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Monday, December 24, 2012

クライメートクリフ

フィスカルクリフ(財政の崖)という言葉がニュースに度々登場しますが、意味を理解している人は多分少ないと思います。リーマンショック対策として富裕層中心のブッシュ減税の2012年12月末の失効と、2013年1月から始まる財政法に基づく歳出の自動削減が重なり、社会保障関連その他の増税分を含めて最大6,000億ドルの影響があることから、回復途上にあるアメリカの景気を冷やすのではないかと言われております。

現在米議会で回避策が議論されているのですが、ティーパーティー支援の共和党強硬派の反対で議論が進まず、市場関係者が苛立っているという構図です。富裕層減税の対象ラインを当初25万ドルから共和党との妥協含みで40万ドルあたりの落としどころを模索していたのですが、それより緩い100万ドル案すら否決されるなど、混迷が続きます。FRBが9月に量的緩和第3弾(QE3)に踏み込んだのも、財政の崖問題を睨んだものとも見られております。

一方で影響は軽微とする議論もあります。そもそも対象となる富裕層は少数で、消費の手控えがあったとしても栄養は限定的とする見方もあります。とはいえ金融市場は既に過剰反応を始めており、ニューヨーク株式市場は一進一退で、配当課税増税前の駆け込みで臨時配当する企業も多数あり、ある種身構えている状況にはあります。そんな状況ですから、投資資金シフトが起きて放置されていた日本株に買いが入ったわけで、アベノミクス効果で東証株価が上がったわけではありません。

日本では専らアメリカの景気失速の国内景気への影響が心配されてますが、日本にとってはもっと重大な崖が待ち受けております。それがタイトルのクライメートクリフです。おバカな年末総選挙の喧騒にかき消されて目立たなかったニュースがCOP18ですが、京都議定書の失効に伴う第2約束期間がスタートしたものの、日本は早々不参加を決めていて、立場を大幅に後退させました。一応義務を伴わない自主削減目標は定めるとしておりますが、実はこれも実現可能性は限りなく低いものにならざるを得ません。

COP18閉幕、13年から新枠組み交渉 作業計画採択  :日本経済新聞
記事の末尾のクリーン開発メカニズム(CDM)の扱いが実は問題でして、第2約束期間不参加国は低コストで可能な途上国の排出削減事業で得た排出権クレジットを自国の削減分にカウントはできるけれど転売はできないという制約を課されます。つまり自国の真水の削減分とCDMで得た削減分が目標を下回って余剰が出ても転売できないわけで、CDM事業そのもののハードルが高くなります。

元々国連機関で厳格な査定を経て認証されるCDM事業は事業そのものの規模も大きく、また手続きコストもかかるため、日本では専ら商社が中心になって進めてきて、電力会社やメーカーなどの大口需要家に転売され、過不足は他国とのクレジット売買で調整され、目下のところは余剰はなく、EU加盟の東欧諸国やロシアなどから余剰分を買い取って帳尻を合わせていたのですが、福島第一原発事故で電力会社に資金の余力がなくなり、また原発停止で火力依存が高まっていることから、その電力を買っている需要家が自動的にCO2排出量を増やしてしまうことになります。

つまり今まで電力会社にお任せだったCO2排出削減義務を電力ユーザーが負わなければならない状況になってしまったわけです。とはいえ転売できないCDMクレジットの購入は需要家の電力ユーザーにとってはハードルが高く、このままでは義務を伴わない自主目標すら立てられないというおバカな状況になっているわけです。早々不参加を決めた日本には、異議申し立ての権利もありません。日本政府の国際交渉下手は救いようがありません。

とはいえ、だから原発を再稼働しろという議論には違和感があるのは当然です。もちろん客観的な安全基準を明確にした上での再稼働は排除するつもりはありませんが、福島の事故すら収束できていない現状で、また大飯、
敦賀、東通と活断層問題を抱える原発もあり、再稼働のハードルは高いと言えます。更に安倍自民総裁が原発の新増設に言及しておりますが、更にハードルは高いと言えます。

原発に関しては推進か脱原発かという不毛な議論が続いておりますが、現存する50基の原発をどう畳んでいくか、また使用済み核燃料の最終処分については、推進、反対を問わずのしかかるリアルな問題であるという認識は持つべきです。その上でどう対応すべきかの具体策が問われているのですが、少なくとも16日の総選挙でこの点を明確にした政党は皆無でした。

ふと考えると、そもそも原発か自然エネルギーかという議論も不毛なんですね。両者に共通する問題として、出力制御が困難なことと、需要地から見て遠隔地に立地しているという点では同じなんで、電力の安定供給を前提とする限り、結局火力発電のバックアップ無しには成り立たないことと、需要地との間に遠距離送電を行う必要があり、例えば福島から200km以上離れた東京へ大量の電力を送ること自体、膨大な送電ロスを生じさせるわけで、エネルギー効率を悪くしています。この点は水力を含む自然エネルギー利用でも同様の問題があるわけです。

自然エネルギーはお天気任せで不安定と言われますが、中越沖地震で柏崎狩羽が全停止し。再開に2年以上かかったように、大出力ゆえに災害による停止のリスクも高く、火力によるバックアップなしには安定供給できないわけです。つまり何が言いたいかといえば、原発も自然エネルギーも火力の助けなしには使えないということで、そもそも原発か自然エネルギーかといった二択問題ではないということを言いたいわけです。

どのみち火力依存は変えられないならば、原発にしろ自然エネルギーにしろ転用が困難なサンクコストの塊なんだから、そんなもんに依存するよりも京都議定書の第2約束期間に参加してCDMクレジットを積極的に取得する方が安上がりだし、議定書に参加していれば転売可能で、且つ純債務国で潤沢な余剰資金を持つ日本が参加することで市場の厚みが増せば、クレジットの流動性も高まり、サンクコスト化しにくい汎用性の高いソリューションになったものを、みすみす機会を逃しているわけです。とはいえ全て後の祭り。2013年1月からのクライメートクリフに化石ニッポンが。

政権に返り咲いた自民党は日本列島強靭化計画とやらで10年で200億円の公共事業をぶち上げてますが、笹子トンネル事故のような欠陥インフラを積み上げるだけです。政府の公共事業にも民間並みに Going concern (継続企業の前提)を働かせることはできないものか。大声じゃ言えませんが、減価償却されていない政府保有の実物資産は簿価が水ぶくれしている可能性があり、それを裏付けに発行される日本国債の正味の価値は(以下略)。

CO2削減に関しては、運輸部門での削減は重要な政策オプションになり得ますが、議論がとっちらかっていて実現可能性は絶望的です。例えば貨物のモーダルシフトも、JR貨物が赤字体質から抜けられない状況で、一方では高速道路を更に作ろうとしているわけですからおかしな話です。またモーダルシフトは内航海運でという議論もありますが、既に日本近海は大混雑状態で、トラックからのシフトを受け入れる余地は限られそうです。

あと井笠鉄道の破綻に見られるように、地方では既に公共交通も成り立たない状況すら散見される中、マイカー規制も視野に入れる必要がありますが、自動車業界の言いなりになっている政府では無理な話です。せめて民主党政権で閣議決定された交通基本法が成立していればとは思います。

交通基本法関連では一つ気になるニュースがあります。暫定運行されていた気仙沼線代行バスがBRTとして正式に許可を得たのですが、そのために従来鉄道運賃と通算されていた運賃が新たにBRT運賃が設定され、鉄道区間とは合算となったことです。JR東日本の公式サイトでは発表されているものの、メディア報道ではこの点は触れられておりませんが、鉄道とバスは許認可が鉄道局と自動車局で分かれていることが災いしたものです。交通基本法がせていされていれば、実質鉄道の機能を引き継ぐものとしてこういうところに横串を入れる意味があったと思います。おそらく安倍自民党では視野に入っていない問題でしょう。あーあ。

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