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Thursday, August 04, 2011

間違いだらけの経済報道

国際収支(億円)
経常収支貿易・サービス収支直接投資
08年度123,363-8,878-101,087
09年度157,81747,813-52,995
10年度161,25552,225-52,140
10年8月11,429937-4,643
9月20,1758,616-4,299
10月14,9496,463-8,469
11月9,5541,904-4,862
12月11,9796,883-10,060
11年1月5,472-4,753-2,648
2月17,0086,884-5,904
3月17,3862,675-1,527
4月*4,056*-8,388*-6,223
5月*5,907*-7,903*-6,122
6月
7月
*=速報値
復興予算を巡るエントリーで指摘したアメリカの財政赤字上限引き上げ問題がやっと決着し、米国債のデフォルトはぎりぎりのところで回避されました。同様にギリシャ問題で揺れる欧州も、ギリシャへの追加支援がとりあえず決着しました。そんな中で日本だけが特例国債法案の取り扱いを巡って揉めております。

実は4月から始まった新年度予算で40兆円超の赤字国債発行が盛り込まれているので、実は日本の状況が最も深刻なんですが、メディア報道に危機感は見られず、相変わらず菅首相がいつ辞めるかという話ばかりです。一応辞任3条件の1つにはなっておりますが、緊急性のある原発賠償支援法はともかく、再生エネルギー法などはもっと議論が必要で拙速に進めるべきではありませんが、こんな風に並列されるような性格の問題ではなく、問題の軽重が滅茶苦茶です。

特に自民。公明両党は民主党の09年マニフェストの撤回を求めており、執行部は譲歩案を示すものの、譲歩すればハードルを上げられるという駆け引きが続いてます。ここまで譲歩したら次の総選挙で民主党の候補者はウソつき呼ばわりされるのは必至で、もはや目先の政権維持のために次の選挙の負けを受け入れるつもりなのか、信じ難いところです。どうせならば特例公債法案を廃案にして予算執行を止めちゃえば、菅首相も辞めないで野党に責任転嫁できるぜっての。1995年にアメリカで共和党の抵抗で予算案が成立せず連邦政府が機能停止した結果、共和党はやりすぎと批判され大統領選でクリントン再選の原動力になったように、毒を食らわば皿までです-_-;。

それでも日本の場合は国債整理基金に20兆円以上の剰余金がありますから、それを取り崩せば当面の資金繰りは可能です。もちろん財務省は「国債金利上昇の備えだから使えない」と言うでしょうけど、幸い金利は下がっております。財政赤字がひどい日本の国債が低金利ということは、それだけ買われている、つまり信認されているということですが、その謎が冒頭の表から読み取れます。

これは財務省がまとめた国際収支の表で、月曜日の日経新聞に載っているものです。決済のタイムラグがありますのでズレはありますが、ザックリいえば貿易・サービス収支と直接投資欄に並ぶ資本収支の数値は補完関係にあるのは、国際貿易の常識です。つまり貿易の黒字は資本投資として外国へ向かうし、逆に貿易赤字は国内へ外国資本が流入する事でバランスされます。つまり日本は貿易で稼いだ富を外国に再投資している形になるわけです。

もう一つ基本中の基本としては、貿易黒字は国内的には貯蓄と対応している事が指摘できます。つまり必要な財やサービスの生産の過剰分、イコール国内で消費されなかった分が外国へ向かうわけですから、貿易収支と国内貯蓄は完全に表裏一体というわけです。

じゃあ貿易収支と経常収支の違いですが、経常収支には貿易以外の国外投資の利益配当に相当する所得収支が加算されるということです。リーマンショック以来貿易収支はときどき赤字になる事もありますが、経常収支は一貫して黒字をキープしており、しかもかなり高水準であることがわかります。年度で10兆円以上、月でも1兆円前後という高水準の所得収支黒字が継続しており、これが日本経済の強みなのです。実際毎月1兆円が海外から流入するんですから、凄まじい話ですし、当然為替を円高に向かわせます。こういった構造問題があるわけですから、為替介入は無意味です。敢えて言えば輸出企業の利益補助にはなるかもしれませんが。

所得収支の黒字の内訳ですが、企業の生産拠点などの実物資産と、企業や個人が保有する金融資産の双方がありますが、黒字の主体は専ら前者です。実際リーマンショックで金融資産は相当な評価損が出ているわけですから、その中でこれだけ安定的な黒字を続けるのは、実は日本企業の海外進出は予想以上に進んでいるということでもあります。

しかし往々にして、例えば4,5月の速報値の貿易赤字を捉えて空洞化の危機が叫ばれたりするんですが、これは明らかに震災によるサプライチェーンの寸断の影響と、原発事故で火力発電所の稼動による化石燃料の輸入増に原油価格上昇、さらに3月の為替の協調介入による円安効果が重なった結果と見る事ができますが、それでも経常収支は黒字を維持しており、所得収支が安定的に高水準にあることに変わりはないわけです。そして実はこれが国債の安定消化に寄与しているわけです。

つまり本来は貿易収支とリンクしている国内貯蓄ですが、既に対外投資の利益配当が巨大になっているために、目先の経済情勢に左右される事なく貯蓄が増えていく状況にあるわけです。しかも所得収支黒字を受け取るのが主に企業と個人では高齢者に偏っており、それが消費にも投資にも回らないで銀行口座に積み上げられ、それを銀行も融資先が見つけられずに国債を購入しているという構図です。つまり最悪の財政赤字国なのにファイナンス資金が自己増殖しているために需給が悪化せず、低金利が続いている状況で、しかも株安と将来不安で質への逃避で国債が買われる状況が続いているわけです。90年代から続く財政赤字を金融緩和でファイナンスする流れから抜け出られないわけで、日本がギリシャになることはあり得ません。

というわけで、財務省の国際収支統計という誰でもアクセス可能な数字を読み解くだけで、日本経済に関する一般的なイメージはかなり変わると思います。外国資産が稼いでくれる日本の現状は、国単位で見れば働かなくても食える状態ということができます。ただしその富は偏在しており、国債消化を通じて国や自治体の非効率な浪費が止まらないわけで、いつまでも破綻しないで経済の重荷であり続けるという意味ではある意味ギリシャより深刻な状況です。

この富を現役世代に移転することができれば、個人消費が上向いてデフレ脱却につながるわけで、現役世代と重複する子育て世代への支援となる子ども手当は意味のある政策です。しかも現金支給で地方負担を求めず所得制限もしないということで、以前の児童手当で課されていた地方負担分は保育所整備などの現物支給へ振り向けられて国と地方の役割分担にもなる上、所得制限を課さないことで行政コストを圧縮でき、官僚による利権化とも無縁というはっきりした理念があったのですが、児童手当復活ならば無意味です。

加えて数を減らしている現役世代も、将来不安から貯蓄に励んでいるために、国内消費は盛り上がらないわけですが、主に老後不安が原因とすれば、年金改革が重要なんですが、09年マニフェストで約束された年金甲斐買うはどこか行っちゃいました。そして持続可能な社会保障というお題目で、制度改革を放置したまま消費税率アップだけが決まるというおかしなことが起きています。つまり現行制度維持のためにいくらでも増税することが方向付けられたわけで、ますます消費を冷やし税収を減らし、財政赤字の自己増殖を助けます。

国内投資の活性化という意味では、高速道路無料化に代表される税以外の公的負担の軽減策は意味のあることで、実際社会実験ではっきり経済効果も確認できているのですから、これを撤回するのは経済政策としておかしな話です。

東北の被災地支援で中大型トラックの無料化が行われてますが、水戸インターの折り返しによる脱法行為のタダ乗りがなっております。例えば東京から九州へ向かうときに、常磐道で水戸ICで降りれば料金無料になり、折り返して水戸ICから上り線に乗り友部JCTから北関東道へ、更に関越道、上信越道、長野道、中央道と辿れば、九州までの料金もタダになるわけで、悪質な脱法行為として大畠国交相は打ち切りを示唆する発言をしておりますが、被災地エリアのインター利用を被災地への救援物資輸送と見なすという雑な制度設計の問題であり、エリア外の区間に課金されていれば防げた問題です。そこまでして料金を浮かせたいということは、それだけニーズのある政策でもあるわけで、ざっと200km、3時間程度の迂回によるロスがあっても有利ということです。またこの部分の費用を圧縮しておけば、普通車以下の車両で被災者限定とするおかしな制限も不要だったはずです。そのために被災地へ走るボランティアが泣いてます。

付言すればオープンスカイ政策によるLCC育成や発送電分離による電力自由化なども同じ系列の政策といえますし、こうして内需企業の競争促進による効率化とコストダウンの促進をはかることが、国内投資を促進することなんですが、そういった視点での議論がほとんどメディアには登場せず、法人税減税すれば国内投資が増えるというような根拠のない俗説がまかり通っております。利益に課税される法人税を減らしても、企業の内部留保を増やすだけで、それは結局企業の海外投資を促す一方、残りは銀行口座にブタ積みされ、国債購入へ向かうだけで、国内雇用には寄与しません。

しかし政府は円高封じ、空洞化阻止を3時補正に盛り込む事を決めております。つまり財政赤字を金融緩和で支える形で国の不労所得を垂れ流すとしているわけで、問題はますます深刻化するだけです。基本的に政府は現在の利権構造に切り込む意思も能力もないわけで、利権争いで高速鉄道事故を起こした中国を笑えません。ちなみにリーマンショック以降、中国経済を引っ張ってきた高速鉄道整備ですが、事故を契機に関連企業が軒並み翳りを見せており、いつか来ると言われた中国バブル崩壊の契機となる可能性が出てきました。

かくしてリーマンショック後に世界の主要国が採ってきた財政赤字と金融緩和の政策スタンスは、いずれも壁に当たったわけで、紙幣と国債の刷り増しで国立印刷部門だけが無意味に忙しい世界となりそうです。バブル崩壊後の日本の20年を世界が追体験するわけです。

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