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August 2012

Sunday, August 26, 2012

どこでもホームドアな未来

メディアジャック状態だったロンドンオリンピックも終わり、いろいろありましたが、とりあえず無事終了しました。驚きなのは事前に予想されたロンドン市内の交通の混乱でしたが、事前告知が効いたのか、混乱を恐れたロンドンっ子たちは、仕事を前倒ししてオリンピック期間に長期休暇を取得し、期間中ロンドンを訪れるビジネス客も減少し、ロンドン市内は閑古鳥が啼く始末。またロンドン東部再開発に連動して競技場や選手村をイーストサイドに集めたこともあり、ロンドン中心部はいつも以上に閑散としていたそうです。

その一方で凱旋帰国した日本選手団のメダリストが銀座でパレードをやって主催者発表で50万人が集まったそうです。毎週金曜日の官邸前デモで主催者発表20万人警察発表7万人から敷衍すると銀座パレードの警察発表なるものがあり得るなら17万人ぐらいか(笑)。いずれにしても大きな混乱もなく実行されたわけで、原発問題に限らず政治的インパクトを求めるなら東京で100万人ぐらい動員できなきゃ効果がないのかもしれません。

もう1つ特筆すべきは8月10-12日の3日間東京ビッグサイトで行われたコミックマーケットで延べ56万人の一般参加者を集めたそうですが、こちらはメディアではほとんど話題にもなりませんでした。このクラスの動員で東京の都市交通に負荷がかかるということはないようです。とすると2020年に万が一東京オリンピックが開催されて、1日100万人規模の観客動員があったとしても、朝のラッシュに被るとかしない限りははあまり心配は要らないのかもしれません。ただし落とし穴はあります。

コミケはあくまでも会場が東京ビッグサイトということで、ゆりかもめにしろりんかい線にしろ輸送力に余力がありますし、都心に比べて道路が整備されていて大駐車場も用意されているなど、車の増加に対してもある程度余力があるわけですが、ロンドンの場合と違って1964年のオリンピック施設を中心に開催が検討される2020年東京オリンピックの場合、関係者やメディア関係の会場間移動だけで道路交通にとっては大きな負荷になることが予想されます。さりとてロングバケーションが必ずしも定着していない日本のビジネス環境では、前倒しで仕事を片付けて休暇というのも難しそうです。また築地魚市場の豊洲移転と跡地のプレスセンター設置は、道路状況を勘案すれば魚市場は移転せずプレスセンターを豊洲に持ってくる方が合理的かと思います。

ただロンバケ習慣のない日本ですが、2011年の電力使用制限令の許でのさまざまな工夫の経験は使えるかもしれません。1つは在宅勤務の拡大で、特にオフィスが集積する東京の場合、必ずしもオフィスでなければできない仕事ばかりではないけど、惰性でそうなっている傾向は否めません。それならば仕事の中身を見直して、出社の必要性の有無をシビアに検証するチャンスと捉えることは考えられます。加えてこのことは首都直下地震など大災害の被害最小化や帰宅難民を減らすなどの意味合いもあり、どうせならオリンピック開催の意義に加えればアピールポイントとなる可能性もあります。それとフレックスタイム制の拡大で通勤ラッシュの平準化を組み合わせれば、通勤ラッシュと観客輸送の競合もある程度緩和できる可能性があります。これも昨年の節電で多くの会社が操業時間を見直した結果、朝ラッシュのピーク時混雑率が改善した実績もありますし、オフィスワークならコアタイムの見直しやテレビ会議の活用などである程度対応できる可能性はあります。むしろ新しいことに消極的な日本企業の背中を押す効果は期待できるかもしれません。

とはいえ人口集積地でもあり、居住人口が巨大な東京の場合、大きなネックがあります。それは人口集積地ゆえの生活物流の問題です。時間帯や時期をずらせる可能性のあるビジネス物流はオリンピック期間をある程度外す体制を組むことは不可能ではありませんが、生活物流はこうはいきません。特に今や都市の重要なライフラインとして存在感を増したコンビニエンスストアの場合、毎日の定時物流が店頭品揃えに直接影響するのは3,11でも明らかで、物流が正常に動かなければ直ぐに棚が空になるのが実態です。もちろんコンビにに限らず多数ある食品スーパーやドラッグストア、個人経営の青果、精肉、鮮魚店や豆腐、麺の製造販売など、生活に密着した多数の小売り業態が影響を受けることになります。これらの業態は大型店と違ってバックヤードに十分なスペースがありませんし、鮮度管理の問題もありますから、事前に在庫を厚くするなどの対応も不可能です。つまり住民生活を支える生活物流の維持を考えると、東京でのオリンピック開催は望ましくないというのが今のところの私の見解です。

それでも心配なのは、やはり鉄道のラッシュ対応なんですが、いわゆる新年度現象というのが鉄道業界ではありまして、毎年4月新年度に、不慣れな新入社員や新入生が鉄道に殺到する結果、混乱や遅れが出る現象です。いわゆるラッシュビギナーの大量デビューにより繰り返される年中行事ですが、仮にオリンピックが実現すると、今度は日本語ワカリマセーン^_^;なビギナーが大挙出現するわけですから、混乱なく対応することのハードルはかなり高いと見るべきでしょう。不謹慎かもしれませんが、いわゆる触車事故も心配されます。というわけで、やっとタイトルに辿り着きました^_^;。

自殺を含む触車事故防止に効果があると言われながらホームドアの設置が進まない事情は過去のエントリーで取り上げましたが、既存路線への設置にいろいろ制約条件が多い点と共に、そもそも混雑が触車事故を誘発する最大の要因であると共に、その混雑がホームドア設置を阻害する要因でもあることを述べました。それでも事故が絶えない現状からJR山手線で設置を決めた他、東京メトロ有楽町線や都営地下鉄大江戸線、横浜市営地下鉄ブルーラインなど地下鉄で設置が進む一方、首都圏各社は乗降客の多いターミナル駅で設置する例が出てきています。過走余裕がなくATCでバックアップしながら低速進入するターミナル駅で、ドア位置を合わせるための定位置停止装置の設置をせずに実現した事例が東急大井町線大井町駅などで見られるようになりました。

そんな中で今月19日に地下線に切り替えられた京王線調布市内3駅にホームドアが設置され、うち布田駅では既に使用開始しています。面白いのは布田だけ線路と駅ホーム空間を完全分離したタイプで国領と調布は下半分だけのホーム柵と異なっている点です。おそらくシールドトンネル駅の布田と箱型トンネル駅の国領と調布で使い分けたという意味と、乗降客の違いといった事情がありそうですが、それ以上に初のホームドアに関する経験値の積み上げの意味がある気がします。ちなみに布田は初日から使用開始している一方、国領と調布は可動柵を開放状態でした。様子見なのか準備が間に合わなかったのかはわかりません。

いくつか気づいた点は、まず停止時に極端に減速して位置合わせをしていた点で、その分ダイヤは寝ているようです。おそらく調布駅の平面交差支障がなくなって上りの入場待ちがなくなった分だけ余裕時間を取っているのだと思いますが、それでも初日は2分程度の遅れが出ていました。この辺は馴れてくれば改善されるのかもしれません。ひょっとしたらダイヤの抜本改正を見送って暫定ダイヤとした理由は、ホームドア関連で乗務員の習熟期間を見たという意味かもしれません。

また開口部がメトロなどに比べて明らかに広いのですが、ひょっとするとTASCの省略の意図もあるのかもしれません。元々駅部のATC区間は細分化されていますから、過走防止機能の精度を上げて代用ということかもしれませんが、現時点で裏は取れておりません。またドア位置は京王独自の4扉が中央に寄った特殊な配置ですから、都営車との誤差吸収の意味で開口部を広くしているのかもしれません。

尚、一部で特急廃止という話も出ましたが、結局暫定ダイヤで平日日中と休日の基本ダイヤで特急が準特急になったものの、朝などに特急は少数残っています。おそらく抜本改正では特急停車駅を増やして準特急と統合し、速度アップで運転時分は維持する予定が、ホームドア関連?で暫定ダイヤにせざるを得ないために中途半端に特急が残り、特急と準特急の統合ができなかったということだろうと思います。おそらく年度内に実施される抜本改正を楽しみにしましょう。

しかしこの辺は京王のクレバーさを感じるところでもあります。地下化というプロジェクトに乗じてホームドアの経験値を積み上げ、将来の全面設置の布石にしようというわけですね。今後着手される代田橋―仙川間の連続立体化では、ここでの経験に基づいたホームドアの標準仕様が決まるのかもしれません。

というわけで、ホームドア設置は各社各様の取り組みが見られることになると思いますが、現時点で将来像を見通すのは難しいところがあります。郊外部ではホーム拡幅で済ませる東海道線辻堂のような事例もあり得ます。ただでさえ人口減少で増収が見込めない中、人身事故が多くて輸送障害が増えていることに悲鳴をあげたという側面はあるものの、コスト制約の中で鉄道会社が新たな安全投資に舵を切ったことは評価したいところです。

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Thursday, August 16, 2012

美らの国の地域主権

何だかキナ臭い話がちらほらありますが、茶番過ぎて背筋が寒くならないのは、あまりにお約束の三文ホラーだからか(笑)。韓国の李明博大統領の独島(竹島)上陸問題は、政権末期でレームダック化した韓国大統領のご乱心劇ですが、韓国が招聘していたはずの天皇訪韓にまで噛みつくなど、完全に常軌を逸しています。ま、基本的に相手にしないのが大人の対応です。

むしろ実効支配中の韓国が動くことで、世界に領有権問題の存在を発信してしまったんですから、韓国サイドから見れば外交的には明らかに失点です。丁度石原都知事の尖閣購入問題で中国に突っ込む口実を与えたのと一緒で、実効支配している側は静かに実効支配の既成事実を積み上げるのが得策です。「他人の振り見て我が振りなおせ」を地で行く話です。

また尖閣問題では明らかに領有権と所有権の混同すら見られます。所有権は領有権を前提とした日本の国内法で定義されているもので、仮に外国人が所有権を取得しても、領有権を失うことにはなりませんし、防衛上の理由で政府によって上陸禁止されているように、正当な理由があれば所有権は制限されることすらあるわけで、公権力と私権の関係をそもそも理解していないんですね。加えて外交や防衛は国の専権事項で1自治体の首長には何の権限もないんですから、国も放っときゃいいのに「国が買う」とか言って話をややこしくしています。ある意味国家元首である李明博大統領は国益を省みずに無茶できる権限はあるわけですが(笑)。繰り返しますが、実効支配している側は静かにしていればいいんです。「領有権問題?んなもん存在しません」で良いんです。

そもそも領有権を巡る紛争は世界中に存在しますし、度々戦争の火種にもなってきましたが、経済の相互依存が強まった現在では、戦争は当事国にとって何の利益ももたらさないということで、領有権を脇に置いて経済的権益を分け合うのが昨今の作法です。EUの母体となったのは、アルザス・ロレーヌ地方の領有権を巡り度々衝突を繰り返してきた独仏両国の争いに終止符を打つべく発足した欧州石炭鉄鋼連盟(ECSC)です。領有権を争うよりも資源の有効活用の方が富を生むということに気づいたわけです。竹島にしろ尖閣にしろ、あるいは北方四島にしろ、こうした大人の関係に落ち着くのはいつのことになるでしょうか。

日本の社会科教育ではこの辺のきわどい話はほとんどスルーしてしまいますから、国民の関心がそもそも薄いということはありますが、同時に資源といっても当面する漁業権の問題では、漁業従事者自体が保護行政の中で既得権化し、閉鎖性故に後継者が確保できずにジリ貧状態ですから、外国漁船も含めた形のオープンな漁業権管理が求められても、そもそも国内調整もできない問題で国際協調なんてできるわけないですから、現状のような宙ぶらりんな状態は今後も続くと見るべきでしょう。決めるべきは増税ではなく実質を伴った構造改革であるということです。

その一方で人口減少で限界集落が増え、無人地帯や耕作放棄地が増えている現状や、福島の原発事故でリアルに国土を失っている現状をどう評価すべきか悩みます。何も決められない内に、確実に国土は滅失していくわけです。本土から離れた無人島の領有権で騒ぐ前にやるべきことがあるだろ!という話です。とはいえ高齢化が進む日本では、どう見積っても人口減が底を打つのは2050年以降ですし、今のままでは出生率が反転上昇する可能性は低いままとなります。

人口動態から見た日本の成長の可能性を示す資料として、2010年の国勢調査の集計があります。さくら咲くみずほのエントリーで参照してください。国全体では外国人居住者の増加で0.2%のプラスとなっておりますが、都道府県単位で人口が増加したのは首都圏4都県と愛知県、滋賀県、大阪府、福岡県、沖縄県の9都府県に留まりますが、沖縄県以外は外国人を含む転入超過による人口増であって、出生率が高くて増加したのは沖縄県だけという点です。これは同時に人口構成が他の都道府県より若年人口の比率が高いことを意味します。この点を見れば沖縄県は今の日本で最も成長性の高い地域ということができます。逆に整備新幹線やリニアの整備は大都市圏の転入超過を助長するだけで、国全体の成長率を高めることはないわけです。ただし沖縄は従来はさまざまな阻害要因で成長が抑えられてきました。

言うまでもなく、離島であり、中央から遠く、米軍基地が集中し、電力事情が悪く、台風の通り道ということで、農業と観光以外の産業が手薄なこともあり、県民所得は47都道府県中最下位で失業率の高いといいとこなしだったんですが、ここへ来て変化が見られます。

日経ビジネスの沖縄特集で取り上げられているように、経済の基地依存度は復帰直後の15%から5%に低下し、人口増加を追い風に県内の消費市場は上向き、離島ゆえに原発事故以前から小口分散電源中心の電力網で自然エネルギーの導入率も高く、さらにFITの追い風も受け、むしろスマートコミュニティの先進地域として企業立地も拡大、普天間問題以前から基地の負担軽減で米軍施設の返還が進み、そこが開発されて活性化が進み、嘉手納空域の一部返還で機能を増した那覇空港はアジアを睨んだハブ機能を有するにいたり、LCCの参入で本土との往来もハードルが下がり、また基地の見返りに公共事業のバラマキが続いていたものの成果ははかばかしくなく、国の財政の悪化で経済特区として政府が規制緩和と税制優遇に舵を切り、一方で工業化が進むアジア地域の安価の部品調達が容易ということで、今まで見られなかった製造業の立地が進むなど変化が見られます。当然失業率の改善も期待できます。

そういう意味で普天間の辺野古移転やオスプレイ配備問題なども、非軍事的な意味合いが強くなっている点を指摘できます。基本的に経済的に米軍基地への経済依存度が低下していますから、以前よりも基地に対する風当たりは強くなっているわけで、その意味で普天間基地問題も、市街地の基地として、返還後の跡地開発への期待があったことも確かですし、辺野古の洋上V字滑走路も、オスプレイ配備を前提とした計画という側面は否定できませんが、海兵隊の再編で将来の民間共用化まで睨んだ計画だったようです。

その是非はともかく、それ以前に米軍自身も財政緊縮化の要請で再編を余儀なくされている中で、普天間の辺野古移転を前提としていたはずの米海兵隊の再編が先行することになりました。つまり普天間の辺野古移転は返還以来の沖縄開発行政の文脈にどっぷり浸かっていて、鳩山元首相が「国外、県外」を指示しても動かせなかったということですね。むしろ米政府の意向をちらつかせて潰したというのがより正確な表現でしょうか。しかし沖縄県民の目線で見れば、従来型の沖縄開発行政が役に立っていないことが見抜かれたという意味のほうがより大きいのでしょう。

老朽ヘリの代替としてオスプレイを配備するという話にしても、歴代政権は否定し続けてきて、いざ配備の段階で実は決まったことで今さら変更はできないと押し切ろうとしています。この問題で機体の安全性は主要な論点ではありません。問題は海兵隊の装備ということで、運用次第で安全性に大きなブレが出る話であり、日本政府にその気があれば、運用に注文をつけることは可能ということです。

それを話を伏せておいて後戻りできない時点で「実は」という話ですから、当然国民は反発します。逆に仮に普天間に配備されても、危険を伴う低空飛行の訓練を日本の領空内で行わないという運用は可能でしょうし、逆に機動力があって行動範囲が拡大できるオスプレイならば、必ずしも普天間に常駐させなくても良いという風に話が変わることもあり得ます。むしろ中国や北朝鮮のミサイルの射程内にある沖縄に基地が集中している状況は、米軍にとっても不都合になってきているという点もあります。この辺はまともな外交ができれば解決可能な問題です。

そもそも沖縄返還は佐藤栄作首相の政治的野心で実現したもので、当時から見返りの密約が噂されてましたし、アメリカの公文書公開でかなりの部分が明らかになり、日本でも政権交代後の外交機密文書公開である程度裏付けられました。尤も外務省が相当量の機密文書を処分した事が発覚し、完全公開には至りませんでしたが。

学生時代に遭遇したこの出来事ですが、「核抜き、本土並み」というフレーズが繰り返されましたが、誰も本気にしていませんでした。1960年の安保改定で盛り込まれた事前協議条項で返還後の沖縄の米軍基地への核持込は事前協議の対象とされましたが、実際は配備ではなく一時立ち寄りは黙認が密約されました。また返還される米軍施設用地の原状回復費の肩代わりも密約され、これが後に円高を背景とする米軍駐留費用増加の肩代わり、所謂思いやり予算を準備することになります。

当時、無慈悲なアメリカから無慈悲なアメリカの無能な下僕に統治権が移るだけじゃないかというのが正直な感想でしたが、悲しいかなその通りの現実が続きましたが、唯一沖縄が日本に返還されて沖縄県民にとって良かったことは、為替が円高に振れたことでしょう。返還当時スミソニアン合意で1ドル308円だったものが、現在は80円を割り込む水準ですから、購買力が5倍に増えた計算です。つまり購買力の上昇による中間層の台頭が人口増と消費拡大の原因と見ることができますので、丁度新興国で起きているのと同じ変化が沖縄で進行しているわけです。一方で思いやり予算で米軍の駐留経費の拡大が政府予算で補填された結果、米軍関連の経済依存度は15%から5%と1/3に低下したとすれば、政府の補填分だけ歪みが出たわけで整合性が認められます。

というわけで、是非は置くとして歴史過程の異なるエリアが日本国内に存在することによる奇跡と呼ぶべき状況にあります。人口減少で成長著しいアジア地域へ進出したくてもハードルが高くて躊躇している中小企業にとっては、沖縄進出は魅力的な選択肢となります。若年層が多く、本土では大手企業の陰で新規雇用が難しい中小企業にとっては願ってもない雇用環境ですし、日本語が通じるし日本の法規に準拠すればよいから国債法務に通じた弁護士と高額な顧問契約も不要な一方、IT特区構想で高速通信回線は完備しているし、税制面ではむしろ免除を受けられるし、財務面でも海外進出に比べれば負担が軽くて済みます。

あとやや皮肉ですが、原発がないがゆえに電力の安定供給が可能で、原発賠償法の負担金も生じませんから、今後本土の9電力で予想される値上げとも無縁です。従来は離島ゆえに大規模水力も原発もないということで電力の安定供給体制への疑念から敬遠されていましたが様変わりです。ま、それでも大口契約となる大手企業ならばともかく、小口契約で済む小規模企業には必ずしもネックにはならないわけです。

離島ゆえに電力の安定供給のために小型火力と風力中心の分散電源が特徴だった沖縄電力では、元々自然エネルギーの導入がやりやすい環境にあった上に、全量買い取り制度(FIT)の導入が追い風になります。また風力にしろ太陽光にしろ資源量が豊富な地域特性もあり、既にメガソーラーの開発プロジェクトが進行中です。小型火力の多くは内燃発電とされております。おそらくディーゼル発電だと思いますが、昨今の原油高はマイナス要因ながら、ディーゼル軽油は石油由来以外にも、バイオマス、天然ガス由来のGTL、石炭由来のCTLなどの代替燃料の開発が進んでおり、その意味では未来永劫原油高に悩まされるというわけではないので、必ずしもハンデにはならない可能性があります。この辺は不確定要素もありますが。

弱点は地域内格差が大きいことです。アジアのハブ機能は主に沖縄本島の話ですから、それ以外の離島では異なった現実があるわけですし、本島でも那覇一極集中で名護など北部は相対的に開発が遅れています。普天間の辺野古移転も、北部開発の思惑が絡む計画だったのですが、返還以来東京で立案された開発計画が必ずしもいい結果をもたらしておらず、在来型開発行政の限界も意識される状況にあります。

そして那覇一極集中の結果、那覇市内や周辺の交通渋滞も問題です。解決策として沖縄都市モノレール(ゆいレール)が整備されましたが、バスとの連携に失敗し、那覇交通の経営破綻も重なって混乱しました。当初おもろまち駅と首里駅に設置するバスターミナルを郊外バス路線との結節点として、乗継割引を適用し、ゆいレールと並行する市内路線を整理するというものでしたが、乗継割引の負担を巡って沖縄都市モノレールとバス4社が対立し、那覇交通の破綻もあってお流れとなり、またおもろまちと首里のバスターミナルも乗務員待機所や操車機能がなく機能的に中途半端なものに留まります。このあたりは都市計画自体がハード偏重で事業者間の調整や制度面の後押しなどがなかったことなど、那覇に限らない都市交通政策の不整合の問題が横たわります。ちなみにゆいレール自体の収支は今のところ赤字です。やや話が飛びますが、せっかく都心部に強固な独占エリアを有する大阪市交通局が解体されようとしている点は、都市交通の観点から違和感を禁じ得ません。

沖縄のような基地の島は世界には一定に存在します。例えばグリーンランドはNATOの主力基地として冷戦時代には対ソ戦略の中心でしたが、今でもNATOの主力基地です。面白いのはグリーンランドの政治的位置づけですが、コペンハーゲンを首都とする本土ならびにフェロー諸島と同列の自治政府がデンマーク王国に属する形です。住民のほとんどがカラーリットと呼ばれるイヌイット系民族であることと、基地の島であることなどから、高度な自治権を得ることになり、1985年にはEUの前身であるECを離脱しています。これは沖縄問題を考えるときに重要なヒントになり得ます。上記のように米軍基地の迷惑料として霞ヶ関で計画された開発行政がうまく行っていない中で、沖縄限定で自治権の拡大を図るのは一つの方向性でしょう。沖縄の場合も経済特区に指定されて税制面などで優遇されてますが、更に沖縄のハブ機能を活かす意味で、意思決定の現地化を大胆に取り入れたら面白いと思います。中央政府がやるべきことは中国など近隣国との良好な外交関係を維持して、結果として沖縄の米軍基地負担を軽減し、成長期の沖縄に平和の配当をもたらすことであって、直接開発行政を中央で差配することはやめた方が良いでしょう。これが本当の意味での地域主権ですし、国と地方の役割分担であり、維新の会の大阪都構想のようなまがい物でない地方分権の実行モデルになると確信します。

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Saturday, August 04, 2012

同じANAのムジナの空中戦でおJAL

8月1日、エアアジア・ジャパンが就航し、3月のピーチ・アビエーション、7月のジェットスター・ジャパンと続くLCC3社が出揃いました。エアアジアはピーチと共にANAの系列会社ですが、ピーチが香港の投資ファンドとの合弁で、更に官民ファンドの産業革新機構も出資し、ANAは38.67%の筆頭株主ながら持分法適用会社としてANAは出資者の立場ですが、エアアジア・ジャパンは、同じ合弁ながら過半数出資の連結子会社で、合弁相手もマレーシアのLCC、ピーチが関空、エアアジアが成田を拠点空港とするなど、両者の立場は微妙に異なります。ANAが系列にLCCを2社も抱えることになった経緯には、ANAの置かれた微妙な立場が透けて見えます。

ただ共通するのは、あくまでも新規需要の開拓がミッションであるということで、この点はJAL系列のジェットスター・ジャパンも同様です。航空自由化の遅れた日本では、新規参入社としてのLCCではなく、レガシーベイビーとしてLCCがスタートした点が特徴です。また同時に明言はされていないものの、整備新幹線やリニアでシェアを侵食されることを織り込むという意味もあります。将来に備えた変化対応のための投資ということですが、JRや大手私鉄が不動産賃貸や小売りなど脱運輸業を志向しているのに対し、あくまでも航空分野での需要開拓に向かうのは、JALもANAも過去にホテル業などでバブルに踊って損失を蒙った痛い経験によるもので、よりコアコンピタンス(中核的競争力分野)を自覚した結果と見るべきでしょう。

ANAがLCC2社体制とした点ですが、関空が空洞化著しくLCC誘致で活性化を図ろうとしている点及び、24時間空港で機材の余裕を切り詰めたLCCにとって欠航の原因となる遅延の心配がないなど、LCC事業にとって優位性があるのは関空で、実際7月就航のジェットスター・ジャパンは遅延で7月中4便をj欠航させましたが、成田も発着枠が拡大する中、羽田の国際化で成田発着便の搭乗率を維持し、発着枠を手放さないために、自社枠を傘下LCCに使わせることで、シェア低下を防ぐ狙いがあります。また海外LCCのノウハウ吸収の狙いもあり、JALがジェットスターと合弁でLCCに参入したこともあり、ANAとしては迎撃体制を採らざるを得なかったというのが実際でしょう。そしてメディアでは主に価格競争が話題の中心ですが、直接的には成田拠点で親会社がライバル関係のジェットスターとエアアジアの競合関係が中心になります。関空便ではピーチとジェットスターも競合しますが、当然ながら同じANA傘下のピーチとエアアジアは棲み分けて直接競合を避けています。

とはいえ大手2社も実は夏の繁忙期運賃を値下げしており、業界全体として運賃が値下がりする傾向は否めませんが、これも羽田と成田の発着枠拡大に伴う新規割当を見込んで、今はシェアを落とさないための体力勝負という局面にあるわけです。つまり傘下LCCのガチンコ勝負に目を奪われると、実は親会社同士の関係が見えにくくなりますが、LCC同士の対決自体決して親会社の代理戦争ではなく、新たな業態として試行錯誤の過程にある一方、LCCと棲み分けなければならない親会社同士のつばぜり合いも激しくなっているといえます。その結果政治を巻き込んだ場外乱闘に近い泥仕合の様相です。

12年3月期決算で2,000億円超の営業利益を計上し、9月再上場が取り沙汰されるJALですが、ここへきてANAがあれこれ注文をつけています。破綻して国費投入の上債権放棄まで受けたJALですが、それでも1兆円超の累積欠損を9年に亘って繰り越せるため、総額4,300億円もの法人税免除が受けられます。しかも法人税の欠損繰り越しは元々7年だったものが11年12月の税制改正で9年に延長されたもので、JALにとっては絶妙のタイミングでしたが、別にJALのためではなく、震災復興増税による法人税減税延期の見返りと見るべきでしょう。震災復興で財源確保に協力姿勢を見せる財界ですが、ちゃっかり焼け太りです-_-;。それ以上に情けないのは、元々法人減税の財源に欠損繰り越しを含む租税特例の見直しで対応するはずが、脅されて逆に優遇強化しちゃう民主党政権の根性なしぶりです。

しかも7年の欠損繰り越しも、元々は小泉政権時代の銀行の不良債権処理を後押しするために延長されたもので、09年総選挙で政権交代後、法人税減税の原資として制限をかけようとして財界の猛反発を受けて腰砕けになったものです。ことほど左様に財界の御用聞きばかりに終始した結果、皮肉にもJALが恩恵を受けたもので、見直そうとするとまた財界が大騒ぎするだけの話です。また実はANAも09-11年の赤字を繰り越していて、120億円程度ですが免除を受けられる立場なので、これだけでJALのことを悪くは言えませんが、LCC参入や羽田、成田の発着枠拡大などで体力勝負を強いられるANAにとっては著しく競争条件が不利になるわけで、その意味では同情を禁じ得ません。

あとANAの言い分として、経営破たんして公的助成を受けて復活したエアラインは欧州のナショナルフラッグキャリアに多数見られますが、いずれも公的助成を得ている間は新規事業に参入を制限されているのに、羽田の国際線発着枠割当にしろ、ジェットスターとの合弁によるLCC参入にせよ、自主再建したANAの権益を侵していて、競争条件が違う点もあり、これも日本の法律では規定がないし、今さら法制化しても9月の再上場のタイミングには間に合わないしということで、JALの逃げ切りはほぼ確定しているわけで、そこでANAは自民党にロビー活動を仕掛けて再上場の延期を画策しているのですが、これがとんだ結果をもたらしています。

JALの再建が民主党政権の成果と民主党議員が触れ回っており、確かに自民党政権が続いていたら、このような思い切った破綻処理はできなかったでしょうけど、これに自民党運輸族の議員が怒っているということで、消費税問題で弱体化している野田政権の揺さぶりに使われています。ある運輸族のドンが「鶴(JAL)に恩返しさせろ」と凄んだそうですが、そうやって赤字路線を押し付けたことがJALの破綻につながったことはきれいに忘れているようです。またANAもJALの優遇には注文をつけたいけれど、当面は羽田の発着枠の配分で優遇して貰えればというあたりの落としどころを模索して自民党に近づいたら、思わぬ形で政争に火をつけてしまって慌てています。

JALに関しては昨年3月の128億円の第三者割当増資に関する疑惑も言われています。出資している企業再生支援機構の不透明な処理が疑惑を生んでいて、この時点では更正手続きの終了が見通せる段階だったため、出資すれば上場後確実に値上がりするという意味で「第2のリクルート事件」と言われております。しかも民主党政権に請われてJALの会長に就任した稲盛氏の古巣の京セラが50億円を引き受けたということで、やはり自民党が政争に持ち込もうとしております。ただしこれもJALの破綻処理や債権放棄で損失を蒙った銀行筋が引受を渋ったことから引受先が見つからなかったという事情もあります。ただし昨年3月時点では既に業績の急回復が見通せていただけに、逆に増資自体の必要性があったのかどうかは不透明です。

とはいえANAの方も清廉潔白とは言えないところにまたややこしさがありまして、ANAが7月3日に2,000億円超の公募増資を実施しましたが、どう見てもJALの再上場前の駆け込みというタイミングで、JALと同じ野村證券を主幹事として実施しており、しかも担当者まで同一人物ということで、JALの再上場で野村證券は主幹事から外されております。当然増資インサイダーが疑われるきわどい話です。

驚愕の証券モラルハザードに JALが野村の地位を格下げ|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン
また主幹事証券の1社に名を連ねる米ゴールドマンサックスのアナリストレポートで、ANAの公募増資前のきわどいタイミングで買い推奨をしています。
ANA増資でインサイダー疑惑 問われる幹事証券の“煽り”姿勢|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン
いずれも証券会社の問題と突き放すことは可能かもしれませんが、公募増資のタイミングのきわどさもありますし、証券と交わされたやりとりが明らかになれば、ANA自身の問題に飛び火する要素はあります。ひと言で言えば「そこまでするか」というような問題です。ANAに焦りが感じられます。青い鳥(ANA)のご乱心か^_^;。

という風にJALとANA、傘下LCC同士、民主党と自民党がそれぞれに何だかわからないけど競い合っているという構図です。そうした中でJALの再上場が決まりました。

JALが9月19日に再上場、想定売出価格は1株3790円 | Reuters
想定売出価格から逆算すると7,000億円近い総額となり、企業再生支援機構の出資分3,500億円の倍という水準で、民主党議員が「大成功」とはしゃぎたくなるのも無理からぬところではありますが、上述のように民主党政権の根性なしぶりに助けられた幸運(笑)でもあり、それが元でANAが自民党に接近したのだとすれば、この空中戦は後を引きそうです。

しかし忘れてはならないのは、何より人員削減や給与カットを呑んでコスト意識に目覚めたJAL社員の頑張りの成果である点は指摘すべきでしょう。大量に退職者を出したことも一部では叩かれてますが、その結果JALのベテランパイロットが多数退職し、LCC3社に吸収された結果、LCCの事業化に追い風になったことも指摘できます。実際LCC各社は「JALのベテランパイロットが揃っていて安全」を謳っております(笑)。逆説的ですが、雇用の流動化が雇用対策になるというのは以前から言われていて、労組の反対で潰されてきましたが、労組の支援を受ける民主党政権でこのようなことができたことの意義は一定程度あると言えそうです。

翻って自民党に接近したANAはいただけません。焦りはわかるけど何だか時計の針を戻すような動きになっています。そもそも羽田の発着枠問題でも、ANAは裏口から権益拡大してきた歴史があります。スカイマークを皮切りに新規参入社が現れると、運航時刻が近接する特定便限定の割引をしたりして潰しにかかり、経営が傾くと資本注入で傘下に収めて発着枠を実質的に拡大してきたのがこれまでのANAのやり方でした。特定便割引自体はJALもやりましたが、JAL自身が経営に行き詰る中、結果的にスカイマークを除く羽田発着の新規参入各社を傘下に収め、コードシェア便として飛ばしているわけですから、ANAは裏口から発着枠を手に入れたようなものです。そういう意味ではJALはいつまでもおJALでいて欲しかった(笑)のに、国の支援を受けながらもコスト意識に目覚めた手ごわいライバルに変身してしまったのですから、ANAにとっては太陽が西から昇るような事態でしょう。元々世界で見ればJALとANAでは知名度に決定的な差があって、国際線進出もスターアライアンス頼みのANAにとっては、政治にすがっても阻止したいJAL復活劇でしょう。というわけで、すっかり生まれ変わったJAL社員が「昔のうちみたい」とつぶやいたとか(笑)。

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