損くらってますの弁明
米キャンプデービッドでのG8サミットが閉幕しました。当然メインテーマはギリシャ総選挙後の連立協議不調による再選挙で停滞する欧州問題です。野田首相も事前に「ギリシャは対岸の火事ではない」として消費税増税に意欲を見せましたが、実は対岸の火事だからこそレトリックとして利用できるはずが、今回は様子が違います。
緊縮一辺倒から「成長」、軸足移す首脳 G8で鮮明 :日本経済新聞つまり国ごとに事情が違うんだから、個別事情を考えようよということです。経常赤字国のギリシャと経常黒字国の日本が同じわけがないのは、これまで度々指摘してきましたが、特に日本の場合、現在年間10兆円規模の経常黒字は当面続きますし、仮に万万が一赤字転落しても、300兆円季語の累積黒字がありますから、10兆円の赤字を30年続けられます。加えて中韓台ASEANなど経常黒字国が近隣に多い状況で、日本の経済規模ならば資本の流入でカバーできますので、ギリシャみたいにはなりようがありません。
また日本の円高や株安をギリシャに揺れる欧州のせいとするメディアのニュアンスも的外れです。毎年10兆円規模の経常黒字国の通貨が強くなるのは必然ですし、それが厭なら過剰貯蓄を解消するために賃上げや高配当で企業から家計へ所得移転して個人消費を促すことで、内需向けの前向きな民間投資が出てくるしかありません。この辺は既に貯蓄投資バラナスから消費税増税の無意味さを通じて指摘しております。
もちろん財政規律は大事ですが、だからといって無理な緊縮策で経済を停滞させては意味がないわけで、規制緩和や既得権益に切り込む構造改革で事態を打開する必要があります。既にアメリカはアフガンやイランの戦線拡大で増えた国防費の削減に切り込んでいるわけで、その結果沖縄の海兵隊分散配置を普天間基地移転と切り離して先行させたわけで、結果的に辺野古移転は宙に浮きました。最早辺野古移転は日本政府の事情だけしか根拠がなくなったわけです。日本側も見直すべき局面です。
しかし実際には政府は無為無策で、結果的に日銀にプレッシャーをかけて追加緩和を迫るばかりです。そんな中で先月の日銀政策決定会合で決まった期限2年以内の国債買い取り枠増枠ですが、2月のときと違って円高が進みましたし、実際に行われた買いオペでは札割れとなりました。
長期国債買い入れで札割れ | 国内 | Reutersつまり銀行が保有する国債を買い取って追加的に貨幣供給するオペレーションの札割れですから、4月の追加緩和は結果的に無意味だったわけですし、銀行にしてみれば保有国債を売って現金を得ても、投資先がないからまた結局国債を購入する事になるので、売る意味がないわけです。日銀の金融緩和も既に限界まで来てしまったわけです。
そればかりか量的金融緩和は弊害も指摘されており、日本ではありませんが、リスク管理に厳格と言われていたJPモルガンの巨額損失も行き場のない緩和マネーがもたらしたものです。
JPモルガンが陥った量的緩和のワナ(NY特急便) :日本経済新聞早い話アメリカの大手銀行もバブル期の日本の邦銀と同じような失敗をしたわけです。JPモルガンのロンドン支店が舞台ですが、以前から「ロンドンのクジラ」と言われていました。金融の世界でよく言われる「池のクジラ」の連想で、CDSなど流動性の低いデリバティブ市場で巨大なポジションを取っていたことが知られていたものですが、当然池でクジラを飼うが如く動きが鈍いからヘッジファンドの餌食になりやすいわけで、意外性のない損失でもあるわけです。ギリシャ問題に揺れる欧州と共に、アメリカも日本に追いついてきたわけで、日米欧共に金融危機を起点とするカネ余り状況下の長期経済停滞の局面です。
それでもアメリカはフェイスブックのような新たなネット企業のIPOがあるのですから、底力があります。とはいえ上場初日の値動きは意外なものでした。
CNN.co.jp:フェイスブック上場 初日の終値は38.23ドル売り出し価格が38ドルですから、終値が辛うじて上回ったものの、取引時間中に値を下げる意外な展開となったわけです。投資家の間ではIT株は値下がりしやすいと見られており、経営幹部がストックオプションを行使した場合以外ではあまり儲けられないのが現実のようです。今後は日本のようにIPO自体が減少する可能性もあります。
ただフェイスブックが注目される理由はビッグデータと呼ばれる膨大な個人情報が宝の山と見られているからですが、本名でしかアカウントが取れないということは、個人情報の扱いで難しい問題も抱えているわけで、フェイスブックのビジネスモデルのマネタイズはこれからの話です。とはいえGPSと連動したチェックイン機能やポイントのやり取りによる擬似決済システムなどは、使い方次第で権利の管理や少額決済など応用範囲も広く、クレカや電子マネーなどの少額決済システムを無力化しかねない潜在力を秘めています。ソーシャルゲームのコンプガチャ騒動で揺れる日本のSNS企業も情けないところです。
こうなるとソニーがフェリカシステムをNTTドコモの合弁会社に売り渡した事が悔やまれます。既にタッチしてデータをやり取りするNFCの国際規格からフェリカを外す動きもあり、Android版おさいふケータイと言える Google Wollet ではフェリカシステムは採用されませんでした。ソニーだけじゃありませんが、折角画期的な技術革新を実現しながら、オープン化やクラウド化を嫌って世界からそっぽを向かれる日本企業の多いことか。またICカード乗車券の乗車履歴という宝の山を活用し切れていない鉄道事業者も課題山積です。
というわけで日本株が下がるのは仕方ないですね。元々円高になればドル建てで値動きを見る海外勢が売りに回りますし、円高に負けないブランディングガできていれば問題ないのに、自らの競争力の低下を円高のせいにするようでは日本企業に未来はありません。損くらって言い訳ばかりではお話になりません。
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