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Sunday, June 26, 2011

「国産」だから最高速ダウンの中国高速鉄道

7月1日に中国京滬高速鉄道(北京―上海)が開業し、いよいよ中国も本格的な高速鉄道時代を迎えます。それに関連して最高速の350km/h(目標は380km/h)から300km/hへの見直しが行われましたが、その内幕を不正発覚で退職した鉄道省元幹部が暴露しました。

asahi.com(朝日新聞社):中国高速鉄道「独自技術でない」 元幹部、中国紙に暴露 - 国際
ある意味中国らしい話ですが、鉄道省幹部の不正による更迭が事業計画の大幅見直しとなったという意味で、アジア地域に共通の政治状況も垣間見えます。同時に中国のような大国で政府の情報統制だけでは統治が難しくなってきているということでもあります。

北京―上海間は延長1,300kmに及び、対航空輸送を考えれば最高速380km/hで4時間というところが戦略目標となることは確かですが、技術的裏づけがないまま突貫工事で完成させたこともあり、安全性に関する疑念は中国国内でも囁かれております。結果的に最高速300km/hで5時間というのは妥当なところですが、それでも東海道山陽新幹線の東京―博多間よりやや長い距離を同等の時間でつなぐわけですから、後発プロジェクトの優位は働いているわけです。

この論点を敢えて申し上げるのは、九州新幹線との彼我の差を実感できるからです。100kmh弱の区間に中間駅を5駅も設置し、設備の制約もあって最高速260km/h止まりの九州新幹線は、スペック面ではロケーションの似ている台湾高速鉄道のそれにも劣るわけで、後発プロジェクトの優位性が見られません。それを国と地方の財政資金を投入して整備するわけですから、国民レベルでの説得性も乏しく、当ブログで一貫して整備新幹線に疑念を表明する大きな理由でもあります。

話を戻しますが、国産子弾頭の記事でも触れたようにJR東日本のE2系1000番台相当のCRH2cで350km/h運転を始めたことに対し、技術供与した川崎重工がクレームをつけて「安全を保障できない」との念書を取ったのですが、その意趣返しのように「国産」を謳ったわけですが、同時に「国産」と謳うことで事故の責任も負わなければならない事に対する慎重論が中国政府内部にも台頭したわけです。これは380km/hの営業運転を目標とするCRH380aでも、明らかにベース車はE2系ですが、ドイツICE3などの技術も取り入れた良いとこ取りをした結果、ドイツのシーメンスからも同様のクレームを受ける事になり、中国鉄道省にとっては言わば逃げ場がなくなったわけです。

この問題に関しては、中国の技術盗用を大げさに捉える向きもありますが、結局川崎重工がビジネスの作法で一筆取った結果、中国側が自縄自縛に追い込まれたわけで、そもそも政治問題化するような話ではありません。また日本自身が官民共同で独シーメンスのLRVコンビーノのコピーを国産化しちゃうような国だってことも石勝線事故の記事のコメント欄で触れられてますが、これが21世紀初頭のゼロ年代の話ですから頭痛いです。

もちろん国内的には国民意識の高揚は意味のあることですが、それが世界からどう見られるかという視点はほとんど省みられないという意味で、中国ってホント分かり易い国です。いろいろ言われますが、尖閣沖の漁船衝突事件にしても、世界は日本の実効支配を追認する見方が主流で、中国にとっては失点となりました。

同様に南シナ海の南沙諸島の領有権問題でも、アメリカが関心を示す事で意図とは逆の展開が見られ、更には航行中のロシア海軍艦船に中国の艦載ヘリが挑発してロシアにも目をつけられる始末です。もちろんロシア自身も西側諸国と利害が一致しているわけではなく、中国と協調行動を取る機会が多いのは周知の事実ですが、例えば尖閣沖問題と北方領土問題がリンクしているという日本の一部の見方は的外れです。

むしろロシアは普天間問題に反応したと見る方が自然です。というのは、北方四島問題に関するロシアのスタンスは、ソビエト時代から一貫して「北の沖縄」との認識が強いということです。元々極東の小さな島で、統治が行き届かない上に外交問題も抱えるわけですが、日米安保体制下で日本に返還すれば、沖縄同様基地の島になるという認識を持っているわけですから、普天間問題で辺野古移転の日米合意を日本が押し戻せるかどうかに関心を持っていたと見てよいでしょう。アメリカに押し切られた結果を見て領土交渉は無理と見られたとしても、ロシアを責められません。日本の外交姿勢の問題なんですから。

もう少し中国を巡る問題を指摘しておきますと、端的なのがTPPの問題です。元々小国同士の関税同盟に過ぎなかったTPPがアメリカも加盟で政治問題化するわけです。アメリカの狙いは明らかで、世界の成長センターたるアジア太平洋地域でのプレゼンス拡大と、台頭する中国のけん制です。同時に軍事同盟中心の日米関係をより経済に軸足を移し、対中国で共同歩調を取るために、日本にTPP加盟を打診したところ、普天間問題でアメリカを怒らせたと怯える政権が飛びついたというのが実態と見てよいでしょう。

ですから、TPP対策は泥縄そのもので、以前指摘したように減反をそのままに、一旦廃止した農業基盤整備事業を補正予算で復活させるような愚を平気でやります。こんな政府の姿勢だから、TPP加盟に国民の理解が得られず、反対論が声高に叫ばれるのです。結局それが補助金の無心になるわけですから。

一方で捕鯨問題のように意味もなく強硬姿勢をとって世界から見放される事はお構いなしですから、そもそもTPP加盟は日本政府にとってはかなりハードルが高い話です。それでいてTPPの中身はかなり誤解されていて、議論の流れは単なる関税同盟から、通商を巡る諸規制の統一基準作りなどに発展しており、その中にはTPP推進の立場の財界から反発されそうなものも多数あります。

一方、元々工業製品の関税率が低い日本は相手国にとっては、TPPを含むFTAやEPAはメリットが少ない上に、生産国認証という余計な手続きにコストがかかるため、結局日本側も関税撤廃によるメリットが相殺されてしまう恨みもあります。それが世界的なFTAブームに日本が乗り遅れている理由なんですが、経産省を中心に推進が声高に叫ばれるのは、結局官庁の縦割りの弊害そのまんまということでもあり、それを乗り越えられない政権では話をまとめる事はできないと断言できます。

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