証できなくても、事実関係として相関が認められれば危険と評価しようということです。つまり疫学データとして示される安全基準は厳格な科学的閾値ではなく、目安に過ぎないんです。ですから予防原則から安全側に大目ののりしろを取るのは当然ですが、それを逆転させて「多少超えても安心」というのはおかしいんです。

厳密に言えば基準以下ならばリスクは誤差範囲だけど、イコール安全という意味ではありませんし、超えても大丈夫とは科学者ならば言っちゃいけないフレーズです。あとおかしいのが「タバコの害より軽い」というのがありますが、タバコの危険性も疫学データで必ずしも科学的に厳密に因果関係が確認されているわけではないんで、こういった目安に過ぎない数値同士を比べるというのはナンセンスですし、意図的に言っているなら「嘘つき」といえます。

そういう意味で微妙なニュースが福島県の葉タバコ生産農家が、土壌汚染に伴う作付け見送りというものです。食用に供されないタバコが放射能汚染されたらどうなるかといえば、ほとんど影響はありませんが安全性の評価は難しいですね。これをネタに禁煙しようとする向きにはグッドニュースかも(笑)。

あと高濃度汚染水の海洋流出で「直ちに拡散されるから大丈夫」と即答した「専門家」も居ましたが、汚染水が炉内から漏れ出たものであれば、水温は高いはずです。湯船に水を張って上からお湯を注いでも容易に混ざり合わないのは小学校の理科レベルの知識です。象牙の塔の中では優秀と言われても、一般常識はかくもお寒いということですね。

実際は海の表層を汚染水が水塊となって漂流すると考えられますが、早速5日に北茨城沖で採取されたコウナゴから基準値を超える570ベクレルの汚染が見つかりました。表層を回遊する小魚の汚染の一方、現時点では新刊魚のアンコウやヒラメ、マコガレイなどは影響なしと見てよいでしょうけど、生態系移転、濃縮を経て忘れた頃の2年後ぐらいに汚染魚が市場へ出る可能性があり、現状ではそれを阻止する仕組みがないのです。そもそも海洋生態系は人類にとって未知の領域で、「海のチェルノブイリ」の影響は予想できないというのが正しいところです。

結局原発事故の後始末で米軍と仏アレバ社の助けを借りることになりましたが、原発推進を国是とする米仏両国の思惑は言わずもがな。内心煮えくり返っていても、今は事態を収束させることが必要という打算の結果です。そういえば内戦状態のコートジボアールで日本大使館が襲撃され、仏軍に大使とスタッフが救出されたというニュースもありました。妙にフランスと縁があります。

コートジボアールは以前日本では象牙海岸という翻訳国名で称されていましたが、コートジボアール政府の要請でフランス語国名の採用を要請されたものですが、象牙は印鑑の材料として日本はヘビーユーザーだったのですが、ワシントン条約で貿易が制限されているのは周知の通りです。時代は変遷します。原子力の平和利用で突出した存在だった日本の原子力政策も、化石頭でない限り見直し必至の局面です。

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Comments

よく原子力発電の代替として天然ガスやメタンハイドレートなどが報道されていますが、バイオ燃料による火力発電ってできないんでしょうかね?
バイオ燃料なら技術的には容易ですし、農産物の風評被害で困っている農家の救済にもなると思います。。

Posted by: yamanotesen | Monday, April 11, 2011 at 12:16 AM

そういえば、ツィッターでもどこでもほとんど誰も書いてないけど、六ヶ所からの海洋放出管での濃度と放出量ってどのくらいなのかな?

Posted by: hoge | Monday, April 11, 2011 at 03:38 AM

コメントありがとうございます。

>yamanotesenさん
今回の電力問題は、オイルショック時と異なり、あくまでもピーク電力の不足が問題ですから、単純に原発の出力を代替する発想では解決しません。

とはいえ実際に夏のピークをどうするというリアルな問題は今から動かなければなりません。設置が短時間で可能なのはガスタービン発電機で、都市ガスエリアならば燃料供給も問題ありません。あと用済みになれば別の場所へ持って行って、例えば電力事情の悪い新興国の工場で利用するなど使い回しも可能です。

バイオや太陽光、風力など自然エネルギー利用が進むには時間がかかりますし、大出力発電でスケールメリットを追求する現状の電力網と逆の小規模発電による自律分散システムにチェンジする必要もあります。

>hogeさん
六ヶ所村の再処理施設に関しては、いろいろ良からぬ噂はありますが、裏は取れてません。

原発じゃないので耐震基準も甘いのに、使用済み核燃料を大量保管しているなど、ちょっと怖い存在です。

Posted by: 走ルンです | Monday, April 11, 2011 at 08:40 PM

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