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Sunday, December 30, 2012

猪瀬’ン都サブウェイ

猪瀬新都知事と大田新国交省の階段で都営とメトロの地下鉄一元化に国交相が理解を示したり、九段下のバカの壁の撤去工事が進捗し、穴が空いたことなどが話題となっておりますが、これらのメディア報道とは裏腹に、地下鉄一元化は1ミリも進捗していないというお話です。

そもそも東京メトロの前身の帝都高速度交通営団(以下「営団」と記す)は、国鉄と東京都が出資する特殊法人で(歴史的経緯で存在した東急の持分は返上させられた)、株式会社に改組した東京地下鉄株式会社(通称「東京メトロ」)の常勤取締役1名は都庁OBの指定席になっております。いわゆる天下りポストですね。にもかかわらず都が直接地下鉄事業に参入したのは、地下鉄の開業で役割を失う都電や都営バスの職員の配置転換先確保する意味があったのです。役員は天下りを受け入れても、現場はプロパーで固めるのが営団→東京メトロの流儀で、出資比率が国鉄(民営化後は国に権利移譲)が優越していた中では都によるコントロールが働かないわけですから、都側はそのことに不満を抱いていて、しかも営団には財政投融資資金が入っていて国の手厚いサポートがされていた一方、都は自前で資金を調達しなければならない立場でした。後にこの点は地下鉄の建設補助金が制度化され、大都市の公営地下鉄と営団が対象とされましたが、民間事業者は対象外で、東急新玉川線(後に田園都市線に編入)や京王新線は民間資金で建設され、両社共に鉄道資産の水ぶくれで経営を圧迫されました。この辺は当時車両冷房化で両社が明らかに遅れをとった事などに現れています。

逆にこの点は株式上場を目指す東京メトロにとっても触れられたくない部分ではあります。建設費の公的補助を受けながら、株式上場して投資家にガバナンスを委ね、利益配当を差し出すことに関しては、異論が出ても不思議ではありません。実際福田政権当時に東京メトロの株式上場が政府も政策目標として取り上げらてた時に、丁度電源開発(Jパワー)への海外ファンドの追加出資問題もあって、鉄道、電力、ガス、。航空などの公益企業に議決権保有制限をという議論になったわけです。その結果東京メトロに関しては、既に都が47%を保有していて、株式上場となれば保有株式の放出を強制されるわけですから、猪瀬氏の地下鉄一元化論は、タイミング的には上場を阻止して都の権益を護る議論にしかならないということになります。猪瀬氏の意図するところは別かもしれませんが、著書では「都営地下鉄の収益改善を待ってメトロと統合後に株式上場」というシナリオを描いておりますので、当面のメトロ上場は遠のくことに変わりはありません。

一方で都以外にもメトロ株の保有を狙う企業は多数あり、猪瀬氏が著書で述べているように、都心の金城湯池を営業エリアとする東京メトロは儲け過ぎているという議論もあります。その観点からは株式上場するなら東京メトロに一定の負担を求める議論は、それなりに現実的ではあります。

一案としては、整備新幹線やそれに準じた都市鉄道整備のスキームに倣って、公共地下使用権を設定して賃借料を支払わせるということは考えられます。またそれを原資として、進まない混雑緩和対策の輸送力増強投資に充当するというのはアリかもしれません。ただし同じエリアで営業する都営地下鉄にも同等の負担を求められることになる可能性はありますので、2007年に単年度黒字に転換したとはいえ200億円程度の利益水準で負担増は一元化どころではなくなり、都側からこの議論は仕掛けにくいでしょう。

やや脇道に逸れますが、猪瀬氏が著書で指摘している関連企業への飛ばしまがいの資産隠しや利益隠しは、メトロに限らず東京都もやってますので、人のこと言えるかって話です。あと賃金水準の違いも、利益水準から見れば妥当です。少なくとも企業別職域別組合主体で産業別職能別に企業横断的な組合のある欧米ならばいざ知らず、企業業績で従業員の処遇が変わるのは、日本では普通のことです。あと駅員の接客態度など顧客満足度にも差があることは乗客が体感的に理解しているところです。

というわけで、猪瀬氏の改革の中身の空疎さは明らかですが、メディア報道でこのような観点がすっぽり抜け落ちているのは、結局メディアの記者が都庁記者クラブ発表を裏も取らずに垂れ流している結果です。だから今年正月に山手線田町―品川間の新駅報道がリークされて全国ニュースで流れるというバカバカしいことが起きます。

あと猪瀬氏といえば道路公団改革ですが、道路を国の機関(保有機構)の保有として営業権を高速道路会社に与える現在のスキームで、実は会社役員の人数が道路公団の理事の人数の3倍以上に膨らんでおり、結果的に天下りポストを増やしています。JRが内部昇格中心で官僚天下りを受け入れていないのとは対照的です。

加えて笹子トンネルの天井崩落事故に見られるように、メンテナンスを怠っていたことまで露呈しました。このあたりは地震で盛土が崩落した東名高速の問題と共に、減価償却されない道路資産の問題点としても指摘できます。制度設計を行った猪瀬氏は今のところ公式には見解を述べていないようですが、かように抜けの多い改革が猪瀬氏にはつきまといます。

減価償却に関しては、鉄道でも本格導入されたのは戦後ですが、公社時代の国鉄は、制度の意味を理解していなかった可能性があります。というのは、国鉄が減価償却を導入したのは1964年で、この年は東海道新幹線が開業した年でもあります。同時にそれまで黒字基調だった決算が赤字転落した年でもあります。丁度東急新玉川線や京王新線がそれぞれ自前で建設された結果、資産が膨張して経営を圧迫されたのと同じことが国鉄で起きていた可能性が指摘できるからです。

具体的には、東海道新幹線の総事業費が当初見積もりの1,900億円から2,900億円を経て3,800億円と倍増した結果、開業年の64年に国鉄資産が大幅増加したタイミングで減価償却が始まったわけですから、利益控除額が多額となり、赤字転落した可能性があります。

しかし当時の国鉄首脳陣は、潤沢なキャッシュフローを前に、赤字は一時のことで、じき黒字転換するかの錯覚があったのではないかと考えられます。その証拠にその後も首都圏五方面作戦や貨物バイパスとしての武蔵野線、京葉線の建設や、非電化区間の電化や幹線の複線化などの投資を精力的に行い、資産を上積みし続けます。特に貨物輸送の強化は産業界からの要望も強かったのですが、貨物は元々赤字体質だったこともあり、投資が利益を産まない悪循環にはまります。

そうなると東海道新幹線の生産性の高さゆえの高収益性による内部補助が拡大し、一方赤字の拡大も止まらず、いつしか新幹線の高収益依存から、新幹線の建設を進めれば赤字脱却できると考えて、国の法整備を背景に山陽新幹線、東北新幹線、上越新幹線の建設を手がけますが、その際に高規格化したこともあり、投資額は膨らむ一方で、しかし山陽新幹線でも東海道新幹線の1/3の輸送密度しかないんですから、投資が利益を生まない中で累積債務を積み重ねて國庫の支援を仰ぐようになり、また事故や不祥事も重なって国鉄改革の機運が高まりました。東急や京王のような民間企業ならば、投資を抑制して収支均衡を図るところを、逆に投資拡大で乗り切ろうとした結果、赤字体質から抜けられなくなったと考えることができます。

加えて貧すれば鈍すで、磯崎総裁時代に現場の生産性を高めれば赤字脱却できるとの見立てでいわゆるマル生運動を提唱して労組と対立し、労使関係を決定的に悪化荒廃させたことで、国鉄はもはや自力回復の可能性なしとみられるようになりました。この辺はアベノミクスで主張される「成長すれば財政は健全化する」という議論にも通じるところですが、歴史は既に結果を示しております。

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Comments

あけましておめでとうございます。

地下鉄利用者としては、経営はメトロと都営で分かれていても
せめてサービスだけは統一して欲しいですね。

都営・メトロの乗り継ぎ運賃をJR各社の乗り継ぎのように初乗り運賃を取らずに通し運賃にするとか、都営とメトロを乗り継ぐ定期券を購入する場合は特例で1社局とカウントするだけでも便利になります。たとえば、京王線、都営新宿線、東西線を利用する場合、1枚のPASMO定期券に収まります。

また、運行管理、車両、駅業務、資材調達など規模の経済が働くところは、提携した方がコストを削減できて、両社局にメリットがある気がします。

Posted by: yamanotesen | Tuesday, January 01, 2013 at 01:54 AM

あけましておめでとうございます。

ここではやや食傷気味のネタですが、猪瀬氏が都知事になって、地下鉄統合が進むとの期待感が一部で見られますが、実態は不透明ですね。

仰るように事業体としての統合が問題ではなく、サービスの一体化こそが重要なんですが、そういった議論は脇へ追いやられています。欧米の例を引くまでもなく、お隣韓国のソウルの地下鉄では、2つの事業体で共通運賃が実現しています。つまり東京の現状はソウル以下という現状認識を持たないと、解決にはたどり着けません。

本年もよろしくお願いいたします。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, January 01, 2013 at 09:47 AM

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