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Sunday, February 05, 2012

東電下暗し

東京電力の値上げ問題が紛糾しております。当面は契約電力50kwh以上の需要家向け契約で17%を打ち出し、ユーザーとなる企業や自治体が一斉に反発しております。中には特定規模電気事業者(PPS)からの調達に切り替える動きも出てきておりますが、PPSが調達先としている日本卸電力取引所(J-PEX)市場の相場価格が上昇し高止まりしており、30円/kwhと家庭用の28円/kwhをさえ上回る水準の現状では、PPSからの調達でも値下がりはあまり期待できません。結局電力会社に依存しない電源を増やす以外に方法はありません。

気になるのはメディアの報道が必ずしも制度を正しく理解していない点です。よく言われる総括原価方式は、あくまでも50kwh以下の小口需要家及び一般住宅向けの電力料金には当てはまりますが、50kwh超の需要化向けは、当事者間の契約によるもので、原則自由であるという点です。つまり電力会社は契約先が同意しさえすれば、自由に料金を上げられます。文字通り「値上げする権利がある」のです。

1995年の発電事業者(IPP)の参入と特定地点を対象とするPPSが解禁されて以来、PPSの参入範囲の見直しと電力卸市場の整備で現行の制度になったのが2005年ですが、それ以来自由化はストップし、議論された発送電分離や自然エネルギー活用は進みませんでした。電力会社の反対で潰されたんですね。

その結果日本の電力自由化はいびつな構造になっています。50kwh超の需要家に対しては、PPSとの契約という選択肢を形式的に用意しましたが、電力会社の系統電力網による電力託送料が割高だったり、需給調整を行う必要から課される3%以内の需給バランスを超えたときに課されるインバランス料金が割高だったりという懲罰的な制度のために、新規参入は抑制されました。また不安定な自然エネルギー発電の参入障壁となって、世界に遅れを取る結果となります。

逆に自由化で電力会社にはコスト削減のインセンティブを与えた結果、原発の新設よりも既存原発の延命へ、高効率なガスタービン発電よりも償却済みの燃費の悪い火力発電の温存へと走らせ、結果として福一事故につながる安全対策の穴をつくってしまったわけです。全て電力会社の意向に沿った形式的な自由化の弊害ですし、それを無批判に伝えてきたメディアは、スルーせざるを得ない問題でもあります。そんなメディアが伝える原発再稼動の必要性はマユツバものです。

話を戻しますが、今回の東電の値上げは、当面契約電力50kwh以上の需要家対象ですが、それだけでは足りず、9割方の利益を稼ぐ小口・一般住宅向けの10%程度の値上げ申請も予定しているわけで、こちらが本命なんですが、大口契約者への値上げを実施しないと国民に説明できないとする経産省から認可を得るために避けて通れない関門でもあるわけです。

またこの値上げは原子力損害賠償支援機構の運営委員会による東電支援スキームに基づいて出されたものでもあり、東電を破綻させずに賠償に当たらせるという政府方針に沿ったもののはずですが、枝野経産相が官房長官時代からの持論としている銀行の債権放棄に踏み込まないなどで難くせつけている状況です。その一方で同じ枝野経産相が原発再稼動に前のめりなのは違和感がありますが、機構が描いたシナリオでは、電気料金値上げと原発再稼動がセットで東電の経営再建を図ることになっており、政府の対応は一貫性を欠きます。

背景には賠償のために生かしたはずの東電ですが、事故処理費用も賠償額は膨らむ一方で、今後発生する廃炉費用や使用済み核燃料の処分費用もあり、わずかばかりの引当金積み立て程度ではどうにもならず、それどころか3月に迫る決算で債務超過が避けられない見通しとなっていることがあります。こんなことは最初からわかっていたことではありますが。

それを回避する必要から、現在東電の実質国有化の議論が内々に行われているのですが、一時国有化による破綻処理ではない点がミソです。つまり破綻処理ではなく、政府が増資を引き受ける形で2/3超の議決権を確保して経営権を握り、資産売却や賃金見直しなどのリストラ策に留まらず、現経営陣の更迭や銀行の債権放棄、更には発送電分離を含む電力改革の梃子にしようという政府側の意図があります。ただし経産省主導の議論であり、強すぎる電力会社の力を削ぎ、権益を拡大する意図があることに注意が必要です。

例えば発電所の売却が取りざたされていますが、火力発電の場合燃油代が高騰している現状では、引き受ける企業にはメリットが見出せません。20年契約で燃料を調達する電力会社は、目先の相場の変動のリスクを回避できますが、一般の事業会社が参入しても直ちに利益を得ることは現時点では不可能です。この観点から言えば自然エネルギー利用の方が、全量買い取り制度を踏まえれば有望ということになりますが、未だに買い取り価格などで国の方針が固まらず、事業化は進みません。

背景にはイラン問題が影を落とします。そもそも日本の核武装準備国という平和ボケ保守の妄言に倣ってNPT加盟国の権利として核開発をしており、回りまわって日本を苦しめる皮肉な状況です。それでも石油は備蓄があるので当面どうにかなりますが、火力発電は今やLNGが主流で、しかもカタール産が9割という状況で、ホルムズ海峡が封鎖されれば燃料が調達できないという状況です。

これもLNGはそもそもLNGプラントのあるところからしか調達できない欠点があり、それを回避する目的でサハリン産天然ガスを東京まで送るガスパイプライン構想があったんですが、電力会社の反対で潰されました。サハリンの天然ガス事業は日本の商社も権益を持っていたのですが、その後ロシアの国営企業に渡されました。エネルギー資源の中東依存回避が原発推進の1つの理由だったんですが、その裏で天然ガスの中東依存が進んでいたんですから、どこまでもウソで固められた話です。

そもそも本気で電力自由化をやる気があるなら、東電は原賠支援機構による支援で生かすより、一時国有化して破綻棕櫚をしていれば、今頃は一部実現していたはずです。ここで一時国有化と実質国有化の違いが出てきます。一時国有化は株式のゼロ査定による100%減資と議決権の国による没収の形で破綻処理するスキームで、同時に経営陣から経営権を剥奪した上で新経営陣を国が決めて送り込み、債権者の債権放棄もも止めるものです。

この場合、東電が大量発行していた電力債が一般債務と見なされる原発損害賠償荷優先される事がネックと言われましたが、原発の損害賠償は国が連帯責任を負うものですから、早い話国が賠償すれば済む話なんですが、東電を生かして賠償させる途を選んだ結果、矛盾が噴出しただけの話です。

逆に東電側から見れば、国の判断で延命できはしたものの、元々まともに賠償する能力も意思も欠いていて、経営責任を自覚していないから、国が実質国有化に舵を切ろうとしても、債権放棄を求められる銀行の反対を盾に生き延びようという虫の良い立ち回りをしているわけですから、国が東電の経営責任を問わなかったことで、文字通りゾンビの如く復活してしまったわけです。こうなれば世論の反発などどこ吹く風、債務超過になろうが構わずむしろ破綻させられないことで国の足許を見るに至ったわけです。

将に東電救済で始まる新たな失われた10年を地で行く話です。当該エントリーで90年代の金融危機との対比をしておりますが、一時国有化は旧長銀、日債銀を一時国有化して新生銀行、あおぞら銀行として経営を立て直した後に、株式を売却して投入した公的資金を回収したわけですが、この結果、国の経営介入を嫌った大手銀行がこぞって不良債権処理を進め、また経営体力強化のために自主的に合従連衡していわゆるメガバンクとして経営を健全化したわけで、大手銀行に経営規律をもたらすことができました。

一方小泉政権下で行われた竹中プランの中で救済されたりそなグループは、不良債権処理を巡り迷走し、2003年に国が資本注入を行う形で実質国有化しました。議決権を握って経営陣を刷新したものの、破綻処理ではなかったことから、行員の意識改革は進まず、公的資金の返済に長い時間を要する結果となりました。かように一時国有化と実質国有化は雲泥の差があるわけです。国が電力改革に本気なら、東電を一時国有化すべきですし、その結果国が本気となれば他の電力会社への経営規律の強化を促すことにもなります。またりそなグループの救済は経営悪化した地方銀行の救済合併で金融庁に恩を売ってきた結果でもあり、大手銀行に続いて不良債権処理を進めなければならなかった地方銀行の経営改善を遅らせた面も否めません。

これは穿った見方をすれば、郵政民営化で郵貯の民間銀行化を打ち出していた小泉政権による地方銀行懐柔策の側面もあります。つまり小泉改革は郵貯を民営化して銀行を国有化したというヨタな話なんですね^_^;。というわけで、小泉改革を批判して止まなかった民主党が政権に就いたら同じことをしているわけで、何のための政権交代だったのかという話です。

鉄道会社の対応としては、JR東日本は既に川崎火力発電所の増強と信濃川の水利権追加取得を打ち出し、自力調達を強化しております。東京メトロは3.11以前からガス会社系PPSのエネットとの契約を済ませており、エネットへ出資する東京ガスが火力発電所の増強を進めておりますが、その他の社は出遅れているようです。ラッシュ輸送やダイヤ混乱時の回復運転などで需要変動の大きい鉄道会社は、上記のインバランス料金の負担が馬鹿にならないこともあり、値上げのインパクトは決して小さくはありません。

そもそもラッシュ輸送などは鉄道会社の責任ではないのに結果的に負担を強いられる状況ですが、長い目で見れば自前の電力調達へ舵を切らざるを得ないと思いますが、単独では負担が大きすぎる話でもあり、共同調達や余剰電力の融通などの仕組みができる可能性はあります。いずれにしても厄介な経営判断を迫られる話だけに、簡単ではありませんが。首都圏でもスルッとKANSAI協議会のような共同調達の仕組みができるならば良いきっかけではありますが。

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Comments

スルッとKANSAIって乗車カードだけでなく資材の共同購入なんかもやっているんですよね。関東だと西武や小田急も加わっていて、もはや関西だけの組織ではないですね。車両だけでなく電力や運行管理システム、保安装置なども標準化や合理化がもっと進んでもいい気がします。

Posted by: yamanotesen | Monday, February 06, 2012 02:47 PM

製造業と違って海外へ逃げられない鉄道会社にとってh、電気料金アップは痛いところです。

東電がこうなってしまった以上、鉄道会社自ら電力の調達は避けて通れない課題ですね。

首都圏ではスルッとKANSAIのような協業システムが十分ではないですが、ラッシュ輸送やダイヤの乱れで生じるインバランス料金の負担は、必ずしも鉄道会社が責めを負う問題ではないだけに、何とかしたいところですね。

Posted by: 走ルンです | Monday, February 06, 2012 09:54 PM

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