海あり山あり空家あり
尖閣問題も竹島問題もどんどんややこしくなっています。中国も韓国も歴史問題とリンクして自説を述べており、当面この状態は続きそうです。いずれも日本政府の読み違えが事態を大きくしており、沈静化は容易ではありません。
尖閣に関しては丹羽中国大使の警告が当たっていたわけで、政府内に助言を聞く人がいなかったばかりか、世論の反発を恐れて更迭するなど、政府の対応は場当たり的で、結局中国政府の不信感を増幅したようです。おそらく今の中国政府の対応は、日本に対する本音に近い感情が出てきたものとみるべきでしょう。
竹島に関しては動いたのが韓国側ではありますが、その前に従軍慰安婦問題で韓国内に「日韓条約で法的に決着済み」とする政府公式見解に対して、裁判所が条約の異議申し立て手続きを行わないのは憲法違反」とした判決を下しており、李明博大統領は日本政府に異議申し立てをせざるを得ない状況になりましたが、日本政府は従来の公式見解を繰り返すだけで耳を貸さなかったという前段があります。この辺国内メディアはほとんど伝えませんが、諸外国では当然メディアで報じられており、国際世論は日本に不利な状況です。
当然これらの問題は長引きそうですし、アメリカを含め日本政府の思惑とは逆方向に進みそうな気配です。とりあえずは相手の言い分を聞くことでしか、解決の糸口は見出せないでしょう。自民党総裁選で候補者が口々に日米関係の修復を訴えましたが、当のアメリカ自身が領土問題に中立の立場ですから、政権が戻っても解決の可能性はありませんし、何よりアメリカにとっても近隣国と友好関係を築けない日本は迷惑な存在でしかありません。
というわけで、尖閣問題では多くの企業がトバッチリを受けていますが、気の毒なのは19日に再上場を果たしたJALです。尖閣問題がこじれた結果、中国便を軒並み減便、運休の措置を採り、自民党だけじゃなく外交問題にも翻弄される政治に弱い体質が嫌われて売られ、株価は一時3,200円台まで下げました。3,000円を切るようなら買おうかと思って見ていましたが、流石に金曜日の終値で3,630円まで戻しましたが、売り出し価格の3,790円には及びません。投資家はリスクに敏感です。
JALの再生に関していろいろ言われておりますが、2010年10月に請われて会長に就任した稲盛氏が「要望はしないが、変なこと言われても、正しいことをする」と政府に釘を刺した結果、スピード回復を果たしたのであって、政権交代が良い方向に作用したことは間違いありませんが、民主党の手柄というわけではありません。実際JALの再生成功をよそに東電の再生は政治が介入しまくりで、変なことばかりやってます。
原発ゼロ問題にしても、核燃料サイクルの見直しまでは踏み込めず、閣議決定にも至りませんでした。安全性の担保が前提ながら私は原発の再稼動自体は認めても良いという立場ですが、核燃料サイクルは何が何でも止めるべきだと考えております。つまり政府決定は全く的外れなものでガッカリです。大間原発の建設容認もしかり、元々核燃料サイクルを前提にウラン・プルトニウム混合のMOX燃料を燃やすための炉で、そもそも核燃料サイクルの本命とされた高速増殖炉が原型炉のもんじゅのトラブルで見通しが立たない中、六ヶ所村の再処理施設が完成しても取り出したプルトニウムの行き場がなくなるからと始まったプルサーマル計画ですから、誤魔化しに誤魔化しを重ねているわけですが、六ヶ所村の再処理施設自身がトラブル続きでいつ稼動開始できるかメドが立たない状況で尚止められないのですから、これまで補助金パラ撒いて口封じしてきたツケは高くついています。
そういう中で、電力会社の中から新たな動きも出てきているようです。
中部電、大阪ガス:米国産LNGを輸入へ-輸入コスト3割減目指し - Bloomberg
中部電が発電所建設で競争入札 “調達革命”に業界戦慄の理由|Close-Up Enterprise|ダイヤモンド・オンラインいずれも中部電力ですが、火力発電燃料のLNGの調達コストの圧縮や、火力発電プラントのメンテナンスを含めたライフサイクルコストの圧縮に乗り出したもので、独占企業である既存電力会社の中からも、今までのやり方を見直す動きが出ています。中部電力といえば浜岡原発の停止で現時点の原発依存ゼロですが、今後も浜岡の再稼動がすんなりいかないという見立てなんでしょう。また元々原発依存度が低かったから、減価償却や固定資産税などの負担も軽く、経営的にも小回りが利く状況にあったということは可能ですが、動けるものが先に動くことで、結果として変化が加速されるのが、市場経済の常です。JALも非効率なB747ジャンボ機を売却して身軽になったことで再生されました。
その一方で経済界からは相変わらず「原発止めるな」の大合唱ですが、なるほど企業トップが揃いも揃って変化を嫌う日本は世界から取り残されるなと思わずにはいられません。景気が悪いのは中国のせいだ韓国のせいだ、法人税まけろ、邪魔な規制は取っ払えじゃあどうにもなりません。自ら変わることで事態を打開できる企業トップは本当にいないんですね。JALの稲盛名誉会長を見習いなさい。
それはともかく、気になるのが鉄道事業者の対応ですが、今のところJR東日本が信濃川の水利権の追加と川崎火力の増強を決め、特定電力小売り事業者(PPS)利用で先行した東京メトロに続いて東急、西武がPPSとの契約にこぎつけたものの、他社はPPS自体の供給能力の限界から新規契約が無理な状況にあり、電気料金が上がっても今のところ打つ手なしの状況です。
加えて国交省から2030年に電力消費30%減を求められて困惑が拡がっている状況です。既に多くの事業者で省電力車の投入は進み、また私鉄中心に変電所への蓄電システム(フライホイール、キャパシタ、NAS電池など)導入もあって、かなりの程度省電力化は進んでいて、これ以上省電力は難しいところです。
ただし落とし穴があって、主にVVVF制御の導入で全般に装置が小型化された結果、性能向上を狙って最大出力が大きくなっている点です。これは公称出力を低くしたJR東日本でも過負荷運転で実質的に高出力化していて、結果的にピーク時の消費電力を増やしてしまっている点があり、実際各社とも変電所設備を強化しています。
1つ可能性の問題として、回生制動時に発生する電力を太陽光などと同様に買い取る制度を設ける方法は考えられますが、太陽光や風力以上に不安定な電源を受け入れることは、技術的にも電力会社の経営的にも受け入れがたいところであり、すんなりはいかないでしょう。鉄道側で何らかの自衛策を講じる必要はあります。
一方でJR東日本のように自家発電の増強で対応できる事業者は多くないわけで、またJRで特に顕著なのが、車両サイドの省電力化は進んだものの、き電システムの最適化ができていないために無駄になっている点でしょう。例えば横総線でE217系が登場した当初、消費電力の大きい113系の力行時の電圧降下を防ぐために公称1,500vの架線電圧に対して変電所で+10%の1,650vで送り出していたところ、E217系の回生ブレーキ時に架線電圧が跳ね上がり、保護リレーが働いて回生失効したというトラブルが多発しました。それに懲りて電圧を最適化したものの、逆に力行時の過負荷運転ではより多くの電力を消費しますから、電圧降下を防ぐためには変電所自体は増強しなければならないという変なことになったわけです。これはある意味き電システムを増強して稼働率を下げて安定化したということでもあります。電力自由化されてJR東日本が余剰能力を活かして配電事業に進出できれば、設備の無駄が金のなる木になる可能性はあるんですが、現状では見通しは立ちません。
電力関係の話はここまでにして、鉄道関連では24日の京急の脱線事故がありました。メディアやネットでいろいろ話題になりました。京急の先頭電動車主義の話も出ましたが、脱線時の安全性に関する議論をはじめ、誤解多数で眩暈がします。先頭電動車に関する京急の公式見解はあくまでも軌道回路のレスポンス向上であり、レール表面の汚れで信号回路が絶縁状態だと軽量の無動力先頭車では信号切替が遅れてダイヤに支障するというものです。もちろん副次的に脱線時の転覆のしにくさも指摘されてますし、今回のように先頭車がトンネルを塞ぐ事態で損傷を軽減できた可能性はありますが、逆に重量のある先頭電動車を狭いトンネル内で重機を使えない中で復線させるのに手間取って、復旧に55時間半を要することにもなっております。物事の長所短所はコインの裏表の関係にあることを知って欲しいです。
その結果一部メディアで京急の責任を問う論調がヒートアップしました。1997年にも事故現場の近くで同様の土砂崩れに電車が突っ込む脱線事故があったのに、必要な対策を怠ったということのようですが、97年事故のときにも、崩落防止対策の責任を巡って横須賀市と京急の認識のズレがあり、横須賀市は基本的に私有地は所有者の責任でという立場ですが、問題のある対応です。
元々地形が険しく岩盤のもろい三浦半島地域ですが、戦前は多くの土地を軍が保有していたこともあり、公有地がそれなりにあって、杭を打ってワイヤーを張り巡らした地すべりセンサーがあちこちに埋め込まれてはいますが、私有地は手付かずです。しかもかつて山林だった時代ならば一山一オーナーで対策のしようがあったかもしれませんが、鉄道が通り利便性が増した結果、地価が上がって相続で税金を払いきれずに分筆して切り売りされ、宅地として開発されると、危険な斜面でも多数の所有者に跨ったりして権利関係が複雑化して曖昧になります。加えて昨今の高齢化の進捗でそういった宅地の主が転居したり死去したりで不在となるケースも増え、住宅余剰の中で相続されず所有権移転もされずに放置されるケースまで出てきます。そうすると所有者不在の私有地というオバケが増殖するわけで、ますます解決困難になります。市場の神の手が働かない以上、公的関与が求められる状況です。
本来崩れやすい斜面の土地に住宅が建っていること自体が異常なんで、むしろ現在の居住者にも安全な平地への移転を補助した上で、まとまった土地にして地滑り対策を講じる必要があります。ある意味鉄道が通り地域開発が進んで居住人口が増えた結果、その鉄道を危険に晒す結果になっているんですから皮肉です。しかも京急の路線は湘南電気鉄道による1930年の開業で、昭和初期に建設されたもので、既に横須賀への鉄路は官鉄横須賀線がありましたが、明治の土木技術で建設可能な平坦地をルートとし、谷筋の斜面まで鉄道用地として取り込んでますし、軍用鉄道として高規格に作られていたのに対し、純民間資本で用地買収の問題から既存市街地を避けて谷戸をトンネルで繋ぐルートが選ばれたわけで、元々脆弱性は高いということはできますが、地すべり防止などは本来公的な治山治水事業で対応すべき問題なんで、その前提で選ばれたルートだったはずです。それが鉄道の開業で利便性が向上した結果、斜面の開発で鉄道を危険さらしているわけです。そういう意味では鉄道の恩恵に浴しながら手を打たない横須賀市の責任分担はもっと議論されるべきです。
もう一つ重要な論点は、今回復旧が遅れて振替輸送が長引きましたが、それに伴う混乱は特に見られません。
京急脱線、企業への影響は限定的 振り替え輸送円滑 :日本経済新聞不通区間の金沢八景―逸見間は代行バスを仕立てた上、逸見と徒歩連絡可能なJR横須賀駅から逗子へ、徒歩連絡で新逗子から京急線、あるいは久里浜からJR横須賀線と振替輸送ルートがあるわけで、特にJR横須賀線は3月改正で昼間毎時4本から3本への減量ダイヤにしたぐらいですから、輸送力に余力があるわけです。むしろR16の車線を塞いだTV中継車が渋滞の原因になって代行バスの運行を邪魔しておりメディアの報道姿勢はこの面でも問題です。現地の道路事情を考えれば記者がハンディカメラで取材するべきですが、放送局も機材を抱えたインフラ企業で、広告収入が減る中稼働率が下がれば予算カットの憂き目をみるわけで、社内事情を優先する社会の公器とは笑わせます。
話を戻しますが、JR東日本は元々横須賀線逗子以南の運転系統分離を模索しており、仙石線矢本―石巻間の区間運転用に供された103系改造の105系を廃車後引取り、久里浜駅構内用の入替車兼教習車としたばかりか、首都圏で廃車除籍された103系を同様に1M改造して大船工場入替車に使ったりしてました。いわゆる横須賀シーサイド計画と呼ばれる計画で、逗子以南の運行を分離して減量化を図ると共に、逗子での付属編成分離の都合で付属編成が東海道線などと逆になっていてグリーン車の位置がずれている問題や、逗子の電留線の有効長の問題もあって付属編成を5連化できず、基本編成11連だとトンネルに挟まれた田浦駅の有効長が10連分しかなく1両ドアカットを余儀なくされているなどの問題を一気に解決しようとしたものの、横須賀市から日中でもグリーン車付の東京直通を昼間も残せという声に押されて幻の計画となりました。結果が3月改正の減便だとすると、横須賀市は東京直通を残す見返りに利便性を犠牲にしたということが言えます。京急との関係で膠着する地すべり対策といいこの問題といい、疑問を禁じ得ないところです。
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