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Sunday, April 21, 2013

特区の昔の24時間

イギリスのサッチャー元首相が死去しました。毀誉褒貶激しく、イギリスでも正反対の評価を受けているのですが、工業国として停滞し「イギリス病」とまで言われたイギリスで、脱工業化と財政再建に奮戦したサッチャー氏は、紛れもなく改革者でした。サッチャー改革に立ちはだかったのは野党の労働党よりもヒース氏をなど党内守旧派であり、与野党馴れ合いで停滞していた政治を活性化し、野党の労働党も自己改革を迫られた結果、マニフェスト選挙という手法で政権を奪取したブレア政権を準備したという意味で、深いところで政治の復権を成し遂げたという意味でも評価できます。

もちろん個々の政策では疑問符の付くものも多く、また既得権を奪われた多くの人の恨みを買ったということもあるでしょう。しかし多くの見るべき成果を上げた点はきちんと評価すべきでしょう。よく比較される米レーガン元大統領や日本の小泉元首相が、いずれも脱製造業どころか、むしろ製造業重視でしたし、また脱工業化、金融立国といっても、経済の足腰に当たる中小企業の優遇など、日米のいわゆるサプライサイド改革とはかなり異なったスタンスです。また自らの所属政党の自己改革の徹底度を見ると、先祖がえりが顕著な日本の自民党とは雲泥の差です。政治的な立ち位置で見れば、日本では小沢一郎氏あたりが一番近いのかなと思います。

実際例えば気候変動問題に関して、冷戦終結が見え始めた80年代後半、あたかも環境派に宗旨替えしたような発言を連発するなどしていましたが、南北対立がポスト冷戦の新たな対立軸となることを先取りしたものでした。それが理解できない日本のへなちょこ政治家とは大局観が違います。結局日本は3.11以後の原発停止を口実に議定書を離脱してしまいます。

で、G20で黒田日銀の異次元緩和を黒田氏の海外人脈で黙らせてドヤ顔しているのですが、米、IMFなどから財政再建や構造改革に厳しい注文がつけられていることはどうせ無視するつもりでしょう。国内メディアもまるでお墨付きを得たとばかりにはしゃいでますが、いつから政府広報になったんだい。

というわけで与党自民党の経済再生本部で改革案をまとめたんですが、これがまた笑っちゃうような代物です。

外国人の英語教員、倍の1万人に 自民再生本部案  :日本経済新聞
突っ込みどころ満載で、いちいち取り上げませんが、日本が成長できないのは英語力のせいじゃないですし、それ以前に最強の非関税障壁である日本語の能力を高めたほうが、結局英語の習得にもプラスです。あと上記のように国内製造業を結果的に淘汰したサッチャー氏の改革とは正反対に、製造業重視は改革逆行です。

製造業重視の問題点は固定資本減耗に如実に現れています。固定資本減耗は企業会計の減価償却費のことですが、費用化して再投資というマネーフローを通じて固定資本の維持費用となります。2002年1月から2008年2月までの戦後最長の景気回復期に、名目GDPが0.44兆円増加しましたが、製造業の固定資本減耗の増加額は1.34兆円となり、名目GDP増加分を上回っています。実は日本の製造業は旧国鉄と同じ破綻への途を進んでいるのかも。

にも拘らず企業利潤を1.52兆円増やしてますから、雇用者報酬は差引2.27兆円のマイナスになっているのです。端数処理の都合で合計が合いませんが些事です。重要なのは、円安基調にあったゼロ年代の景気回復期ですら、固定資本の維持費用すら稼ぎ出せなかったということです。結果的に雇用者報酬を減らしデフレを助長したわけです。円高がデフレを招いたとする議論は事実に反します。やるべきことは固定資本減耗の増加の原因である過剰設備の減損処理を進めることなんです。ですから安倍首相が財界に賃上げ要請をしたからといって、賃金が上がる道理はないわけです。

あと政府の規制改革会議で都営交通の24時間化が提案され、猪瀬都知事がニューヨークの都市交通を視察したりしてますが、流石に猪瀬知事でも地下鉄の24時間運行はハードルが高いと見たのか、渋谷駅-六本木間の都営バスの24時間運行を実現すると発表しました。

「渋谷-六本木」若者に期待 都営バス、年内にも24時間運行  :日本経済新聞
注意が必要なのは、実際に終電後の足を求める声があったわけではなく、現状タクシーで間に合っている状況の中で、あえて24時間運行する意味が何なのかという点は十分に検討すべきでしょう。規制があるから24時間運行ができないわけではなく、あくまでも需給バランスから運行コストを稼ぎ出せないからだということです。

ま、この辺も稼働時間を延ばして稼働率を高めれば収益につながるという製造業にありがちな発想が援用されている疑いがあります。まるで原発のようですが-_-;。その意味では本来固定資本比率の高い地下鉄こそ24時間化すべきなんでしょうけど、流石に行政官として猪瀬知事は現実を見たということでしょう。ただし逆に言えばバスは人件費比率8割と言われる労働集約産業で、深夜勤務は割増賃金対象ですから、よほど運賃を高く設定しないとペイしないでしょうし、逆に運賃が高ければ需要の誘発効果も限られますから、都営バスの24時間運行も実はハードルは高いわけです。

実は都営交通自体が今曲がり角と言える状況です。東98(東京駅南口―等々力操車場)や虹01(浜松町BT―東洋ビッグサイト/国際展示場駅前)から撤退しています。いずれも路線廃止ではなく、前者は相互直通の相手先の東急バスの単独運行になり、後者は台場シャトルで乗合バスに新規参入したケイエム観光が肩代わりしました。後者はPASMO協議会未加入でSuica/PASMOは使えませんが、台場シャトルと回数券を共通化するなどしてコスト削減と集客に工夫が見られます。

いずれも都営バスとしては乗客の平均乗車距離が長く、200円の均一乗切制ではペイしないということでの撤退ですが、本音はおそらく戦前の電気局以来の経緯で保有する東電株の配当停止で、都営バスの赤字穴埋めができなくなったことが影響しているのでしょう。東98では東急バスが目黒を境に都営エリア200円全線210円の運賃設定がされていますが、都営バスは全線200円均一としていて民間より安いことを売りにしていました。おそらく消費税アップのタイミングで都営バス自体の運賃値上げもあり得ます。

また港区など特別区によるコミュニティバスの運行で、近距離客が移転流出していることもあり、上記のケイエム観光やスカイツリー路線の日立自動車交通などの新規参入もあり、都営バス事業が縮小均衡の傾向にあることもあります。そんな中で京成バスの成田空港路線の東京シャトルの深夜便の好調がヒントになったのかもしれませんが、これはLCC早朝便対応で、運賃も割安に設定されているなど、狙いも明確で需要を掴むことに成功したのであって、漫然と深夜にバスを走らせて需要を掘り起こせるというほど甘くはないでしょう。

コンビニエンスストアの24時間営業は、深夜に商品の搬入をして朝までに売り場を作るという業務の流れの中でシステム化されているものです。ファストフードの24時間営業も、深夜に集中メンテナンスする点で同様です。民間で24時間営業を行う業態は、こうして全体最適のシステムとして構築されています。思いつきのような24時間運行が成功する確率はかなり低いと断言できるでしょう。

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Comments

都営バスの消費税値上げは不可避でしょうが…はっ、そういやレシップに運賃箱1500台一括発注してたな。もしや均一運賃からの移行も視野に?
http://www.chukei-news.co.jp/news/201301/24/articles_19752.php

Posted by: 551planning | Tuesday, April 30, 2013 09:25 AM

情報ありがとうございます。ほう、全車料金箱更新ですか。運賃見直しは避けられないとして、まさか多区間整理券式後払いにってことはないでしょうけど、系統分割してPASMO/Suica限定の90分ルール活用で乗継割引とかは考えられますね。

Posted by: 走ルンです | Tuesday, April 30, 2013 11:03 PM

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