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August 2011

Sunday, August 28, 2011

石油の国の春、黄金の国の秋

リビアのカダフィー政権が事実上崩壊し、反体制派が一応の勝利となり、一連のアラブの春も山場を越えた感がありますが、ややこしいのは国際社会の反応です。

カダフィー政権の武力弾圧に武器供与や空爆や地上軍派遣までして反体制派を支援してきた欧米諸国は一様に歓迎し、早々に反体制派の国民評議会を正統な政府として承認しております。カダフィー政権と親密とされた中国やロシアも、カダフィー大佐の国外個人資産の凍結や、国民評議会による治安維持や戦後復興資金としての一部凍結解除に反対せず、またエジプトやチュニジアの民主化で域内が騒がしいアラブ連盟は、カダフィー政権の強権支配を問題視していただけに国民評議会を代表として認め、流れはできつつありますが、問題はアフリカ諸国です。

アフリカ連合(AU)総会で一部加盟国から新政府承認の対案はあったものの、時期尚早として退けられました。カダフィー大佐はアフリカ合衆国構想を主張し、潤沢な石油マネーをアフリカ諸国に配っていたことと、リビア反体制派への軍事支援が国連の承認を経ないまま行われたことへの違和感などが理由ですが、数が多いアフリカ諸国で承認が進まなければ、国連による正式承認のめどが立ちませんので、事態収拾が長引く恐れがあります。特にフランスやイタリアは軍事支援に留まらず、早くも戦後復興支援事業に関する国民評議会との交渉まで始め、例えば鉄道建設を請け負うイタリア企業などもあり、眉をしかめられております。

というわけで、日本の震災と共に世界を震撼させたリビア問題が収束へ向かうならば、問題を孕みながらも歓迎すべきことではありますが、チュニジアに始まったアラブの春がこれで収束するわけではなく、むしろ資源国の民主化と経済成長は、原油価格の上昇圧力にもなるわけですが、メディア報道はこの点には触れておりません。

そもそもフランスなどの突出した行動も、資源確保という側面だけでは語れません。大まかに言えば、2008年のリーマンショック以後の世界規模の協調的な財政出動と金融緩和の結果、世界規模で拡大した流動性供給が新興国へ流れ込んで経済成長を後押しした結果、新興国の資源需要を押し上げて資源価格を高騰させ、ギリシャショックもあってユーロ安も手伝い、資源インフレの傾向を強めている現状があります。リビアの政情が安定し、戦後復興が本格化すれば、むしろ原油が国内消費に回されるわけで原油高傾向は強まります。これは古典的な資源外交の視点では説明できない事態なんです。

というわけで、欧州の勇み足は目立つものの、これから成長する若い国という点で、欧州と目と鼻の先のリビアなどの北アフリカ地域は、アジアにおけるASEAN諸国のような位置づけと考える方が妥当です。実際OPECのメンバーだったインドネシアが経済成長で石油消費が増え、2004年には輸入超過に転じて2009年にOPECを脱退しており、今後中東産油国の経済成長と民主化が進めば、この傾向は強まりますが、インドネシアがアジア屈指の経済メンバーであり続けるように、中東産油国もそうなると考えるとわかりやすいです。

その結果、これまで世界の原油価格を事実上先導してきたニューヨーク・ウエストテキサスインターミディエート市場(WTI)先物を、中東原油を扱うロンドンの北海ブレント市場が価格で上回り、事実上WTIが果たしてきた国際原油価格の値決め機能は損なわれております。おそらくこの傾向は当面続くものと見られます。また欧州が殊のほか地球温暖化問題に熱心なのも、化石燃料の消費抑制問題と表裏一体の関係にあるからと見ることが可能です。

日本は主にアラビア湾岸諸国の重質油を中心に調達してきたこともあり、欧米市場に価格面で従属する中東ドバイ原油市場を指標とした取引が中心です。WTIにしろ北海ブレントにしろ、ガソリン成分の多い軽質油中心で、用途も輸送用や暖房用の燃料として調達されてきましたが、日本は燃料需要もさることながら、重質油の精製過程で生じるさまざまな副産物を用いた化成品生産の比重が高く、原油価格上昇の影響も欧米と異なりますし、何より経常黒字国の強みで円高が原油高をヘッジしますので、結局余り影響を受けおらず、また日本に限らず経常黒字国が多い一方、貿易決済は米ドルに依存するアジア地域の特殊性を考えると、債務上限問題で信認の低下を免れない米国債に代わって日本国債が外貨準備に用いられる可能性は指摘できます。日本の財政赤字も深刻な状態ですが、国内要因でファイナンス資金が自己増殖している中で、輸出依存の強いアジア諸国にとっては、流動性の高い円資産の外貨準備への組み入れは当然選択肢になり、結果的に国外でも財政赤字のファイナンス資金が自己増殖する可能性が出てきます。

厄介なのは、アジア諸国の通貨の流動性は低く、日本は対アジア通貨の為替調整政策を事実上取れないことです。流動性の低い通貨はそれだけ乱高下のリスクが高いわけで、97年のアジア危機の原因と言われるドルペッグ制にしても、経済規模の小さな国の対応としては責められないところですが、当時のクリントン政権の強いドル政策で米ドルが過大評価された結果、タイをはじめ自国通貨の過大評価で輸出が減速し、成長期待で流入した日米欧の投資資金が一斉に逃避した結果の危機となったわけです。

それに懲りたアジア各国は国内貯蓄を奨励し、資本調達を国内で完結できるように経済体制を改めたのですが、それはとりもなおさず日本がかつて歩んだ道でもあります。日本は円高を容認しつつ、ニクソンショックで金とのリンクを失う一方で、流動性供給の自由度を増したドルの流動性を最大限活用してきたわけです。97年当時、日本の発案でアジア通貨基金(AMF)構想が提案されました。ドル決済のアジア域内の貿易決済を、複数通貨による通貨バスケット連動による仮想貿易決済専用通貨Asia Currency Unit(ACU)に置き換えようという意欲的な提案でしたが、米中両国の反対で実現せず、代わりに二国間の通貨スワップ協定を基本とするチェンマイイニシアチブ(CMI)が発効し、更に多国間の枠組みに改めたCMIMへ発展したのですが、リーマンショック時にウォン安に見舞われた韓国が、米FRBとの通過スワップを選びCMIを利用しなかったように、アジア域内で足並みが乱れている状況では、AMFにしろACUにしろ、実現可能性は結果的に低かったということでしょう。

しかしこのときの議論をアジアで十分重ねていれば、また違った展開の可能性もありえたわけで、特に米ドルの信認が揺らぐ現状を見るにつけ、97年当時のAMF構想の挫折は惜しまれます。ま、提案国の日本の国際社会での信用度の問題だと言われれば、返す言葉もありませんが-_-;.実際旗振り役のはずの財務省自ら、今回の円高局面で為替介入で顰蹙を買っている状況では、08年当時の韓国を責められません。

現在の円高kは対ドルよりも対アジア通貨での上昇基調が輸出企業を苦しめているので、アジア内の為替レートの安定こそが重要なんで、アジア通貨の連携こそが日本の目指すべき道ですが、そのためには為替介入で通貨切り下げ競争を仕掛けるのは愚策です。むしろアジアの一体感を演出することが必要なんですが、為替介入はそれと逆の効果しかありません。

加えて特に中小企業では為替デリバティブ問題が深刻です。為替デリバティブというのは、銀行が中小企業向けに販売している金融商品で、表向きは為替リスクのヘッジができるという謳い文句ですが、実際は為替デリバティブの購入を融資の条件にするなど、優越的地位を利用した販売が行われ、しかもほとんど120円/ドルレベルの為替水準のときに販売されて、中小企業側に莫大な含み損が出ている状況です。しかも損切りのために中途解約すれば、懲罰的な違約金を請求されるため、泣く泣く継続しているのが実態です。問題は為替水準そのものにあるわけではなく、このように中小企業を食い物にするような金融商品が売られている点にあるんですが、認可した国の責任を問われかねないからか、金融庁が対策に乗り出す気配はありません。

一方の財務省ですが、各国に協調介入を打診してことごとく断られ、おそらく単独介入に対する非難すら頂戴しているのでしょう。手詰まり感漂う中、円高対策を打ち出しましたが、その内容は、邦銀中心に金融機関の為替ポジションの確認と取引の監視、それと中小企業の海外M&Aなどの投資を助ける基金の設立ということで、24時間切れ目なく取引される為替取引で、国内だけに目を光らせても無意味ですし、中小企業に「カネ貸すから海外投資しろ」というんですが、上記の為替デリバティブ問題でそれどころじゃないのが中小企業の実態です。もちろん新機構は有力な天下り先となります-_-;。

かくして日本の進路は、今に始まった話じゃないですが五里霧中です。グローバル化の本質は産業構造の転換なんで、かつては少数だった工業国が言い値で工業製品を売り、一方の原材料となる資源価格は、技術を持った工業国の意向を反映した形で市場価格が形成されていたのですが、新興国の台頭で工業製品は溢れかえり、一方の資源は希少化するわけで、現在進行形の変化にさらされている事を自覚すべきでしょう

古代文明は農耕中心で、四大河文明は、一種の連作障害で窒素、リン、カリウムなどの必須ミネラルが枯渇して残留塩分濃度が増した結果、砂漠化の憂き目に遭いましたし、土地を持たない遊牧民との争いも絶えず、また収量の増加は人口増加圧力を生んで追加的な土地の開墾を求め、富の分配や土地や労役の収奪で争われる結果となります。それが極限に達したのがゲルマン民族の大移動であり、古代中国の万里の長城をめぐる北方蛮族との攻防だったわけです。当時日本は中国の勢力圏の末端で小国分立状態で、未だ日出ずる国にはなっていませんでした。大和朝廷の成立は、いわば古代のグローバリゼーション第1波が落ち着いた後の出来事でした。

第2波はチンギス・ハーンを始祖とするモンゴル帝国のユーラシア制覇です。武人による主従関係で組織された帝国は、地縁、血縁に基づく部族支配から武力による国家統治という新しい原理を備え、勢力を拡大しました。経済的には金などの希少貴金属類を媒介した商業の発展に特徴があり、マルコポーロが伝聞をまとめた東方見聞録に記述された黄金の国ジパングは、世界遺産登録された奥州平泉中尊寺の金色堂の事らしいと言われております。

そしてこの伝聞が欧州にもたらされた結果が、バスコ・ダ・ガマの喜望峰発見やコロンブスの新大陸発見を誘発し、大航海時代を迎えます。この時代は金融が産業として自立した時代と言うべきでしょうか。航海には危険がつきものです。嵐で難破したり海賊の襲撃に遭ったりで、積荷が届かない事も珍しくない中で、船主仲間で手持ちの余剰資金を積み立てて、被害を補償する保険の仕組みが作られ、財産の貸借を明確にする複式簿記の仕組みも考案され、ジェノバやベネチアなどの北イタリアの商業港湾都市を中心に近代資本主義の仕組みが醸成された時代でした。

その流れで、地理上の発見をもたらす冒険航海が可能になり、スペイン王家がスポンサーとなってコロンブスは黄金の国を目指すことになります。そして地理上の発見は商業の規模の拡大で繁栄をもたらすと同時に、スポンサーとなったスペインを筆頭に植民地の獲得競争となります。古代の単純な土地と労役の収奪ではなく、貿易相手として相手国を市場経済に巻き込むのが植民地主義の特徴で、いつしか列強による植民地獲得競争となり、丁度戦国時代の日本にも到達して南蛮貿易で歴史が交差し、徳川幕藩体制の鎖国を経て、大航海時代には存在しなかったアメリカに開国を迫られる形で近代に歩を進めます。

そして工業化社会へシフトするのですが、植民地時代に蓄えられた資本が、また日本においては徳川幕藩体制の中で資本を蓄えた商人資本が、大規模投資を可能とし、また労働の対価としての賃金支払いを通じて大衆消費社会が実現し、現在に至るのですが、工業化で先行した日米欧がいずれも停滞傾向を見せるのは偶然ではありません。上記のように新興国の台頭で工業製品は溢れ、原材料の資源は希少化する中での交易条件の変化こそが、現在進行中のグローバリゼーションを特徴付ける構造問題なんです。いわば先進工業国にとっては秋の到来というわけです。なお、ドル不安を背景に金価格が歴史的上昇局面にありますが、外貨準備で米国債を保有する多くの国が、金を外貨準備に組み入れていることも指摘できます。驚く事にその主たる供給元は日本だそうで、金輸出は歴史的高水準です。黄金の国ジパングは健在だったりして^_^;。

そして近代は鉄道の時代でもありますが、日本を含め鉄道による物資輸送や兵員輸送は、軍事的に重視されてきた歴史があります。鉄道と戦争は切っても切れない関係にあり、高速鉄道事故を起こした中国でも鉄道省は人民解放軍の傘下にあって強い権限を有していますが、リーマンショック対策で協調的に財政出動して整備が進められた高速鉄道では、胡錦濤政権のスローガンである和諧社会建設という考え方が前面に出され、太子党の巣窟だった鉄道省の組織内抗争の可能性には言及しましたが、中国に限らず、軍事目的で建設された鉄道の民生転用は多くの国で見られたことでもあり、現在の高速鉄道ブームが、軍事から鉄道が離れる「平和の配当」効果を発揮するならば、悪い事ではないわけで、そういう視点で中国の高速鉄道事故を見れば、そこに市民社会が未成熟な中国社会の生みの苦しみを見出す事もできます。あまり敵対的だったり哄笑的な見方に偏らない方が良いでしょう。

残念なのは事故の検証が不十分な点で、特に追突したCRH2は日本のE2系の同型車で、欧米からは日本の新幹線は衝突安全を考慮していないペーパートレインだと批判される中で、軽量で省エネと反論するのも結構ですが、実際にどの程度の速度で追突しどの程度損傷したのかが明らかになれば、インフラ輸出としての高速鉄道案件の弱点克服のきっかけになり得ただけに、単にパクリだ安全無視だと批判するよりも、事故調査の支援などで建設的な対応をすべきでした。そんな中で信頼される国を目指すのが、今の日本の取るべき態度でしょう。

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Saturday, August 20, 2011

節電でテレビを消して電車で涼

関西電力堺港火力発電所の故障で関電エリアの電力需給が逼迫しております。原発止めれば電力が不安定になるという電力会社の主張が現実になったかのごとき状況ですが、当然からくりがあります。

そもそも13ヶ月毎に定期点検を義務付けられている原発には、休止期間中のバックアップ電力が必要なんですが、稼働率が低いという理由で、老朽火力を除却、解体せずに残すことで対応してきたのですが、それが裏目となったわけです。減価償却済みで保有コストが低いから低稼働でも経営上の重荷にはならないのですが、老朽化した石炭火力で燃費も悪く、長時間稼動で不具合が出る可能性が高く、今回それが表面化したわけです。つまり原発依存を前提にそれ以外の投資を極限まで絞ってきた結果でもあるわけです。原発依存が投資に歪みをもたらしたわけです。

その一方でJR東日本は川崎火力発電所に、ガスタービン・コンバインドサイクル発電機を設置し、自前電力を強化しております。都市ガスを燃料にガスタービンを回して発電し、さらに排気熱で蒸気タービンを回してそちらでも発電するもので、熱効率が高く従来の2倍以上の燃費の良さを誇ります。加えて出力調整も容易で、起動して1時間後には最大出力に達しますし、燃料のガス供給を止めれば直ちに停止しますから、原発のように暴走する心配もないわけで、仮に脱原発を目指すならば、当面の主力となる発電システムです。既に電力以外の企業は動き始めているのです。

元々日本の火力発電は老朽化が進んでおり、非効率だったんですが、原子力依存ゆえに設備投資が止まってしまっていたわけで、これで電力の安定供給とは片腹痛い話です。元々日本のエネルギ消費に占める電力の割合(電化率)は25%程度で、先進国標準の20%を上回りますが、その7割は産業用電力であり、住宅用は3割に満たないので、国民に節電を求めてもあまり意味はないのです。

加えて電力を作り出すためのエネルギー投入量で見ると45%に達します。早い話が発電段階でのエネルギーロスが莫大なんで、ここをせめて半分に圧縮できれば、エネルギー消費量を1割程度削減できますし、比例してCO2排出量も減らせますから、国際ルールとして認められている途上国の省エネ投資や国内外の森林整備による排出量クレジット取得と組み合わせれば、日本が国際公約したCO2排出25%削減も不可能な目標ではないわけです。

また再生エネルギーの活用を図る意味でも、出力制御が容易な火力発電に一定に依存する必要はあるんですが、その際上記のガスタービン・コンバインドサイクル発電はキラーテクノロジーとなり得るものですが、ガス燃料を拡大すると電力会社の独占を脅かすと考えたのか、徹底的に背を向けてきました。かくして原子力依存を高めてCO2削減というフィクションが語られたんですが、チェックするはずのメディアの無知でスルーされ続けました。そもそも出力制御が難しく、制御電力に3割も自家消費してしまう原子力発電は非効率なんですが。

あと先月の新潟、福島の豪雨による水力発電所の被災で、東北電力も需給が逼迫しておりますが、水害の多い日本では、ダムによる大規模水力発電への依存は既に限界に達しており、また当然ながら水力発電はダムに水が貯まらないと発電できないわけですから、需給調整は火力に頼る必要があります。

というわけで、日本全国節電ムードで、ピーク電力と無関係の夜間照明が落とされて引ったくり犯罪が増加したり、冷房の自粛で熱中症で死者が出たりと物騒な話になっているのですが、電力会社に責任の自覚がないばかりか、電気使用量予想を流して節電をアピールするテレビ局も問題です。午後のピークタイムはどうせ再放送ドラマか韓流ドラマか低予算バラエティかゴールデンの番宣という具合に、そもそもスポンサー集めにも苦労している体たらくなんだから、地上波放送だけでも止めれば良いと思うのは私だけでしょうか。少なくとも冷房止めるならテレビ止めましょう。命が惜しければ-_-;。

そんな中で、タイトルのような提案をしたいと思います。幸い首都圏では、JRの東京近郊区間が大幅に拡大された事もあり、大回り乗車で八高線、両毛線、水戸線、内房線、外房線なども巡る事が可能となりました。ただし終電までに戻らなきゃいけませんし、途中出場はできませんから、食事も用足しも全てラッチ内で済ませる必要があります。これが案外難しい^_^;。

それからSuicaは4時間ルールで出場時エラーとなる可能性があるので、あらかじめ隣駅までの磁気券に引き換えておき、時間制限エラー回避のために、出場時は有人レーンで「大回り乗車」である事を告げるなどの対策が必要ですが、それさえ守れば、乗車中は冷房の効いた車内で過ごせ、乗り鉄三昧を楽しめます。エリア内のJR各線はほぼ毎時2本以上の運行頻度がありますから、案外乗り継ぎもスムーズで、結構いろいろ回れます。あとあくまでも大回りは便宜的措置ですから、復乗は認められず、一筆書きルートに限られます。

こんな事ができるのは、JRの路線網の充実ぶりと同時に、運賃計算ルールの最短経路特例によるわけですが、そもそも自動改札とストアードフェアカード導入で乗客個々のチェックイン、チェックアウトが厳格に管理できるようになった結果、車内改札を省略できるという意味でJRにもメリットがあるわけですが、それが結果的に乗客の利便を向上させるわけです、こういう現象を「ネットワークの外部性」と呼びます。

JRの最短経路特例は、山陽本線岩国ー櫛ヶ浜間(岩徳線経由適用)など幹線ルートでも見られますが、路線網が輻輳する東京近郊区間、大阪近郊区間、福岡近郊区間では国鉄時代もから行われていて、JR化後は区間の拡大もあって現在に至ります。また2004年11月27日から新潟近郊区間も設定されております。ただし新幹線に関しては、原則は対象外ですが、国鉄時代には在来線との同一扱いルールもあり、JR化後の改廃もあって複雑ですが、当然ながら大回り乗車の対象にはなりませんね。

という意味で結構ずくめの運賃の最短経路特例ですが、JRと並行路線を持つ私鉄にとっては痛し痒しのところもあり、評価が難しいところがあります。例えば群馬県の上毛電気鉄道ですが、かつては両毛線が非電化で本数も少なかったし、運賃水準も同等だった事もあり、前橋―桐生間の都市間輸送ので国鉄より優位だったものが、1968年に電化と小駅4駅の廃止でスピードアップされたことと、上電の運賃値上げで運賃差が生じたことで逆転し、さらにマイカーの普及もあり、ご存じの通り群馬県は一時マイカー普及率で都道府県トップだったこともあって大幅に利用が減ったわけですが、その一方で両毛線はJR化後も本数が増加し、不完全ながら昼間20分ヘッドダイヤで利便性も高まり、Suica導入と東京近郊区間組み入れで、マイカー王国の群馬県で存在感を高めておりますが上電は立つ瀬がなくなります。

上電に関しては、中央前橋―前橋間を併用軌道で延伸してLRT化とか、上越線新前橋―群馬総社間の前橋公園付近に新駅を設置して上電を延伸する構想などが検討されておりますが、いずれにしても公的な支援なしには実現できないでしょうし、上電の運賃の高さがネックとなる可能性もあります。東京の地下鉄一元化高運賃の北総線問題など、地域の交通問題は根が深いです。

一方で、JR東海、四国、北海道の各社はネットワーク志向は希薄です。元々過疎地帯の路線立地で路線密度が低い四国や北海道はともかく、東海道新幹線に収益の8割を依存するJR東海の微妙な対応は理解不能です。例えばこだましか停車しない三島や掛川での新在連絡というのがあり、沼津から三島乗換えで静岡までの企画券を売り出したりしてますが、ニーズがあるとは思えません。静岡都市圏では快速運転の代わりに乗車率の低い新幹線こだまに誘導したいということなんでしょう。

一方で名古屋都市圏では、名鉄や近鉄など並行私鉄に果敢に競争を仕掛け、乗客を増やしております。見える敵から客を奪う戦略はJR西日本のアーバンネットワークと同様ですが、大回り乗車ができるような路線網にはなっていないのが大きな違いです。例えば民営化で国鉄から継承した未成線として引き継いだ瀬戸線(勝川―枇杷島)を系列の東海交通事業に丸投げして、しかも当初は尾張星の宮―枇杷島間を欠き孤立した非電化路線としたように、まるで「利用するな」と言わんばかりです。

その一方で西名古屋港貨物線の旅客化事業として名古屋臨海高速鉄道あおなみ線へ路線を譲渡しましたが、本来名古屋市都市計画高速鉄道東部線として金城埠頭―笹島―丸田町ー星ヶ丘―岩崎というルートが計画されていたものの、事業化に至らず、あおなみ線はやはり孤立路線として利用が伸びず、昨年7月に債務超過から事業再生ADRで名古屋市に追加支援を求めるなど不振が続きます。これは出資する名古屋市の中途半端な対応にも問題があり、市営交通との乗り継ぎ割り引きなどは事業再生ADR後にやっとですが、JR東海の名古屋都市圏輸送に対する冷淡な姿勢を示しているとも言えるでしょう。JR西日本では財政支援を得ながらですが、JR東西線やおおさか東線などネットワーク強化のための新線整備を行っているのとは対照的です。

この辺は中央リニアの長野県内駅を飯田線と共同使用駅としない姿勢と通底するのかもしれません。事実として新幹線の収益が大きく、名古屋都市圏も含めて在来線の旅客収入は取るに足らないと感じているのでしょう。名古屋都市圏の私鉄競合路線のやる気(笑)は、私鉄側の度重なる運賃値上げで逆転現象が起きたことが追い風となったという見方も可能で、単に勝てる勝負を仕掛けただけとも取れます。逆に名松線では無人走行事故2度も引き起こすなど、モチベーションが感じられません。

攻め込まれるライバルの名鉄は、JRとの競合がない犬山線や常滑線でが稼ぎ頭という状況ですが、元々前身の名古屋電気鉄道の名古屋市内電車が名古屋市に買収されて市電となり、企業存続のために郊外線を建設して初代名古屋鉄道となった歴史もあり、地域交通ネットワークとしての意識が強いのが特徴です。面白いのは、市電を元祖とする名古屋市交通局の地下鉄線との関係ですが、鶴舞線や上飯田連絡線の相互直通運転や名鉄―市交―名鉄の通過連絡運輸(名鉄部分の運賃通算)など一体感が見られる点も特徴です。同様の制度は孤立線の瀬戸線にも存在し、瀬戸線栄町と本線新名古屋(現名鉄名古屋)又は金山との乗り継ぎの場合の運賃通算の規定がありましたが、こちらは市交の乗車券とセットではなく、現在は取り扱いが廃止されています。

とはいえ市交桜通線では名鉄本線の市内区間を侵食するなどして、岐阜の600v区間をはじめとする末端のローカル区間を持ちきれずに廃止しているわけで、私有私営原則の日本の鉄道事業の中に、営利目的でない地方公営交通が混在する矛盾があります。東京の地下鉄統合の議論で抜け落ちている論点です。

ちなみにJR東海と名鉄の連絡運輸は豊橋駅を介した東海道線浜松―名鉄鳴海間の範囲内のみで、広範に連絡運輸が行われている首都圏の状況から見るとちょっとびっくりします。

というわけで、大回り乗車で涼を楽しめる首都圏エリアはありがたいところですが、昨日の雨で急に涼しくなってしまいました^_^;。グダグダ書いているうちにいろいろなことがあって、ややタイムリーさに欠ける結果となったかもしれません。

その間に天竜船下りの事故のニュースも流れました。事業者は天竜浜名湖鉄道で、国鉄二俣線を引き受けた三セクローカル私鉄で、経営が苦しい中での集客と収益機会の拡大のために事業参入したものの、安全管理に難があったようです。鉄道事業者の関連事業としては残念なところです。ただし救命具の着用に関しては、法令の不備もあり、また特に子どもの着用に関しては、暑さで嫌がると、親も同調してしまうなどで、現場で不徹底となる要素は元々あると思います。いわゆるモンスターペアレント問題ですが、社会的に必要なルールの遵守は、子どもに社会性をもたらす躾けでもあるわけで、今回の事故自体は不幸なことですが、レジャーもルールの中で楽しむべきものであるのは言うまでもありません。というわけで、首都圏の大回り乗車も、ルールの範囲内で3大いに楽しみましょう。うまくまとまったかな^_^;。

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Friday, August 12, 2011

ソーラーバブルとは梅雨識らず

間違いだらけの経済報道の記事をアップしたその日に、政府は円買いドル売りの単独介入を実施しましたが、それから1週間、案の定効果なく円高が進みます。毎月1兆円も国内にお金が流れ込む国の通貨が高くなるのは避けられないんだってば。

逆にそんな国が8日朝のG7財務相電話会談で欧米諸国に理解を求める厚顔ぶりには呆れますが、共同声明では協調行動の文言はあったものの、為替の協調介入には言及なし。もちろん1985年のプラザ合意のような可能性は皆無ではなかったでしょうけど、あの時はレーガノミクスで高いドル政策の裏で進んだ双子の赤字解消のためのドル売り協調介入だったわけで、今回も仮にあるとすればギリシャショックで割安となったユーロとの調整だったはずです。

アメリカにしても中国人民元の為替水準に関しては改善を求めているものの、G7メンバーではなく、変動相場制に移行していない相手と協調は無理なんで、そもそもG7では解決策を見出せないわけです。更に言えば、そもそもギリシャショックもアメリカ国債デフォルト問題も、3年前のリーマンショックの後始末で、各国が協調して財政出動した結果でもあるわけで、巨大投資銀行の損失を財政で肩代わりしただけの話で、特に経済力の弱い国に信用不安が集中した負のレバレッジの結果です。丁度日本の金融危機でも、山一、拓銀、りそなと弱いところを物色して攻められたような金融カニバリズムと言い換えることも可能です。そんな中で「毎月1兆円もお金が入ってくるから大変だ!」と騒いでも相手にされませんね。空気読めない日本政府は円を売って顰蹙を買ったということです。しょーもなー-_-;。

とまぁしょーもない財務大臣の野田氏ですが、やっと今月中に辞任を明言した菅首相の後任選びとなる民主党代表選出馬の意向を示しました。ただし党内の8割が反対と言われる復興増税や消費税率アップを引っさげてどれだけ支持を集めるのでしょうか。民主党執行部が代表選を8月中に行うのは、9月には陸山会事件で3秘書の無罪判決が出そうなので、代表選を急がないと党員資格停止中の小沢氏が復活してしまうということのようです。この期に及んで国民無視のコップの中の嵐とは呆れます。

一応菅首相辞任の3条件と言われる内、2次補正は成立したものの、難題だった特例国債法案が成立の見通しとなりました。米国債ショックもあって、これ以上ゴネて政治空転を起こせば野党に逆風と気づいたのでしょう。歩み寄りの機運が出てきました。そうなると残るは再生エネルギー法案ですが、こちらは元々さして対立していたわけではないので、時間の問題のようですが、問題のある制度であることは以前にも指摘しました。

既に現行の余剰買い取り制度でも、山梨県北杜市で中国製パネルを敷き詰めた大規模ソーラー発電所がありますが、敷地の一部にひまわりを植えて、地目は農地としています。つまり発電所とするよりも固定資産税が安い上に、ハウスなど電力を消費する設備もないので、事実上発電量全量が余剰電力として買い取り対象です。しかも余剰買い取りの現行制度ではキロワット45円の高値ですが、全量買い取りではもっと下げられる予定です。

というわけで、農地転用の新トレンドとなる可能性があります。例えばコメ農家で減反に協力し休耕田にソーラーパネルを設置すれば、農家の個別所得保障を得ながらソーラー発電の売電でも収入が得られるわけです。ただし普及が進めば買い取り価格は下げられる事が予想されますので、事業としては早く大規模に立ち上げて先行者利益を得る必要があるわけですが、初期投資が済めばソーラーパネル自体はメンテナンスフリーで経年劣化も起きにくいわけで、参入のタイミングの早さが書部を分ける事になります。ソフトバンクの孫社長が入れ込むわけです。

つまり自治体を巻き込んで休耕田や耕作放棄地を大規模に確保できれば、ソーラーパネルを大量調達して事業化できるわけで、地代負担を抑え短期間でソーラーパネル設置の投資回収を行うビジネスモデルが想定されていると考えられます。逆に言えば農地を利用することで、農業の競争力向上が狙いだったはずの個別所得保障制度は、その趣旨を大きく変える可能性があります。極論すれば荒地が金のなる木に変じるわけで、下手すれば原発以上に税金漬けのバブル予備軍となる可能性があります。やはり問題のある制度です。

それでもエコだからいいじゃないかという見方も可能ですが、ソーラー発電は原理的に発電効率が低いのに投資が活発になるということは、非効率の拡大再生産となるわけで、カネ余りの日本では投資の歪みとなって国民生活を苦しめる事になります。とにかく毎月1兆円の資金がもたらされる国ですから、無駄がわかっていても止まらなくなる可能性が高いわけです。特に年間輻射量が最大化する夏至前後の時期が日本では雨季に当たるわけで、ソーラー発電所は原理的に公称出力を発揮できない存在でもあるわけです。ソーラー原理主義者たちは雨の日のことを語りたがりません。

基本中の基本ですが、化石燃料は過去の生物活動の結果として地層に蓄えられた低エントロピーのエネルギーで、運搬保管も含めて低コストで利用できますが、利用可能な資源量は有限で、温暖化の原因物質といわれるCO2を排出するなどの問題がありますが、太陽光はその逆で、日々太陽から地上に到達するから無尽蔵だけど高エントロピーで、電力として見ても出力が不安定で、需要とのマッチングが難しいと言われます。蓄電池で蓄えるにしても、電力ロスはありますし、また直流出力なので、商用周波数の系統電力網への接続には交直変換が必要ですが、そこでもロスが発生します。

発電効率の低さは、事業としてのメガソーラーを想定すると相当広大な土地が必要ですが、需要地である都市部への送電にもロスがあるわけです。送電ロスや電力変換ロスを防ぐ方法として直流送電を用いる事は検討に値しますし、特に東日本と西日本で周波数の異なる日本の場合、地域間の電力融通を進めるための基幹送電線に直流送電を用いるのは魅力的です。特に日本のように南北に細長い国土の国では送電距離も長くなり、送電ロスも馬鹿にならないわけで、原理的に送電ロスの少ない直流送電は魅力的です。

今回の東北の水力発電の豪雨による被災で電力不足が生じたときに、節電で電力が余り気味の東電が助けられないという妙なニュースが流れました。同じ50Hzでなぜ?と思われた方も多いでしょうけど、位相のズレがあれば電力変換は必要なんで、そのための設備が整っていないからこういうおかしなことが起きるのは、以前にも指摘したとおりです。東北に関しては、基幹直流送電線を沿岸部の海底に敷設することで、津波被災地の跡地利用としてのソーラーやバイオマスなどの小規模発電事業を後押しすることにもなりますし、居住エリアの高台移転の促進にもなり、防災復興にもプラスです。

実は日本の場合、JRの直流電化区間に注目すれば、三大都市圏をカバーする広大な直流送電網があることに気づかされます。しかも50Hzと60Hzの境界をカバーする形で存在しており、使わない手はありません。具体的にはき電線の容量アップとバッテリーの装備で、自身の需要ピークをカットしながら、余剰能力を電力託送に振り向けることで、例えば遠隔地のPPSの電力を需要家に届ける別ルートを形成するようなことができれば面白いですし、非電化ローカル線も電化する事で送電網に組み込めるとなれば、原発マネーで電化されたJR西日本の小浜線じゃないですが、電力自由化がローカル線の電化を後押しするなんてこともありえます。というわけで、怪しげな再生可能エネルギー法なんか置いといて、電力自由化に舵を切る方が重要です。

加えて問題を電力だけに留めずに、エネルギー政策tとして見る場合、化石燃料でも炭素含有量が少なく、欧米のシェールガスブームで価格低下が進む天然ガス利用は拡大されるべきですが、日本では従来中東の天然ガスをLNG化して輸入するというコストのかかる方法で調達してきました。天然ガスでも中東依存は調達先多様化に逆行しますし、価格も原油価格連動の相対取引で決めるため、シェールガスブームで値下がりした北米市場の天然ガス価格の3倍にもなる高値掴みとなっております。

解決策としてはロシアのサハリンの天然ガス利用が魅力的です。サハリンから東京まで2,000kmのガスパイプラインを敷設すれば、天然ガスの調達価格は下げられますし、また国土の5%しかない都市ガスエリアを拡大できれば、熱源としての電力利用を抑制できる上、水素含有量が多い天然ガスならば、家庭用燃料電池にも利用できて更に電力負担を軽減できます。東北の復興支援にもなりますし、原子力依存も下げられますし、極東ロシアの共同開発は北方領土問題解決の糸口にもなり得るなど効果は絶大ですが、議論すら行われません。

その一方で脱原発や核燃料サイクル見直しは、日本が合法的にプルトニウムを保有する根拠を失い、その気になれば核武装が可能な核保有準備国として抑止力を発揮できるという議論がありますが、いかにも役人が机上で考えた浅知恵ですし、平和ボケ保守好みの論点です。核武装の意思がないから福島の事故でも的確な対応ができなかったわけで、まだ国土への核攻撃を想定してスパイ衛星を飛ばしたりインターネットを開発したり、大気中の核物質検出を精緻に行うアメリカのような意志力も発揮できずに、幼稚な火遊びとなるわけです。

この弊害は例えば、IAEA加盟国の権利として原子力の平和利用を進めるとして核開発を既成事実化しているイランに絶好の口実を与えています。イランに言わせれば核開発は親米国家だけの特権なのかということです。北朝鮮の核開発も同様のコンテクストですが、既に2回の核実験を行ったことで、実は北朝鮮の核開発の現状はほぼ丸裸になりました。1回目は大気中に放出された核物質は検出されたものの、大量破壊兵器と言えるだけの威力は出せなかったのですが、2回目では威力は確認できたものの、逆に核物質の放出が確認できず、大量のTNT火薬を用いた偽装核実験の疑惑が持たれています。その後6カ国協議が止まったのは偶然ではなく、核の脅威は後退したと見られているわけです。

あとソーラーでは普及が進めば料金への転嫁を抑えるために買い取り価格が下げられますから、恩恵を受けるはずのパネルメーカーには価格競争が待ち受けるわけで、気がつけば中韓企業に市場を席巻されるという、薄型テレビの悲劇が再現され、国内雇用は冷えてデフレを助長するわけです。実際買い取り制度で先行するドイツでは、日本メーカーを尻目に世界シェアトップを獲得したQセルズ社が、中国のパネルメーカーに駆逐されてしまいました。

ま、元々パネルメーカーは自動制御の製造装置を導入する事で世界中どこでも生産が可能ですし、元々自動化プラントで雇用創出効果は低いわけですが、それすら国内に留めることはできないわけです。むしろパネル設置工事などの分野での雇用創出効果の方が大きいですが、買い取り制度から想定されるバブル状態では、継続的な雇用創出にはなりそうにもありません。かくして団塊リーダーの浅知恵で若年雇用が失われ、日本もギリシャやイギリスのように怒れる若者の国となるのでしょうか。

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Sunday, August 07, 2011

いいだといちだの一字違いで揉めたリニア

久々のリニアネタですが、コストダウン最優先のJR東海の姿勢だけははっきりしています。

asahi.com:リニア駅、飯田駅併設不採用/座光寺~高森-マイタウン長野
長野県以外の中間駅候補地が発表されたのが6月7日で、いずれも市町村名の公表で、具体的な位置には言及がありませんでしたが、同時に発表される予定だった長野県だけが発表を見送られた理由は、長野県自身の混乱があります。

元々伊那谷ルートでの建設を求めていた長野県ですが、飯田市を中心とした南信地域は、JR飯田線飯田駅併設を前提に、むしろ直進ルートに積極的だったのですが、6月の発表直前にJR東海の内部資料がすっぱ抜かれ、高森町の田園地帯が候補になっているという事で大騒ぎとなり、発表を見合わせざるを得なくなったものです。

已む無くJR東海は地元からのヒアリングを実施した上で、長野県の駅候補地を発表するに至ったのですが、飯田駅併設を求めてきた地元自治体は反発。県は前向きな姿勢ですが、飯田線下市田か元善光寺の徒歩圏内を示唆するも併設駅にはならないとか、想定ルートが飯田市の水源域にかかっているなど、新たな火種も明らかになるなど、すんなり進みそうにはありません。

逆に神奈川、山梨、岐阜の各県の駅候補地も、市街地を避けたルートとなったり、在来線との併設でなかったりする可能性もあるわけで、長野の協議の結果如何では、他県にも飛び火の可能性があります。例えば神奈川県では橋本ではなく相模線南橋本付近とか、山梨県も東花輪かどうかは不明ということで、そもそもJR東海にとっては、中間駅での集客は眼中になく、希望するなら事業費の増加分を負担せよというスタンスなんですね。強いて言えば南橋本に関しては、JR東海がリニア開業後に計画する湘南新駅が相模線倉見駅付近が候補となっている事から、相模線を介した連携は頭の片隅にはあるかもしれないけれど、沿線開発は勝手にやってよというスタンスのようですね。EX-ICで都区内区間をバッサリ切ったように、そもそもJR東日本との駅併設はやりたくないでしょうし^_^;。

というわけで、笑っちゃうぐらいの孤立主義を貫こうというのですから、これから前途多難でしょう。というか、飯田市の水源問題など、元々南アルプスルートにはこの手の未知の問題が多数存在しているわけで、今後環境アセスメントである程度は明らかになるでしょうけど、実際のところは着工してみなければわからないのが現実です。そういえば元々東名間5.1兆円としていた事業費は5.3兆円に膨らみ、2025年としていた開業年は2027年と2年帯びています。開業延期の理由は明白で、東海道新幹線の2009年度の利用が減少し、資金計画の変更を余儀なくされたためです。今後もこのような未知の問題で見直しを余儀なくされると見て間違いないでしょう。

以前にも指摘したように、東名阪の三大都市圏をつなぐビジネスラインの価値は、生産年齢人口減少の結果としてのデフレに現れており、時間を買うビジネス客の減少は避けられないところです。つまり多額の事業費を償還するために、現行の東海道新幹線に対して1.4倍程度を上限とする運賃料金の水準を考えているわけですが、これが成り立つためには、出張費会社持ちで時間を買う感覚のビジネス客が多数存在する事が前提ですが、その現役世代が減少している上に輪をかけて雇用の減少で就職難で、費用会社持ちの出張族が今後増える可能性は低いわけです。つまり速さが付加価値にならなくなる時代に向かうわけですから、かなり無謀な投資計画という他ありません。

加えて航空分野でのLCCの台頭は避けられないところで、関空拠点で香港投資ファンドと合弁でピーチ・アビエーションを発足させたANAが、マレーシアのエアアジアと合弁でエアアジアジャパンを設立し、成田発着の低採算路線の発着枠を活用する計画を明らかにし、経営再建中のJALも豪ジェットスターとの合弁によるLCC参入を検討中ということで、時間制約が少なく価格に敏感な非ビジネス客がそちらに流れるとすれば、リニアの集客はそう簡単ではないと考えられます。

ま、JR東海もその辺はある程度考えているようで、突然リニアを輸出すると言い出したのは、開発費を海外で稼ごうという事に外なりません。とはいえ日本ですら実用化されていないリニアを売り込むハンデキャップ戦は流石にきついところで、神奈川―山梨間の部分開業の意図もその辺にあるわけです。山梨リニアは結構大真面目な話ということですね。少なくともフジヤマ大好きな外国人観光客は集められます^_^;。

とはいえ地下駅となる相模原市の新駅の建設費が2,200億円で、神奈川県も相模原市も負担できないとしており、また仮に負担するにしても東京都多摩地区にも恩恵があるということで負担を求めるとしていたり、また市街化された橋本駅への乗り入れではなく、小平市へ移転した職業訓練大学校跡地(橋本台)へ橋本駅ごと移転という話もあったりして、部分開業するにしてもハードルは高く、開業を急ぐなら山梨県上野原市牧野の実験線東端に仮駅を設置してバス連絡という中途半端な形になる可能性もあります。

あと整備新幹線のように国が財政支援する可能性ですが、政治決着を重ねて決めた整備新幹線の着工順位を変えれば、順番待ちをしている地域からクレームが来る事間違いなしで、特に原発再稼動問題を抱える福井県が新規着工お預け状態ですから、脱原発の議論とリンクして更にややこしい議論を呼び込むことになり、この国の政府の問題解決能力を超えてしまいます。多分自民公明政権に戻っても状況は変わらないでしょう。

原発がらみではもう一つ厄介な問題がありまして、新青森開業で当初の目標を達成した青森県ですが、震災で観光客が激減し、目論見が狂っております。そこへ脱原発の議論ですが、厄介なのは六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場とむつ市の核廃棄物中間貯蔵施設、それにJパワーの大間原発という核燃料サイクル三点セットの扱いです。

ご存じの通り六ヶ所村の核燃料再処理工場は試験稼動でトラブル続きで、度々竣工を遅らせているのですが、仮に竣工しても日本の原発から発生する使用済み核燃料の全量を処理する能力はなく、第二再処理工場を作るか中間貯蔵して時間稼ぎをするかしかないわけで、むつ市に中間貯蔵施設が建設中ですが、青森県はこれらの施設の建設受け入れの条件として、最終処分場を別の県に作る事、つまり再処理が動かずに事実上の核のゴミ捨て場にならない事を要求しております。原子力のバックエンドを引き受けるリスクからすれば当然の要求です。

とはいえ最終処分場は決まらず、また仮に再処理工場が稼動しても、プルサーマル用のMOX燃料を作る事はできないので、英仏の企業に委託しているわけですが、危険な洋上輸送をしなければならない上に、英BNFL社製のMOX燃料はデータ改ざん問題を引き起こしてますし、その後頻繁に組織改廃されたあげく、福島第一原発の事故を受けて、MOX燃料の生産受託を破棄しております。となるとプルサーマル専用で計画されている大間原発も動かせないということで、結果的に青森県は実態として核のゴミ捨て場になっているわけです。

このままの状態が続けば、いつかの時点で青森県は全国の原発に引き受けた使用済み核燃料を「お引取り願う」ことも視野に入りますが、そうなるとおおむね1週間で全国の原発が停止に追い込まれることになります。核燃料サイクルをしないで核燃料を使い捨てにすることを「ワンス・スルー」と呼びますが、青森のワンス・スルー・トラップがいつ発動されるかは予断を許しません。というわけで、原発は推進も廃止も一筋縄ではいきません。

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Thursday, August 04, 2011

間違いだらけの経済報道

国際収支(億円)
経常収支貿易・サービス収支直接投資
08年度123,363-8,878-101,087
09年度157,81747,813-52,995
10年度161,25552,225-52,140
10年8月11,429937-4,643
9月20,1758,616-4,299
10月14,9496,463-8,469
11月9,5541,904-4,862
12月11,9796,883-10,060
11年1月5,472-4,753-2,648
2月17,0086,884-5,904
3月17,3862,675-1,527
4月*4,056*-8,388*-6,223
5月*5,907*-7,903*-6,122
6月
7月
*=速報値
復興予算を巡るエントリーで指摘したアメリカの財政赤字上限引き上げ問題がやっと決着し、米国債のデフォルトはぎりぎりのところで回避されました。同様にギリシャ問題で揺れる欧州も、ギリシャへの追加支援がとりあえず決着しました。そんな中で日本だけが特例国債法案の取り扱いを巡って揉めております。

実は4月から始まった新年度予算で40兆円超の赤字国債発行が盛り込まれているので、実は日本の状況が最も深刻なんですが、メディア報道に危機感は見られず、相変わらず菅首相がいつ辞めるかという話ばかりです。一応辞任3条件の1つにはなっておりますが、緊急性のある原発賠償支援法はともかく、再生エネルギー法などはもっと議論が必要で拙速に進めるべきではありませんが、こんな風に並列されるような性格の問題ではなく、問題の軽重が滅茶苦茶です。

特に自民。公明両党は民主党の09年マニフェストの撤回を求めており、執行部は譲歩案を示すものの、譲歩すればハードルを上げられるという駆け引きが続いてます。ここまで譲歩したら次の総選挙で民主党の候補者はウソつき呼ばわりされるのは必至で、もはや目先の政権維持のために次の選挙の負けを受け入れるつもりなのか、信じ難いところです。どうせならば特例公債法案を廃案にして予算執行を止めちゃえば、菅首相も辞めないで野党に責任転嫁できるぜっての。1995年にアメリカで共和党の抵抗で予算案が成立せず連邦政府が機能停止した結果、共和党はやりすぎと批判され大統領選でクリントン再選の原動力になったように、毒を食らわば皿までです-_-;。

それでも日本の場合は国債整理基金に20兆円以上の剰余金がありますから、それを取り崩せば当面の資金繰りは可能です。もちろん財務省は「国債金利上昇の備えだから使えない」と言うでしょうけど、幸い金利は下がっております。財政赤字がひどい日本の国債が低金利ということは、それだけ買われている、つまり信認されているということですが、その謎が冒頭の表から読み取れます。

これは財務省がまとめた国際収支の表で、月曜日の日経新聞に載っているものです。決済のタイムラグがありますのでズレはありますが、ザックリいえば貿易・サービス収支と直接投資欄に並ぶ資本収支の数値は補完関係にあるのは、国際貿易の常識です。つまり貿易の黒字は資本投資として外国へ向かうし、逆に貿易赤字は国内へ外国資本が流入する事でバランスされます。つまり日本は貿易で稼いだ富を外国に再投資している形になるわけです。

もう一つ基本中の基本としては、貿易黒字は国内的には貯蓄と対応している事が指摘できます。つまり必要な財やサービスの生産の過剰分、イコール国内で消費されなかった分が外国へ向かうわけですから、貿易収支と国内貯蓄は完全に表裏一体というわけです。

じゃあ貿易収支と経常収支の違いですが、経常収支には貿易以外の国外投資の利益配当に相当する所得収支が加算されるということです。リーマンショック以来貿易収支はときどき赤字になる事もありますが、経常収支は一貫して黒字をキープしており、しかもかなり高水準であることがわかります。年度で10兆円以上、月でも1兆円前後という高水準の所得収支黒字が継続しており、これが日本経済の強みなのです。実際毎月1兆円が海外から流入するんですから、凄まじい話ですし、当然為替を円高に向かわせます。こういった構造問題があるわけですから、為替介入は無意味です。敢えて言えば輸出企業の利益補助にはなるかもしれませんが。

所得収支の黒字の内訳ですが、企業の生産拠点などの実物資産と、企業や個人が保有する金融資産の双方がありますが、黒字の主体は専ら前者です。実際リーマンショックで金融資産は相当な評価損が出ているわけですから、その中でこれだけ安定的な黒字を続けるのは、実は日本企業の海外進出は予想以上に進んでいるということでもあります。

しかし往々にして、例えば4,5月の速報値の貿易赤字を捉えて空洞化の危機が叫ばれたりするんですが、これは明らかに震災によるサプライチェーンの寸断の影響と、原発事故で火力発電所の稼動による化石燃料の輸入増に原油価格上昇、さらに3月の為替の協調介入による円安効果が重なった結果と見る事ができますが、それでも経常収支は黒字を維持しており、所得収支が安定的に高水準にあることに変わりはないわけです。そして実はこれが国債の安定消化に寄与しているわけです。

つまり本来は貿易収支とリンクしている国内貯蓄ですが、既に対外投資の利益配当が巨大になっているために、目先の経済情勢に左右される事なく貯蓄が増えていく状況にあるわけです。しかも所得収支黒字を受け取るのが主に企業と個人では高齢者に偏っており、それが消費にも投資にも回らないで銀行口座に積み上げられ、それを銀行も融資先が見つけられずに国債を購入しているという構図です。つまり最悪の財政赤字国なのにファイナンス資金が自己増殖しているために需給が悪化せず、低金利が続いている状況で、しかも株安と将来不安で質への逃避で国債が買われる状況が続いているわけです。90年代から続く財政赤字を金融緩和でファイナンスする流れから抜け出られないわけで、日本がギリシャになることはあり得ません。

というわけで、財務省の国際収支統計という誰でもアクセス可能な数字を読み解くだけで、日本経済に関する一般的なイメージはかなり変わると思います。外国資産が稼いでくれる日本の現状は、国単位で見れば働かなくても食える状態ということができます。ただしその富は偏在しており、国債消化を通じて国や自治体の非効率な浪費が止まらないわけで、いつまでも破綻しないで経済の重荷であり続けるという意味ではある意味ギリシャより深刻な状況です。

この富を現役世代に移転することができれば、個人消費が上向いてデフレ脱却につながるわけで、現役世代と重複する子育て世代への支援となる子ども手当は意味のある政策です。しかも現金支給で地方負担を求めず所得制限もしないということで、以前の児童手当で課されていた地方負担分は保育所整備などの現物支給へ振り向けられて国と地方の役割分担にもなる上、所得制限を課さないことで行政コストを圧縮でき、官僚による利権化とも無縁というはっきりした理念があったのですが、児童手当復活ならば無意味です。

加えて数を減らしている現役世代も、将来不安から貯蓄に励んでいるために、国内消費は盛り上がらないわけですが、主に老後不安が原因とすれば、年金改革が重要なんですが、09年マニフェストで約束された年金甲斐買うはどこか行っちゃいました。そして持続可能な社会保障というお題目で、制度改革を放置したまま消費税率アップだけが決まるというおかしなことが起きています。つまり現行制度維持のためにいくらでも増税することが方向付けられたわけで、ますます消費を冷やし税収を減らし、財政赤字の自己増殖を助けます。

国内投資の活性化という意味では、高速道路無料化に代表される税以外の公的負担の軽減策は意味のあることで、実際社会実験ではっきり経済効果も確認できているのですから、これを撤回するのは経済政策としておかしな話です。

東北の被災地支援で中大型トラックの無料化が行われてますが、水戸インターの折り返しによる脱法行為のタダ乗りがなっております。例えば東京から九州へ向かうときに、常磐道で水戸ICで降りれば料金無料になり、折り返して水戸ICから上り線に乗り友部JCTから北関東道へ、更に関越道、上信越道、長野道、中央道と辿れば、九州までの料金もタダになるわけで、悪質な脱法行為として大畠国交相は打ち切りを示唆する発言をしておりますが、被災地エリアのインター利用を被災地への救援物資輸送と見なすという雑な制度設計の問題であり、エリア外の区間に課金されていれば防げた問題です。そこまでして料金を浮かせたいということは、それだけニーズのある政策でもあるわけで、ざっと200km、3時間程度の迂回によるロスがあっても有利ということです。またこの部分の費用を圧縮しておけば、普通車以下の車両で被災者限定とするおかしな制限も不要だったはずです。そのために被災地へ走るボランティアが泣いてます。

付言すればオープンスカイ政策によるLCC育成や発送電分離による電力自由化なども同じ系列の政策といえますし、こうして内需企業の競争促進による効率化とコストダウンの促進をはかることが、国内投資を促進することなんですが、そういった視点での議論がほとんどメディアには登場せず、法人税減税すれば国内投資が増えるというような根拠のない俗説がまかり通っております。利益に課税される法人税を減らしても、企業の内部留保を増やすだけで、それは結局企業の海外投資を促す一方、残りは銀行口座にブタ積みされ、国債購入へ向かうだけで、国内雇用には寄与しません。

しかし政府は円高封じ、空洞化阻止を3時補正に盛り込む事を決めております。つまり財政赤字を金融緩和で支える形で国の不労所得を垂れ流すとしているわけで、問題はますます深刻化するだけです。基本的に政府は現在の利権構造に切り込む意思も能力もないわけで、利権争いで高速鉄道事故を起こした中国を笑えません。ちなみにリーマンショック以降、中国経済を引っ張ってきた高速鉄道整備ですが、事故を契機に関連企業が軒並み翳りを見せており、いつか来ると言われた中国バブル崩壊の契機となる可能性が出てきました。

かくしてリーマンショック後に世界の主要国が採ってきた財政赤字と金融緩和の政策スタンスは、いずれも壁に当たったわけで、紙幣と国債の刷り増しで国立印刷部門だけが無意味に忙しい世界となりそうです。バブル崩壊後の日本の20年を世界が追体験するわけです。

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