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Thursday, November 03, 2011

ガイアツの夜明け

またもや日本政府が為替介入を実施しました。しかも今回は79円台前半の指し値介入という手法を用い、結果的に推定7-8兆円という大規模なものとなり、さすがにドル/円レートは押し戻されましたが、その後ジリジリと円高は進み、日本の祝日に当たる本日(3日)に1円以上の円高となると予想されます。

為替介入で相場を動かすことはできないことは、過去の事例で学習されるべきことですが、月末狙い撃ちの指し値介入というところに政府の意図が見えます。早い話企業の決済集中日に大幅な円安水準の指し値ポジションを取ることで、円高で目減りする企業利益の補填は可能なんで、言ってみれば国による企業の粉飾幇助です。よくもまぁこんな途上国ばりの国家資本主義政策ができるものです。あ、どじょう宰相のどじょう国か(笑)。

まぁこんな国だから、ほかの問題でもあらゆるレトリックを行使して目くらましを仕掛けます。例えばTPP交渉参加問題です。TPPに関してはあまりにも誤解に基づく言説が流布されていますが、そもそも関税撤廃で自由貿易促進というロジックが大嘘です。TPP自体は単純な関税同盟ではありませんが、日本にとって貿易シェアの高いアメリカの工業製品の関税は元々低く、例えば乗用車で2.5%とか家電品で4%とかその他もせいぜい数%程度です。08年のリーマンショック後に日本円が対ドルで4割以上増価したように、輸出の障害としては為替変動のほうが遥かに大きく、わずかばかりの関税撤廃は大勢に影響はありません。

逆に日本の高関税が問題視される農業分野ですが、これもコメ、小麦、乳製品、コンニャクなど一部品目の高関税に留まり、野菜などは既に低関税で事実輸入野菜が日常的にスーパーの店頭に並ぶ状況です。これら高関税品はつまるところ既得権益の保護問題でして、ここにメスを入れられるならば直ぐにでも日本単独で解決できる問題です。何も多国間協定のような不自由な枠組みの外交交渉の中で行う必然性はありません。つまりTPP交渉参加は無意味です。

むしろ貿易分野以外の規制改革分野こそが重要なんですが、TPPは基本的にネガティブリスト方式となるわけで、つまり規制や高関税の根拠となる例外事項を列挙して、記載のない事項は原則自由となるわけで、提訴合戦に発展する可能性を秘めています。ま、そこまで極端な議論をしても始まりませんが、確実にガイアツは増すということは指摘できます。

逆に邪推すると、このガイアツこそが狙いという見方も可能です。実際メディアに露出している議論は農業分野に偏っていますが、これは多分農業分野への補助金バラマキの地ならしです。実際10年度本予算で大幅削減された農地基盤整備滋養が、菅政権次代に組まれた10年度補正予算でTPP対策として復活しております。つまり与党内で行われているTPP参加に関する意見集約も、予算をつけて黙らせようという執行部の思惑が透けて見えます。つまりガイアツを利用すればいくらでも無駄なバラマキができて、むしろ既得権益を保護できるわけで、復興増税や消費税増税の既成事実にもなるわけです。将に"ガイアツの夜明け"です(怒)。つまり自由貿易を標榜しながら逆のことが行われようとしていると見るべきでしょう。

確かに新興国では国際社会とは異なった商慣習で摩擦を生じる事が多く、貿易や投資を活発にするためには、各国の努力は欠かせませんし、進まない国内改革の梃子に外圧を利用するというのは、かつての台湾やIMF管理下のタイや韓国でも見られたことですし、その結果当該国が経済的に躍進したことは確かです。しかしその結果韓国では格差拡大で政治が不安定になりましたし、タイはタクシン派と反タクシン派の不毛な対立が続き、2006年の軍事クーデターに至り、その結果タクシン政権下で計画されていた大規模治水事業が頓挫し、大洪水の遠因となるなどしているわけです。

同様にEUの市場統合も相互に外圧を利用し合う側面はありますが、その結果がギリシャ危機であるということも指摘すべきでしょう。ギリシャではEUの支援策の条件となる財政再建を巡って国民投票の実施と言う話にまでなっております。結果如何ではユーロ離脱の可能性もあり、世界を慌てさせましたが、リスボン条約ではユーロ離脱の規定はなく、EUからの離脱のみ規定されており、実際の国民投票はEUに留まるべきかどうかとなると見られ、ギリシャ国民の多数派はEUに留まる選択をすると見込まれますので、むしろ足を引っ張る議会対策の側面が強いものです。とはいえそれだけ支援スキームの実行が遅れるわけで、やはり影響は計り知れません。

というわけで、政治の停滞は日本に限った話ではないんですが、官僚機構が強固な日本の場合、結果的に官僚支配が強まる傾向は否めません。その意味で捨て身の国民投票に舵を切ったギリシャのパパンドレウ政権の方がまだ政治家の顔が見えます。政治主導はどこ行った-_-;。

あとメディアではほとんど振れられませんが、TPPはWTOのような包括的な国際機関ではなく、あくまでも参加国同士の協定で、非加盟国に対しては排他的です。特に日本の最大の貿易相手国は中国であり、TPP参加は当然中国との関係を微妙にします。

これは別に日本のTPP参加に中国が政治的に反応するというよりも、既に関係の深いEUとの関係を深化させるという形で対応すると考えられます。中国市場では自動車や鉄道分野でドイツのプレゼンスが大きく、ただでさえ日本勢は劣勢にありますが、中国とEUのFTA締結で結果的に日本勢が中国市場からはじき出される危惧もあります。そうなるとTPPで得られるものより失うものの方が大きいという結果にさえなります。

中国はとかく付き合い辛い国ではあります。特に知的財産権問題は悩みの種で、高速鉄道技術の特許申請など油断できない動きを示しますが、この問題はどちらかといえば日本側の特許の管理の甘さをつけ込まれたとみるべきでしょう。旧国鉄の解体で権利者が不明確だったことや、メーカーとの権利関係が曖昧だったりという、日本側の事情によるものと言えます。そういう観点からこのニュースを見るべきでしょう

東急車輛製造株式会社の鉄道車両製造事業の経営権取得について(PDF)
新津での車両製造を始めるときに東急車輛に半ば強引に特許の公開をさせたJR東日本に国鉄体質があったことは否めませんが、特許の共同管理という曖昧な状態を放置すれば、世界ではいつどこで足許をすくわれるかもしれないわけで、その意味で中国で良い勉強をしたと言えます。というか、そもそもスマートフォンやタブレットを巡るアップルとサムスンの訴訟合戦のように、世界へ進出する場合は特許紛争は付き物ぐらいに見ておくべきです。

元々特許関連の制度は国によってまちまちで、特許申請は主要国を網羅しなければ意味がなく、当然コスト面から大手企業でなければ扱えない現実があります。同時に類似する特許の相互利用といったいわゆるクロスライセンス契約も広範に行われるわけで、Googleによるモトローラ・モバイル買収はアンドロイド陣営のハードメーカーに特許紛争の足場を提供するためと言われます。JR東日本も痛い目に遭って世界の現実を知ったと見ることができます。

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