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Saturday, May 21, 2011

震災でサプライチェーンにサプライズ

19日朝、内閣府は1-3月期のGDP速報値を発表しました。

1~3月期の実質GDP、年率3.7%減 大震災響く  :日本経済新聞
実質で年率換算-3.7%と低い数字となり、四半期では2期連続のマイナスとなりました。ただし震災の影響をより多く反映させるために、推計方法を一部変更しており、個人消費住宅投資でマイナスが大きく評価されている点は要注意ですが、傾向は見て取れます。

注目すべきは民間在庫の減少です。サプライチェーンの寸断で生産に支障が出た結果、手持ち在庫を取り崩す形となったもので、GDPの寄与度はマイナス0.5ポイントと成長率を押し下げました。鉱工業生産指数で見ると、以前のエントリーで2月の速報値96,1に対して11ポイント以上の低下予想と指摘しましたが、その後2月の改定値が上ぶれして97.9となった一方、3月の速報値はマイナス15.9ポイントの82.9となり、2月の数値が良かった分と併せて落差が大きくなり、結果的にリーマン後を大きく下回りました。供給力の低下は予想以上だったわけです。

思い出されるのが2007年の中越沖地震での自動車メーカー協力体制ですが、今回はこの手が使えませんでした。被災地域が広大で、被災企業も多数にのぼり、1社にマンパワーを集中させれば済む状況ではなかった結果ですが、同時に日本のサプライチェーンの弱点がはっきり見えてきました。

元々日本企業のサプライチェーンマネジメントの強みとされてきた下請けピラミッド構造で、二次三次と遡っていくほど企業数が増えて企業規模が小さくなる構造でした。つまり多数の中小企業によって支えられ、同じ部品や素材が複数ルートで供給される結果、非常時の代替調達も容易だったはずが、下請け企業が価格競争で疲弊する中、より安価な部品や素材の調達に動いた結果、遡った先のブラックボックスに巨大企業が隠れていたというものです。特に半導体や素材で顕著ですが、半導体でいえばルネサステクノロジーですが、素材に関してはさまざまな企業が絡みます。

結局国際競争力のためのコスト削減の掛け声の中、川上でコスト吸収のために規模の経済がつき有された結果ですから皮肉です。以前取り上げた鉄道用直流モーターのカーボンブラシ問題でいえば、最終加工を行う企業は福島県浪江町にありますが、素材のカーボングラファイトは茨城県日立市の日立化成が手がけており、モーター用カーボンブラシ以外の用途にも出荷されているのですが、モーターの種類によって形状が異なり多品種少量生産を余儀なくされる薄利な最終加工は、中小企業が担う構図が見えてきます。同じ構図が震災でかなり広範に存在することが明らかになったのです。つまりカーボンブラシでの日立化成に相当する企業の工場の被災でサプライチェーンが止まったわけで、ピラミッド型と思われたサプライチェーンが実は樽型だったというサプライズ^_^;です。

別の例としては、日本製紙の主力工場が複数被災した結果、一部の雑誌の発売延期や休刊が起きたり、牛乳パック不足で牛乳が消えたり、茨城県鹿嶋市のエチレンプラントの被災で、食品包装フィルムなどの化成品の供給が止まって加工食品が品不足になるなど多岐に亘る影響が出ました。

中越沖地震のときのリケンのピストンリンクは、素材の問題ではなかったわけで、マンパワーの集中投入で復旧を早めることができたわけですが、今回の震災では多数の素材企業が被災し、結果的に中間加工を担う下請け企業も止まるという構図であり、機械ものと違って元請け企業が助けることもできず、また素材メーカーの寡占化で代替品が手に入りにくい状況も手伝って、生産を再開しても稼働率が低いままという状況が長引いているわけです。その結果が鉱工業生産指数の低下に顕著に現れており、おそらく回復も順調には進まないでしょう。

考えてみれば日本の伝統的な系列取引の枠組みの中で、元請け企業が下請け企業にコスト削減を求めつつ、高い品質を要求しているわけで、下請け企業としては原材料に安価で高品質を求めるわけで、それに応えられるのは大規模な素材メーカーに限られるわけですから、樽型サプライチェーンとなるのは必然といえます。同時に下請け企業は元請け企業との濃密な関係を維持する必要があり、自らの利益を削ることを余儀なくされます。なまじ技術力があるから中国など海外企業に取って代わられることもなく、付加価値率が低いために生産性は低位安定となり疲弊し続けたといえます。

近年、工業製品の生産に係わる分業体制が大きく変化しており、欧米では「水平分業」とか「モジュール化」とかが言われてきました。例えばPCはIBMがアーキテクチャを公開したことで、MPUやチップセットやメモリーなどの汎用部品を組み合わせて最終製品となります。加えてOSはソフトメーカーのマイクロソフトかリリースするという形で水平分業が徹底しております。

こういったことが成り立つためには、各パーツ間のインターフェースが標準化されている必要があるわけですが、一方でパーツの互換性があるので、災害や企業破綻などで供給が滞っても、直ちに代替品が調達できるわけです。一方で技術情報は公開されているので、価格と品質のバランスで競争が起きることになり、低価格化と品質向上が常に求められます。

その一方で日本企業は、系列取引で元請け企業が技術仕様を示して下請け企業がそれに適合する部品を納入する形で、事前に両者間で情報をやり取りして、閉じた関係の中で安定的な取引が行われる形となります。これを「垂直統合」とか「インテグラル(すり合わせ)型分業」と呼び、日本企業の強みとされてきましたが、今回の震災でリスクが顕在化し、弱点となったわけです。また水平分業の進捗で技術革新が加速したことで、垂直統合を維持することの優位性は急速に低下しつつあります。下請け企業の付加価値減少、低生産性は構造要因によるわけです。

そういう意味では、今回の震災で落ち込んだ日本の生産能力を単純に回復させることの意味は考える必要があります。競争力維持のためのコスト削減が、結果的に樽型サプライチェーンを生みリスク対応力を失わせたことを織り込んだ産業復興でなければ意味がないわけです。つまりは水平分業型のサプライチェーンにシステムチェンジできるかどうかが課題となります。

早速自動車工業会は、部品の規格統一の検討を始めたようですが、これはとりもなおさず競争の激化を意味しますので、完成車メーカーに留まらず部品メーカーを巻き込んだ合従連衡の契機となりますし、また製造拠点の海外移転の契機にもなり得ます。その中で存在感を示せる企業がどれだけあるか、課題は大きいと言えます。

このあたりはナイーブな議論が多くて閉口しますが、生産拠点の海外移転が日本経済に影響するのは、あくまでも雇用の減少を通じて内需が冷えるからであって、供給力の減少が直接経済を冷やすわけではありません。そして元々高齢化による生産年齢人口の減少が内需を冷やしている中での話であり、巷間いわれるデフレ現象が深化することと表裏一体でもあります。生産の空洞化が問題なのではなく、消費の空洞化が問題なんです。

その意味では、当面被災者対象の生活保護拡充のようなことが考えられて良いと思います。被災者として生きるということは、失ったものを取り戻す行程でもあるわけで、それを助ける制度の意味は大きいといえます。津波被害の結果高地移転などの防災復興の必要性がある一方、それに伴う地元の意見主役には時間がかかりますから、復興需要が出てくるまでには時間がかかると見られるだけに、つなぎの生活資金供給は重要です。更に一部で言われるベーシックインカムの議論へと繋げていければ、震災が日本を変えるきっかけにもなり得ます。この論点は子ども手当や最低補償年金の意義にも通低しますから、本来民主党政権として取り組みやすいはずですが。

もう一つ二重ローン問題ですが、そもそも日本の住宅ローンが欧米では常識のノンリコース・ローン(非遡及型ローン)ではない点が問題を複雑にしております。被災して瓦礫となっても、個人の住宅や自動車を簡単には撤去できないことが、被災地の復興の足かせとなっております。ノンリコース・ローンならば、所有者が所有権を放棄して担保を差し出せばローンが消滅しますから、瓦礫の撤去も迅速に可能です。これを機に見直しすべきでしょう。逆に言えば現行のローン制度では災害に遭うとゴミになるものに対して契約者が最後まで責任を負う仕組みの矛盾と捉えるべきでしょう。逆に現在唯一ローンが消滅するケースは、ローン契約者が死亡した場合ですが、これは契約者に死亡保険に加入させて保険料をローン金利に上乗せしているから可能なんですが、それゆえにローンを提供する金融機関は取りっぱぐれを心配しなくて良いという供給者側の論理に基づくものです。同時に現時点で発生した二重ローンに関しては、政府が買い取るなどして対応すべきです。

というわけで、製造業中心の産業復興は自ずと限界があります。それに電力の制約も加わるわけですから、省電力型の高付加価値産業の創出に知恵を絞る必要があります。基本的に内需関連産業で高付加価値を追求することが必要ですが、例えば自然エネルギーによる小規模発電などが有力候補となります。国内向けサービスは海外移転とは無縁ですし。

実際には省電力というと省エネ家電やLED電球のようなモノ消費と結びつけて捉えられてしまい、新たなエコポイント制度などの提案がされますが、エコポイント制度が何をもたらしたでしょうか。結果的に大画面の薄型TVの普及を助けたかもしれませんが、それで省電力になったわけではなく、サイズが大きくなったことで消費電力の絶対量の減少はわずかですし、冷蔵庫も大型化し、リビング以外の部屋にもエアコンが付くなど、世帯あたりの家電品の点数は増えており、個々の家電品の省エネ性能は食いつぶされております。

加えて4月以降の薄型TVの売れ行きが止まり、結果的に店頭価格が3割減となって、結果的にエコポイント付与分を超える権利落ちとなりました。それでも買い替えが進んだために売れないということで、例えばシャープは堺と亀山の工場の稼働率を落としております。これはソニーとの合弁の製造部門へのソニーの出資が見送られてパネルの引き取りの約束が反故にされた結果ですが、そもそもが市況の悪化によるものであり、表面上は震災の被災企業並みの稼働率低下を余儀なくされております。つまりデフレが進行しただけというわけです。

上記と関連しますが、震災後の企業倒産件数を見ると、9割が被災地以外という意外な結果となっております。それだけ震災によるサプライチェーン寸断の影響が大きかったということでしょう。

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Comments

>生産の空洞化が問題なのではなく、消費の空洞化が問題なんです。
とのことですが、(高齢者の年金以外で)働かずにお金をもらうことに対する抵抗感が
もの凄いことを考えると結局、生産の空洞化が問題になってしまうように思います。
それゆえ、
>省電力型の高付加価値産業の創出に知恵を絞る必要があります。
ということになるのでしょうけれども…。

Posted by: takehope2 | Saturday, May 21, 2011 at 08:32 PM

重要なのは、労働=賃労働ではないということです。例えば専業主婦の家事労働が典型的ですが、女性の社会進出が言われながら、無賃労働が事実上制度化、固定化されている現実を考えると、これが結果的に賃金の男女間格差を生んでいると見る事も可能です。決して能力差ではありません。

その意味で少子化は女性たちの無言のサボタージュでもあるわけで、結局この問題に取り組まない限り、先進国中最悪と言われる出生率低下を食い止めることは不可能と考えます。

年金はそもそも労働を継続できないほど長生きするリスクに備えるためにビスマルク時代のドイツ帝国で導入されたもので、ある意味資産形成に満たない賃金労働を正当化するロジックが覗きます。それゆえ世界的に高齢者への手厚いケアは世界標準となっておりますが、グローバル化で雇用が失われる傾向は先進国共通の問題でもあり、ベーシックインカムに注目されるのも理由があるわけです。

Posted by: 走ルンです | Saturday, May 21, 2011 at 09:12 PM

ベーシックインカムや負の所得税は面白いアイディアだと思うのですが、よく言われるように労働意欲の低下や賃金の低下が心配です。

例えば全員に無条件で毎月10万円を給付するとしても、手取り賃金が10万円減少したり10万円増税しては結局同じことです。逆に、そういうことがないとしたら、ニートやフリーターが急増すると思います。ちょっとアルバイトする程度で一生まともに働かずに生活できるなんて夢のような話ですが、それでは国が破たんしますよね?

ベーシックインカムを実施するのは、一定の制約なり条件が必要だと思います。どういう形がベストなのかわかりませんけど。

Posted by: yamanotesen | Sunday, May 22, 2011 at 01:18 AM

既に日本の雇用環境は悪化しており、新卒で正社員として採用されても、定年まで勤められる保証はありませんし、非正規雇用ならば尚更です。

加えて相次ぐ賃下げや労働強化で、勤労者のモチベーションは既にかなり下がっているとすれば、あまり状況は変わらない気がします。

確かに給付を前提とする賃金カットはあり得ますが、企業が長期雇用を保証できないならば、それでも是とすることも考えてよいのではないでしょうか。

もちろん慎重な議論が必要ですが、実際国内の最先端の工場を見ると、生産ラインに人がいないことが多くなっております。微細加工となる半導体や電子回路、生成管理を問われる加工食品などでは、クリーンルーム作業となるために人を入れられないという要素もありますが、日本はじめ資本集積の進んだ先進国においては、人を雇うよりも機械で自動化した方が合理的なわけで、この傾向は今後も強まると考えられます。つまり古典的な労働者は急速に数を減らすことになるわけです。

逆に原発事故で劣悪な作業環境で体を張っている東電の協力会社の作業員の多くが、多重債務で転落した派遣労働者だったりするわけですが、こういった分野こそロボット技術を駆使して安全な作業ができるよう整える必要があるわけですが、安価に臨時作業員を調達できる環境がある限り、こういった技術革新は生まれないということもいえます。

逆に人々の労働感も変化するでしょう。日常生活の余剰時間を自由にに有償労働に振り向けられる環境があれば、一生フリーターも悪くないですし、むしろ感性を活かした創造的な仕事ができるのではないでしょうか。

逆に今以上に自己責任を厳しく問われる社会でもあるということは言えるのではないでしょうか。

Posted by: 走ルンです | Sunday, May 22, 2011 at 11:35 AM

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