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December 2012

Sunday, December 30, 2012

猪瀬’ン都サブウェイ

猪瀬新都知事と大田新国交省の階段で都営とメトロの地下鉄一元化に国交相が理解を示したり、九段下のバカの壁の撤去工事が進捗し、穴が空いたことなどが話題となっておりますが、これらのメディア報道とは裏腹に、地下鉄一元化は1ミリも進捗していないというお話です。

そもそも東京メトロの前身の帝都高速度交通営団(以下「営団」と記す)は、国鉄と東京都が出資する特殊法人で(歴史的経緯で存在した東急の持分は返上させられた)、株式会社に改組した東京地下鉄株式会社(通称「東京メトロ」)の常勤取締役1名は都庁OBの指定席になっております。いわゆる天下りポストですね。にもかかわらず都が直接地下鉄事業に参入したのは、地下鉄の開業で役割を失う都電や都営バスの職員の配置転換先確保する意味があったのです。役員は天下りを受け入れても、現場はプロパーで固めるのが営団→東京メトロの流儀で、出資比率が国鉄(民営化後は国に権利移譲)が優越していた中では都によるコントロールが働かないわけですから、都側はそのことに不満を抱いていて、しかも営団には財政投融資資金が入っていて国の手厚いサポートがされていた一方、都は自前で資金を調達しなければならない立場でした。後にこの点は地下鉄の建設補助金が制度化され、大都市の公営地下鉄と営団が対象とされましたが、民間事業者は対象外で、東急新玉川線(後に田園都市線に編入)や京王新線は民間資金で建設され、両社共に鉄道資産の水ぶくれで経営を圧迫されました。この辺は当時車両冷房化で両社が明らかに遅れをとった事などに現れています。

逆にこの点は株式上場を目指す東京メトロにとっても触れられたくない部分ではあります。建設費の公的補助を受けながら、株式上場して投資家にガバナンスを委ね、利益配当を差し出すことに関しては、異論が出ても不思議ではありません。実際福田政権当時に東京メトロの株式上場が政府も政策目標として取り上げらてた時に、丁度電源開発(Jパワー)への海外ファンドの追加出資問題もあって、鉄道、電力、ガス、。航空などの公益企業に議決権保有制限をという議論になったわけです。その結果東京メトロに関しては、既に都が47%を保有していて、株式上場となれば保有株式の放出を強制されるわけですから、猪瀬氏の地下鉄一元化論は、タイミング的には上場を阻止して都の権益を護る議論にしかならないということになります。猪瀬氏の意図するところは別かもしれませんが、著書では「都営地下鉄の収益改善を待ってメトロと統合後に株式上場」というシナリオを描いておりますので、当面のメトロ上場は遠のくことに変わりはありません。

一方で都以外にもメトロ株の保有を狙う企業は多数あり、猪瀬氏が著書で述べているように、都心の金城湯池を営業エリアとする東京メトロは儲け過ぎているという議論もあります。その観点からは株式上場するなら東京メトロに一定の負担を求める議論は、それなりに現実的ではあります。

一案としては、整備新幹線やそれに準じた都市鉄道整備のスキームに倣って、公共地下使用権を設定して賃借料を支払わせるということは考えられます。またそれを原資として、進まない混雑緩和対策の輸送力増強投資に充当するというのはアリかもしれません。ただし同じエリアで営業する都営地下鉄にも同等の負担を求められることになる可能性はありますので、2007年に単年度黒字に転換したとはいえ200億円程度の利益水準で負担増は一元化どころではなくなり、都側からこの議論は仕掛けにくいでしょう。

やや脇道に逸れますが、猪瀬氏が著書で指摘している関連企業への飛ばしまがいの資産隠しや利益隠しは、メトロに限らず東京都もやってますので、人のこと言えるかって話です。あと賃金水準の違いも、利益水準から見れば妥当です。少なくとも企業別職域別組合主体で産業別職能別に企業横断的な組合のある欧米ならばいざ知らず、企業業績で従業員の処遇が変わるのは、日本では普通のことです。あと駅員の接客態度など顧客満足度にも差があることは乗客が体感的に理解しているところです。

というわけで、猪瀬氏の改革の中身の空疎さは明らかですが、メディア報道でこのような観点がすっぽり抜け落ちているのは、結局メディアの記者が都庁記者クラブ発表を裏も取らずに垂れ流している結果です。だから今年正月に山手線田町―品川間の新駅報道がリークされて全国ニュースで流れるというバカバカしいことが起きます。

あと猪瀬氏といえば道路公団改革ですが、道路を国の機関(保有機構)の保有として営業権を高速道路会社に与える現在のスキームで、実は会社役員の人数が道路公団の理事の人数の3倍以上に膨らんでおり、結果的に天下りポストを増やしています。JRが内部昇格中心で官僚天下りを受け入れていないのとは対照的です。

加えて笹子トンネルの天井崩落事故に見られるように、メンテナンスを怠っていたことまで露呈しました。このあたりは地震で盛土が崩落した東名高速の問題と共に、減価償却されない道路資産の問題点としても指摘できます。制度設計を行った猪瀬氏は今のところ公式には見解を述べていないようですが、かように抜けの多い改革が猪瀬氏にはつきまといます。

減価償却に関しては、鉄道でも本格導入されたのは戦後ですが、公社時代の国鉄は、制度の意味を理解していなかった可能性があります。というのは、国鉄が減価償却を導入したのは1964年で、この年は東海道新幹線が開業した年でもあります。同時にそれまで黒字基調だった決算が赤字転落した年でもあります。丁度東急新玉川線や京王新線がそれぞれ自前で建設された結果、資産が膨張して経営を圧迫されたのと同じことが国鉄で起きていた可能性が指摘できるからです。

具体的には、東海道新幹線の総事業費が当初見積もりの1,900億円から2,900億円を経て3,800億円と倍増した結果、開業年の64年に国鉄資産が大幅増加したタイミングで減価償却が始まったわけですから、利益控除額が多額となり、赤字転落した可能性があります。

しかし当時の国鉄首脳陣は、潤沢なキャッシュフローを前に、赤字は一時のことで、じき黒字転換するかの錯覚があったのではないかと考えられます。その証拠にその後も首都圏五方面作戦や貨物バイパスとしての武蔵野線、京葉線の建設や、非電化区間の電化や幹線の複線化などの投資を精力的に行い、資産を上積みし続けます。特に貨物輸送の強化は産業界からの要望も強かったのですが、貨物は元々赤字体質だったこともあり、投資が利益を産まない悪循環にはまります。

そうなると東海道新幹線の生産性の高さゆえの高収益性による内部補助が拡大し、一方赤字の拡大も止まらず、いつしか新幹線の高収益依存から、新幹線の建設を進めれば赤字脱却できると考えて、国の法整備を背景に山陽新幹線、東北新幹線、上越新幹線の建設を手がけますが、その際に高規格化したこともあり、投資額は膨らむ一方で、しかし山陽新幹線でも東海道新幹線の1/3の輸送密度しかないんですから、投資が利益を生まない中で累積債務を積み重ねて國庫の支援を仰ぐようになり、また事故や不祥事も重なって国鉄改革の機運が高まりました。東急や京王のような民間企業ならば、投資を抑制して収支均衡を図るところを、逆に投資拡大で乗り切ろうとした結果、赤字体質から抜けられなくなったと考えることができます。

加えて貧すれば鈍すで、磯崎総裁時代に現場の生産性を高めれば赤字脱却できるとの見立てでいわゆるマル生運動を提唱して労組と対立し、労使関係を決定的に悪化荒廃させたことで、国鉄はもはや自力回復の可能性なしとみられるようになりました。この辺はアベノミクスで主張される「成長すれば財政は健全化する」という議論にも通じるところですが、歴史は既に結果を示しております。

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Monday, December 24, 2012

クライメートクリフ

フィスカルクリフ(財政の崖)という言葉がニュースに度々登場しますが、意味を理解している人は多分少ないと思います。リーマンショック対策として富裕層中心のブッシュ減税の2012年12月末の失効と、2013年1月から始まる財政法に基づく歳出の自動削減が重なり、社会保障関連その他の増税分を含めて最大6,000億ドルの影響があることから、回復途上にあるアメリカの景気を冷やすのではないかと言われております。

現在米議会で回避策が議論されているのですが、ティーパーティー支援の共和党強硬派の反対で議論が進まず、市場関係者が苛立っているという構図です。富裕層減税の対象ラインを当初25万ドルから共和党との妥協含みで40万ドルあたりの落としどころを模索していたのですが、それより緩い100万ドル案すら否決されるなど、混迷が続きます。FRBが9月に量的緩和第3弾(QE3)に踏み込んだのも、財政の崖問題を睨んだものとも見られております。

一方で影響は軽微とする議論もあります。そもそも対象となる富裕層は少数で、消費の手控えがあったとしても栄養は限定的とする見方もあります。とはいえ金融市場は既に過剰反応を始めており、ニューヨーク株式市場は一進一退で、配当課税増税前の駆け込みで臨時配当する企業も多数あり、ある種身構えている状況にはあります。そんな状況ですから、投資資金シフトが起きて放置されていた日本株に買いが入ったわけで、アベノミクス効果で東証株価が上がったわけではありません。

日本では専らアメリカの景気失速の国内景気への影響が心配されてますが、日本にとってはもっと重大な崖が待ち受けております。それがタイトルのクライメートクリフです。おバカな年末総選挙の喧騒にかき消されて目立たなかったニュースがCOP18ですが、京都議定書の失効に伴う第2約束期間がスタートしたものの、日本は早々不参加を決めていて、立場を大幅に後退させました。一応義務を伴わない自主削減目標は定めるとしておりますが、実はこれも実現可能性は限りなく低いものにならざるを得ません。

COP18閉幕、13年から新枠組み交渉 作業計画採択  :日本経済新聞
記事の末尾のクリーン開発メカニズム(CDM)の扱いが実は問題でして、第2約束期間不参加国は低コストで可能な途上国の排出削減事業で得た排出権クレジットを自国の削減分にカウントはできるけれど転売はできないという制約を課されます。つまり自国の真水の削減分とCDMで得た削減分が目標を下回って余剰が出ても転売できないわけで、CDM事業そのもののハードルが高くなります。

元々国連機関で厳格な査定を経て認証されるCDM事業は事業そのものの規模も大きく、また手続きコストもかかるため、日本では専ら商社が中心になって進めてきて、電力会社やメーカーなどの大口需要家に転売され、過不足は他国とのクレジット売買で調整され、目下のところは余剰はなく、EU加盟の東欧諸国やロシアなどから余剰分を買い取って帳尻を合わせていたのですが、福島第一原発事故で電力会社に資金の余力がなくなり、また原発停止で火力依存が高まっていることから、その電力を買っている需要家が自動的にCO2排出量を増やしてしまうことになります。

つまり今まで電力会社にお任せだったCO2排出削減義務を電力ユーザーが負わなければならない状況になってしまったわけです。とはいえ転売できないCDMクレジットの購入は需要家の電力ユーザーにとってはハードルが高く、このままでは義務を伴わない自主目標すら立てられないというおバカな状況になっているわけです。早々不参加を決めた日本には、異議申し立ての権利もありません。日本政府の国際交渉下手は救いようがありません。

とはいえ、だから原発を再稼働しろという議論には違和感があるのは当然です。もちろん客観的な安全基準を明確にした上での再稼働は排除するつもりはありませんが、福島の事故すら収束できていない現状で、また大飯、
敦賀、東通と活断層問題を抱える原発もあり、再稼働のハードルは高いと言えます。更に安倍自民総裁が原発の新増設に言及しておりますが、更にハードルは高いと言えます。

原発に関しては推進か脱原発かという不毛な議論が続いておりますが、現存する50基の原発をどう畳んでいくか、また使用済み核燃料の最終処分については、推進、反対を問わずのしかかるリアルな問題であるという認識は持つべきです。その上でどう対応すべきかの具体策が問われているのですが、少なくとも16日の総選挙でこの点を明確にした政党は皆無でした。

ふと考えると、そもそも原発か自然エネルギーかという議論も不毛なんですね。両者に共通する問題として、出力制御が困難なことと、需要地から見て遠隔地に立地しているという点では同じなんで、電力の安定供給を前提とする限り、結局火力発電のバックアップ無しには成り立たないことと、需要地との間に遠距離送電を行う必要があり、例えば福島から200km以上離れた東京へ大量の電力を送ること自体、膨大な送電ロスを生じさせるわけで、エネルギー効率を悪くしています。この点は水力を含む自然エネルギー利用でも同様の問題があるわけです。

自然エネルギーはお天気任せで不安定と言われますが、中越沖地震で柏崎狩羽が全停止し。再開に2年以上かかったように、大出力ゆえに災害による停止のリスクも高く、火力によるバックアップなしには安定供給できないわけです。つまり何が言いたいかといえば、原発も自然エネルギーも火力の助けなしには使えないということで、そもそも原発か自然エネルギーかといった二択問題ではないということを言いたいわけです。

どのみち火力依存は変えられないならば、原発にしろ自然エネルギーにしろ転用が困難なサンクコストの塊なんだから、そんなもんに依存するよりも京都議定書の第2約束期間に参加してCDMクレジットを積極的に取得する方が安上がりだし、議定書に参加していれば転売可能で、且つ純債務国で潤沢な余剰資金を持つ日本が参加することで市場の厚みが増せば、クレジットの流動性も高まり、サンクコスト化しにくい汎用性の高いソリューションになったものを、みすみす機会を逃しているわけです。とはいえ全て後の祭り。2013年1月からのクライメートクリフに化石ニッポンが。

政権に返り咲いた自民党は日本列島強靭化計画とやらで10年で200億円の公共事業をぶち上げてますが、笹子トンネル事故のような欠陥インフラを積み上げるだけです。政府の公共事業にも民間並みに Going concern (継続企業の前提)を働かせることはできないものか。大声じゃ言えませんが、減価償却されていない政府保有の実物資産は簿価が水ぶくれしている可能性があり、それを裏付けに発行される日本国債の正味の価値は(以下略)。

CO2削減に関しては、運輸部門での削減は重要な政策オプションになり得ますが、議論がとっちらかっていて実現可能性は絶望的です。例えば貨物のモーダルシフトも、JR貨物が赤字体質から抜けられない状況で、一方では高速道路を更に作ろうとしているわけですからおかしな話です。またモーダルシフトは内航海運でという議論もありますが、既に日本近海は大混雑状態で、トラックからのシフトを受け入れる余地は限られそうです。

あと井笠鉄道の破綻に見られるように、地方では既に公共交通も成り立たない状況すら散見される中、マイカー規制も視野に入れる必要がありますが、自動車業界の言いなりになっている政府では無理な話です。せめて民主党政権で閣議決定された交通基本法が成立していればとは思います。

交通基本法関連では一つ気になるニュースがあります。暫定運行されていた気仙沼線代行バスがBRTとして正式に許可を得たのですが、そのために従来鉄道運賃と通算されていた運賃が新たにBRT運賃が設定され、鉄道区間とは合算となったことです。JR東日本の公式サイトでは発表されているものの、メディア報道ではこの点は触れられておりませんが、鉄道とバスは許認可が鉄道局と自動車局で分かれていることが災いしたものです。交通基本法がせていされていれば、実質鉄道の機能を引き継ぐものとしてこういうところに横串を入れる意味があったと思います。おそらく安倍自民党では視野に入っていない問題でしょう。あーあ。

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Saturday, December 08, 2012

アセット・バブル・エコノミクス

勘の良い方ならピンと来るタイトルかもしれませんが、はなからネタバラシしておきます。英語表記だと

Asset Bubble Economics
あるいは短縮表記だと
ABEnomics
というわけで、11/7の自民党安倍総裁の日銀法改正まで踏み込んだ追加金融緩和発言に対する海外メディアの反応、というか政治家による中央銀行への圧力発言として揶揄されたものです。国内でも財界、官僚、経済学者などから突っ込まれ、修正を余儀なくされました。それでも円が売られ日本株が買われて当人ご満悦のようですが、低位放置されていた日本株買いのきっかけになっただけで、2/14の白川日銀のバレンタインプレゼントと本質的に変わりません。つまり別エントリーでフォローしたように持続性のない一時的な動きに過ぎません。

ただし片や市場との対話を求められる中央銀行総裁に対し、金融政策に何の権限も持たない政治家という違いがあります。白川総裁はとりあえず市場にサプライズを与えることに成功しましたし、このこと自体は中銀総裁の仕事としては上出来だったのですが、問題は上出来すぎて日銀の金融緩和が万能に見えてしまい、その後の政治家やメディアの勘違いを生んだことでしょうか。安倍発言もその1つに過ぎないんですが、取引のネタ探しに鵜の目鷹の目の市場関係者が喰らいついた結果、勘違いを拡大させております。これがOECD加盟国として責任ある立場の国の話なので頭痛い話です。

日本では政治家による口先介入のような出来事には昔から事欠かないのですが、海外メディアの評価は至って厳しいものです。結果として上記のような報道姿勢となるわけで、ほとんどまともな論評には値せず、哄笑されていると見るべきでしょう。それもそのはず、リーマンショックやギリシャショックの記憶も生々しい中で、日本発の経済危機すら連想させるニュースだからです。

そもそも紙幣を刷り増してインフレを起こすという議論自体が、現在の経済学では否定されております。例えばこんな議論です。

財政ファイナンスをやってはいけない | トレンド | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
すごく端的でわかりやすいですが、ひと言で言えば「おカネを貸すのとあげるのとは違う」ということです。日銀による国債買い取りオペ自体は、民間が保有する国債と貨幣の交換ですから市場への貨幣供給という意味で金融政策の範疇ですが、国債の日銀直接引受となれば事実上の財政ファイナンスとなり、実は日銀法ではなく財政法で禁止されています。ですから、本気ならば財政問題として政治家が国会論戦を経て実現するのが法的に正しい道筋であって、日銀に圧力をかけるのは筋違いです。

また市場関係者からも例えば円安恐慌のようなリアルな心配が出てきています。所得の上昇を背景とするデマンドプルインフレと過剰マネーで資産価格が吊り上がり、円安で資源価格上昇が生活を直撃するコストプッシュインフレはではそもそも意味が違うんで、ABEnomicsは効果が出ても後者となるのです。なるほど資産バブル経済政策(Asset Bubble Economics)ではありますが。

この辺は自民党の憲法草案にも共通しますが、法の成り立ちをこの人たちは本当に理解しているんだろうかと思います。憲法は国家のあり方、公権力のあり方を定義するもので、基本的人権を有する国民を主権者として、その付託を受けて国家があるのであって、その逆ではありません。いわゆる立憲主義というもので、基本的人権は自然に備わっているいわば天賦のものということですね。で、憲法を前提に基本的人権の具体化、概念の拡張を図るのが民法や教育基本法などの基本法と呼ばれる法律であり、逆にさまざまな理由で基本的人権に制限を加える必要がある場合は、個別法で具体的に記述することが求められ、国家といえどもその記述に反した公権力の行使はできないというのが近代民主主義国家の立憲主義の考え方です。個別法は例外規定であって、憲法の理念や基本法の概念規定の原則を損なわない範囲に例外を限定することで法秩序が保たれるわけです。

こんな釈迦に説法みたいな話を立法府の住民に対して投げかけなければならないほど、この国の政治は劣化しているわけですね。しかも権力の監視役たるメディアはこぞって選挙を煽りまくっておりますが、選挙公報や政見放送などが公職選挙法で保護されていることは意外と知られておりません。選挙活動のネット解禁が進まないのは、政治家の怠慢もありますが、既存メディアの既得権益を侵すから、議論すら報じられないという状況なんですね。その結果アラブの春など世界で社会変革を引き起こしたネットメディアは日本では機能せず、それどころかACTAのようなネット規制の議論ばかりが進んで世界から総スカン食っている状況で、今や選挙は既存メディアのネタに成り下がっているのです。

しかも2日に中央道笹子トンネル上り線の天井板落下事故が起きても党首討論を中断しなかったり、7日に三陸沖で地震が起きても政見放送は予定通りなど、本当にメディアの劣化も深刻です。日本のメディアは深刻な事故や災害よりも選挙が大事なんですな(怒)。

で早速笹子トンネル事故をネタに「公共事業減らすからこんな事故が起きる」というような発言がネットにも現れましたが、はて、完成から35年の笹子トンネルの代替トンネルの計画なんてあったかいなという話ですね。こんなあからさまな問題のすり替えがまかり通ると考える人がいるということ自体が信じられません。

コンクリートの寿命は50年ぐらいと言われますが、山陽新幹線のトンネルのコンクリート崩落に見られるように,打設方法が不適切だと劣化が早まりますし、それ以上に日常の保守点検で不具合が確認できていれば、補強工事を行うなどして回避できた事故です。そういえばNEXCO中日本は2009年に東名高速で盛土崩落を起こしています。当時のエントリーで減価償却について解説いたしました。高速道路は国が保有し高速道路会社にリースされる仕組みであり、日本の会計法では減価償却が行われません。

というよりも、正確には公共インフラである道路は経年で滅失しないと見なされていて、道路公団時代から減価償却は行われていなかったのですが、鉄道が事業用資産として減価償却され生み出されたキャッシュフローで補強や更新などの追加投資がされる結果、適切に保守されて長期間安定して利用されるのに対して、新規着工重視で料金プール制を取り入れた道路公団の高速道路は、適切な保守のインセンティブが元々なかったわけで、公共工事が減ったからトンネルが壊れたわけじゃありません。同じように整備区間の開業により発生した線路使用料収入を新たな整備費用に充てる整備新幹線の将来に不安を覚える理由でもあります。

Going concern という言葉をご存知でしょうか。「継続企業の前提」と訳され、日本では主に上場企業の会計監査の基準として認識されているのですが、もう少し理念的な意味がある言葉です。そもそもなぜ株式会社に法人格が与えられているかといえば、将にこの Going concern が理由です。個人事業を別の個人が継承するには、事業用資産の査定や譲渡、取引口座の書き換えなど煩雑な手続きが山のようにあるわけですが、法人格を有していれば代表者の書き換えだけで済むわけで、遥かに低コストで事業を継続できるわけです。

同時に株式会社の怖いところとして、投資詐欺のようなことが可能な仕組みでもあるわけで、いわゆる割の良い投資話を持ちかけて出資を仰ぎ金銭を詐取する事件は後を絶たないわけですし、オリンパスのように損失隠しで買収先企業の過大評価するような不正経理事件も少なからずあります。最近では米ITの名門HPがM&A絡みで不正経理を疑われているなど、洋の東西を問わない問題でもあります。

つまり株式会社とは出資者である株主の付託に応えて事業を行い、継続的に利益配当をもたらすべき存在というわけで、当然そのためには期別決算の数字を作ることに腐心するのではなく、事業環境の変化に対応しながら継続的に利益を出し続けるべき存在でなければならないわけで、そのためには投資家を騙したり顧客を騙したりするようなやり方は継続性に問題があるわけですし、鉄道のようなインフラ企業においてはインフラの良好な保守が問われるわけで、そのために資産の減価償却が会計制度として導入されたわけです。

といってもこれは戦後の話で、戦前はそのようなものは制度化されておらず、故に鉄道のようなインフラ企業は投資を重ねるとバランスシート上の資産が膨張し、水ぶくれ状態の資産に対する利益率(ROA)が低下するから、例えば既存線の延長は別会社にして、政治家の口利きなどでうまくすれば補助金をせしめてとか、別会社で開業した路線を資本の論理で買収して自社路線に組み込んだりといった形で事業形成してきたわけですが、戦後のインフレで戦前期の資産水ぶくれが解消し、減価償却で車両や設備の整備や保守がシステム化され経営が安定した結果、世界に類を見ない私鉄王国となったわけです。

私鉄経営は国鉄改革の手本と見なされたものの、逆に減価償却が導入された結果、利益が圧縮して国鉄が赤字体質になったという見方も可能で、その結果全般的に鉄道は投資不足となり大都市圏の通勤ラッシュの混雑は解消されず、地方路線の投資不足は鉄道の存続自体を危うくするなどの弊害も出ています。こういった点は道路公団民営化の議論では全く触れられておりませんし、大阪市の市営交通民営化や東京都の地下鉄一元化でもスルーされてますが、禍根を残す可能性があり心配です。

この辺は仮定を重ねた議論になるのですが、もう1つの今とは違う現在があり得たかどうかは興味深いテーマではあります。この辺を逆手に取って設備投資を止めて黒字廃線となった両備バスの前身の西大寺鉄道の事例は、鉄道事業に限定して Going concern に反すると見るか、元々非電化の特殊狭軌線では事業継続が困難だったからバス事業に転身して存続を図ったと見るか、あるいは廃業した井笠鉄道は何を間違えたのかなど、この観点から交通事業を眺めるといろいろと気づかされることも多々あります。

というわけで、NEXCO中日本はそもそも交通量の多い地域をフランチャイズとしている結果、相当緩んでいた疑いがあります。例えば笹子トンネルでは天井支持具のボルト止め部分の打音検査は行われていなかったとか、後に1回だけやったとか、証言を二転三転させており、そもそも日常業務としての保守業務がかなり疎かになっていたことが疑われます。東電の原発と同様、カネのなる木を得た企業は堕落するということでしょうか。そういえばJR東海も-_-;。

というかJR東海はまたかなり特殊な事例ですが、そもそも東海道新幹線の生産性の高さ故に鼻息が荒いんですが、その結果在来線輸送はかなりおざなりですし、またリニアは新幹線買い取り代金の償還が進んで利益が増えると法人税が増えるから使っちゃえというノリで進めている道楽です。ま、それ以前に日本の生産年齢人口の減少で輸送需要自体が伸び悩み、JR東海は痛い目を見るとは思いますが。

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Saturday, December 01, 2012

選びたくない未来の選択

プライベートでいろいろあって、ブログの更新どころじゃない日々でしたが、そんな中での井笠鉄道の破たんのニュースだけはとっ散らかったエントリーをアップしました。何か日本国のシステムのカーネルにバグがあるような、不気味な直感に駆られてなんですが、事態は予想を超えてどんどん悪くなっています。

暮のくそ忙しいときに総選挙も大迷惑ですが、今回の選挙での本来の争点はズバリ増税のはずが、与党の民主と野党の自民公明の三党で談合しちゃってますから、政権がどちらに行っても増税が待っているという、国民を舐めた構図が腹立たしいところです。今回の選挙ばかりは公言します。投票所へ足を運ぶ価値なしです。

一応第三極と称する小政党が乱立し、三党談合に歯止めをかけようとしてはいますが、仮に第三極が躍進したとしても、民自公で大連立を組めば、衆参ねじれも解消されて最強与党となるわけですから、実質的に国民は選択肢を封じられているに等しい状況です。それでも「消費税率アップで民意を得た」と強行されるのですから、端から八百長総選挙です。これで「選んだ国民が悪い」とは言わせんぞ!

それでニコ動中継で党首討論やったり、記者クラブ討論やったりして、各党の主張の違いが喧伝されているのは滑稽ですらあります。正直言って、例えば憲法改正ですが、国会は2/3の賛成で改正を発議できますが、決めるのは国民投票で、現時点の国民意識では否決されるのは確実ですから、そんなリスクを負える政治家が今の日本にいるでしょうか。あるいはTPP問題ですが、国際条約を巡る政府間交渉は政府の専管事項であって、政府が必要と認めれば交渉に入ればいいだけの話であり、国会の同意すら不要です。民意を問うのは批准の段階ですから、そもそもTPP交渉入りが選挙の争点になること自体がおかしいのですが、政治家もメディアもお構いなしというのは明らかに変です。増税を争点にしたくない政治家とメディアの阿吽の呼吸が見て取れます。

それでもネットメディアのニコ動とオールドメディアの記者クラブの双方で党首討論やっていて、しかも内容は盛り上がらない。そりゃそうです。少なくとも民自公三党は喧嘩のフリしているだけですから、そもそも論戦にもならないわけですが、その三文芝居を後生大事に取り上げるメディアの滑稽さは呆れるばかりです。日経新聞などニコ動中継はベタ記事扱いで、記者クラブ討論会は見開き2ページという扱いの違いです。ネットメディアを快く思わないオールドメディアらしいわかりやすさはむしろ清清しいかも。

唯一争点になりそうなのは原発問題ですが、これもまず現状認識がダメだから、曖昧にお茶を濁すだけです。どう転んでも新設がない限り現存する原発は時間の経過と共に廃炉に向かうわけですから、推進派であれ脱原発派であれ、具体的なスケジュールを論じ合うならば意味はありますが、各党共に曖昧で争点以前の段階です。政治家の不勉強もはなはだしいです。それ以上に選挙で喜んでいるのはメディアです。なにしろ選挙そのものがネタですから、新聞は心置きなく高速輪転機をぶん回せますし、放送局は心置きなく電波垂れ流せます。

そもそもメディアは企業としてはインフラ企業なんです。新聞は編集段階こそ電子化が進んだものの、高速輪転機で短時間に大量印刷できる装置産業の性格を有します。紙面を埋めるネタがあれば大助かり、それどころか選挙関連の広告は公職選挙法で民間向けより割高な公定価格があり、国の金を広告料収入にできるチャンスでもあります。また選挙公報の配布もなぜか法律で新聞折込に限定されており、販売店を潤します。放送局も高価な放送機材を抱えて国からただ同然に割り当てられた電波で発信しているわけで、選挙で視聴率が上がればスポンサーに高い広告料を請求できますし、公職選挙法で政見放送などでやはり国の金をむしり取れるわけですから、おいしいわけです。とはいえ例えば京急の土砂崩れ事故でR16の車線を中継車が塞いだなどネットメディアでウソが暴かれてコンテンツに疑義が生じれば、新聞社は紙屑製造機に堕し、放送局はノイズメーカーになるわけですから、共にネットメディアのことを快く思っていないわけです。

というわけで、どうにも明るい展望のない中で、世間の選挙モードがウザい今日この頃です。とまぁ愚痴ってばかりじゃなんですから、まずはこのニュースです。

羽田発着枠、日航「納得いかぬ」 全日空に重点配分  :日本経済新聞
ANAが羽田発着枠を巡り自民党にロビー活動していることは以前にも取り上げましたが、自民政権返り咲きを織り込んでか、国交省はかなり極端な判断を示しています。国交省の言い分は、JALが公的支援を得ていた期間をペナルティと見なしてJALの配分枠を減らしたと説明していますが、法的根拠のない恣意的な運用です。しかもADO,SNA,SFJの新規参入3社はANAの資本が入り、ANAのコードシェア便を運航しているのですから、JAL3枠ANA8枠に留まらず、3社合計10枠を加えればANA系18枠となんとJALの6倍もの発着枠を得たことになります。あまりにあからさまな政治判断と言うべきでしょう。政策では談合しても、利権では譲らないのが日本の政治ってことですが-_-;。

そんな中で滋賀県の嘉田知事が立ち上がったことは評価したいと思います。おそらく国民が素直に選べる選択肢を示したことは評価します。嘉田知事については、東海道新幹線南びわ湖駅の建設を差し止めたことで名を成しましたが、その後リニア開業後という前提で新駅設置に言及し「ブレた」と言われましたが、当ブログのエントリーも取り上げましたが、元々南びわ湖駅の計画は盛土を高架橋に改築するために、仮設高架橋の仮線設置や盛土の撤去など割高な建設費を請願駅ということでJR東海が全額地元に負担を押し付けていたのですから、差し止めは正解です。その上で適正な費用負担ならば復活はありえる話で、その辺の情報は伝わってきませんが、むしろ嘉田知事は柔軟にものを考える人なんだということだと思います。

あとめでたく無罪が確定した小沢氏が合流しました。やはり当ブログでは単なる期ずれ問題で冤罪という立場を取っておりました。誤解のないように申し上げますと、小沢氏の政治的立場に私は必ずしも同意しているわけではありませんが、民主党の変質で結果的に小沢氏の方がぶれてないのもまた事実です。今回の選挙では消費税増税阻止を掲げていますし、地元で候補者が立てば投票しようと考えておりますが、どうやら地元には候補者が立たないようです。やっぱ棄権だわ。

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