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Saturday, April 07, 2012

マクロ経済から見た消費税増税

核セキュリティよりも消費税増税にまい進する政権のしょーもなさは前エントリーでも取り上げましたが、そもそも消費税増税が本当に必要なのかどうかについては敢えて触れてきませんでした。

しかしメディアに露出している賛成反対の議論がひどすぎます。例えば景気配慮条項で名目3%実質2$の経済成長目標に言及されてますが、基本的に税と景気の問題は無関係です。税はつまるところ所得再配分機能に意味があるのであって、どのような再配分が妥当かという議論が重要なのに、さっぱり聞こえてきません。

その一方で「ギリシャの轍を踏むな」という議論のバカバカしさは繰り返し述べてまいりましたが、改めて少し整理して述べてまいります。

マクロ経済学では次の式が成り立ちます。

貯蓄-投資=経常収支+財政収支
これはマクロ経済学の基本中の基本となる貯蓄投資バランスを表す恒等式で、事後的に必ず成立します。各項の定義は以下の通りです。
貯蓄=生産-消費
投資=民間投資+公共投資
経常収支=広義の輸出-広義の輸入
財政収支=歳出-歳入
貯蓄は生産(GDP)から消費を引いた残りですが、貯蓄の主体は家計のみならず企業や政府もあります。

企業の場合はいわゆる内部留保と呼ばれるいわゆる現金資産ですが、通常は資産の減価償却に合わせて投資を行わないと生産設備が老朽化するわけですが、生産を縮小すれば減価償却で生じるキャッシュフローが内部留保され、企業の銀行口座に積み上がります。これを給与で従業員に、あるいは株式配当で株主へ還元すれば、家計に渡って消費に結びつきますが、企業が投資を抑制して得た資金は単純に退蔵されます。また有利子負債の返済に回せば、返済を受けた銀行などが預金者などから預かった資金に利息を払うのが困難になるため、やはり家計への富の移転を阻害し、消費を冷やします。つまり(生産-消費)はそれらの総計としてイメージする必要があります。

政府の貯蓄はやや複雑ですが、政府等の公共部門で積み上げられた資金で、いわゆる埋蔵金の類いで、例えば公的年金などさまざまな必要から行われますが、不必要に積み上げられている部分があることは間違いありません。ただし煩雑になりますので今回は深入りしませんが、存在だけは指摘しておきます。

投資に関しては、バブル崩壊以降、民間投資がなかなか戻らない日本ですが、上記のように企業部門で投資が手控えられている結果、民間投資は低調なわけですね。一方の公共投資は90年代以降の長期不況で大盤振る舞いが続いた結果、肥大化して財政を圧迫してきたわけで、公共投資の拡大が財政を悪化させたわけで、政府が言うように社会保障費の増大は必ずしも主たる原因ではありません。もちろん社会保障費の増大に対応した制度の見直しが必要なことは確かですが、公共投資の拡大がそれを難しくした点も指摘しておきます。

経常収支は、貿易収支、サービス収支、所得収支、移転収支の合計になります。貿易収支はモノの取引で黒字基調、サービス収支は海運などの輸送に通信や金融などの分野ですが、基本的に赤字基調、所得収支は株や債券などの金融資産と工場などの実物資産で、日本は対外純債権国ですから構造的に黒字、移転収支は海外在住日本人の国内送金と国内在住外国人の海外送金の収支で、外国人就労の増加で赤字基調というところですが、2005年以降、日本の貿易収支黒字を所得収支黒字が上回り、貿易に関しては度々赤字も報告されるなど、既に潮目は変わっており、いわゆる空洞化の議論は完全に実態から乖離した周回遅れの議論です。また高齢化で家計貯蓄が取り崩されているから、経常収支もいずれ赤字化するという議論がありますが、日本が保有する海外資産の取り崩が起こるだけで、10年やそこらで事態が激変する事はあり得ません。まして原発停止などの特殊要因でたまたま発生した貿易赤字の影響は皆無です。

財政収支は定義上赤字でプラスとなるところがミソです。つまり貯蓄が投資に回って循環することで経済は成長するのですが、輸出等で経常黒字になれば投資に回りきらずに貯蓄に回るということで、既に長期に亘って黒字を続けている日本は、基本的に貯蓄過剰な経済という特徴があるわけです。そして民間投資で使い切れない貯蓄が公共投資に回っているということを表します。つまり10兆円前後の経常黒字と40兆円を越える財政赤字の合計である50兆円相当の需給ギャップがあるわけで、丁度GDPの1割相当で、それを輸出と財政赤字でカバーしている形で、物価下落の原因とされるデフレギャップともほぼ符合します。つまり日本のデフレは日銀の金融政策とは無関係に構造的に定義されるもので、いわゆるリフレ論がインチキだとわかります。

ま、実際クサイ話で指摘した2月14日の日銀のバレンタインプレゼントも、単に追加緩和のタイミングと一致しただけで、実際はアメリカの景気回復期待から投資家マインドにスイッチが入っただけで、既に調整局面に入り円高がジワジワ進んでいます。日銀の金融緩和は、心理面で投資家の背中を押したかもしれませんが、実質的な効果はなかったわけです。

このマクロ構造の中での増税の意味を改めて考えれば、ゴマカシが簡単に見えてきます。政府が言うように増税効果があるとして、その結果左辺の財政収支の赤字圧縮分は右辺で貯蓄の減少に現れます。ところが消費税は貯蓄の主体である会計、企業、政府に等しくかかるわけではなく、主として家計が負担する税ですから、マクロ的には消費税増税は家計から企業と政府への所得移転に他ならないわけです。結果家計の可処分所得の減少で消費を冷やし経済成長を圧迫します。また年金の積立方式への移行がマクロ経済的には政府貯蓄を増やすだけの愚策であることもわかります。

それを防ぐには低所得者対策として議論されている給付付税額控除の仕組みを入れる必要がありますが、2014年の3%&アップ時点では採用されませんから予定通り実施されれば間違いなく経済を冷やします。ただし増税そのものが原因というよりは税の仕組みの問題でそうなるということはくどいようですが繰り返しておきます。つまりこの部分の議論が不十分な今回の増税に国民が同意する道理はないわけです。

それどころか政府は増税を既成事実化するかのように凍結されていた八ッ場ダムの建設再開整備新幹線の新規着工に加え、京滋バイパスと第二京阪道路で代替可能として2003年に凍結された新名神道の新規着工まで認めるなど大盤振る舞いが続きます。大飯原発再稼動に反対する京阪滋の自治体懐柔策との憶測も。それどころか震災復興予算まで無駄遣いのオンパレードで、がれき処理や除染が食い物にされている現状は憂うばかりです。

この状況を上記のマクロ恒等式に当てはめると、左辺の財政収支の赤字圧縮のために右辺の公共投資を増大させているわけですから、貯蓄の減少で窮屈になる民間投資環境をさらに圧迫するわけで、これで経済成長できるわけがありません。政府の説明はデタラメのオンパレードです。

その意味で注目しているのがツアーバス問題とJALの再生と国内LCCの就航で変化が見られる航空分野です。ツアーバスについてはやっと方向性が出されました。ざっくりいえば乗合高速バスと高速ツアーバスの垣根を払って、乗合は規制緩和しツアーバスは乗合バスレベルに近い安全対策を義務付けるという方向性で、既に東京や大阪で独自ターミナルを構え、大阪港のフェリー連絡バスで乗合免許を取得したウィラートラベルのように変化を先取りする事業者も現れており、劣悪な安全管理の中小事業者が淘汰されるならば歓迎すべき改革ですが、実態を見て成否を判断したいところです。

一方、LCCの台頭で日本は遅れを取ってきたのですが、大手2社がLCC事業に活路を求めるに至って状況が変わってきました。先に動いたのはANAですが、JALの再生がうまくいった事でANAを刺激したというのが実態です。JALは公的な破綻処理で債務を整理しリストラを実施した事で、事業規模は縮小したものの利益率がANAを上回る状況となりました。震災の影響もむしろ東北新幹線の被災に助けられた面があり、運がよかった面は否めませんが、従業員のコスト意識が高まったこともあり、あとは再上場を待つばかりですが、ここへ来てワンワールドで提携関係にあるアメリカン航空が連邦破産法13条による法的整理という思いがけない事態ですが、JAL同様むしろ飛躍のチャンスになりうるものでもあります。加えて一旦立ち消えとなったスカイチーム所属のデルタ航空がJALの上場を機に再度提携の意思を示しており、アライアンス問題が再燃しそうな状況です。とはいえそれだけ現在のJALが魅力的な存在である事の証明でもあるわけで、どう決着するにせよ、JALにとっては悪くない話です。

一方のANAは瀕死のライバルの復活で、むしろ海外での知名度のなさというハンデを背負いながら対峙しなければならないわけですから、LCCに対しても前のめりにならざるを得ないのですが、整備新幹線の着工が続く中でどうせ需要を切り取られるならば、LCCを梃子に新規需要を掘り起こそうとしたわけで、JALの法的整理が良い連鎖を生んでいる状況です。欧米では既に定着し一部淘汰が始まっているLCCですが、アジアではこれからが本番で、しかも所得水準の相対的に低いアジアだからこそLCCの成長性も高く、人口も多いしアジア全体ではなお増加傾向ですから、従来どおり空の鎖国を続けていれば取り残されるところでしたが、航空政策の見直しは民主党政権としては数少ない得点です。だから東電も法的整理すべしと申し上げておりますが、JALの成功を忘れたかのような政府の対応です。

この辺は整備新幹線問題とも重複するんですが、採算に課題を抱える多数の地方空港を抱える日本が、アジアの成長を取り込むにはLCCによる新規需要の掘り起こしこそ優先課題なはずです。当然JALやANAにとっては自社競合問題もあるわけですが、LCCの成否を計るときには移転率が問題になります。簡単に言えば例えば50%割引運賃のLCCへ既存エアラインからの移転客が50%を超えれば航空産業全体ではパイが縮むわけです。となればLCCの標的はボリュームの大きい鉄道利用客ということになるわけで、LCCで航空活性化をしようとする局面での整備新幹線の新規着工は愚策です。本来は航空の活性化の状況を見極めて、十分な新規需要が顕在化してからでも投資タイミングとしては遅くはないし、高いリターンも期待できます。逆にハイリターンを見込んだハイグレードな新幹線を整備できる可能性すらあります。この辺の優先度を決めずに遮二無二公共投資を増やす今の政府のスタンスは、結局国民窮乏化策にしかならないということを申し上げて終わりたいと思います。ご精読ありがとうございます。

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