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Saturday, August 04, 2012

同じANAのムジナの空中戦でおJAL

8月1日、エアアジア・ジャパンが就航し、3月のピーチ・アビエーション、7月のジェットスター・ジャパンと続くLCC3社が出揃いました。エアアジアはピーチと共にANAの系列会社ですが、ピーチが香港の投資ファンドとの合弁で、更に官民ファンドの産業革新機構も出資し、ANAは38.67%の筆頭株主ながら持分法適用会社としてANAは出資者の立場ですが、エアアジア・ジャパンは、同じ合弁ながら過半数出資の連結子会社で、合弁相手もマレーシアのLCC、ピーチが関空、エアアジアが成田を拠点空港とするなど、両者の立場は微妙に異なります。ANAが系列にLCCを2社も抱えることになった経緯には、ANAの置かれた微妙な立場が透けて見えます。

ただ共通するのは、あくまでも新規需要の開拓がミッションであるということで、この点はJAL系列のジェットスター・ジャパンも同様です。航空自由化の遅れた日本では、新規参入社としてのLCCではなく、レガシーベイビーとしてLCCがスタートした点が特徴です。また同時に明言はされていないものの、整備新幹線やリニアでシェアを侵食されることを織り込むという意味もあります。将来に備えた変化対応のための投資ということですが、JRや大手私鉄が不動産賃貸や小売りなど脱運輸業を志向しているのに対し、あくまでも航空分野での需要開拓に向かうのは、JALもANAも過去にホテル業などでバブルに踊って損失を蒙った痛い経験によるもので、よりコアコンピタンス(中核的競争力分野)を自覚した結果と見るべきでしょう。

ANAがLCC2社体制とした点ですが、関空が空洞化著しくLCC誘致で活性化を図ろうとしている点及び、24時間空港で機材の余裕を切り詰めたLCCにとって欠航の原因となる遅延の心配がないなど、LCC事業にとって優位性があるのは関空で、実際7月就航のジェットスター・ジャパンは遅延で7月中4便をj欠航させましたが、成田も発着枠が拡大する中、羽田の国際化で成田発着便の搭乗率を維持し、発着枠を手放さないために、自社枠を傘下LCCに使わせることで、シェア低下を防ぐ狙いがあります。また海外LCCのノウハウ吸収の狙いもあり、JALがジェットスターと合弁でLCCに参入したこともあり、ANAとしては迎撃体制を採らざるを得なかったというのが実際でしょう。そしてメディアでは主に価格競争が話題の中心ですが、直接的には成田拠点で親会社がライバル関係のジェットスターとエアアジアの競合関係が中心になります。関空便ではピーチとジェットスターも競合しますが、当然ながら同じANA傘下のピーチとエアアジアは棲み分けて直接競合を避けています。

とはいえ大手2社も実は夏の繁忙期運賃を値下げしており、業界全体として運賃が値下がりする傾向は否めませんが、これも羽田と成田の発着枠拡大に伴う新規割当を見込んで、今はシェアを落とさないための体力勝負という局面にあるわけです。つまり傘下LCCのガチンコ勝負に目を奪われると、実は親会社同士の関係が見えにくくなりますが、LCC同士の対決自体決して親会社の代理戦争ではなく、新たな業態として試行錯誤の過程にある一方、LCCと棲み分けなければならない親会社同士のつばぜり合いも激しくなっているといえます。その結果政治を巻き込んだ場外乱闘に近い泥仕合の様相です。

12年3月期決算で2,000億円超の営業利益を計上し、9月再上場が取り沙汰されるJALですが、ここへきてANAがあれこれ注文をつけています。破綻して国費投入の上債権放棄まで受けたJALですが、それでも1兆円超の累積欠損を9年に亘って繰り越せるため、総額4,300億円もの法人税免除が受けられます。しかも法人税の欠損繰り越しは元々7年だったものが11年12月の税制改正で9年に延長されたもので、JALにとっては絶妙のタイミングでしたが、別にJALのためではなく、震災復興増税による法人税減税延期の見返りと見るべきでしょう。震災復興で財源確保に協力姿勢を見せる財界ですが、ちゃっかり焼け太りです-_-;。それ以上に情けないのは、元々法人減税の財源に欠損繰り越しを含む租税特例の見直しで対応するはずが、脅されて逆に優遇強化しちゃう民主党政権の根性なしぶりです。

しかも7年の欠損繰り越しも、元々は小泉政権時代の銀行の不良債権処理を後押しするために延長されたもので、09年総選挙で政権交代後、法人税減税の原資として制限をかけようとして財界の猛反発を受けて腰砕けになったものです。ことほど左様に財界の御用聞きばかりに終始した結果、皮肉にもJALが恩恵を受けたもので、見直そうとするとまた財界が大騒ぎするだけの話です。また実はANAも09-11年の赤字を繰り越していて、120億円程度ですが免除を受けられる立場なので、これだけでJALのことを悪くは言えませんが、LCC参入や羽田、成田の発着枠拡大などで体力勝負を強いられるANAにとっては著しく競争条件が不利になるわけで、その意味では同情を禁じ得ません。

あとANAの言い分として、経営破たんして公的助成を受けて復活したエアラインは欧州のナショナルフラッグキャリアに多数見られますが、いずれも公的助成を得ている間は新規事業に参入を制限されているのに、羽田の国際線発着枠割当にしろ、ジェットスターとの合弁によるLCC参入にせよ、自主再建したANAの権益を侵していて、競争条件が違う点もあり、これも日本の法律では規定がないし、今さら法制化しても9月の再上場のタイミングには間に合わないしということで、JALの逃げ切りはほぼ確定しているわけで、そこでANAは自民党にロビー活動を仕掛けて再上場の延期を画策しているのですが、これがとんだ結果をもたらしています。

JALの再建が民主党政権の成果と民主党議員が触れ回っており、確かに自民党政権が続いていたら、このような思い切った破綻処理はできなかったでしょうけど、これに自民党運輸族の議員が怒っているということで、消費税問題で弱体化している野田政権の揺さぶりに使われています。ある運輸族のドンが「鶴(JAL)に恩返しさせろ」と凄んだそうですが、そうやって赤字路線を押し付けたことがJALの破綻につながったことはきれいに忘れているようです。またANAもJALの優遇には注文をつけたいけれど、当面は羽田の発着枠の配分で優遇して貰えればというあたりの落としどころを模索して自民党に近づいたら、思わぬ形で政争に火をつけてしまって慌てています。

JALに関しては昨年3月の128億円の第三者割当増資に関する疑惑も言われています。出資している企業再生支援機構の不透明な処理が疑惑を生んでいて、この時点では更正手続きの終了が見通せる段階だったため、出資すれば上場後確実に値上がりするという意味で「第2のリクルート事件」と言われております。しかも民主党政権に請われてJALの会長に就任した稲盛氏の古巣の京セラが50億円を引き受けたということで、やはり自民党が政争に持ち込もうとしております。ただしこれもJALの破綻処理や債権放棄で損失を蒙った銀行筋が引受を渋ったことから引受先が見つからなかったという事情もあります。ただし昨年3月時点では既に業績の急回復が見通せていただけに、逆に増資自体の必要性があったのかどうかは不透明です。

とはいえANAの方も清廉潔白とは言えないところにまたややこしさがありまして、ANAが7月3日に2,000億円超の公募増資を実施しましたが、どう見てもJALの再上場前の駆け込みというタイミングで、JALと同じ野村證券を主幹事として実施しており、しかも担当者まで同一人物ということで、JALの再上場で野村證券は主幹事から外されております。当然増資インサイダーが疑われるきわどい話です。

驚愕の証券モラルハザードに JALが野村の地位を格下げ|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン
また主幹事証券の1社に名を連ねる米ゴールドマンサックスのアナリストレポートで、ANAの公募増資前のきわどいタイミングで買い推奨をしています。
ANA増資でインサイダー疑惑 問われる幹事証券の“煽り”姿勢|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン
いずれも証券会社の問題と突き放すことは可能かもしれませんが、公募増資のタイミングのきわどさもありますし、証券と交わされたやりとりが明らかになれば、ANA自身の問題に飛び火する要素はあります。ひと言で言えば「そこまでするか」というような問題です。ANAに焦りが感じられます。青い鳥(ANA)のご乱心か^_^;。

という風にJALとANA、傘下LCC同士、民主党と自民党がそれぞれに何だかわからないけど競い合っているという構図です。そうした中でJALの再上場が決まりました。

JALが9月19日に再上場、想定売出価格は1株3790円 | Reuters
想定売出価格から逆算すると7,000億円近い総額となり、企業再生支援機構の出資分3,500億円の倍という水準で、民主党議員が「大成功」とはしゃぎたくなるのも無理からぬところではありますが、上述のように民主党政権の根性なしぶりに助けられた幸運(笑)でもあり、それが元でANAが自民党に接近したのだとすれば、この空中戦は後を引きそうです。

しかし忘れてはならないのは、何より人員削減や給与カットを呑んでコスト意識に目覚めたJAL社員の頑張りの成果である点は指摘すべきでしょう。大量に退職者を出したことも一部では叩かれてますが、その結果JALのベテランパイロットが多数退職し、LCC3社に吸収された結果、LCCの事業化に追い風になったことも指摘できます。実際LCC各社は「JALのベテランパイロットが揃っていて安全」を謳っております(笑)。逆説的ですが、雇用の流動化が雇用対策になるというのは以前から言われていて、労組の反対で潰されてきましたが、労組の支援を受ける民主党政権でこのようなことができたことの意義は一定程度あると言えそうです。

翻って自民党に接近したANAはいただけません。焦りはわかるけど何だか時計の針を戻すような動きになっています。そもそも羽田の発着枠問題でも、ANAは裏口から権益拡大してきた歴史があります。スカイマークを皮切りに新規参入社が現れると、運航時刻が近接する特定便限定の割引をしたりして潰しにかかり、経営が傾くと資本注入で傘下に収めて発着枠を実質的に拡大してきたのがこれまでのANAのやり方でした。特定便割引自体はJALもやりましたが、JAL自身が経営に行き詰る中、結果的にスカイマークを除く羽田発着の新規参入各社を傘下に収め、コードシェア便として飛ばしているわけですから、ANAは裏口から発着枠を手に入れたようなものです。そういう意味ではJALはいつまでもおJALでいて欲しかった(笑)のに、国の支援を受けながらもコスト意識に目覚めた手ごわいライバルに変身してしまったのですから、ANAにとっては太陽が西から昇るような事態でしょう。元々世界で見ればJALとANAでは知名度に決定的な差があって、国際線進出もスターアライアンス頼みのANAにとっては、政治にすがっても阻止したいJAL復活劇でしょう。というわけで、すっかり生まれ変わったJAL社員が「昔のうちみたい」とつぶやいたとか(笑)。

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