Suica甘いか消費税
消費税増税法案が26日、衆院を通過しました。小沢氏ほか造反議員の民主党離党問題で揺れていますが、おそらく時間の問題でしょう。何もしなければ会期延長で9月8日に伸ばされてますから、参院の審議が止まっていても、60日条項で参院で否決されたと見なして、衆院で自公と合わせて2/3以上で再可決できますから、造反組は離党して内閣不信任を突きつける形でしか政権を揺さぶれないわけです。案外無いと思われていた解散総選挙もあるかもしれません。
といった政局絡みの話題は置いといて、今回の消費税増税のデタラメぶりはひどいです。一番頭にくるのが景気条項を逆手に取った補正予算編成です。
税収上振れで補正予算検討へ 今秋にも :日本経済新聞予算自体が財務省丸投げで編成されており、元々歳入を保守的に査定していますから、毎年必ずといって良いほど税収上ブレは起きます。それを補正予算に充てることで、当初予算で減額、却下されたものに箇所付けすることで、他省庁と政治家を手なずけるというのは自民党政権時代から繰り返されておりますが、予算が余ると消費税増税の必要性に疑義が生じるわけですから、力業で使い切ろうとしたというのが本当のところです。
しかしこのところ予算の使い残しが増加傾向にあることもまた確かなところで、昨年復興増税までして確保した震災復興予算も余っております。
11年度復興予算、4割が未執行=事業、想定通り進まず―復興庁 - WSJ日本版 - jp.WSJ.comこれも補正予算の財源に回されるとすれば、ますます増税は何のためかが曖昧になります。震災復興に関しては人手不足と重機不足でことごとく入札不調が続いている事が指摘されてますが、バブル崩壊以来の構造不況業種である建設業は人材の補充も重機などの設備投資も控えられていた中で、がれき処理と除染の国庫負担で青天井の特需にリソースが張り付いてしまっているわけですから、生活道路の復興や高地移転に伴う造成工事など被災地の生活再建に欠かせない工事ほど滞っているわけで、むしろ復興増税の裏づけが問題を引き起こしているわけです。早い話が増税しても使い切れなくなっているわけで、ますます消費税増税の意味が理解できない状況が症状として現れているわけです。
ちなみに巷間「このデフレ不況のときに増税すべきでない」という議論には私は基本的に与しません。この論点だと消費税増税法案に盛り込まれた景気条項を理由に財政出動で景気底上げという倒錯した議論を止める手立てが無いわけで、むしろ害があります。例えば前エントリーで指摘した日本列島強靭化計画は、提唱している学者は消費税増税に反対していますが、基本的に公共事業主体の財政拡大派ですから、今のように公共事業の大盤振る舞いが続けばそのうちに主張を変えること間違いありません。本来は年金など社会保障改革に道筋をつける中で議論されるべき問題です。
といった小難しい話はさて置いて、鉄道分野では運賃改定という頭の痛い問題が横たわります。実はここ数日Twitter上で「Suicaシステムで消費税ベタ打ち」というネタが拡散しました。そのネタ元はこちらです。
消費増税法案が衆院可決、JR東のスイカ、IC乗車券、改修に1年。 | NFC & Smart WORLD記事中の記述に変な部分があって、いろいろ憶測を生んだようですが、基本的には消費税転嫁を織り込んだ運賃改定ですから、運賃テーブルの変更だけで対応可能だと思うんですが、膨大なサブシステムの中に変なのが紛れ込んでいる可能性までは否定できないところです。
とはいえ通常の運賃改定でも、システムのデバッグやテストを周到に行うには1年以上前から準備が必要で、当然コストもかかります。加えてICカード乗車券システムが全国で広範に共通化されているわけですから、作業手順はかなり複雑化しているはずで、鉄道会社の本音としては小刻みな消費税増税は勘弁して欲しいところでしょう。まして今回の法案では増税実施の判断は半年前にその時点の内閣が閣議で決定することになっていますから、決まってから作業を始めたのでは完全に間に合わないわけで、あらかじめ準備を先行させる必要があり、それが無駄になる可能性もあるとなると、システム担当者は泣きたいでしょう。
というわけで、こうなると「消費税は経済活動に中立的」という議論は怪しくなります。以前から輸入戻し税問題は指摘されてきましたが、その他にも広告や楽曲や電子書籍の海外ネット配信の非課税問題なども指摘され、これは流石に財務省として課税を検討するようですが、実効性のある具体策が出せるかどうかは微妙です。音楽ネット配信の違法ダウンロードに刑事罰を課す法律も通っており、それを避けるユーザーも現れるでしょうから、日本がネットの空洞化に悩む事態もあり得ます。笑えるけど笑えない話です。
Google walletやiPhonやWindows8などネットの世界ではNFCの話題が旬ですが、NFCの元祖であるはずのソニーのフェリカシステムは忌避されています。それもこれもフェリカシステムをドコモに身売りしたソニーのビジネス感覚のなさです。現在世界規格についての話し合いが進行中ですが、成り行き如何では国内で普及したフェリカシステムはそっくりガラパゴス化する可能性もあります。つくづくソニーのビジネス勘の悪さが悔やまれます。加えてSuicaなど交通系カードもシステム更新時に世界標準に合わせざるを得なくなる可能性もあります。とはいえ現状のように多数の事業者が別々に運賃の認可を受けて乗継割引など複雑な運賃制度が並存する日本ではフェリカ以外のシステムで対応できるかどうかはわからないわけですが、そのために世界標準システムに比べて割高になることを乗客に理解を求めるのもハードルが高い気がします。
というわけで、消費税増税に伴うシステム投資の負担は鉄道事業者には頭の痛い問題になる可能性は高いのですが、この際逆に良い機会なので複雑な運賃制度をシンプルに改める事も考えて欲しいです。例えば世界の大都市で当たり前のように導入されている運賃連合による運賃一元化などです。極端なこと言えば例えば東京山手線内+大江戸線環状部を第1ゾーン、都区内を第2ゾーンとして第1ゾーン内300円、第2ゾーン内200円、両ゾーンにまたがる場合400円として、郊外部路線との間には個別に連絡運輸運賃を設定するというような形にすれば、各事業者は自社線内と都心ゾーンとの連絡運輸運賃のテーブルを管理するだけで良くなり、システム上はシンプルになります。
こういうことを考え実現する方が、九段下のバカの壁が取れたとはしゃぐより遥かに乗客の利便性を高めると思うのですが。なお、第1ゾーンを高く設定しているのは、交通インフラの集積があり利便性に差があることと共に、渋滞税の考え方で、進まない混雑解消のための設備投資の原資とする意味もあります。ですから実現のためには鉄道事業法の改正により、特特法で認められている設備投資のための無税積立を拡大し恒久化する必要はあります。猪瀬某にはこのような発想はありませんが、例えば著書で指摘した東西線の混雑に対しては、運賃を上げることで解決するのが資本主義時市場経済下では素直な解決策です。
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