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Sunday, February 17, 2013

行方決まらぬアウェーの神輿

このエントリーを書いている最中に北朝鮮の核実験のニュースが飛び込んできました。尖閣諸島を巡る日中の摩擦もとりあえず棚上げということになりそうですが、現時点で北朝鮮の脅威を煽る発言が日本からもアメリカからも聞こえますが、事実関係としては爆発の規模こそ大きいものの、現時点でキセノンなどの放射性物質は検出されておりません。もちろん地下核実験ですから、一定のタイムラグは考えられますが、2005年の実験では放射性物質は検出されたものの爆発の規模が小さく「失敗?」とも言われ、2009年のときは爆発は大きかったものの放射性物質は検出されず、偽装核実験が疑われました。

とはいえこのことは北朝鮮が核開発を諦めたことを意味しません。技術的に難しいプルトニウム型原爆からパキスタンの技術由来と言われる濃縮ウラン型に切り替えており、天然ウランは国内調達が可能なので、時間をかければウラン濃縮は進捗しますから、原爆の原料となる濃縮ウランは確実に積み上がるわけです。加えて北朝鮮自身が核実験を公式発表しているわけですから、今回の実験が偽装かどうかに拘らず国連安保理決議違反を問われます。同様に昨年の人工衛星打ち上げも、ミサイル開発につながるあらゆる行動を禁止されているのですから、日本のメディアのようにいちいち「衛星と称する事実上のミサイル」という言い換えは無意味です。どのみち安保理決議違反には違いないんですから。

アメリカのオバマ大統領は従来「戦略的忍耐」と称する対話による解決を模索していましたが、ここまでくれば打つ手なし。安保理決議違反に対する制裁は粛々と進めるにしても、もう放っとくしかないということになりそうです。謂わば「戦略的無視」。時間をかけて濃縮ウランを積み上げた旧ソ連が崩壊したように、いずれ立ち行かなくなる日を待つということです。一方で核ミサイルの削減を進めますが、アメリカはITで機能強化し能力を維持しながら国防費を圧縮する方向へ動いており、冷戦の真似事をするイランや北朝鮮を冷ややかに見ている状況です。軍備の増強は統治の弱体化と表裏一体ですから、冷戦時代と違って非対称な軍事的対峙となり、アメリカの優位は変わらないということです。この辺は中国の軍事支出増加に対しても同様で、現状装備の近代化に費やされている限り、中国がアメリカに追いつくことはあり得ないわけです。この辺はタカ派な人たちは認めたくないところでしょうけど。

というわけで本題ですが、金融緩和と財政出動でバブル志向という意味で海外から皮肉交じりに言われたアベノミクスがいつのまにかポジティブな言葉にすり替わっていますが、現在進行中の円安や株高と結びつけて理解されているようですが無関係です。円安も株高も海外要因で、1つはアメリカの財政の崖問題が先送りながら回避されたこと。もう1つは欧州債務危機で曲がりなりにも救済策が決まったことと、やはり時間はかかりますが各国で異なる金融監督行政の一本化が動き出したことで、投資家心理が変わってリスク投資を再開したことによります。いわゆる質への逃避で円資金が還流した結果生じた円高(リスクオフ)から、低金利通貨としての円資金が海外へ流れるキャリートレードの拡大(リスクオン)が始まったということで、アベノミクスとは無関係です。

逆に銀行サイドから懸念の声が出ています。金融緩和で預金残高が増えれば、銀行にとっては負債になるわけですから、対応する資産を増やさなければなりませんが、民間融資が増える気配はなく、結局国債購入に向かうしかないわけですが、そうして国債を大量保有しているものの、財政再建はむしろ遠のいており、直接引き受けではないものの、結局日銀が国債と交換に提供したマネーはまた国債の購入に向かい、を繰り返すわけですから、いつ財政ファイナンスと見なされて売り浴びせられるかわからない危うさを感じているのでしょう。

いずれにしても世界的に景気回復局面にある現在、財政出動と金融緩和の必然性は高くありません。欧米ではアメリカの財政の崖問題で財政の圧縮が避けられない中で、景気腰折れを防ぐためにFRBはQE3に踏み切ったんですし、ECBは加盟国の銀行の連鎖破綻を防ぐためにECBが最後の貸し手機能を提供したのであって、日本とは置かれた状況は大違いです。リフレ派が言うように日銀の努力が足りないわけではありません。

とはいえ日銀の白川総裁の方が役者が一枚上手というか、政府との政策協定で物価目標2%が明記されたものの、金融緩和の具体策は2014年からの国債購入基金の10兆円上乗せだけです。つまり今までと基本的には変わらないわけです。白川総裁にしてみれば、自分が辞めた後の後任者のお手並み拝見というところでしょう。

一方閣僚も含めて外遊攻勢をかけている安倍政権ですが、肝心の日米首脳会談はアメリカ側からキャンセルされてモヤモヤ気分に加えてアルジェリアの人質事件や尖閣諸島をめぐる中国の挑発行動など、外交面では課題山積の状態です。日米首脳会談に関しては、いろいろ言われてますが、選挙期間中にタカ派発言を繰り返した安倍首相の真意を測りかねているというのが実態です。経済政策では拡張的財政政策でスティグリッツやクルーグマンなどリベラル派の経済学者が評価する発言をする一方、本来財政緊縮策に傾きがちな保守派的政治スタンスを名言する安倍氏の真意を測りかねているようです。もっと踏み込んで言えば、オバマ大統領はあまり安倍氏を信用していないということです。

オバマ氏自身は極めて実務的で、例えば鳩山元首相が拘った普天間問題についても、既に政府間で辺野古移転の合意が済んでいた状態で、議会に国防費削減の同意を取りつけなければならない状況だったので、要望を聞くことができなかったのですが、逆に国防費を削減できる画期的なアイデアがあれば話は違っていたはずです。身内の閣僚にまで足を引っ張られていた鳩山氏では無理な話でしたが。つくづく政権に就いてからの民主党の堕落ぶりには腹が立ちます。

アルジェリアの人質事件で日本も特殊部隊を組織して邦人救出に派遣すべきといった議論も聞かれますが、今回アルジェリア政府はイギリスの特殊部隊派遣を断っているぐらいですから無意味です。むしろ2,000人の国軍が警護するプラント建設現場を30人ほどの武装ゲリラが制圧したというのですから、よほど強力な武器を所持していたわけで、リビアのカダフィ政権が倒れて武器が流出したと言われています。またフランスのマリ空爆の報復とも言われますが、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争と違ってNATO軍ではなくフランス軍の軍事行動だったように、アメリカが関与しない姿勢を見せているのも、財政再建を優先したいオバマ政権の意図の表れともいえます。加えてシェールガス革命で石油輸入依存からの脱却が現実味を帯びてきていることも影響します。

既に米WTIの水準を欧州の北海ブレンド市場やアジアのドバイ原油市場が上回り、事実上石油の国際価格の先行指標の意味も失いつつある状況です。日本にとってはシェールガス革命の恩恵は限定的で、高い石油や天然ガスを買わされているわけですが、同時にシェールガス革命の第2ラウンドとしてエチレンなどの化成品の原料として石油由来のナフサではなく米国産シェールガスを原料とするプラントが立ち上がれば、ただでさえ設備過剰で苦しむ国内の化成品プラントは一気に価格競争力を失うことになります。アメリカは今資源国として復権を果たそうとしているわけで、自国権益の保護に関心が移りつつある状況です。

というわけで、安倍政権としてはアメリカとの関係強化を打ち出したいけれど、オバマ大統領の意図とはズレが生じている状況ということになりそうです。

でもって航空関連の話題がいくつかあります。まずはLCCですが、成田と拠点とするエアアジア・ジャパンとジェットスター・ジャパンの2社が苦戦中です。原因は明らかで拠点空港の成田の使い勝手の悪さです。国際ハブ空港の機能を持つ成田空港はトランスファーの利便性を考慮してエアライン各社は近似時間帯に集中的に離着陸しますので、いわゆるピークタイムには1時間を越える上空待機が発生し、折り返し時間を削って機材繰りしているLCCにとっては死活問題です。加えて時間制限があって最終便が着陸できないなどの問題もあり、就航直後には8割を超えていた搭乗率も6割まで低下している状況で、これでは赤字となる水準です。

ただし元々閑散期である冬季になって搭乗率が落ちてきたというのが実態で、春から夏の繁忙期には盛り返すものと思われます。逆にビジネス客主体のANAとJALは共に安定した搭乗率を維持しており、変動の激しいレジャー客を切り離せたという意味ではむしろ子会社によるLCC参入はグループ全体としてはプラス評価となります。成田の問題は国や地元自治体も絡むのですぐに解決は難しいですが、ビジネスとしては定着したと考えて良さそうです。

2つ目は787のトラブル問題ですが、論点はいろいろあるものの、ボーイングがライバルのエアバスに倣って油圧制御を電子制御化するいわゆるフライバイワイヤを取り入れた最新機で、日本のエアライン2社が開発に関わり、1次2次の部品メーカーに日本企業が名を連ねるなど「準国産機」と言われていたんですが、その心臓部である電気系統のトラブルですから、解決は長引きそうです。経営戦略への影響はANAもJALもありますが、保有数の多いANAの方がダメージはより大きいでしょう。

ANAは787を国内線の特に新幹線との競合が激しい羽田対中国地方の路線に集中的に用いていたのですが、使用停止で就航したばかりの山口宇部空港路線は事実上の撤退です。JR西日本にとっては一息つけるところですが。現役宰相の神通力も機体のトラブルには勝てません。また羽田の追加発着枠を政治力でJALに対して優遇されても活かせないのですから完全に裏食ってます。JALは787の航続距離の長さを利用して長距離国際線に活用し、特に従来大型機材では需要面から設定が困難だった都市との直行便に活用することで、国際線でブランドイメージの良いJALの特性を活かした戦略でしたが、787問題が片付くまでは足踏みを余儀なくされそうです。

ただしJALにとってのグッドニュースはアメリカからもたらされました。アメリカン航空とUSエアの合併です。

「太平洋路線で日航と提携強化」アメリカン・USエア合併  :日本経済新聞
米国内に路線を巡らすUSエアがアメリカンに吸収合併される形での再編で、USエアはスターアライアンスからワンワールドへ移行し、ANAとは提携解消、JALとは提携拡大となるわけです。自民党に苛められてもこういうことが起きるというのは、JALには幸運の女神がついているのかも。再上場で株式を手にした人は幸いです。にしてもアウェー感漂う安倍政権です。

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