アキカンのパペットサミット
フランスのドービルで開かれたG8サミットが閉幕し、原発のIAEAの安全基準強化や条約批准推進などが採択されました。菅首相の発言に注目が集まったものの、原発維持と自然エネルギー推進を並べて、結局何も語っていないため、参加各国からはため息が聞こえます。
そもそも原子力発電は原子力の平和利用というストーリーに乗っているので、安全保障問題と切り離しては成り立たないのですが、概して日本の政治家の議論はナイーブなものばかりです。これは反原発派のみならず、時々思い出したように語られる保守派の核武装論も同様で、そもそも日本やドイツなどの旧敵国の核武装を阻止する目的で設立されたのがIAEAで、日本もIAEAの核査察を受け入れる形で核施設を整備し運営してきたわけで、政治家の核武装発言はそんな原発推進の機運をぶち壊す話なんですが、同時に沖縄返還交渉での核密約でも有事の核持ち込みが事実上フリーパスにはなったものの、アメリカの国防関係者には日本の核武装の意欲を印象付けており、北朝鮮の核問題でも、アメリカの一番の関心事は北朝鮮の核武装を許せば、軍事バランス上日本の核武装を認めざるを得ないことを"懸念"し、アメリカの核の傘の下なら容認という議論まであったのですが、これらの議論は9.11以後は後退し、むしろ核がテロリストに渡るリスクが重要視されるようになりました。
特にオバマ大統領は9.11で核抑止力が効力を失ったとの認識に立ち、冷戦構造を引き摺った核戦力の削減に前向きであると同時に、原子力の平和利用、つまりアメリカ中心に核物質の厳格な管理を前提とし、冷戦の負の遺産であるロシアの濃縮ウランを原発用燃料として民生転用するという形で、従来の文脈に乗っかりつつ核軍縮という政治的果実をもぎ取ろうという野心の産物でした。
それは同時に気候変動枠組み条約への復帰の重要なシナリオでもあったのですが、クライメートゲート事件で発覚した科学者のデータ捏造のスッパ抜きでコペンハーゲンのCOP15が不調に終わり、今また福島の事故で台無しになりそうなんですから、オバマ大統領の腹の内は怒りに煮えくり返っているわけですが、我がノー天気なアキカン宰相は意に介さず、自然エネルギー利用を30%とぶち上げたかったようですが、同行した取り巻きに止められたようです。サミットは夢を語る場ではないんですが-_-;。菅さんさぞかし言わされている感を持ったことでしょう。
一方で緊迫するリビア情勢は予断を許さない状況ですが、サミットの議論でこちらが話題になると沈黙してしまうアキカン宰相は、結局議論に加われなかったということです。元々日本の原子力政策は70年代のオイルショックで推進に大きく舵を切ったように、元々自給率の低いエネルギーの多様化を狙いとしていたのですが、実際は重質油で相対的に低価格且つ精製過程でさまざまな副産物が得られる中東産原油への依存度はむしろ高まり、今回の事故で原発の依存度が下がる分も加味すれば、リビアなど中東の民主化ドミノと相まって原油価格上昇葉止められません。FRBの量的緩和第2弾(QE2)終了で期待がかかるアメリカの景気回復にもガソリン価格上昇で足を引っ張る形となっており、G8サミット参加各国は、口には出さないけど中東情勢と日本の原発事故をリスクとして並列に認識している状況です。その中で脱原発に舵を切ったドイツの動きが注目されましたが、ホスト国のフランスをはじめとする原発推進国との決定的な対立はぜず、とりあえず旧型炉の廃炉という手順で現実的な対応をしております。意味不明の浜岡原発停止でお茶を濁す日本とは対照的です。
そもそも日本政府のガバナンス能力には疑問符が持たれておりましたが、21日に発覚した福島の1号機の3月12日の海水注入の一時中断問題で国会が紛糾しましたが、26日になって東電はあっさりと海水注入を継続していたことを発表しました。いよいよ政権も炉心溶融しているかのごとくです。元々海水注入中断の情報の出方も変でしたが、どうも経産官僚による野党議員への情報リークがあったようで、自民党は菅首相の不信任決議案提出のネタにしたかったようです。最高裁による09年総選挙の違憲判断で小選挙区の区割りを見直さない限り、解散もできないし、被災地では統一地方選も見送られ、事実上選挙ができる状況にはないなど、現状での不信任案提出は元々大儀が乏しかっただけに飛びついたようですが、追求する方もお粗末です。
とはいえ一番問題なのは東電です。あれだけ国会が紛糾しながら、5日も経ってから訂正したことについて問われ、IAEAの査察を理由に挙げておりました。つまり政府や政治家や国民は騙せても、IAEAは騙せないということを白状したわけです。JPEXの取引停止といいこの問題といい、どこまでも人を馬鹿にしております(怒)。
まるでお笑い芸人のパペットマペットのウシくんとカエルくんのコントを見ているようです。このコントは黒子が居ないことがお約束とされることで、実際には居る黒子くんとのギャップが笑えるんですが、日本の政治ってそんなレベルなんですね-_-;。
一方で中央リニア新幹線が整備新幹線へ昇格し27日に大畠国交相がJR東海に建設を指示しました。とりあえず1歩前進ではありますが、以前にも指摘したとおり、三大都市圏の高齢化加速でその前途は多難です。加えてこんなニュースもあります。
全日空系の格安航空「ピーチ」、共食い覚悟の離陸 :日本経済新聞既に2月に会社発足した全日空と香港の投資ファンドの合弁の格安航空会社(LCC)のA&Fアビエーションが、愛称名「ピーチ」を発表、同時に社名もピーチ・アビエーションと改称し、エアバスA320の機体デザインも発表しました。LCC向けに着陸料ディスカウントを表明する関西国際空港をベースに、12年3月に福岡と新千歳へ、5月には韓国の仁川への就航を予定しております。いよいよ日本もLCC時代到来となるわけですが、その影響は多岐に亘ると考えられます。特に就航便が少ない地方空港にとってはチャンスとなりますので、今後着陸料ディスカウントによる誘致合戦も見込まれます。となると、日経の記事で心配している全日空本体との競合もさることながら、新幹線との競合も視野に入ります。ツアーバスが夜行列車を追い込んだように。2014年着工で2027年開業を目指す中央リニアの事業計画にも当然影響が出ると考えられます。
逆に全日空などの既存キャリアにとっては、ただでさえ新幹線の延伸開業で市場を奪われる上に、高齢化や震災の影響で上得意のビジネス客が減少している現状げは、仮に共食いになっても動かないことのリスクの方が大きいという判断となるわけで、LCCは定着すると考えられます。そのときに整備費用の元を取るために高料金となるリニアに競争力があるのかどうかは微妙です。特に時間を金で買うビジネス客の減少は、かなりきつい話になります。
尤も最近ではJR東海も東海地震のリスクを強調するようになっており、特に新幹線、在来線国道1号、東名高速が寄り添う由比海岸の津波被害を考えるときには、別ルートの輸送路確保の必要性は確かに高いわけですが、なぜ技術開発途上のリニアでなければならないのか、より大きな輸送力を確保でき、電力消費も少ない鉄軌道式ではいけないのかは不明です。ま、当面14年の着工後も長大トンネルの掘削などが中心でしょうから、情勢変化に対しては鉄軌道式へのシフトもオプションとして捨てていないようですし、JR東海の民間単独事業ですから、政治に左右されずに決断できる点は評価できます。整備新幹線として国と自治体の支援を受けたために駅を作りすぎた九州新幹線の轍を踏むことはないわけです。
| Permalink | 0
| Comments (5)
| TrackBack (0)
Recent Comments