着地点が見えないCOP17の中の嵐
南アフリカのダーバンで開催されている気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)が迷走しており、閉会予定の9日を過ぎてもまだ終わりにならない状況です。去年のCOP16カンクン合意で玉虫色決着された後だけに、13年に失効するポスト京都議定書問題で何らかの合意を得る必要はあるのですが、現在、新枠組みの発効時期を巡って膠着状態が続いています。
今回のCOP17では、京都議定書の条件付き延長を主張するEUが2020年をメドに新枠組みを発効させることを条件に、当面の京都議定書延長に応じるという案に対して中国が興味を示した事で、中欧で合意の期待がありました。そうなれば中国をけん制したいアメリカも新枠組みに反対する道理を失うということで、事前の合意への期待は高かったのですが、蓋を開けてみれば中国の強硬姿勢はあまり変わらず、アメリカも20年以降の削減義務に消極姿勢の中、一部途上国から20年の新枠組み発効では遅すぎるという声が上がり、発効時期を明記せず、議定書延長の想定が5年となることから、2018年に新枠組み発効と読める内容に米中が反発して、議論は暗礁に乗り上げたまま動かなくなりました。
ここまでの話では日本の出番がないように見えますが、日本も当然重要なプレイヤーですし、今回COP16カンクン合意から主張を変えた部分があり、世界から失望されています。日本は京都議定書の単純年長には反対し、カンクン合意では、議定書延長の場合温室効果ガス25%削減を国際公約ではなく自主的な努力目標とするとしていたのですが、今回それすらも引っ込めて、一切の数値目標を掲げないとするものです。当然合意の足を引っ張る役割を果たしました。メディア報道では「カナダとロシアが同じ主張」としてますが、日本は明確に主張を変えたのであって、その部分は意図的に伏せられています。
言うまでもなく3.11福一事故の影響で、原発依存の温室効果ガス削減が難しくなった事で態度を変えたわけですが、結果的に合意機運に水を差したことは間違いなく、途上国からは「削減目標を提示しない国には議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)を利用する権利がない」というけん制発言も出て、合意を更に難しくしています。ホント外交交渉ではろくでもない日本政府です。TPP交渉が思いやられます。
そもそも環境に対する政府の認識に疑問符がつくのですが、基本的には東西冷戦の終結で顕在化した潜在リスクという認識がないんじゃないかと思います。この視点は気候変動問題に留まらず、昨年名古屋で開催された生物多様性枠組み条約締約国合着(COP10)も含めて、経済のグローバル化、すなわち東側諸国の世界市場参入や途上国の工業化によるキャッチアップによるグローバル市場の拡大で、複雑な利害関係が従来の国際政治の枠組みでは制御できなくなってきた事に由来します。
気候変動問題は、農林漁業などの一次産業にショックを与え、穀物市場の高等などを通じて貧困国を圧迫する一方、工業化による化石燃料消費の拡大で資源争奪戦が激化するなどのリスクがあるわけです。生物多様性問題は、遺伝子のかく乱防止、生態系サービス維持と共に、遺伝子資源の管理と有効利用という命題を抱えており、基本的には生物資源から得られる便益の配分問題と捉えることができます。しかしこの辺は一般にもあまり理解が進んでいないところです。
気候変動問題に関しては、灼熱の氷河急行の記事で取り上げた2007年のクライメートゲート事件の問題もあり、科学的根拠を疑う議論もあるのですが、そもそもネイチャー誌のホッケースティックのグラフ自体、気候変動が関心を集めた直近の豊富な気候データに対して、古い時代のデータは基本的に地質調査で得られたデータによるわけで、元々データの出所が違うわけですから、きれいな相関を示すグラフ自体に多少の化粧が施されていたとしても、それ自体は驚くに値しないわけで、逆にだからといってCO2などの温暖化ガス排出量増加を原因とする仮説自体が否定されたわけではなく、温暖化が確認される直近の気象データが示す現実が変わるわけでもありません。つまり依然として気候変動に伴うリスクは存在するわけで、それに対して検証を待てば事態が進行して手遅れになる可能性がある中で、採り得る対策として温暖化ガスの排出量を管理する事ぐらいしかないという現実に直面しているわけでもあります。
こういった構図を頭に入れて日本が依拠してきた原発による温室効果ガス削減という議論は、気候変動リスク回避のために事故や核廃棄物処理で多大なリスクを負う原発推進という構図で捉えなおすことができます。少なくとも3.11以前ならばともかく、福一事故の現実に直面する日本の選択として、気候変動リスクを原発固有のリスクに置き換えることの是非として考える必要があります。間違っても直近の電力不安などを煽って決めるべきことではありません。
もう一つの論点として、そもそも京都議定書では先進各国への削減義務を定めると共に、CDMにより工業化される途上国の温室効果ガス排出拡大を防止することで、先進国に排出権クレジットを交付する仕組みが組み込まれましたが、国連の気候変動枠組み条約(UNFCCC)の認証が条件となり、その条件がかなり厳しいために、有力な事業が枯渇しているという現実もあります。本来環境技術で先進性を有する日本が果たすべき役割として、このCDMの認証事業を拡大して排出権クレジットを取得しやすくすることが考えられます。環境技術の輸出と移転を進めることで、地球規模の温室効果ガス削減に貢献するということです。
当然クレジット取得に費用はかかりますが、その結果日本企業が得意とする環境関連製品の販売やエンジニアリングなどで富をもたらすわけで、また事業を通じて技術移転も促進され途上国も恩恵を得るわけで、原発にお金をかけるなら、こちらに力を注ぐ方が、多くの企業が関与できますしその際排出権の買い取り費用は一種の輸出補助金の役割と割り切る事も可能となります。排出権価格の相場如何では円高にも耐性があると考えられ、コモディティ化した薄型テレビやコンパクトカーを売り込むより確実に比較優位があると思います。
ついでに対象国を途上国に限定せず、アメリカのように数値目標を明示しない大量排出国も含むようにすれば、80年代の自動車や半導体のように、雨アラレの大量輸出でアメリカ市場を席巻すれば、アメリカも根負けするでしょう。文句言われても「国際ルールに則った行動」とシレッと言い放てばよいですから。この辺は日本政府の得意技でもあります(笑)。
というわけで、膠着した議論を日本政府が動かせるとすれば、CDM事業の認証範囲の拡大、例えば風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーや、スマートグリッド技術関連技術、モーダルシフトを意図する鉄道整備などが考えられます。ヨルダンとの原子力協定締結で原発輸出に舵を切る野田政権ですが、原子力関連産業よりも間口の広い環境関連にこそ力を入れるべきでしょう。
ただし鉄道関連は注意が必要なところで、モーダルシフトは第一義的には貨物鉄道や都市交通の分野がメインであって、高速鉄道は必ずしも当てはまらないということは指摘させていただきます。航空からの転移という視点もあり得ますが、高速鉄道自体が需要を誘発する効果があり、また輸送力の大きさから乗客1人当たりの数値は乗車率次第でもあり、正味の排出削減につながるとは限らないわけで、この辺の議論をすっ飛ばして(電力消費量の多い)リニアは航空よりも環境にやさしいといった戯言が語られるのはうんざりです。また都市交通は地下鉄やモノレールなどに限らず、LRTや場合によってはBRTのようなものまで、需要に応じてさまざまな選択肢がある分野でもあり、日本企業が必ずしも強い分野とは限らないことも忘れるべきではありません。
もう一つ言えばそもそも省エネ先進国と言われる日本ですが、そのかなりの部分を小さな家と通勤電車の混雑に依存しているわけで、国民の犠牲の上の話という視点も忘れるべきではありません。原発で大もうけできる一部企業の言い分ばかり聞かずに、日本の経験を良い点も悪い点もひっくるめて世界へ発信していく姿勢こそが大事でしょう。コップの中の嵐のような国内政治では望むべきもありませんが-_-;。
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