関電しまっせイランお世話
クサイ話の次はシビレる話です(笑)。大飯原発再稼動を巡る動きが活発になってきました。政府は夏の電力不足を口実に原発再稼動の道筋を模索しているようですが、現に極寒のこの冬に停電は起きていませんし、2月3日の九州電力新大分火力発電所の運転停止でも停電は回避されました。
九電・大分の大型火力発電所が停止 6電力から緊急融通 - MSN産経ニュースこのニュースで重要なのは他電力から合計240万kwの電力融通を受けた点です。これは公開されている電力会社相互間の連携線容量を大幅にオーバーする値であるということです。もちろん定格容量をオーバーした状態は長く続けられないにしても、ピーク対応だけならば連携線の活用で乗り切れることを示したという見方は可能です。
私自身は脱原発の立場は取りませんし、条件が整えば原発再稼動もアリと考えておりますが、科学的知見に基づかない政治判断での再稼動は認めるつもりはありません。そもそも福島の事故収束も道半ばで、原因究明も手付かずの状態で再稼動は、むしろ国民に不信感をもたらすだけで、原発再稼動をむしろ難しくすると考えます。加えて世界からも不信の目で見られます。
私が考える再稼動の条件は、安全性はもちろんですが、核燃料サイクルの中止と核燃料の使い捨て(ワンス・スルー)などとセットで、バックエンドの処理はアメリカやロシアに協力を求めるのが現実的でしょうか。オバマ大統領の核兵器廃絶路線が継続する事が前提ではありますが。通常の運転停止でも20年はかかる廃炉作業です。福一では40年とも言われ、やってみなければわからないのが現実ですから、それも含めてプロセスを公開して専門家任せにしない方が重要かなと思います。「専門家」に任せた結果、取り返しのつかない問題を引き起こしたんですから、以後のプロセスは世界へ向けて公開の場で助言を得ながら行われる方が望ましいと考えます。
またこのことは、今後新興国でエネルギー政策として行われる原発建設に対しても、モデルとして一定の役割を果たすことになり、「原子力の平和利用」を口実としたイランの核開発に対してもけん制の意味があります。26日からソウルで開催される世界核セキュリティサミットでも日本が積極的な役割を果たすべきなのは言うまでもありません。しかし政府はイラン問題で石油が入ってこないことを危惧して再稼動を急いでいるようですが、的外れです。
そもそも石油火力は今や火力発電の中の15%を占めるに過ぎない傍流で、本来はイラン危機はあまり関係ないはずですが、液化天然ガス(LNG)の供給元がカタールが中心で、原油価格連動の価格で輸入しているという事情があります。そこでシェールガス革命で天然ガス価格が割安なアメリカからの調達を考えているようですが、LNGプラントの整備に時間がかかるので今夏には間に合わないというロジックなんでしょう。ここで疑問なのは日本の資金でLNGプラントを建設したサハリンからの供給増をなぜ考えないのかということです。輸送費の問題も含めて考えれば、調達コストは割安なはずです。
元々日本の原子力政策はオイルショックで中東依存のリスクが明らかになったことで、エネルギー供給の多様化を狙った側面もあるわけですが、逆に原子力を除く化石燃料の調達先の中東依存は依然高いままで、むしろ原子力政策への依存が中東以外のエネルギー調達先の確保を遅らせた可能性もあります。それにガソリン成分の相対的に少ない中東原油は割安ということもあり、精製過程でさまざまな化学原料が得られることから、中東原油から離れられない体質になってしまったということもあります。
平時ならば米WTI原油先物>北海ブレンド。ドバイ原油という価格の序列となるところを、去年のリビア内戦では北海ブレンドがWTIを上回りましたし、現在100ドル台のWTIに対してドバイ原油が120ドルを超えるなど、イラン問題では日本の交易条件の悪化が目立ちますが、だからといって近視眼的に原発再稼動を進めれば、日本が世界から不信の目で見られるに留まらず、親米国家の日本には許される核の平和利用の権利をイランにも認めろという言い分に足場を与えてしまいます。政府の対応は近視眼過ぎます。
そんな中で大阪市が関西電力の筆頭株主として動きました。
大阪市:全原発廃止、関電に株主提案へ - 毎日jp(毎日新聞)定款変更や電気事業連合会脱退、発送電分離などまで盛り込んだ提言で、同様に関電株を保有する神戸市や京都市にも協力を要請するということで、実現すれば画期的ですが、約3割を占める銀行などの機関投資家は反対に回ると見られるので、個人株主の判断次第というところでしょう。
定時株主総会が行われるのが6月ですから、今の時点で明らかにされたのは、1つには議論を喚起して合意点を見出そうということかもしれませんが、もう1つは政府が明らかに大飯原発再稼動の方向へ動き出した事へのけん制もあるかもしれません。いずれにしても冷静な議論を促すならば良いですが、維新の会にありがちな、卒業式の君が代規律斉唱問題のような、コントとしか思えない対応にはならないで欲しいですね。
そもそもなぜ大阪市が関電の大株主なのかというと、日本の電力事業の歴史に由来します。簡単に言えば大阪市内で電力供給事業を行っていた大阪電灯(1888年設立、翌年事業開始)が1923年に大阪市に買収され、大阪市電気局(現交通局)になり、後に電力国家管理で日本発送電と9配電会社に再編され、戦後日本発送電を解体して9配電会社による地域独占の発送電一体体制へ移行するという歴史に由来するものです。
以前の記事で書いたように大阪市電が産声を上げたのが1903年ですが、大阪電灯の買収も基本的には大阪市が公益事業を手がけることで、税収以上の歳入を得てまちづくりを促進する狙いですが、同時に民間による自由競争体制の弊害が認識されたこともあります。
特に関西地域は五大電力と言われた5社(東京電灯、東邦電力、大同電力、宇治川電気、日本電力)の内、東京電灯を除く4社が入り乱れて激戦を演じた地域でもあり、過当競争による弊害も著しく、大阪市のみならず行政府による電力事業取得の機運があったようです。また過当競争の弊害は国も認識するところにもなり、後に日本発送電と9配電会社に統廃合される電力国家管理へと向かいます。
また電気料金の総括原価方式も、過当競争によるダンピングや安全投資の回避などで安定供給が脅かされたことから導入されたもので、メディアで言われるように競争のない独占価格となったのは、むしろ地域独占体となった戦後の話で、鉄道運賃や水道料金など他の公益事業ではヤードスティックなどの競争的な仕組みが後に組み込まれたのに対して、電力会社が圧倒的な政治力で競争政策に抵抗し続けた結果で、要は電力業界は監督官庁もコントロールできないほどに力を持っていたわけで、昨今の東電への公的関与問題の迷走も、東電の弱体化に乗じて支配力を取り戻したい監督官庁(経産省)と捨て身で抵抗する事業者(東電)の構図と捉えられる不毛な争いです。
あと付け加えると、戦前の自由競争時代というのは、元々都市部で始まった小規模火力を近隣に提供する電力事業が、高圧交流による遠距離送電という技術革新によって、また土木技術の高度化で大規模ダムによる需要地から離れた大規模水力発電が利用可能となった事情によります。今で言えばスマホのような電気通信事業の技術革新とITネットワークの革新が相まって熾烈な競争が起きていることから、ある程度イメージできるのではないでしょうか。
加えて日清、日露の戦勝や第一次大戦の軍需で工業化に弾みがついた当時の日本では、産業用電力の需要が旺盛だったこともまた競争を促しましたが、過当競争の果てに投資は過熱気味で、電力需給は供給過剰気味であったこともあり、鉄道の電化や電気鉄道の新設が促された側面もあります。ゆえに電力事業者は鉄道事業にさまざまな形で関わり、宇治川電気が近江鉄道に資本参加して電化したり、兵庫電気軌道と神戸姫路電鉄を併合して直営し、電力国家管理で独立して山陽電気鉄道となり、また北陸地方の水力開発に注力した日本電力の専用鉄道が発電所ごと関電に引き継がれ後の黒部渓谷鉄道となるなど、さまざまな関係が形成されました。鉄道史を紐解くと、電力事業との関係の深さを知ることができますが、深入りすると長くなるのでこれぐらいにしておきます。
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