近郊型消滅? suburban首都圏品質
首都圏の鉄道で大きなニュースが2つありました。1つは京王電鉄の調布市内連続立体化事業の進捗に伴う地下線への線路切替が発表され、それに伴うダイヤ改定が発表されました。
8月19日(日)切り替え完了後からとりあえずは調布駅での平面交差解消による上り列車の調布駅入場待ちの解消に伴う修正と、調布で折り返す相模原線ローカルの扱い(おそらくつつじヶ丘回送)の変更が中心で、抜本改正は年度内として、時期や内容は現時点で不明です。おそらくATC導入と所属車両の全VVVF化に伴う高加速運転を反映したスピードアップがあるものと期待されます。
調布駅付近地下線への切り替え完了後、京王線のダイヤ改定を実施します
もう1つは副都心線と東横線の相互直通に伴う諸々ですが、こちらは5社が絡むため、実質東横線と一体の横浜高速(みなとみらい線)を除く各社で一斉に発表されました。
平成25 年3 月16 日(土)から相互直通運転開始
副都心線と東急東横線・横浜高速みなとみらい線がつながります(PDF)
東急東横線と東京メトロ副都心線
相互直通運転の開始日が2013年3月16日に決定!(PDF)
池袋線が東急東横線、横浜高速みなとみらい線との
相互直通運転を開始します。(PDF)
東武東上線がより便利に!各社それぞれ自社の守備範囲に限定した発表ですが、関連して廃止される東横線の日比谷線直通列車に関し、東武と西武が触れていないのは当然として、メトロでは最後の1行で「日比谷線全列車が中目黒折り返しになります」という表現なのに対し、東急は「菊名折り返し列車を渋谷方面行きに振り替え」としていて、廃止というマイナスイメージを敢えて回避しているところが涙ぐましいです(笑)。
自由が丘、横浜、元町・中華街方面とつながります!(PDF)
日比谷線に関してはいろいろなことが言われ続けてきましたが、18m車の採用は東急がゴネたという俗説は裏づけがありません。東武が20m車の採用を打診したのは記録に残っていますが、実際は東京都の都市計画でターナー式と呼ばれる都市鉄道網整備手法の採用で、各線のルートを意図的に交差させて乗り換えの利便性を取る前提でルート選定されたため、カーブが多くなり、また可能な限り道路下に地下トンネル躯体を納めて地上権設定を要する民地下を避けた結果、20m級の大型車の運行に適さない路線状況だった結果と見るべきでしょう。また戦前、東京地下鉄道の銀座駅建設時点で、都市計画決定されていた東京市営高速鉄道新宿月島線の交差部を先行施工し、それを活用する狙いもあったのだと思います。東京の地下鉄で20m車が標準となるのは東西線以降の話です。逆に今となっては迂回ルートとなる日比谷線のウェートはそれだけ下がったとも言えます。
余談続きですが、東京市営高速鉄道に関しては、東京市で免許取得しながら、震災復興で財政が逼迫したこともあり、東横電鉄系の東京高速鉄道に免許譲渡されていて、渋谷―新橋間も同様ですが、現場レベルでの直通協議の結果、都市計画と異なる東京地下鉄道との直通運転が実現したもので、東京地下鉄道の早川徳次が構想した京浜地下鉄道品川線との連携、京浜電気鉄道、湘南電気鉄道直通は、戦前段階では具体化していませんでした。
むしろ市営地下鉄の免許譲渡を受けた東京高速鉄道の事業が先に具体化した結果、両者の連携は自然に起きたと見るべきで、銀座駅の交差部の先行施工もその一部と考えられます。猪瀬副知事が著書で指摘する「民間同士の連携で一元化は不可能」は根拠が怪しいわけです。戦時統合で帝都高速度交通営団が発足した後、最初の施工区間となった赤坂見附―四ッ谷間は、元々渋谷線と新宿線の連絡線として追加申請された区間であり、戦後の丸ノ内線(都市計画4号線)に組み込まれました。
話を戻しますが、平日日中の基本パターンで、東横線は18本/時を維持し、渋谷折り返し4本、副都心線直通14本、内4本は東横線特急―副都心線急行という形になり、ほぼ東横線と副都心線の現行ダイヤが踏襲されます。日比谷線直通を振り替えた菊名折り返しの存在が謎ですが、単純に本数を減らしたくなかったこともあるでしょうけど、新横浜経由の相鉄線直通プロジェクトを睨んで、そちらへ振り替えることも考えられます。つまり東横線に関しては現行のダイヤパターンを大きく変更することなく対応可能というわけです。
そうすると目黒線は?という疑問もありますが、現行の6連のまま相鉄線に直通することは考えにくい一方、目黒線開業後も東横線の混雑率は改善が見られず、横浜市営地下鉄グリーンライン開業による新規需要はあるものの、目黒線とそれに連なるメトロ南北線と都営三田線の現状を見る限り、あえて8連化が必要とも思えず、相鉄直通と目黒線8連化のタイミングがずれる可能性まで織り込んだと見ることができます。この辺は蓋を開けてみないとわからない部分ですが、もっと深読みすれば、目黒線系統の8連化が実現し相鉄線直通が目黒線に振り替えられたとしても、多摩川線の延伸線となる蒲蒲線(蒲田ー大鳥居間)直通の受け入れに使い回せるというところまで読んでいるかもしれません。
一方、相鉄側から見れば、元々新横浜経由の東急との直通構想は、神奈川東部方面船として早くから構想されてはいたものの、具体化したのは相鉄が西谷からJR東海道貨物線の羽沢までの新線を建設して都心ルートとする構想を発表した後、新横浜を通らないということで横浜市がクレームをつけたことで具体化した経緯があります。
その観点からいえば、相鉄線から渋谷方面へ向かう列車は走らせたくないはずです。何となれば渋谷の再開発に賭ける東急と、地盤沈下が囁かれる横浜西口の大家である相鉄は、ターミナル同士がライバル関係にあるということから、東急が考えるようにはすんなりと進まない可能性があります。そうでなくても相鉄から見れば東急の車両限界は小さく、また渋谷方面にせよ目黒方面にせよ、私鉄標準寸法に準じたホームドアが設置されており、10000系以降ドア位置もJR仕様で保安装置もJRに合わせてATS-Pに切り替えるなどJRに寄り添う姿勢が鮮明な相鉄にとっては気が進まない話ということになります。横浜市の圧力で実現する都心ルートですが、相互直通関連社局も多く、事業者間の調整にも手間がかかるこのルートが果たして機能するでしょうか。
とはいえ相鉄も10000系以来JR仕様の新車を登場させながら、E231系相当の10000系では1Mユニットを組み込んだ5M5T編成で、加速度3.0km/h/sとしており、E231系の2.5km/h/s(E電仕様)と2.3km/h/s(M電仕様)に対し独自性を見せており、山手線向け500番台の6M5Tで3.0km/h/sを先取りしています。JR東日本ではE231系で通勤型と近郊型が統合されたとされていますが、種を明かせばVVVF制御の特性を利用して制御プログラムの変更で多様な用途に対応できるようにしたものです。E231系では歯車比7.07と高歯車比にしてモーターの回転数を高めて所定の性能を実現するため、高回転に伴うノイズが大きく、また性能に余裕のない使い方なので機器の寿命も短くなり、結果的に「寿命半分」が実現してしまい、それがE233系開発の契機となります。その意味でE233系はJR東日本の新系列車の集大成とは言えますが、コンセプトはかなり薄まりました。
モーター出力が95kwから140kwに増強された結果、モーターの高回転はなくなり、ノイズは劇的に減りましたが、このモーターは常磐線向けのE531系で採用されたもので、つくばエクスプレス対策で130km/hを実現するためだったのですが、E531系では交流回路と交直切替システムという高価なパーツがあるのでMT比はE231系並の2M3Tが踏襲されました。それが中央快速線の201系置き換えに際して、トラブルメーカーだった201系よりも安定を求められた結果MT比が見直されたということになりますが、京浜東北線の209系のトラブル多発で急遽置き換えとなり、6M4Tで加速度2.5km/h/sという余裕のある使い方がされ、それが標準となり京葉線に投入され、埼京線、横浜線もと予想以上の増殖が進んでいます。また田町と新前橋に残っていた近郊型の211系の置き換えも近郊型バージョンの3000番台が投入され、こちらは加速度2.3km/h/sと更に余裕のある使い方がされています。
動力性能が改善され、余裕のある使い方で故障に強いのは良いとして、10連で編成出力は倍増したものの、編成質量は54tも増えていて「重さ半分」は謳えなくなりました。もちろん乗り心地や走行安定性を得るために敢えて重くするということはあり得ますし、例えばドイツICEのような高速列車でも採用されている考え方ですが、回生電力の有効活用が難しい直流電化路線では電力消費量の増加にもつながることでもあり、元々大電流に悩まされる首都圏で節電がテーマとなる今後の展開は結構難しいところです。その意味ではacトレインの流れを汲むE331系がこっそり量産断念となったのは残念です。PMSM利用ではメトロに先行していたばかりか、PMSMの高トルク特性を利用した直接駆動(DDM)にまで踏み込んでいたものの、革新的過ぎてシステムの安定には程遠く、量産断念となりました。
結局JR東日本は私鉄とは異なったアプローチで首都圏の大量輸送のミッションに取り組み、結果的に私鉄にも標準設計という形で取り入れられました。また民営化当時、低性能老朽化が進む旧国鉄型を大量に抱えたJR各社は所属車両の更新も大きなテーマでした。その意味で「重さ半分、値段半分、寿命半分」のコンセプトで投入された209系以来のJR東日本の新系列は大きな役割を果たしました。金に糸目をつけない高性能車で車両更新を図ったJR西日本は、京阪神アーバンネットワークで広域に需要を掘り起こすことには成功したものの、高価な車両の投入で旧型車の置き換えは進まず、低性能の国鉄型をN40工事と称する更新工事で延命させるツギハギだらけのやり方を余儀なくされています。
JR西日本ではそもそも通勤型は運用範囲が限定され、3扉転換クロスの近郊型が標準となっています。このことに東大の曽根悟教授もJR東日本への苦言をRJ誌上で述べていますが、そもそも首都圏と近畿圏では都市構造が違うので、同一視する方がおかしいと思うのですが、ただ言えることは、いずれも大都市圏の輸送を担う立場からサービスの標準が決められている点に変わりはなく、顕著なのはローカル輸送ですが、JR東日本が秋田、山形地区の50系客車230両を701系電車89両で置き換えたことを曽根教授は「乱暴」と表現しましたが、JR東日本の見解は明快で、ローカル区間で利用が減っているときに、それ以上にコストを削減する経営判断ということです。JRが運営する限り、公共部門からの助成は期待できない以上、こういう判断を責めるわけにはいきません。基本的にローカル区間でも首都圏とほぼ同水準の運賃水準ならば、首都圏の大量輸送の標準モデルを援用するのは当然のことです。
この問題ではJR西日本もいろいろやってくれてます。例えば小浜線に投入されたクモハ125の悲劇をおさらいしますと、アーバンネットワーク標準の223系と車体や足回りを共通とした単行ワンマン用のクモハ125を投入したものの、2+1の横3列配置の転換クロスに両運転台と車いす対応トイレを装備した結果、座席数が極端に少なくなり、立席乗車で不興を買ったため、急遽2連化したのですが、その結果2連で運転室4箇所に車いす対応トイレ2箇所という無駄なスペースの塊となりました。最初から2連で作れば、運転室2箇所トイレ1箇所で済んでコストも下がるし旅客スペースも広く取れたのですが、アーバンネットワーク品質からすれば単行で十分となって、高価で乗れない電車が誕生しました。ある意味福井県の原発マネーが電化資金として提供されたからからできた道楽でしょうけど、大都市の品質をローカルに持ち込むという意味ではJR東日本と変わりません。むしろ公的助成のない岡山近郊や広島近郊では、103系が轟音を轟かせて走っており、同じ露骨なコスト圧縮でも、新車が入ったJR東日本のほうがマシです。
といった目くそ鼻くそ話はさておき、ロンドンオリンピックが開幕し、鉄道関連ではオリンピックジャベリンの活躍がニュースです。これはHigh Speed 1と呼ばれる高速新線(CTRL)のロンドン、セントバンクラス駅からオリンピック公園最寄りのストラトフォード国際駅(セントバンクラス起点9km)経由でエブスフリート国際駅(セントバンクラス起点37km)までを結び、それぞれ7-8分、10-15分の所要時間で6分ヘッドということになります。首都圏でいえば東海道新幹線の東京―新横浜間よりも長い距離を日立製のClass385型電車で結ぶもので、最高時速225km/h、ただし+15km/hの余力は欧州品質ですから、遅延時には240km/hで走ることもあります。これがロンドンの近郊列車の品質というのですから、冒頭の東急の新横浜延伸を巡るモザイク模様とは大違いです。もちろんユーロスターなどの国際列車の頻度は東海道新幹線のそれをかなり下回っているわけですが、逆に言えば日本が誇る東海道新幹線のサービスレベルはロンドンの近郊列車並みの品質という見方も。実際欧州ではそのように評価されているのが現実です。そんな中でこんなニュースです。
日立 英高速鉄道で一括受注 NHKニュース日本のメディアでは背景説明が一切ありませんが、元々労働党ブラウン政権時代に日立が優先交渉権を得ていたものの、2010年総選挙出の政権交代のあおりで、キャメロン政権で事業が凍結されていたものが復活したものです。一方で2009年12月の大寒波でユーロスターが英仏海峡トンネル内で立ち往生し乗客500人が16時間カンヅメとなったときも、Class395だけは無事に走り続けるなど、安定性に定評があったので、プロジェクトが復活すれば間違いなく受注できる案件だったものです。日本のメディア品質は最悪です。
加えて英高速列車の老朽化は、主に保守党サッチャー政権時代の公共投資抑制のあおりで鉄道投資が大幅カットされた結果でもあり、後継のメージャー政権下で実施された国鉄改革で大高覧を来す原因にもなっただけに、歳出カットばかりで不人気なキャメロン政権は決断せざるを得なかったと見ることもできます。当然LIBOR不正疑惑やオリンピック警護問題などで失態続きなさまは、日本の民主党政権に負けず劣らず。成熟国の政治状況は混沌が支配しています。
ただし近郊列車の品質は高いロンドンですが、そもそもオリンピックジャベリンの構想はロンドンの脆弱な公共交通事情を懸念したIOCの提言によって計画されたもので、本来ならば地下鉄やバスが果たす役割を高速新線で行わなければならない事情もあるわけです。ロンドンの地下鉄は大江戸線よりも小ぶりな車両で絶えず混雑していて、また故障も多く、混雑や故障による改札封鎖も日常的というのがロンドン品質ですが、オリンピックで2割、100万人程度の利用増が見込まれる中、まともに走るかどうかさえ危ぶまれる状況ですし、元々ロンドンは渋滞全がかけられるほど渋滞の名所なのに、オリンピック関係者優先のオリンピックレーンなるものまで設定され、タクシードライバーが抗議デモまでやるような状況では、バスはまず使えないと考えるべきでしょう。
というわけでせせこましくもごみごみしたロンドンで行われるオリンピックは、開会式の演出の見事さは北京と比べても出色ですが、同じことが東京で起こるとすれば、とりあえずオリンピック期間中は都内で車は使えないし、あらぬところで改札止めが起こるハプニングなど、8年後の東京を想定すれば、英国品質のオリンピックはある意味見所満載ではあります(笑)。
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