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Monday, September 19, 2011

責任は誰が取るの?

JR北海道の中島社長の失踪事件が報じられ、スーパーおおぞら事故を受けた再発防止策は社長不在の状態で国交省へ提出されるという異例の事態となりました。当ブログではJR北海道の将来構想に重大な影響が出る事を危惧しましたが、中島社長の遺書のようなものが発見されるなど、後味の悪い展開です。

あと一部報道では、2015年開業予定の北海道新幹線新青森―新函館間の開業に向けて、函館―新函館間の在来線をJRから切り離すとした方針に地元が猛反発しており、その心労が重なったという見方もあります。地元にしてみれば、青函トンネル区間のJR貨物との共用区間では安全性から最高速140km/hに制限される上に、函館へのアクセス路線が、江差線共々切り離しとなるわけで、話が違うということがあるようですが、既に着工された路線でこんな問題で揉めているとすれば、事前調整がいい加減だったわけで、着工を迫った政治家や認可した国交省の責任も問われるところです。また事実ならば整備新幹線問題で遂に自殺者を出すという異常事態でもあります。

中島氏の人物評はとにかく寡黙で真面目ということで、典型的な鬱になりやすい人のようです。JR北海道幹部もこのところ疲れていたようだと証言しておりますが、弱音を口にできないトップの孤独は過酷です。元々分割民営化以来営業損益ベースで毎年度赤字で、経営安定基金の運用益で辛うじてカバーしてきたものの、景況の波で年度によっては最終赤字の年もあり、経営が楽ではなかったJR北海道です。

運輸省によるシミュレーションではJR東海以外は営業赤字必至と見られていただけに、それでも上出来と言える水準ですが、中島氏は経営を預かる立場から、北海道新幹線を経営安定から黒字転換への起爆剤としたい意向が強かったようです。今年九州新幹線の全線開業に沸き、株式上場まで一気に進めたいとするJR九州と同じ考え方ですが、九州新幹線が九州内の利用が見込め、実際に利用されているのに対し、対東京で航空と対峙しなければならない北海道新幹線はそれだけ条件が悪いですし、JR九州は鉄道事業こそ赤字基調ながら、活発な関連事業の展開で2004-2008年の全社営業利益の黒字化に成功しており、経営面では大差が付けられております。そのJR九州ですら、本業が赤字で上場基準を満たせるか、また経営安定基金の返上を求められる可能性もあり、順風満帆とはいかないだけに、JR北海道の経営を預かる立場の過酷さは半端ではありません。

函館―新函館間の在来線切り離しにしても、自治体出資の第三セクターにとっては、新幹線から地域の中核都市へのアクセスを独占できるわけで、ある意味三セクの支援にもなることですが、青函トンネル区間の140km/h制限は誤算だったといえます。札幌へ伸びる前提で渡島大野駅付近に予定される新函館駅設置を受け入れたら、在来線並みのスピードしか出せず、函館から見れば乗り換え駅が新青森から新函館に変わるだけで、特急料金とおそらく打ち切り合算となる三セク運賃の負担は増すけど、速さは実感できないというわけです。

加えて東北新幹線盛岡以北の整備新幹線区間でも260km/hの制限がかかりますから、FASTEC360の開発目標の360km/h運転が実現しても盛岡以北では恩恵が無いわけで、推進派が言う東京から札幌まで4時間切りは夢のまた夢ということです。航空からのシフトはせいぜい仙台あたりまででしょう。となるとそもそも需要のボリュームも少ないですし、航空需要のシフトで羽田の発着枠が空くという説明も成り立ちませんし、そもそも第4滑走路の供用開始と管制システムの見直しで羽田の発着枠は当面余裕が出ています。陸と空の長期計画のチグハグぶりで、仏TGVのように空港へ直接乗り入れるなどの発想も無く、航空との役割分担は元々考えられていない計画だったと評せざるを得ません。そんな中で経営の指揮を執るのに疲れたとすれば、実に痛ましいところです。

それでもトップの責任感の強さは、劣化の目立つ昨今の日本企業の中では褒められるべきかもしれません。むしろトップをそこまで追い込んだ有象無象にこそ問題があるわけです。事故問題にしても、JR北海道は結構軽微なミスで事故を起こしており、その改善は急務だったとしても、大都市圏で調味綱路線ネットワークを持つJR東日本や西日本、東海道新幹線に収益の8割を依存するJR東海とは条件が違いすぎるわけで、JR北海道に限らず三島会社の経営問題は早晩行き詰ると見られていました。上場3社の好調で国鉄改革は成功したような気分にさされられてはいたものの、末端を預かる三島会社のあり方はあまり真面目に考えられてこなかった嫌いがあります。

九州新幹線の好調と関連事業の伸びが特筆されるJR九州の場合、都市部の人口集積がはっきりしている地域特性に助けられているわけで、関連事業の中心は不動産賃貸と物販という都市型鉄道のモデルですが、同じことを北海道や四国でできるわけがないわけで、以前にも指摘したように、例えばJR四国ならば大鳴門橋の併用橋構造を利用した紀淡海峡ルートでの大阪進出など、地域特性を加味した経営資源の強化を真面目に考える必要があり、そのために現在の経営安定基金を地方版鉄建・運輸機構のような組織にして上下分離でインフラ強化を図るなどしたいところです。現状では相鉄都心プロジェクトのような収益性に勝る大都市鉄道でしか上下分離が利用できないということになりかねず、地域間格差を拡大する恐れがあります。

大都市圏を抱えるJR九州でも、例えば筑豊本線末端部の通称若松線と称する若松―折尾間は福北ゆたか線電化で取り残された大都市のローカル線ですが、これを洞海湾海底トンネルで戸畑地区と直結する構想が地元では検討されているものの、財源問題で動きません。これを自治体レベルで利用できる鉄建・運輸機構のような仕組みがあれば、具体化する可能性が高まります。JR九州の上場のネックになるのであれば、経営安定基金を地方に委ねて仕組み作りをする事に活用できればと思います。

とはいえ制度設計には難しさも付きまといます。例えば旧国鉄同様の特殊法人だった帝都高速度交通営団は、民営化の第1ステップとして特殊会社の東京地下鉄株式会社(通称東京メトロ)となりましたが、営団時代の旧国鉄と東京都の出資分を株式で割りあてて国が53%、都が47%の持ち分としたことで、国が株式売却をしたくても、都が同意しなければ前へ進まないという困った状況になっており、今回の震災復興で増税幅圧縮の切り札として売却が検討されているものの、実現可能性は限りなく0に近いといえます。この辺はメディアの報道でもバラつきがありますが、要するにニュースソースの違いで、政府、与党、国交省、東京都がめいめいの立場で語った内容を無批判に垂れ流す結果です。現時点で東京メトロ株の売却は、東京都の同意が得られていないので凍結されており、国交省は監督官庁として都が支配的株主となる事を避けたいけれど、都が言う事を聞いてくれないから触りたくないのですが、国民に増税回避をアピールしたい政府与党の政治家の思惑が一人歩きしている状況です。

とはいえ東京メトロは設置法を根拠とする国出資の特殊会社ですから、設置法を改正して、例えば東京都に額面で同額の優先株を交付して議決権を封じるなどの手はありますが、野党が足を引っ張る事間違いなしの状況ですから、実現可能性は低いといえます。とはいえメトロ株を高く売るためには、都の経営関与を抑える必要があり、その点は政府内であまりズレはなさそうです。ちなみに猪瀬副知事が事ある毎に言及する九段下の"バカの壁"ですが、これを作ったのが東京都だということには一切触れませんが、当ブログの大江戸怨念物語のエントリーのコメント欄で記したとおりです。

あと最後ですが、福島第一原発問題を少々。当ブログでは早い段階からチェルノブイリ級の大事故の可能性を指摘してきましたが、国会に提出された事故時マニュアルが黒く塗り潰されていたことが報じられており、まだ隠し事をしているのに呆れます。その一方で現時点でも環境中への放射性物質の漏出は止まらず、特に7,8月に都内などで放射性ヨウ素が検出されたことで、再臨界が起きた可能性まで出てきました。9ヵ月後に冷温停止どころか、将に今そこにある危機が続いている状況で、しかも現場作業員の確保もままならず、被ばく線量の上限を250ミリシーベルトまで上げても、作業員がいなくなることが危惧されています。そうなればもはや逃げ出すしかなくなるわけで、鉢呂前径産相が指摘した「死の街」が拡大します。そんな中で東電の経営・財務調査委員会が監視役として活動しております。

東電リストラ、5人の審判 危機回避に半歩  :日本経済新聞
申し訳ないけど、JR東海の葛西会長は東電の勝俣氏と旧知の仲で、自社の社員を新幹線に飛び込ませたり無人ディーゼル車を暴走させたりしていて、こんな人を監視役に据えれば、東電社員にとっての恐怖政治になりかねません。なにしろ今、東電のリストラは簡単です。社員の肩を叩いて「福島行く?」と囁けばいいんですから。それもこれも経営者の経営責任も株主責任も金融機関の貸し手責任も問わずに東電救済を決めた原子力賠償法の下ではこうなるわけで、本来責任を負うべき人に責任を負わせないと、とんでもないことになるわけです。本当に責任を負うべきは誰なのか? 考えさせられます。

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Comments

ありゃ、久々にのぞいてみたけど、まだ260km/h縛りなんて書いてますね。

こんなの事業基本計画の変更申請で一発なんですが。

政治記事のあまりのヨタ振りもそうだけど、もう少し取材しましょうよ。

Posted by: crofts | Sunday, September 18, 2011 at 03:11 AM

申請だけで追加費用をかけずにスピードアップできる夢のような話があるとは存じ上げませんでした。ぜひ情報ソースを教えてください。コメント欄にコピペで構いませんので。

普通に考えれば、国や自治体の助けでやっと開業にこぎつけた整備新幹線区間への追加投資にJRが慎重になるのは、敢えて取材しなくても類推可能であることは申し上げておきます。

Posted by: 走ルンです | Sunday, September 18, 2011 at 05:49 PM

中島社長の死体が発見され、遺書が公開されましたね。
悲しい話です。
JR北海道にも当然不備はありますが、あの赤貧の中、冒険的に開発を行い生き残ってきたという意味でよくやってると私は思っています。
すぐには立ち直れないかもしれませんが、何とか不備点の洗い出しと精神的な復帰を成し遂げて欲しいものです。

Posted by: 幻月 | Tuesday, September 20, 2011 at 11:46 PM

おやおや、管理人さん、それはあまりに...

緩衝工その他を含め、誰が何にいくら投資をするかなんてとっくに自明だし、そんなこと過去に散々言及されてきたことをいまさら、ですよ。

そもそも関係者の誰もがそんな「縛り」なんて口にしていないにもかかわらず、です。結局突き詰めれば札幌延伸が決まらなければ何も始まらないのはわかりきった話ですからね。

2ちゃんねらーじゃないんですから、基本のキは何かってことです。

Posted by: crofts | Wednesday, September 21, 2011 at 03:59 AM

>幻月さん
本当に残念なニュースです。JR北海道が抱える構造的な問題は、簡単には解決できない難問ばかりで、中島社長が一人で抱え込んだ悲劇です。というわけで、タイトルもJR北海道の不備と片付けてよいのかという意味も込めたわけです。

>croftsさん
じゃあ追加投資は必要なんですよね。申請だけで解決可能とコメントしたのはウソということになりますね。

根拠を示したくないのならそれで結構です。私は事実として整備新幹線区間の最高速が260km/hであると指摘しているので、別にスピードアップ不能とは申しておりません。

ただし多分追加投資は行われないだろうと考えております。現実問題として整備新幹線でJR東日本は新たなキャッシュフローを得ておりませんし。

Posted by: 走ルンです | Wednesday, September 21, 2011 at 05:52 PM

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