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May 2011

Sunday, May 29, 2011

アキカンのパペットサミット

フランスのドービルで開かれたG8サミットが閉幕し、原発のIAEAの安全基準強化や条約批准推進などが採択されました。菅首相の発言に注目が集まったものの、原発維持と自然エネルギー推進を並べて、結局何も語っていないため、参加各国からはため息が聞こえます。

そもそも原子力発電は原子力の平和利用というストーリーに乗っているので、安全保障問題と切り離しては成り立たないのですが、概して日本の政治家の議論はナイーブなものばかりです。これは反原発派のみならず、時々思い出したように語られる保守派の核武装論も同様で、そもそも日本やドイツなどの旧敵国の核武装を阻止する目的で設立されたのがIAEAで、日本もIAEAの核査察を受け入れる形で核施設を整備し運営してきたわけで、政治家の核武装発言はそんな原発推進の機運をぶち壊す話なんですが、同時に沖縄返還交渉での核密約でも有事の核持ち込みが事実上フリーパスにはなったものの、アメリカの国防関係者には日本の核武装の意欲を印象付けており、北朝鮮の核問題でも、アメリカの一番の関心事は北朝鮮の核武装を許せば、軍事バランス上日本の核武装を認めざるを得ないことを"懸念"し、アメリカの核の傘の下なら容認という議論まであったのですが、これらの議論は9.11以後は後退し、むしろ核がテロリストに渡るリスクが重要視されるようになりました。

特にオバマ大統領は9.11で核抑止力が効力を失ったとの認識に立ち、冷戦構造を引き摺った核戦力の削減に前向きであると同時に、原子力の平和利用、つまりアメリカ中心に核物質の厳格な管理を前提とし、冷戦の負の遺産であるロシアの濃縮ウランを原発用燃料として民生転用するという形で、従来の文脈に乗っかりつつ核軍縮という政治的果実をもぎ取ろうという野心の産物でした。

それは同時に気候変動枠組み条約への復帰の重要なシナリオでもあったのですが、クライメートゲート事件で発覚した科学者のデータ捏造のスッパ抜きでコペンハーゲンのCOP15が不調に終わり、今また福島の事故で台無しになりそうなんですから、オバマ大統領の腹の内は怒りに煮えくり返っているわけですが、我がノー天気なアキカン宰相は意に介さず、自然エネルギー利用を30%とぶち上げたかったようですが、同行した取り巻きに止められたようです。サミットは夢を語る場ではないんですが-_-;。菅さんさぞかし言わされている感を持ったことでしょう。

一方で緊迫するリビア情勢は予断を許さない状況ですが、サミットの議論でこちらが話題になると沈黙してしまうアキカン宰相は、結局議論に加われなかったということです。元々日本の原子力政策は70年代のオイルショックで推進に大きく舵を切ったように、元々自給率の低いエネルギーの多様化を狙いとしていたのですが、実際は重質油で相対的に低価格且つ精製過程でさまざまな副産物が得られる中東産原油への依存度はむしろ高まり、今回の事故で原発の依存度が下がる分も加味すれば、リビアなど中東の民主化ドミノと相まって原油価格上昇葉止められません。FRBの量的緩和第2弾(QE2)終了で期待がかかるアメリカの景気回復にもガソリン価格上昇で足を引っ張る形となっており、G8サミット参加各国は、口には出さないけど中東情勢と日本の原発事故をリスクとして並列に認識している状況です。その中で脱原発に舵を切ったドイツの動きが注目されましたが、ホスト国のフランスをはじめとする原発推進国との決定的な対立はぜず、とりあえず旧型炉の廃炉という手順で現実的な対応をしております。意味不明の浜岡原発停止でお茶を濁す日本とは対照的です。

そもそも日本政府のガバナンス能力には疑問符が持たれておりましたが、21日に発覚した福島の1号機の3月12日の海水注入の一時中断問題で国会が紛糾しましたが、26日になって東電はあっさりと海水注入を継続していたことを発表しました。いよいよ政権も炉心溶融しているかのごとくです。元々海水注入中断の情報の出方も変でしたが、どうも経産官僚による野党議員への情報リークがあったようで、自民党は菅首相の不信任決議案提出のネタにしたかったようです。最高裁による09年総選挙の違憲判断で小選挙区の区割りを見直さない限り、解散もできないし、被災地では統一地方選も見送られ、事実上選挙ができる状況にはないなど、現状での不信任案提出は元々大儀が乏しかっただけに飛びついたようですが、追求する方もお粗末です。

とはいえ一番問題なのは東電です。あれだけ国会が紛糾しながら、5日も経ってから訂正したことについて問われ、IAEAの査察を理由に挙げておりました。つまり政府や政治家や国民は騙せても、IAEAは騙せないということを白状したわけです。JPEXの取引停止といいこの問題といい、どこまでも人を馬鹿にしております(怒)。

まるでお笑い芸人のパペットマペットのウシくんとカエルくんのコントを見ているようです。このコントは黒子が居ないことがお約束とされることで、実際には居る黒子くんとのギャップが笑えるんですが、日本の政治ってそんなレベルなんですね-_-;。

一方で中央リニア新幹線が整備新幹線へ昇格し27日に大畠国交相がJR東海に建設を指示しました。とりあえず1歩前進ではありますが、以前にも指摘したとおり、三大都市圏の高齢化加速でその前途は多難です。加えてこんなニュースもあります。

全日空系の格安航空「ピーチ」、共食い覚悟の離陸 :日本経済新聞
既に2月に会社発足した全日空と香港の投資ファンドの合弁の格安航空会社(LCC)のA&Fアビエーションが、愛称名「ピーチ」を発表、同時に社名もピーチ・アビエーションと改称し、エアバスA320の機体デザインも発表しました。LCC向けに着陸料ディスカウントを表明する関西国際空港をベースに、12年3月に福岡と新千歳へ、5月には韓国の仁川への就航を予定しております。いよいよ日本もLCC時代到来となるわけですが、その影響は多岐に亘ると考えられます。特に就航便が少ない地方空港にとってはチャンスとなりますので、今後着陸料ディスカウントによる誘致合戦も見込まれます。となると、日経の記事で心配している全日空本体との競合もさることながら、新幹線との競合も視野に入ります。ツアーバスが夜行列車を追い込んだように。2014年着工で2027年開業を目指す中央リニアの事業計画にも当然影響が出ると考えられます。

逆に全日空などの既存キャリアにとっては、ただでさえ新幹線の延伸開業で市場を奪われる上に、高齢化や震災の影響で上得意のビジネス客が減少している現状げは、仮に共食いになっても動かないことのリスクの方が大きいという判断となるわけで、LCCは定着すると考えられます。そのときに整備費用の元を取るために高料金となるリニアに競争力があるのかどうかは微妙です。特に時間を金で買うビジネス客の減少は、かなりきつい話になります。

尤も最近ではJR東海も東海地震のリスクを強調するようになっており、特に新幹線、在来線国道1号、東名高速が寄り添う由比海岸の津波被害を考えるときには、別ルートの輸送路確保の必要性は確かに高いわけですが、なぜ技術開発途上のリニアでなければならないのか、より大きな輸送力を確保でき、電力消費も少ない鉄軌道式ではいけないのかは不明です。ま、当面14年の着工後も長大トンネルの掘削などが中心でしょうから、情勢変化に対しては鉄軌道式へのシフトもオプションとして捨てていないようですし、JR東海の民間単独事業ですから、政治に左右されずに決断できる点は評価できます。整備新幹線として国と自治体の支援を受けたために駅を作りすぎた九州新幹線の轍を踏むことはないわけです。

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Sunday, May 22, 2011

どこまで続く絶好調の大阪キタの陣

JR西日本が絶好調です。

JR西の旅客需要上向き、5月の運輸収入0.5%増加  :日本経済新聞
3月こそ震災による自粛ムードで8.6%減と振るわなかったものの、その後回復基調となり、5月では19日までの速報値で山陽新幹線の乗客数が1%減ながら予約数の伸びが大きく、回復基調が鮮明です。

加えて5月4日グランドオープンの大阪ステーションシティも好調で、ノースゲートビルの三越伊勢丹とファッションビル「ルクア」の18日までの1日あたり来店客数が37万人で、目標の20-30万人を大きく上回る好調ぶりです。関西の消費者に伊勢丹流のブランドの壁を取り払った自主規格売り場の訴求が功奏したようです。

既に増床オープンしたアクティ大阪改めサウスゲートビルの大丸も好調で、4月実績で68%増です。もちろん三越伊勢丹の開業や、遅れている梅田阪急の増床オープン後の実績を見る必要はありますが、ユニクロや東急ハンズなど新手のテナント導入や、低価格惣菜を扱うデパ地下などで差別化が図られており、棲み分けは考慮されております。

とはいえここ数年の大阪地区のデパートの増床合戦は凄まじく、心斎橋では一旦撤退したそごうが2005年に再オープンしたものの4年で閉店し、大丸が引き継いで新館となりましたが、大丸自身がそごう開店時に増床しており、増床に見合う売上が取れているとは到底思えない状況です。加えて今年に入って南海難波駅の高島屋大阪店も増床オープンしてますし、阿部野橋では近鉄が高層ビルを建設中で、2014年に近鉄百貨店あべの店を日本一の売り場面積でオープンさせる予定ですし、構想では阪神百貨店も高層タワーとして建て替えが計画されるなど、明らかなオーバーストア状況です。増床合戦で売り場が1.5倍に拡大しても、売上が1.5倍になるわけではないでしょうから、むしろ生産性は下がることが懸念されるわけで、喜んでばかりもいられないのが現実です。

ただし百貨店の好調は大阪に限ったことではなく、大丸神戸店も4月は6.3%増と好調で、特に婦人衣料が2桁のプラスと、総じて阪神地区の百貨店が好調です。もちろん阪急神戸店の撤退などがあったわけですし、観光客の減少で京都地区はマイナスなど、百貨店全体ではまだら模様ではありますが、婦人服の好調にヒントがあります。実はこれ、大局的には震災の影響と見られうのです。

というのは、首都圏の百貨店が震災の影響を受ける中、合従連衡で大規模化された百貨店各社の品揃え戦略に異変が生じているのです。衣料の場合、色やサイズなど豊富な在庫があればこそ、売り場での提案が実を結ぶわけですが、売上規模の関係で関西地区の百貨店は必ずしも十分な品揃えができていなかったために、売り逃しが起きていた可能性があります。それが震災で首都圏店舗の不振が表面化し、在庫の関西シフトが起きた可能性があります。同様のことは福岡天神地区の三越、岩田屋、大丸の各店舗でも起きているようで、博多駅の阪急百貨店進出に係わらず売上が落ちていないということで、ちょっとした椿事と言えるかと思います。

ただしこれが震災に伴う一時的な現象であるとすれば、震災復興と共に元へ戻り、大増床で拡大した売り場の維持費がのしかかることにもなるので、ぬか喜びは禁物でしょう。とはいえ電力事情のこともあり、首都圏の百貨店の売上が戻る保証はありません。むしろこれを機に首都圏エリアのターミナルの商業的な空洞化につながる恐れも無きにしも非ずです。実際、三越は新宿店の売り場を半減させてますし、池袋では撤退してヤマダ電機に譲っており、有楽町西武も撤退し、後継テナントにJR東日本のルミネが入る予定です。当ブログで過去にも取り上げた渋谷の再開発にしても、前途は不透明です。

大都市圏の中心市街地でも空洞化を心配しなければならないのは、ひとえに高齢化の影響です。高齢化そのものの問題というよりは、リタイアメントの進捗で生産年齢人口が減少し、地域の人たちが受け取る賃金総額が減少するわけですから、よほど現役世代の収入が大幅アップでもしない限り、消費ブームは起こらず、むしろ売り場維持のコストに圧迫されて大規模店舗が維持できなくなるわけです。

その影響が真っ先に出たのが百貨店業界であり、現在、三越伊勢丹HD、J.フロントリテイリング、H2Oリテイリング、そごう・西武の4陣営にほぼ収斂されてきております。つまり空洞化は既に始まっていて、規模の経済で対応せざるを得ないところまで来ており、資本関係のない提携や共同仕入れも含めれば、その他の伝統的百貨店や電鉄系百貨店も例外ではないわけです。

そういった観点から改めてこの大阪キタの陣を見直すと、やはり先行きに不透明感が漂う話になります。確かに従来は品揃え制約で売上が取れていなかったという要素はあるとしても、それによるプラスは結局知れてます。逆に同じ系列の百貨店は全国どこでも似たような売り場になるわけで、結局勢いのある家電量販店に店を譲るとかユニクロなど勢いのあるテナントを取り込むかといった話になるわけですね。

尚、先日のイオンによるパルコ争奪戦も同様の文脈で見れば理解しやすい話です。もはや大都市中心部の立地優位だけでは商売できない時代になったということです。結局都心部でも家電量販店や製造小売りのファストファッションなど、またパルコやルミネのようなファッションビルでも、戦略的なテナントリーシングで鮮度を保持できるところだけが生き残るという流れになると見られます。その意味では駅ビル中心のルミネにとっては、駅から離れる有楽町マリオンへの出店は試金石です。

ま、というわけで、製造業と同じく小売り流通分野でも既に供給過剰が顕在化しているわけで、巷間デフレと言われる現象ゆえに、再開発で商業ビルの売り場面積が拡大しても、それに比例する売上は得られず、生産性を下げてしまうわけです。それを突破するには、消費者が積極的に購買行動を起こすような新しい提案がなければならないわけですが、それがつまるところ付加価値というもので、付加価値率を高めることは、従業員に賃金で還元することを通じて、消費者の購買力を高めるわけです。

その意味で大阪のオーバーストア状況はいずれバーゲンの嵐を生むことになりかねません。大ドームで覆われた橋上駅舎のコンコースや時空の広場など、ゆとりの空間を演出しながら、ワゴンセールが日常化する光景が目に見えます。バーゲン合戦は結局派遣店員依存などの形で雇用を圧迫し、回りまわって消費を冷やします。

あとノースゲートビルの北に拡がる梅田貨物駅跡地開発が本格化すれば、オフィスも過剰となるわけで、大阪駅の求心力でどこまでテナントを集められるかは心許ないところです。それをてこ入れする計画や構想は幾つかあります。

1つは梅田貨物駅廃止後も残る梅田貨物線の立体化で、地下化の上ルートを東へ振り、ノースゲートビル前の北口広場近くに地下駅を設置するものです。このルートはくろしおやはるかが利用しており、特に関空との直結ルートとなることで、ビジネスユースを掘り起こそうということですが、地下新駅の完成時期は明示されておりません。というわけで、大阪府では新大阪とJR難波、南海難波両駅を結ぶなにわ筋線の構想を推進したいところですが、事業費が膨大で計画は進んでおりません。しかも3月改正で大阪環状線の西側区間は15分ヘッドダイヤとなり頻度が下がっている状況で、ショートカット新線を作ることに同意は得にくいところです。

あと大阪市では市営地下鉄四つ橋線を貨物駅北端の阪急中津駅を経て十三まで延伸する構想を持っており、都市鉄道等利便増進法による国土交通省の調査でも有望とされましたが、西梅田駅北方は阪神本線が支障しますから、現実的には難しいところです。実際その後話は進んでおらず、五里霧中と言うべきです。キタ地区では京阪中之島線の低迷でただでさえ再開発に暗雲漂うだけに、新線建設で起爆剤にするという発想だけでは無理があります。

震災で低迷する東日本の消費を尻目に、好調な大阪の百貨店ですが、先行きは不透明です。電力問題でも浜岡の運転停止で急遽東電エリアへの電力供給を余儀なくされ、市営地下鉄では減便で対応を予定するなど、電力問題も影を落とします。ただしこれ要注意なニュースです。

電力不足問題に関しては、なぜ電力オークションをしないのかという指摘をいたしました。実は仕組みはあるんです。日本卸電力取引所(JPEX)という機関がありまして、特定規模電気事業者(PPS)が電力を調達したり、電力会社間で越境取引をしたりするインフラですが、3月14日に東電からJPEXに「計画停電のために電力供給できない」という申し入れがあり、それ以来東電エリアの取引は停止しており、PPS各社はやむなく東電から直接電力供給を受けている状況です。

メディアでは取り上げられておりませんが、早い話98年に始まった電力自由化を潰しにかかったということです。当時既に発送電分離の検討がされながら、電力会社の反対で潰され、申し訳程度に大口電力限定で越境給電と、PPS事業が解禁され、それを支える市場インフラとしてJPEXがスタートしたものの、電力会社の送電線利用にかかる高額な宅送料もあって利用は伸びず、電力需要の僅か1%程度の扱いしかない状況でした。それでも自家発電設備を保有する大口需要化にとっては、バックアップ用で稼働率の低い設備の有効活用の観点から参加した企業も多く、また新市場に足場を築きたい商社も取引に参加していたのですが、福島第一原発の事故でPPSが存在感を増すことを嫌って潰しにかかった疑惑があります。

大手製造業などで保有する自家発電設備の合計出力は6,000万kwを算え、優に東電の出力総量に匹敵するレベルです。もちろん元々バックアップ用の自家発電設備で安定稼動が可能かどうかは微妙ですが、JPEXで市場取引をすれば、ピーク時の電力価格が上昇することで、大口需要家に電力利用の見直しを自然に促しますから、結果的に計画停電のような荒っぽいことをしなくても、大停電は防げたと考えられますが、そうすると安定供給に支障するとして電力自由化に反対してきた電力会社の立場がなくなりますし、何より原発が止まれば電力不足になるというロジックも通用しなくなります。この辺の話は裏が取れていなかったので踏み込みませんでしたが、東電の要請でJPEXの取引が停止したという事実を知りましたので、改めて言及します。

この問題では東電の言い分を鵜呑みにして計画停電にOKを出した政府の責任も重大です。こんな政府がなぜか今になって発送電分離を言い出したのは面妖です。しかも議論はこなれておらず「今から検討する」というのは、明らかに東電救済策に対する党内の反論封じの意図ありありです。今まで散々電力自由化を潰してきた東電が弱っている今やらなかったら、やる時はないです。そもそもやる気がない証拠です。それにしても1民間企業にここまで振り回される政治って-_-;。

そして東電の指定席だった業界団体の電気事業連合会のトップに関電の八木誠会長が就任し、東電救済の新機構への負担金問題で政府に注文をつけておりますが、実は「株主から訴えられないように法律で強制してくれ」という趣旨であり、東電が弱って業界盟主の立場にある現状は居心地が良いようです。やはり発送電分離など電力自由化は潰したいので、東電には破綻して欲しくないわけですね。

そういう意味で、東電救済スキームを決めた時点で、政府には電力自由化の意思がないことが明らかです。ホント腐りきってますね。

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Saturday, May 21, 2011

震災でサプライチェーンにサプライズ

19日朝、内閣府は1-3月期のGDP速報値を発表しました。

1~3月期の実質GDP、年率3.7%減 大震災響く  :日本経済新聞
実質で年率換算-3.7%と低い数字となり、四半期では2期連続のマイナスとなりました。ただし震災の影響をより多く反映させるために、推計方法を一部変更しており、個人消費住宅投資でマイナスが大きく評価されている点は要注意ですが、傾向は見て取れます。

注目すべきは民間在庫の減少です。サプライチェーンの寸断で生産に支障が出た結果、手持ち在庫を取り崩す形となったもので、GDPの寄与度はマイナス0.5ポイントと成長率を押し下げました。鉱工業生産指数で見ると、以前のエントリーで2月の速報値96,1に対して11ポイント以上の低下予想と指摘しましたが、その後2月の改定値が上ぶれして97.9となった一方、3月の速報値はマイナス15.9ポイントの82.9となり、2月の数値が良かった分と併せて落差が大きくなり、結果的にリーマン後を大きく下回りました。供給力の低下は予想以上だったわけです。

思い出されるのが2007年の中越沖地震での自動車メーカー協力体制ですが、今回はこの手が使えませんでした。被災地域が広大で、被災企業も多数にのぼり、1社にマンパワーを集中させれば済む状況ではなかった結果ですが、同時に日本のサプライチェーンの弱点がはっきり見えてきました。

元々日本企業のサプライチェーンマネジメントの強みとされてきた下請けピラミッド構造で、二次三次と遡っていくほど企業数が増えて企業規模が小さくなる構造でした。つまり多数の中小企業によって支えられ、同じ部品や素材が複数ルートで供給される結果、非常時の代替調達も容易だったはずが、下請け企業が価格競争で疲弊する中、より安価な部品や素材の調達に動いた結果、遡った先のブラックボックスに巨大企業が隠れていたというものです。特に半導体や素材で顕著ですが、半導体でいえばルネサステクノロジーですが、素材に関してはさまざまな企業が絡みます。

結局国際競争力のためのコスト削減の掛け声の中、川上でコスト吸収のために規模の経済がつき有された結果ですから皮肉です。以前取り上げた鉄道用直流モーターのカーボンブラシ問題でいえば、最終加工を行う企業は福島県浪江町にありますが、素材のカーボングラファイトは茨城県日立市の日立化成が手がけており、モーター用カーボンブラシ以外の用途にも出荷されているのですが、モーターの種類によって形状が異なり多品種少量生産を余儀なくされる薄利な最終加工は、中小企業が担う構図が見えてきます。同じ構図が震災でかなり広範に存在することが明らかになったのです。つまりカーボンブラシでの日立化成に相当する企業の工場の被災でサプライチェーンが止まったわけで、ピラミッド型と思われたサプライチェーンが実は樽型だったというサプライズ^_^;です。

別の例としては、日本製紙の主力工場が複数被災した結果、一部の雑誌の発売延期や休刊が起きたり、牛乳パック不足で牛乳が消えたり、茨城県鹿嶋市のエチレンプラントの被災で、食品包装フィルムなどの化成品の供給が止まって加工食品が品不足になるなど多岐に亘る影響が出ました。

中越沖地震のときのリケンのピストンリンクは、素材の問題ではなかったわけで、マンパワーの集中投入で復旧を早めることができたわけですが、今回の震災では多数の素材企業が被災し、結果的に中間加工を担う下請け企業も止まるという構図であり、機械ものと違って元請け企業が助けることもできず、また素材メーカーの寡占化で代替品が手に入りにくい状況も手伝って、生産を再開しても稼働率が低いままという状況が長引いているわけです。その結果が鉱工業生産指数の低下に顕著に現れており、おそらく回復も順調には進まないでしょう。

考えてみれば日本の伝統的な系列取引の枠組みの中で、元請け企業が下請け企業にコスト削減を求めつつ、高い品質を要求しているわけで、下請け企業としては原材料に安価で高品質を求めるわけで、それに応えられるのは大規模な素材メーカーに限られるわけですから、樽型サプライチェーンとなるのは必然といえます。同時に下請け企業は元請け企業との濃密な関係を維持する必要があり、自らの利益を削ることを余儀なくされます。なまじ技術力があるから中国など海外企業に取って代わられることもなく、付加価値率が低いために生産性は低位安定となり疲弊し続けたといえます。

近年、工業製品の生産に係わる分業体制が大きく変化しており、欧米では「水平分業」とか「モジュール化」とかが言われてきました。例えばPCはIBMがアーキテクチャを公開したことで、MPUやチップセットやメモリーなどの汎用部品を組み合わせて最終製品となります。加えてOSはソフトメーカーのマイクロソフトかリリースするという形で水平分業が徹底しております。

こういったことが成り立つためには、各パーツ間のインターフェースが標準化されている必要があるわけですが、一方でパーツの互換性があるので、災害や企業破綻などで供給が滞っても、直ちに代替品が調達できるわけです。一方で技術情報は公開されているので、価格と品質のバランスで競争が起きることになり、低価格化と品質向上が常に求められます。

その一方で日本企業は、系列取引で元請け企業が技術仕様を示して下請け企業がそれに適合する部品を納入する形で、事前に両者間で情報をやり取りして、閉じた関係の中で安定的な取引が行われる形となります。これを「垂直統合」とか「インテグラル(すり合わせ)型分業」と呼び、日本企業の強みとされてきましたが、今回の震災でリスクが顕在化し、弱点となったわけです。また水平分業の進捗で技術革新が加速したことで、垂直統合を維持することの優位性は急速に低下しつつあります。下請け企業の付加価値減少、低生産性は構造要因によるわけです。

そういう意味では、今回の震災で落ち込んだ日本の生産能力を単純に回復させることの意味は考える必要があります。競争力維持のためのコスト削減が、結果的に樽型サプライチェーンを生みリスク対応力を失わせたことを織り込んだ産業復興でなければ意味がないわけです。つまりは水平分業型のサプライチェーンにシステムチェンジできるかどうかが課題となります。

早速自動車工業会は、部品の規格統一の検討を始めたようですが、これはとりもなおさず競争の激化を意味しますので、完成車メーカーに留まらず部品メーカーを巻き込んだ合従連衡の契機となりますし、また製造拠点の海外移転の契機にもなり得ます。その中で存在感を示せる企業がどれだけあるか、課題は大きいと言えます。

このあたりはナイーブな議論が多くて閉口しますが、生産拠点の海外移転が日本経済に影響するのは、あくまでも雇用の減少を通じて内需が冷えるからであって、供給力の減少が直接経済を冷やすわけではありません。そして元々高齢化による生産年齢人口の減少が内需を冷やしている中での話であり、巷間いわれるデフレ現象が深化することと表裏一体でもあります。生産の空洞化が問題なのではなく、消費の空洞化が問題なんです。

その意味では、当面被災者対象の生活保護拡充のようなことが考えられて良いと思います。被災者として生きるということは、失ったものを取り戻す行程でもあるわけで、それを助ける制度の意味は大きいといえます。津波被害の結果高地移転などの防災復興の必要性がある一方、それに伴う地元の意見主役には時間がかかりますから、復興需要が出てくるまでには時間がかかると見られるだけに、つなぎの生活資金供給は重要です。更に一部で言われるベーシックインカムの議論へと繋げていければ、震災が日本を変えるきっかけにもなり得ます。この論点は子ども手当や最低補償年金の意義にも通低しますから、本来民主党政権として取り組みやすいはずですが。

もう一つ二重ローン問題ですが、そもそも日本の住宅ローンが欧米では常識のノンリコース・ローン(非遡及型ローン)ではない点が問題を複雑にしております。被災して瓦礫となっても、個人の住宅や自動車を簡単には撤去できないことが、被災地の復興の足かせとなっております。ノンリコース・ローンならば、所有者が所有権を放棄して担保を差し出せばローンが消滅しますから、瓦礫の撤去も迅速に可能です。これを機に見直しすべきでしょう。逆に言えば現行のローン制度では災害に遭うとゴミになるものに対して契約者が最後まで責任を負う仕組みの矛盾と捉えるべきでしょう。逆に現在唯一ローンが消滅するケースは、ローン契約者が死亡した場合ですが、これは契約者に死亡保険に加入させて保険料をローン金利に上乗せしているから可能なんですが、それゆえにローンを提供する金融機関は取りっぱぐれを心配しなくて良いという供給者側の論理に基づくものです。同時に現時点で発生した二重ローンに関しては、政府が買い取るなどして対応すべきです。

というわけで、製造業中心の産業復興は自ずと限界があります。それに電力の制約も加わるわけですから、省電力型の高付加価値産業の創出に知恵を絞る必要があります。基本的に内需関連産業で高付加価値を追求することが必要ですが、例えば自然エネルギーによる小規模発電などが有力候補となります。国内向けサービスは海外移転とは無縁ですし。

実際には省電力というと省エネ家電やLED電球のようなモノ消費と結びつけて捉えられてしまい、新たなエコポイント制度などの提案がされますが、エコポイント制度が何をもたらしたでしょうか。結果的に大画面の薄型TVの普及を助けたかもしれませんが、それで省電力になったわけではなく、サイズが大きくなったことで消費電力の絶対量の減少はわずかですし、冷蔵庫も大型化し、リビング以外の部屋にもエアコンが付くなど、世帯あたりの家電品の点数は増えており、個々の家電品の省エネ性能は食いつぶされております。

加えて4月以降の薄型TVの売れ行きが止まり、結果的に店頭価格が3割減となって、結果的にエコポイント付与分を超える権利落ちとなりました。それでも買い替えが進んだために売れないということで、例えばシャープは堺と亀山の工場の稼働率を落としております。これはソニーとの合弁の製造部門へのソニーの出資が見送られてパネルの引き取りの約束が反故にされた結果ですが、そもそもが市況の悪化によるものであり、表面上は震災の被災企業並みの稼働率低下を余儀なくされております。つまりデフレが進行しただけというわけです。

上記と関連しますが、震災後の企業倒産件数を見ると、9割が被災地以外という意外な結果となっております。それだけ震災によるサプライチェーン寸断の影響が大きかったということでしょう。

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Sunday, May 15, 2011

東電救済で始まる新たな失われた10年

枝野幸雄官房長官といえば、98年の金融国会で民主党案丸呑みの形で時限立法の金融再生法を成立させ、官僚や既得権擁護派議員の影響を排して気を吐いた政策新人類 の1人でした。銀行の破綻処理を定めた金融再生法は、その後預金保険法の改正で破綻処理法制として恒久化されましたが、未だに金融危機対応の上乗せ保険料が継続し、予定されていた銀行の信用度に応じた保険料の見直しは実現しておりません。

当時は長銀と日債銀という長信銀2行の破綻処理が待ったなしの状況で、新生銀行とあおぞら銀行に継承され、同時期に成立した早期健全化法と併せて都銀長信銀信託銀などの大手銀行こそ集約が進んだものの、地方金融機関などは相変わらず小規模乱立状況で、そもそも預金保険料の格差が銀行間の競争を促すはずの仕組みでしたが、小泉政権の郵政民営化と政権交代後の見直し議論の中で埋没し、折角既得権を遮断して成立した同法の趣旨は骨抜きです。まるで民主党政権の今を暗示するように。

官房長官、銀行に債権放棄促す 東電支援枠組みで  :日本経済新聞
東電の賠償のための公的管理スキームが民主党内で反対論が強かったことから、それをけん制する意味の発言だったようですが、完全にスベりました。東証で銀行株が売り込まれ、丁度11年3月期決算発表会見でメガバンク首脳は困惑を隠しませんでした。そりゃそうです。破綻処理しないはずの東電の公的管理で債権放棄は完全に制度の趣旨を逸脱します。

この人弁護士のはずですが、法律オンチ丸出しです。破綻処理しない融資先の債権放棄を進んで行う金融機関はあり得ません。そもそも東電のような信用力のある大企業にとって、銀行融資は資金調達の補助手段です。通常は自己資本+社債で資金の大半を調達し、銀行融資は長短のプライムレートなどの優遇金利を利用し、株式配当や社債金利の実質利回りに下駄を履かせる財務レバレッジが狙いで、無借金経営と言われるトヨタでも銀行借り入れは敢えて行います。

銀行は信用力に劣る中小企業や新興企業にリスクプレミアムを上乗せして貸すことで収益のバランスを取る形でリスクテイクします。銀行経営にとって、この融資ポートフォリオこそが利益の源泉であり、目利きが問われる部分です。大手企業向け融資では相対的に利益配分の薄い銀行に対して債権放棄を求めるならば、株主や社債を購入した投資家の責任を問うのは当然のこと、極論すれば株と社債を紙くずにしてからの話です。また債権放棄すれば東電の行内信用格付けも格下げを余儀なくされ、貸し倒れ引当金を積み増す必要があり、銀行の事業計画を狂わせます。枝野さん本当に金融国会の立役者?

一方で新機構を設立して東電の公的管理を行うスキームは、完全に預金保険法のコピーと言える代物で、原発保有の9電力会社に負担金名目で資金を拠出させる保険のような仕組みですが、負担金は原価に繰り入れられますから、「電気料金値上げは許さない」とする政府の説明はウソです。東電だけが負担する機構が立て替える賠償金の返済分となる特別負担金は、資産売却などのリストラで捻出することを念頭に原価繰り入れができない仕組みですが、この部分の説明を全体の説明にすり替える悪意を感じます。重複になりますが、負担金部分は電気料金に反映されます。反映されないのは東電のみが負担する特別負担金部分だけです。

で、結果的に賠償の原資としてリストラが求められ、賃金や役員報酬のカットが発表されてます。また保有資産として他社株式などの金融資産や土地建物などの不動産も売却対象として考えられますが、株式は取引先などとの持ち合い株が中心ですから、需給軟化で値下がりしてもある意味一蓮托生でよいでしょうけど、土地はそもそも発電所、変電所、送電線とその緩衝地帯など電力会社の事業に付随する部分は売るに売れないわけで、資産売却による賠償金捻出には限界があります。

加えて政府の言及する企業年金問題が難問です。JAL再建問題でも取り上げましたが、そもそも労働者の権利とされる企業年金の減額は、未払い賃金とされる企業年金の性格上ハードルが高く、例えば労使協議で合意したNTTの年金減額は厚生労働省が認可せず、裁判で厚労省に軍配が上がりました。年金減額は企業存続に係わるような事態に限られるという判断です。つまり破綻処理されない東電の年金減額は難しいわけです。

JAL問題でも紆余曲折はありましたが、自公政権時代には踏み込めなかった破綻処理にまで踏み込んで、政権交代を実感しましたが、今回はほぼ官僚の言いなりなのに、国民受けを狙って表面的な騙しがある分自公政権時代よりもひどいものです。何のための政権交代であったのか、思い返して欲しいところです。

政府の説明では東電の社債発行残高は5兆円規模で突出しており、破綻させれば日本の社債市場に混乱を招くというのですが、例えば日産自動車が震災後初の社債募集をして完全消化したように、社債は発行企業の信用力に依存するもので、東電の社債がデフォルトしたから他社の発行が難しくなるというのは大嘘です。もちろん社債を引き受けた保険や年金基金などの機関投資家は傷を負いますから、企業年金の利回りショートで負担増となる企業はあり得ますが、投資は自己責任原則が貫徹されるべきであることは言うまでもありません。少なくとも銀行の貸し手責任を問うならば当然問うべきです。この辺のグダグダぶりは自公政権以上かもしれません。

既得権を遮断して成立したはずの金融再生法も、実際の運用でグダグダになって、例えば二次損失を巡る瑕疵担保条項など盗人に追い銭のようなインチキが行われ、野党時代の民主党はそれを追及したわけですし、だからこそ政権交代しなければ折角の立法も骨抜きになると学習したはずです。自公両党は政権復帰を目指すならば妥協しちゃいけません。

あと電気料金問題には更に続きがあります。同様に総括原価方式が採用される鉄道運賃がここ20年ぐらいほとんど上がっておりませんが、国鉄民営化の成果であると共に、鉄道の場合は航空や自動車などとの競争環境の中で、値上げよりも原価の低減に経営の重点を置いてきたことが挙げられます。電力はといえば、戦後発足した9電力による発送電一体の地域独占事業として競争環境から隔離されております。

欧米では発送電分離は当然として、更に電力小売りに特化した配電事業まで参入自由となり、風力などの自然エネルギー利用を謳う新規参入事業者がシェアを伸ばし、結果的に自然エネルギー発電事業者の引き合いが増える形で伸びており、また不安定な自然エネルギーを売りやすくする仕組みとしてスマートグリッドが提案されているのですが、発送電一体の独占事業体である日本の電力会社の事業形態ではこうはなりません。競争があるから技術革新に投資され新技術が育成されるのであって、官が差配する競争回避的な無風状態では、現状維持の慣性が強くなり、結果的に技術革新を阻害します。

半世紀前に航空や自動車の発展でシェアを失う危機感が、東海道新幹線を実現させる原動力となったのであって、当時反対論が根強かったのですが、当時の国鉄幹部の突破力で実現しました。決して政府方針に従って計画されたものではありません。同様のことを電力事業で実現することが必要です。

東電の賠償支援の枠組みは、こういったことに一切踏み込まず、現在の電力の独占企業の業態を維持するものです。政府は賠償金を電気料金に転嫁しないことに問題をすり替えておりますが、停止した原発分の電力を賄う火力発電用の燃料費が嵩みますから、当然これは原価に繰り入れられ値上げ要因となります。加えて廃炉費用や事故処理費用なども当然発生しますが、前者は引当金が積まれているとはいえ、1基1千億円以上と言われる廃炉費用の実績値は不明で、引当金の充当だけで足りるかどうかはわかりません。

あと東電に限らず電力不足問題に付随して、大口需要家の減設問題がのしかかります。減設というのはザックリ言えば契約電力の切り下げで、電気料金が安くなりますので、自家発電の強化などでコスト負担がかかる大口需要家は当然実行するでしょう。結果料金収入が減って原価の固定費部分の比率がアップしますから、総括原価方式の下では値上げ要因となります。これは浜岡原発の停止で一転電力不足が心配される中部電力でも起こり得ます。

それと燃料費自体の値上がりも頭痛い問題です。ただでさえリビア情勢の不透明感から原油価格が上昇圧力にさらされる中、電力会社が火力発電用の燃料調達に動くことで更に値上げ圧力が増すわけですから、原価上昇で値上げ要因となるわけで、政府が何を言おうが電気料金が上がる傾向を押さえ込むことは不可能です。かくして東電を救うために余計なことをして、日本経済を負の連鎖に追い込むことになります。これが当ブログで度々指摘する「電力デフレ」のザックリとしたイメージです。

丁度バブル崩壊で懸念された銀行の不良債権問題の処理を先送りして失われた90年代となったように、電力問題が経済の足を引っ張る構図です。不良債権問題は、さまざまな制度面の支えでゼロ年代初頭にやっと出口が見え、欧米の住宅バブルと新興国の内需拡大に助けられて潤ったものの、リーマンショックで落ち込み、やっと回復が見えてきたところで、原発ショックで電力デフレとなり、結果的に10年代は新たな失われた10年が始まるという憂鬱な話です。

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Sunday, May 08, 2011

見える心見える思い

5/4付朝日新聞で、ウィキリークスから提供された米外交公電の公開と分析が掲載されました。ここではその真偽に立ち入るつもりはありませんが、少なくともアメリカ側が着地点として現行案に落ち着くと認識していた事実に注目しておきます。

asahi.com(朝日新聞社):県外移設「形の上だけ」検討〈米公電分析〉民主政権1 - ウィキリークス
つまり外交交渉はヤラセだったということです。見えてくる絵図は、日本から代替案提示→アメリカ側が拒否→その間に10年度予算案を社民党と国民新党の賛成を得て成立→政権への求心力高まり参院選単独過半数が見込め→5月連休明けにも連立解消→辺野古移設の現行案で決着、というものだったということです。

とはいえ結果的には普天間問題は国民の期待を高め、特に沖縄では移転反対の世論が高まり、到底現行案が実施できる状況ではなくなりました。結果的に鳩山政権の命取りとなり、引き継いだ菅政権にとっても難題のまま店晒し状態となっており、国民意識を弄んで行き過ぎた皮肉な結果です。

ウィキリークスによる米外交公電の暴露で日本関連のものは多数あり、昨年秋時点では一部しか公開されていなかったわけですが、実は日本関連で最初に航海されたのが、捕鯨を巡るもんだったのですが、日本のメディアは完全無視で、米ウォールストリートジャーナルで詳しく報じられております。日本語版の記事をご紹介します。

アイスランドが捕鯨緩和議論で日本の需要に期待―ウィキリークスが公電公開 - Japan Real Time - jp.WSJ.com
普天間問題と比べて日本政府の対応が全く異なるのが面白いところです。普天間問題では最初から着地点を示してヤラセ外交の芝居をしていた?のに対し、捕鯨では一貫してアメリカの要求をかわして居直る姿勢を見せている点です。

この問題では以前に別の観点から取り上げましたが、国際捕鯨委員会(IWC)で対立を深める日本とオーストラリアの関係修復を模索するアメリカが、捕鯨容認と引き換えに絶滅危惧種のナガスクジラ漁の全面禁止という落としどころを用意して、アイスランドによるナガスクジラの日本向け輸出を日本から断って欲しいという内容だったものが、日本政府の不作為で流れたという内容を補強する公電という位置づけです。つまり外交安保ではあれほどアメリカの言いなりに等しい政府の行動が、捕鯨問題では不作為による消極的抵抗という構図です。

またウィキリークスがこの問題を優先的に公開した理由は明白で、代表のアサンジ氏がオーストラリア人である一方、活動拠点としてスウェーデンやアイスランドに足場を築いてきたことから、捕鯨を巡る国際的な対立に終止符を打ちたい意思があったと推察されます。この問題ではアメリカ政府の意向に沿った対応をしたわけです。

頭痛いのは、これが日本政府のプライオリティを示していないことです。つまり沖縄県民の安全が日本鯨類研究所(鯨研)の捕鯨利権に劣後するということは、民主国家ではあり得ないわけですから、アメリカ外交筋から見た日本政府の姿勢の不可思議さが凝縮されているわけです。かくしてアメリカ政府は日本をまともな外交交渉の相手と見なさず、自国の国益に合致する部分で利用するだけとなるわけです。ジャスミン革命で倒れたチュニジアやエジプトと同じ扱いということになります。

そして今月6日に唐突に発表された中部電力浜岡原発の停止要請ですが、これも一説によればアメリカからの要請らしいということが囁かれてます。理由は、浜岡の3,4号機が福島第一の各号機と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)で、津波被害による電源喪失が起きれば、放出された放射性物質が偏西風に乗って東海、関東の太平洋岸の広範なエリアに降り注ぐことで、米海軍横須賀基地が機能を失うことを恐れたということです。

真偽のほどはわかりませんが、今回の要請の唐突さや、原子力安全委や原子力安全保安院などの機関に諮ることも、閣議に諮ることもせず、与党の意見集約もなくですから、かなり異常です。決断力に疑義をもたれている菅首相にそこまでさせる理由としては、アメリカ政府の圧力説にリアリティがあるわけです。当然政府は否定するでしょうけど。

実際、ただでさえ東電エリアの夏の電力不足対策が問われているときに、60Hz―50Hzの電力転換変電所3ヶ所は全て中部電力エリアにあるわけで、中部電力の夏の電力需給がタイトになれば、東電への電力融通が難しくなるわけですから、夏の電力需給計画を練り直す必要があるはずですが、十分な検討がされた形跡はありません。政府は同じ60Hzエリアの関電からの融通を考えているようですが、これとてすんなり進む話ではありません。案の定中部電力の緊急役員会で政府要請への対応を検討したものの、結論が出ませんでした。株主やステークホルダーを抱える民間企業としては当然の対応です。

また停止はあくまでも津波対策としての防潮壁の設置に2年かかるため、それまでの間の停止ということで、事後の運転再開が前提ですが、浜岡以外の原発の処遇については説明がなく、また脱原発とする場合の代替エネルギー問題や、今回露呈した9電力体制で電力会社間の融通がほとんど行われていないことが、原発事故に伴う電力不足問題を大きくしていることから、発送電一体の地域独占体制の是非や、原発を存続させるならば、原発事故のリスク管理を国に一元化するなども考える必要があります。その上で浜岡をどうするかというのが順序です。こういったことを一切明らかにしないままの浜岡原発停止要請は、英断でも何でもありません。

実際には地方の首長や議員の選挙でも脱原発を言わなければ当選できなくなると考えられ、全国規模の脱原発となれば、電力不足は今後全国規模の問題となるのは既に指摘しております。実際先月の統一地方選挙後半の4月24日の世田谷区長選で社民党の元代議士の保坂展人氏が脱原発を争点に選出されました。余談ですが、自民党推薦の花輪智史候補は、築地市場の豊洲移転問題で都議会民主党から会派離脱して豊洲移転に道筋を作った裏切り者で、石原知事も応援演説に入りましたが、思わぬ液状化で毒水噴出と相成りました(笑)。

ま、救いは中部電力エリアは元々大手製造業の集積地域で、トヨタ、ホンダ、スズキ、三菱重工などの大企業が多く、省電力割当をしても、自家発電の導入などの代替策も採れるので、案外どうにかなるとも言えますが、それは電力会社が大口顧客を失うことですから、いよいよ電力デフレに突入するかもしれません。かつて銀行の不良債権問題が日本経済を停滞させたように-_-;。

とはいえ浜岡原発の場合、近くに東海道新幹線と東名高速道路が通っており、浜岡原発が万が一の場合、その影響は福島県浜通りの比ではないこともまた確かです。ならばそのように説明すれば良いのですが、その場合でも夏の電力需要についての見通しは明らかにすべきですね。

というわけで、あらゆる状況証拠が、国民のための決断ではなく、自己保身であることが明らかです。以下ac広告風に―

心は見えないけれどシタゴコロはまる見え
思いは見えないけれど思い上がりは見るに耐えない(爆笑)

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Wednesday, May 04, 2011

尼崎脱線事故で遺族とJR西日本が共同で検証

JR福知山線尼崎脱線事故から6年経ち、遺族とJR西日本による合同検討会の報告書が出されました。異例の加害企業と被害者遺族との認識の共有の試みですが、問題は尚残ります。

神戸新聞|社会|脱線事故、日勤教育やダイヤ原因 遺族とJRが検証
リンク先の記事のチャート図(拡大可)がわかりやすいですが、問題ははっきりしております。とりあえずJR西日本も懲罰的処分や余裕のないダイヤで運転士にストレスを与えていたことは認めたものの、問題は予見可能性についてです。

現在山崎前社長が業務上過失致死傷で公判中ですが、危険を予知しながらATS未設置による不作為という公判事由に無理があることは指摘しております。案の定国鉄やJRのOBから「ATSは誤入線を防ぐもの」で「速度制限のために設置するものではない」という証言が相次ぎ迷走中。もちろん国鉄時代のATSとATS-Pは別物で、公判での取り上げ方が問題です。中には「検事に調書の内容の訂正を求めたが、聞き入れられなかった」という証言まで出る始末。郵便不正事件や陸山会事件でも似たような話があったような^_^;。検察は検察で問題のある対応です。

そういうわけで合同検討会でも事故の予見可能性は最後まで認めず、民営化による利益至上主義の弊害という指摘も認めなかったわけで、遺族側には消化不良のある内容ですが、加害企業と遺族で意識を共有する試み自体は画期的なものではあります。

とはいえJR西日本側も認めるように、未知のリスクの洗い出しが組織的に実現できなかったことは重大です。いわゆるヒヤりハッとと言われるincident情報が現場からもたらされ、改善策が講じられることで、重大事故を未然に防ぐことが重要です。やや挑発的な物言いをすれば、JR西日本ほどの大企業ならば、107人の死亡事故でも賠償能力があるため、痛みはいずれ忘れ去られる可能性があります。

incidentとはaccident(事故)には至らないけど大事に至る可能性のある小事ということで、わかりやすくいえば福島第一原発事故で問われた津波対策の不備や冷却電源喪失の可能性など、中越沖地震で停止した柏崎刈羽原発でも指摘されたようなことです。このように単独では賠償能力を超えるような事故に発展する可能性すらるわけで、未知の事故に備えることの重要性は改めて問われるところです。仮にリスク対応がコスト面で難しいならば、JR西日本が行ったスピードダウンのダイヤ改正のような撤退も視野に入れるべきことがらです。

というわけで、JR西日本の責任を問うという意味では中途半端な状況は続くわけで、法人企業の刑事訴追を制度化することは避けて通れないところです。そうなれば当然東電も原発事故の責任を刑事司法に問われることになると思います。

改めて6年前の尼崎脱線事故を振り返ると、福島第一原発事故によく似た構図が見えます。例えば1号機は経年40年の老朽炉で、法廷使用年数を迎え、直近の定期点検時に10年の期間延長が認められた矢先の事故ですし、3号機はMOX燃料を用いたプルサーマル運転が行われていたのですが、核燃料はリサイクルできるという核燃料サイクルの虚妄は伏せられたままの見切り発車でしたし、それで定期点検で休止中の4号機の使用済み核燃料プールに大量の燃料棒を抱え込み、冷却用電源の喪失で水素爆発を起こすなど、負の連鎖が続くわけです。

中部電力浜岡原発では、代替炉の6号機新設と引き換えに1号機2号機の廃炉を決めました。出力の小さい老朽炉を無理に延命させるリスクを考慮したものと思われますが、是非はともかく同じように老朽原発を保有しながら、異なった判断をしたわけです。ま、福島の事故で6号機新設は難しくなりましたが。

というわけで、東電の事故も事後の検証をきちんとやる必要がありますが、現状では上記のようにそれが難しいわけで不安です。せめて経営責任と株主責任と投資家の自己責任と債権者の貸し手責任はきっちり取ってほしいのですが、それもウヤムヤになりそうです。

もちろん原発推進や核燃料サイクルは国策として進められてきたわけですから、国の責任も問われます。また事故対応でもさまざまなミスをしております。例えば同心円で設定した避難区域と屋内退避区域ですが、初期段階で大きめの円で避難指示を出し、事後的にモニタリングして基準を下回る地域から避難解除するのではなく、事態の悪化が明らかになってから見直されるというのはおかしなことです。結果IAEAに20km圏外の飯館村が避難基準相当の土壌汚染を指摘される始末で渋々追加の避難指示という不始末です。

加えて先日内閣参与の小佐古氏の涙の辞任会見で問題視された居住エリアの被曝量を20ミリシーベルトへの緩和措置ですが、一応国際放射線防護委員会の基準に準拠しているとはいえ、元々は原子力事故などの非常時に、被曝量の制約から作業員が作業時間を確保できないことに対応した基準であって、長時間被曝が続く居住エリアの基準に当てはめるのは間違いなんですが、議事録も公開されないまま決めてしまいました。政府の責任を問うのは、法人企業よりも難しいのですが、騙されないようにしなきゃいけませんね。

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