どこまで続く絶好調の大阪キタの陣
JR西日本が絶好調です。
JR西の旅客需要上向き、5月の運輸収入0.5%増加 :日本経済新聞3月こそ震災による自粛ムードで8.6%減と振るわなかったものの、その後回復基調となり、5月では19日までの速報値で山陽新幹線の乗客数が1%減ながら予約数の伸びが大きく、回復基調が鮮明です。
加えて5月4日グランドオープンの大阪ステーションシティも好調で、ノースゲートビルの三越伊勢丹とファッションビル「ルクア」の18日までの1日あたり来店客数が37万人で、目標の20-30万人を大きく上回る好調ぶりです。関西の消費者に伊勢丹流のブランドの壁を取り払った自主規格売り場の訴求が功奏したようです。
既に増床オープンしたアクティ大阪改めサウスゲートビルの大丸も好調で、4月実績で68%増です。もちろん三越伊勢丹の開業や、遅れている梅田阪急の増床オープン後の実績を見る必要はありますが、ユニクロや東急ハンズなど新手のテナント導入や、低価格惣菜を扱うデパ地下などで差別化が図られており、棲み分けは考慮されております。
とはいえここ数年の大阪地区のデパートの増床合戦は凄まじく、心斎橋では一旦撤退したそごうが2005年に再オープンしたものの4年で閉店し、大丸が引き継いで新館となりましたが、大丸自身がそごう開店時に増床しており、増床に見合う売上が取れているとは到底思えない状況です。加えて今年に入って南海難波駅の高島屋大阪店も増床オープンしてますし、阿部野橋では近鉄が高層ビルを建設中で、2014年に近鉄百貨店あべの店を日本一の売り場面積でオープンさせる予定ですし、構想では阪神百貨店も高層タワーとして建て替えが計画されるなど、明らかなオーバーストア状況です。増床合戦で売り場が1.5倍に拡大しても、売上が1.5倍になるわけではないでしょうから、むしろ生産性は下がることが懸念されるわけで、喜んでばかりもいられないのが現実です。
ただし百貨店の好調は大阪に限ったことではなく、大丸神戸店も4月は6.3%増と好調で、特に婦人衣料が2桁のプラスと、総じて阪神地区の百貨店が好調です。もちろん阪急神戸店の撤退などがあったわけですし、観光客の減少で京都地区はマイナスなど、百貨店全体ではまだら模様ではありますが、婦人服の好調にヒントがあります。実はこれ、大局的には震災の影響と見られうのです。
というのは、首都圏の百貨店が震災の影響を受ける中、合従連衡で大規模化された百貨店各社の品揃え戦略に異変が生じているのです。衣料の場合、色やサイズなど豊富な在庫があればこそ、売り場での提案が実を結ぶわけですが、売上規模の関係で関西地区の百貨店は必ずしも十分な品揃えができていなかったために、売り逃しが起きていた可能性があります。それが震災で首都圏店舗の不振が表面化し、在庫の関西シフトが起きた可能性があります。同様のことは福岡天神地区の三越、岩田屋、大丸の各店舗でも起きているようで、博多駅の阪急百貨店進出に係わらず売上が落ちていないということで、ちょっとした椿事と言えるかと思います。
ただしこれが震災に伴う一時的な現象であるとすれば、震災復興と共に元へ戻り、大増床で拡大した売り場の維持費がのしかかることにもなるので、ぬか喜びは禁物でしょう。とはいえ電力事情のこともあり、首都圏の百貨店の売上が戻る保証はありません。むしろこれを機に首都圏エリアのターミナルの商業的な空洞化につながる恐れも無きにしも非ずです。実際、三越は新宿店の売り場を半減させてますし、池袋では撤退してヤマダ電機に譲っており、有楽町西武も撤退し、後継テナントにJR東日本のルミネが入る予定です。当ブログで過去にも取り上げた渋谷の再開発にしても、前途は不透明です。
大都市圏の中心市街地でも空洞化を心配しなければならないのは、ひとえに高齢化の影響です。高齢化そのものの問題というよりは、リタイアメントの進捗で生産年齢人口が減少し、地域の人たちが受け取る賃金総額が減少するわけですから、よほど現役世代の収入が大幅アップでもしない限り、消費ブームは起こらず、むしろ売り場維持のコストに圧迫されて大規模店舗が維持できなくなるわけです。
その影響が真っ先に出たのが百貨店業界であり、現在、三越伊勢丹HD、J.フロントリテイリング、H2Oリテイリング、そごう・西武の4陣営にほぼ収斂されてきております。つまり空洞化は既に始まっていて、規模の経済で対応せざるを得ないところまで来ており、資本関係のない提携や共同仕入れも含めれば、その他の伝統的百貨店や電鉄系百貨店も例外ではないわけです。
そういった観点から改めてこの大阪キタの陣を見直すと、やはり先行きに不透明感が漂う話になります。確かに従来は品揃え制約で売上が取れていなかったという要素はあるとしても、それによるプラスは結局知れてます。逆に同じ系列の百貨店は全国どこでも似たような売り場になるわけで、結局勢いのある家電量販店に店を譲るとかユニクロなど勢いのあるテナントを取り込むかといった話になるわけですね。
尚、先日のイオンによるパルコ争奪戦も同様の文脈で見れば理解しやすい話です。もはや大都市中心部の立地優位だけでは商売できない時代になったということです。結局都心部でも家電量販店や製造小売りのファストファッションなど、またパルコやルミネのようなファッションビルでも、戦略的なテナントリーシングで鮮度を保持できるところだけが生き残るという流れになると見られます。その意味では駅ビル中心のルミネにとっては、駅から離れる有楽町マリオンへの出店は試金石です。
ま、というわけで、製造業と同じく小売り流通分野でも既に供給過剰が顕在化しているわけで、巷間デフレと言われる現象ゆえに、再開発で商業ビルの売り場面積が拡大しても、それに比例する売上は得られず、生産性を下げてしまうわけです。それを突破するには、消費者が積極的に購買行動を起こすような新しい提案がなければならないわけですが、それがつまるところ付加価値というもので、付加価値率を高めることは、従業員に賃金で還元することを通じて、消費者の購買力を高めるわけです。
その意味で大阪のオーバーストア状況はいずれバーゲンの嵐を生むことになりかねません。大ドームで覆われた橋上駅舎のコンコースや時空の広場など、ゆとりの空間を演出しながら、ワゴンセールが日常化する光景が目に見えます。バーゲン合戦は結局派遣店員依存などの形で雇用を圧迫し、回りまわって消費を冷やします。
あとノースゲートビルの北に拡がる梅田貨物駅跡地開発が本格化すれば、オフィスも過剰となるわけで、大阪駅の求心力でどこまでテナントを集められるかは心許ないところです。それをてこ入れする計画や構想は幾つかあります。
1つは梅田貨物駅廃止後も残る梅田貨物線の立体化で、地下化の上ルートを東へ振り、ノースゲートビル前の北口広場近くに地下駅を設置するものです。このルートはくろしおやはるかが利用しており、特に関空との直結ルートとなることで、ビジネスユースを掘り起こそうということですが、地下新駅の完成時期は明示されておりません。というわけで、大阪府では新大阪とJR難波、南海難波両駅を結ぶなにわ筋線の構想を推進したいところですが、事業費が膨大で計画は進んでおりません。しかも3月改正で大阪環状線の西側区間は15分ヘッドダイヤとなり頻度が下がっている状況で、ショートカット新線を作ることに同意は得にくいところです。
あと大阪市では市営地下鉄四つ橋線を貨物駅北端の阪急中津駅を経て十三まで延伸する構想を持っており、都市鉄道等利便増進法による国土交通省の調査でも有望とされましたが、西梅田駅北方は阪神本線が支障しますから、現実的には難しいところです。実際その後話は進んでおらず、五里霧中と言うべきです。キタ地区では京阪中之島線の低迷でただでさえ再開発に暗雲漂うだけに、新線建設で起爆剤にするという発想だけでは無理があります。
震災で低迷する東日本の消費を尻目に、好調な大阪の百貨店ですが、先行きは不透明です。電力問題でも浜岡の運転停止で急遽東電エリアへの電力供給を余儀なくされ、市営地下鉄では減便で対応を予定するなど、電力問題も影を落とします。ただしこれ要注意なニュースです。
電力不足問題に関しては、なぜ電力オークションをしないのかという指摘をいたしました。実は仕組みはあるんです。日本卸電力取引所(JPEX)という機関がありまして、特定規模電気事業者(PPS)が電力を調達したり、電力会社間で越境取引をしたりするインフラですが、3月14日に東電からJPEXに「計画停電のために電力供給できない」という申し入れがあり、それ以来東電エリアの取引は停止しており、PPS各社はやむなく東電から直接電力供給を受けている状況です。
メディアでは取り上げられておりませんが、早い話98年に始まった電力自由化を潰しにかかったということです。当時既に発送電分離の検討がされながら、電力会社の反対で潰され、申し訳程度に大口電力限定で越境給電と、PPS事業が解禁され、それを支える市場インフラとしてJPEXがスタートしたものの、電力会社の送電線利用にかかる高額な宅送料もあって利用は伸びず、電力需要の僅か1%程度の扱いしかない状況でした。それでも自家発電設備を保有する大口需要化にとっては、バックアップ用で稼働率の低い設備の有効活用の観点から参加した企業も多く、また新市場に足場を築きたい商社も取引に参加していたのですが、福島第一原発の事故でPPSが存在感を増すことを嫌って潰しにかかった疑惑があります。
大手製造業などで保有する自家発電設備の合計出力は6,000万kwを算え、優に東電の出力総量に匹敵するレベルです。もちろん元々バックアップ用の自家発電設備で安定稼動が可能かどうかは微妙ですが、JPEXで市場取引をすれば、ピーク時の電力価格が上昇することで、大口需要家に電力利用の見直しを自然に促しますから、結果的に計画停電のような荒っぽいことをしなくても、大停電は防げたと考えられますが、そうすると安定供給に支障するとして電力自由化に反対してきた電力会社の立場がなくなりますし、何より原発が止まれば電力不足になるというロジックも通用しなくなります。この辺の話は裏が取れていなかったので踏み込みませんでしたが、東電の要請でJPEXの取引が停止したという事実を知りましたので、改めて言及します。
この問題では東電の言い分を鵜呑みにして計画停電にOKを出した政府の責任も重大です。こんな政府がなぜか今になって発送電分離を言い出したのは面妖です。しかも議論はこなれておらず「今から検討する」というのは、明らかに東電救済策に対する党内の反論封じの意図ありありです。今まで散々電力自由化を潰してきた東電が弱っている今やらなかったら、やる時はないです。そもそもやる気がない証拠です。それにしても1民間企業にここまで振り回される政治って-_-;。
そして東電の指定席だった業界団体の電気事業連合会のトップに関電の八木誠会長が就任し、東電救済の新機構への負担金問題で政府に注文をつけておりますが、実は「株主から訴えられないように法律で強制してくれ」という趣旨であり、東電が弱って業界盟主の立場にある現状は居心地が良いようです。やはり発送電分離など電力自由化は潰したいので、東電には破綻して欲しくないわけですね。
そういう意味で、東電救済スキームを決めた時点で、政府には電力自由化の意思がないことが明らかです。ホント腐りきってますね。
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