遠い新世紀に辿り着けない近くのJR
読売巨人軍の清武の乱は、単なる読売グループの内紛だったにも係わらず、日本シリーズに水を差しました。ホントはた迷惑な話ですが、同時にメディア企業としての読売グループの異常なガバナンスを露呈しました。球団の親会社の社主ではあっても、球団の一取締役に過ぎない人物が現場のコーチ人事にまで口を出すのは、明らかに越権行為であり企業のガバナンス上問題です。ギャンブル狂いの大王製紙の御曹司や、バブル時代の財テクの損失隠しに奔走したオリンパス経営陣など、企業統治のお粗末さは日本企業のお家芸のようです。日本ではプロの経営者は育たないのかもしれません。
という中で、JR東海にこんなニュースです。
リニア中間駅 JR東海、一転5900億円全額負担へ :日本経済新聞従来、中間駅は地元負担でとしていた方針を全面転換したもので、該当する神奈川、山梨、長野、岐阜、三重、奈良の各県知事は一様に評価してますが、そう簡単な話でもなさそうです。
思い出していただきたいのはいいだといちだの一字違い問題です。飯田線飯田駅に併設されると信じていた南信地域の自治体が、飯田市北部か高森町の田園地帯という駅立地をJR東海の内部資料スッパ抜きで知ることになり混乱したわけですが、同時にJR東海の本音が見事に表れているわけです。自社路線である飯田線とさえ共同使用駅の設置を行わず、既成市街地を避けて建設するのは、建設費圧縮が目的であるのは言うまでもありませんが、こうなると名古屋を除く中間駅では、他線と一切連絡無しでも構わないというわけです。ま、元々東名阪速達列車中心のダイヤ構成となることは間違いないですから、中間駅はのぞみが停まらない静岡県の悲哀を味わう事は間違いありません。
つまり中間駅は元々オマケみたいなもので、事業を進めるための地元懐柔策以上の意味はないわけです。その割に中間駅の全額地元負担とする強気の方針を打ち出したのは、鉄建・保有機構の鉄道整備基金を用いた整備新幹線支援スキームを使わず、在来線切り離しや地元負担もないから、条件を呑ませることができると判断したのでしょうけど、地元協議が進捗せず、2014年着工に間に合わせるにはギリギリのタイミングということでしょう。結果的に東名間で3,300億円、全線で5,900億円の追加負担が生じることになりました。
そうでなくても自前整備のためにコスト圧縮を求められる状況ですから、地元に負担を求めないとなれば、駅立地に関してはJR東海の言い値で進めようということになりそうです。例えば相模原市内ですが、常識的には交通の結節点である橋本となるところですが、大深度地下で地上権設定が不要となる駅間と違って通路や換気口を設置しなければならない中間駅では地上権設定が必要ですが、JR東日本の鉄道用地への地上権設定を嫌う可能性があり、例えば橋本駅の西1kmほどのところの職業訓練大学校跡地などが候補になる可能性があります。その場合既存の鉄道網とは連絡しないわけですが、政令指定都市になったものの、有効な都市計画策定ができていない相模原市の統治能力からいえば、押し切られる可能性が高いと言えます。
元々東海道新幹線の輸送力逼迫を理由としていたリニア中央新幹線ですが、バブル崩壊後の利用客は横ばいで、のぞみによるスピードアップや品川新駅開業などでも傾向は変わらない中で、いつしか東海地震に備えた多重化とか、70年の耐用年数を迎える2034年以降の東海道新幹線の大修繕のための長期運休の代替輸送などに理由が変化しています。つまり本来の輸送力増強の目的を引っ込めたわけで、それでも建設に向かうJR東海の無謀な判断に後付けで理由をひねり出しているだけです。つまりリニア建設という大方針を立てたのはいいけれど、引っ込みがつかなくなってしまったわけです。
リニア建設について財務面から見ると、東名間の5,1兆円とされた事業費は、2017年度完済予定の長期債務と同額で、リニアの着工が2014年予定なので若干被りますが、長期債務の負担軽減によるフリーキャッシュフローを当てにしていると見てよいでしょう。つまりやや背伸びすれば東名間は現在の東海道新幹線の収益の範囲で整備可能という算段です。
ところが注意が必要なのが、上記のように2034年以降、東海道新幹線の大修繕が始まるということで、この費用の一部は新幹線のぞみ料金の一部を無税積み立てして充当する仕組みで、丁度大都市圏の通勤鉄道の特特法と同じですが、それだけで足りるものではなく、別途借入金などを手当しなければなりません。つまり東海道新幹線の大修繕の費用は基本的に純粋な持ち出しになります。このあたりちょっと変な話になります。
元々新幹線保有機構からリースされる形になっていた新幹線をJRが買い取った事情は、JR東日本の株式上場準備の過程で、主たる事業用資産が自己物件でなくリースであることで、減価償却されていないため耐用年数を過ぎた後の設備更新資金が捻出できない事が株式上場の障害になるという指摘を受けて発議されたもので、その際に資産評価を簿価ではなく再取得価格という再評価価格で評価され、地価の高い東海道新幹線が相対的に高負担となったことに対してJR東海は不満を表明し、それがのぞみ料金の一部無税積み立ての容認につながったのですが、JR東海の言い分は、地価は減価償却できないので、長期債務の負担と減価償却によるフリーキャッシュフローとが釣り合わないという言い分でした。
実際は減価償却によるフリーキャッシュフローは全額ローン返済で相殺していたわけですから、本来東海道新幹線買い取りのローン返済の終了と共に、それで浮いたフリーキャッシュフローは東海道新幹線の大修繕に充当されるのが一番素直な話なんですが、それをリニアの建設費に充当するわけですから、計算が合わなくなるわけです。とりあえず名古屋までは持ち出しなしで整備できたとして、東海道新幹線の設備更新費用は別途調達する必要があるわけです。それを大阪まで自前で整備するというのは、航空からの転移や誘発効果を見込んでいなければ不可能なんですが、日本の人口減少、製造拠点の海外移転、LCCの国内線就航などの環境変化を考えれば、かなり無謀な計画と言わざるを得ません。
少なくとも10年単位の中期予想で日本のデフレと経済停滞が続くという見通しの中では、かつて国鉄時代に行ったような半日運休による長大間合い確保による設備更新で、とりあえず山陽新幹線並みに最高速300km/hを目指すような方向性を考えるべきでしょう。新幹線の場合駅間の大胆な線路移転は不可能ではありませんから、内陸部の長大トンネルによる新ルートに徐々に切り替えて、線形改良と防災の深度化を狙うという方向性ならば、大きな持ち出し無しに可能ですし、例えば関が原の雪対策強化も併せて行うなどして運行の安定性を高めるなどして、無理に航空に喧嘩を売る必要もありません。ぼちぼち何が何でもリニアという方針を見直しても良いのではないかと思います。建設を正当化するための多重化よりも、避けられない設備更新に併せて防災レベルをアップさせる方が重要です。
多重化に関しては北陸新幹線の新規着工問題でも指摘されていますが、北陸新幹線が敦賀まで延びて多重化になるというのは明らかにこじつけです。気になる動きとしては、原発立地県の福井県で原発再稼動の条件闘争で整備新幹線の新規着工を勝ち取ろうという動きがあるようですが、万が一の原発事故で影響を蒙るのは福井県だけの問題ではありませんから、当然絡めるべきではありません。
しかし北陸新幹線の新規着工は長崎新幹線と北海道新幹線の新規着工の突破口となるという期待もあって、また東北、九州の両新幹線の開業で鉄建・保有機構のリース料収入も400億円になり、それを担保にした借入も当てにできるという考え方が国交省内にも出てきているようです。そうでなくても公共事業が削られて存在感が薄くなっている国交省の巻き返しの意図がありそうです。
直接財政資金を投入するわけではありませんが、独立行政法人が抱える埋蔵金の運用は、事実上の政府保証つきと市場で評価されてしまい、当面低利で資金調達できますが、イタリア国債のように、ひょんなことから信用不安が発生し金利が上昇してしまうリスクはあるわけで、野放図な拡大は厳に慎むべきです。
それ以前に軌間可変電車(GCT)を前提とする長崎新幹線にしろ、青函トンネルの貨物共用区間で最高速140km/hに抑えられ、事実上フル規格のミニ新幹線(笑)となる北海道新幹線にしろ、大枚はたいて整備する価値はありません。更に東北新幹線が新青森まで延びた結果、陰となって廃止を余儀なくされる十鉄のような問題もあるわけで、いい加減新幹線頼みから在来線のグレードアップに重点を移すべきでしょう。そもそも折角地域分割されて地域密着のミッションを与えられたはずのJR各社です。新幹線頼みばかりでなく身の丈に合わせて地域の実情に合った輸送サービスを心がけるマインドが必要です。ま、JRの経営者も日本の経営者の限界を超えられないのかもしれませんが-_-;。
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