« March 2013 | Main | May 2013 »

April 2013

Sunday, April 21, 2013

特区の昔の24時間

イギリスのサッチャー元首相が死去しました。毀誉褒貶激しく、イギリスでも正反対の評価を受けているのですが、工業国として停滞し「イギリス病」とまで言われたイギリスで、脱工業化と財政再建に奮戦したサッチャー氏は、紛れもなく改革者でした。サッチャー改革に立ちはだかったのは野党の労働党よりもヒース氏をなど党内守旧派であり、与野党馴れ合いで停滞していた政治を活性化し、野党の労働党も自己改革を迫られた結果、マニフェスト選挙という手法で政権を奪取したブレア政権を準備したという意味で、深いところで政治の復権を成し遂げたという意味でも評価できます。

もちろん個々の政策では疑問符の付くものも多く、また既得権を奪われた多くの人の恨みを買ったということもあるでしょう。しかし多くの見るべき成果を上げた点はきちんと評価すべきでしょう。よく比較される米レーガン元大統領や日本の小泉元首相が、いずれも脱製造業どころか、むしろ製造業重視でしたし、また脱工業化、金融立国といっても、経済の足腰に当たる中小企業の優遇など、日米のいわゆるサプライサイド改革とはかなり異なったスタンスです。また自らの所属政党の自己改革の徹底度を見ると、先祖がえりが顕著な日本の自民党とは雲泥の差です。政治的な立ち位置で見れば、日本では小沢一郎氏あたりが一番近いのかなと思います。

実際例えば気候変動問題に関して、冷戦終結が見え始めた80年代後半、あたかも環境派に宗旨替えしたような発言を連発するなどしていましたが、南北対立がポスト冷戦の新たな対立軸となることを先取りしたものでした。それが理解できない日本のへなちょこ政治家とは大局観が違います。結局日本は3.11以後の原発停止を口実に議定書を離脱してしまいます。

で、G20で黒田日銀の異次元緩和を黒田氏の海外人脈で黙らせてドヤ顔しているのですが、米、IMFなどから財政再建や構造改革に厳しい注文がつけられていることはどうせ無視するつもりでしょう。国内メディアもまるでお墨付きを得たとばかりにはしゃいでますが、いつから政府広報になったんだい。

というわけで与党自民党の経済再生本部で改革案をまとめたんですが、これがまた笑っちゃうような代物です。

外国人の英語教員、倍の1万人に 自民再生本部案  :日本経済新聞
突っ込みどころ満載で、いちいち取り上げませんが、日本が成長できないのは英語力のせいじゃないですし、それ以前に最強の非関税障壁である日本語の能力を高めたほうが、結局英語の習得にもプラスです。あと上記のように国内製造業を結果的に淘汰したサッチャー氏の改革とは正反対に、製造業重視は改革逆行です。

製造業重視の問題点は固定資本減耗に如実に現れています。固定資本減耗は企業会計の減価償却費のことですが、費用化して再投資というマネーフローを通じて固定資本の維持費用となります。2002年1月から2008年2月までの戦後最長の景気回復期に、名目GDPが0.44兆円増加しましたが、製造業の固定資本減耗の増加額は1.34兆円となり、名目GDP増加分を上回っています。実は日本の製造業は旧国鉄と同じ破綻への途を進んでいるのかも。

にも拘らず企業利潤を1.52兆円増やしてますから、雇用者報酬は差引2.27兆円のマイナスになっているのです。端数処理の都合で合計が合いませんが些事です。重要なのは、円安基調にあったゼロ年代の景気回復期ですら、固定資本の維持費用すら稼ぎ出せなかったということです。結果的に雇用者報酬を減らしデフレを助長したわけです。円高がデフレを招いたとする議論は事実に反します。やるべきことは固定資本減耗の増加の原因である過剰設備の減損処理を進めることなんです。ですから安倍首相が財界に賃上げ要請をしたからといって、賃金が上がる道理はないわけです。

あと政府の規制改革会議で都営交通の24時間化が提案され、猪瀬都知事がニューヨークの都市交通を視察したりしてますが、流石に猪瀬知事でも地下鉄の24時間運行はハードルが高いと見たのか、渋谷駅-六本木間の都営バスの24時間運行を実現すると発表しました。

「渋谷-六本木」若者に期待 都営バス、年内にも24時間運行  :日本経済新聞
注意が必要なのは、実際に終電後の足を求める声があったわけではなく、現状タクシーで間に合っている状況の中で、あえて24時間運行する意味が何なのかという点は十分に検討すべきでしょう。規制があるから24時間運行ができないわけではなく、あくまでも需給バランスから運行コストを稼ぎ出せないからだということです。

ま、この辺も稼働時間を延ばして稼働率を高めれば収益につながるという製造業にありがちな発想が援用されている疑いがあります。まるで原発のようですが-_-;。その意味では本来固定資本比率の高い地下鉄こそ24時間化すべきなんでしょうけど、流石に行政官として猪瀬知事は現実を見たということでしょう。ただし逆に言えばバスは人件費比率8割と言われる労働集約産業で、深夜勤務は割増賃金対象ですから、よほど運賃を高く設定しないとペイしないでしょうし、逆に運賃が高ければ需要の誘発効果も限られますから、都営バスの24時間運行も実はハードルは高いわけです。

実は都営交通自体が今曲がり角と言える状況です。東98(東京駅南口―等々力操車場)や虹01(浜松町BT―東洋ビッグサイト/国際展示場駅前)から撤退しています。いずれも路線廃止ではなく、前者は相互直通の相手先の東急バスの単独運行になり、後者は台場シャトルで乗合バスに新規参入したケイエム観光が肩代わりしました。後者はPASMO協議会未加入でSuica/PASMOは使えませんが、台場シャトルと回数券を共通化するなどしてコスト削減と集客に工夫が見られます。

いずれも都営バスとしては乗客の平均乗車距離が長く、200円の均一乗切制ではペイしないということでの撤退ですが、本音はおそらく戦前の電気局以来の経緯で保有する東電株の配当停止で、都営バスの赤字穴埋めができなくなったことが影響しているのでしょう。東98では東急バスが目黒を境に都営エリア200円全線210円の運賃設定がされていますが、都営バスは全線200円均一としていて民間より安いことを売りにしていました。おそらく消費税アップのタイミングで都営バス自体の運賃値上げもあり得ます。

また港区など特別区によるコミュニティバスの運行で、近距離客が移転流出していることもあり、上記のケイエム観光やスカイツリー路線の日立自動車交通などの新規参入もあり、都営バス事業が縮小均衡の傾向にあることもあります。そんな中で京成バスの成田空港路線の東京シャトルの深夜便の好調がヒントになったのかもしれませんが、これはLCC早朝便対応で、運賃も割安に設定されているなど、狙いも明確で需要を掴むことに成功したのであって、漫然と深夜にバスを走らせて需要を掘り起こせるというほど甘くはないでしょう。

コンビニエンスストアの24時間営業は、深夜に商品の搬入をして朝までに売り場を作るという業務の流れの中でシステム化されているものです。ファストフードの24時間営業も、深夜に集中メンテナンスする点で同様です。民間で24時間営業を行う業態は、こうして全体最適のシステムとして構築されています。思いつきのような24時間運行が成功する確率はかなり低いと断言できるでしょう。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

Sunday, April 14, 2013

インフラ、インフル、インフレ

最近メディアによく登場するキーワード並べてみますた。五段活用ぢゃないけれど、見方を変えれば見えてくるものがあるます。

まずインフルですが、中国で鳥インフルエンザで死者が出ているというのですが、強毒性ではないH7N9型で死者が出ていることが変なんですが、メディアではほとんど取り上げられておりません。私も素人ですが、一部の専門家はPM2.5による肺疾患との相関を疑っているようです。つまり罹患して死亡した人は健康だったのかということです。

というのも、情報開示が不十分なために、判断できないということなんですが、そもそもPM2.5問題も、元々杜撰だった環境汚染の監視体制が、曲がりなりにも整ってきた結果、ひどい大気汚染が明らかになって騒ぎになったというのが正確な流れでして、急に大気汚染がひどくなったわけじゃありません。中国も国内でネットや一部メディアなどでは以前から批判があり、日米欧先進国の前例もあるからということで重い腰を上げてみれば、というところのようです。

で、問題が明らかになってから慌てて対策をといっても、そもそも当事者意識が希薄だから、春節の爆竹自粛など、明らかに見当違いの対策を講じてお茶を濁しているわけで、今回のインフルエンザ騒ぎも、同様に情報開示の不備に当局のアリバイ作りが合わさったものである可能性も視野に入れておくべきでしょう。とはいえ日本でも先日福島第一原発で起きた使用済み核燃料プールの停電事故や、汚染水漏洩事故など、いずれも仮設状態のまま長期化している結果であり、また専門家からの指摘もあったのにできていなかったという意味で、中国のこととやかく言えたもんじゃないですが。20xx年に中国で原発事故が起きたと想定すると背筋が寒くなります。

ま、そのせいでケンタッキーフライドチキンがアメリカでも売り上げを落としているとかで、この手の「風評被害」はいずこも同じです。それでも習近平体制になってからの中国に、こうした情報開示の姿勢が見え始めたことは確かで、中国自身は内在的に変わろうとしているのかもしれません。ま、変われるかどうかはまた別の問題ですが。

中国の変化は北朝鮮に対する態度にも見えます。中国にとっての北朝鮮は、共に朝鮮戦争を戦った仲ということで、党の長老たちが肩入れしていて、言ってみればアメリカのユダヤロビーのような圧力団体を形成しているのですが、最近の人工衛星打ち上げや核実験などでネットなどの国内世論が「なぜ北朝鮮を庇うのか?」という方向へシフトしており、そうした声を無視できなくなってきています。また中国政府自身も度々煮え湯を飲まされ面子を潰されてきているわけで、北朝鮮を庇う理由が見出しにくくなっているということはありそうです。今回のミサイル騒動も結局空振りのようですが、キム・ジョンウン第一書記は日本の政治家の為替口先介入を学習したのかも^_^;。

中国と北朝鮮の関係は、つまりアメリカとイスラエルの関係との類似性で見ておくとわかりやすいのですが、そのアメリカとイスラエルとの関係にも変化が見られます。少なくとも歴代政権と比べて中東和平に後ろ向きなネタニヤフ政権に対する不信感をオバマ政権は高めています。加えてシェールガス革命とTPPに代表されるアジア太平洋地域へのプレゼンス拡大で、相対的に中東地域に対するプレゼンスが低下するのではないかと言われています。

実際マリ空爆はフランス軍が、アルジェリア人質事件では英仏両国が対応するなどで、アメリカは前に出ませんでした。アメリカの目下の関心事は国防費削減にあり、それに伴って同盟国との関係見直しに動いているというところでしょうか。日本やイスラエルも例外ではないということです。というよりむしろ、尖閣問題ひとつ自前で解決できない日本に対する不信感を高めているというのが正直なところでしょう。その意味で台湾漁船の日本のEEZX海域での操業を認める日本と台湾の協定は、中国政府が理由の1つとしてきた問題に決着をつけることでもあります。ただし北京政府への説明をうまくやらないとヤブヘビの可能性はありますが。

イスラエルの核保有は自らは否定してはいるものの、公然の秘密状態で、その結果イランが核開発に進むことは認めないというのは、核不拡散の原則に従えば正しい話です。とはいえ産油国で経済的な裏づけのあるイランの核開発を抑止する手段には乏しく、むしろイランが核保有すればカシミール問題で度々戦火を交えてきたインドとパキスタンのように安定するのではないかという議論も保守派中心にありますが、オバマ政権はその道は採らないということです。翻って北朝鮮の核開発に関しては、直接的な脅威よりも同盟国である日本や韓国の核開発の口実にされることのほうを懸念しているということです。丁度中東におけるイランの立場を認めないってことです。その意味で保守色を隠さない安倍政権に対する不信感は相当高いといえます。

で、インフレですが、黒田日銀の緩和策に世界が驚きを見せております。前エントリーで指摘したように長期金利が異常な動きを見せており、瞬間0.4%台に低下したかと思えば、0.6%台に反発するなど、明らかに不安定な状態になっております。投資の常識として株価が上昇すれば債権は売られ金利は上昇するはずですが、新発債の7割相当に当たる日銀の国債大量買いによって、日銀自身が池のクジラになったものと考えられます。つまり流通市場で取引する弾がない状態で、買い注文が出れば値上がりし、金利は下がりますが、市場に参加する生保や銀行などの機関投資家にしてみれば、アセットアロケーション(投資先の選別とウェート付け)に狂いが生じ、市場に迷いが出ているということです。この状態を放置すれば市場そのものの機能停止につながりかねない問題ですが、なるほど、これなら日銀の姿勢の変化はアピールできます。ただし「クレイジー」というリアクション付ですが-_-;。

こうなると出口戦略を議論すること自体が無意味です。なにしろインフレ目標2%を達成したときには、日銀は保有国債の売り先を失うわけですから。ある意味わかっていたことだから、本当にやって世界に呆れられているのですが、日本のメディアは相変わらずネガティブな報道は「水をさす」と回避している状況です。国債ですから、償還されれば残高は減りますが、従来3年未満だった残存期間の縛りを無くし、長期債も購入し、平均残存期間を7年にするということですから、仮に2年後にインフレ目標が達成されたとしても、おおむね7年間は国債の追加購入はできないということになり、国債流通市場の機能停止は長期化することになります。つまり将来の日銀の金融政策の手段を狭めてしまうことになります。

まぁこれだけ金融緩和をすれば、株価や地価などのストック価格の上昇はある程度可能でしょうが、経済のファンダメンタルズの裏づけのない資産価格上昇は結局バブルにしかならないわけで、どこかではじけます。そして以後の長期停滞が待っているわけですから、意図的なバブル発生という犯罪的金融政策となります。

既に大都市圏の一部で地価の上昇が観測されてますが、これは底打ちでも何でもなく、ゼロ年代にも観測された再開発期待の先行でしかありません。そして人口減少が続く日本においては、大都市圏の大規模s大開発は人口の大都市集中を促すだけで、過疎地の人口減のみならず、大都市近郊でも選別が進み、空洞化する地域を生むことになります。寄せて上げれば谷間がクッキリするというわけです^_^;。大災害の備える意味でも帰宅困難者を減らす意味でも、大都市集中を是正して自立分散型の国土形成が望ましいのですが、バブルはその逆の動きを助長します。

加えて気になるのがインフラ投資の限界投資収益が逓減していることです。例えば東横線渋谷駅が地下へ潜り、同様に小田急線代々木上原-梅ヶ丘間の地下化がありました。いずれも乗り換え時間が拡大し、便利になるのか?という疑問がメディアでも取り上げられておりました。やや誤解もあるのですが、東横線のケースでは東京メトロ副都心線との相互直通によって、渋谷での乗り換えの必要性自体が減少する側面もあるわけで、評価が難しいところですが、今後東横線渋谷駅跡地に埼京線ホームと駅ビルが計画されており、更に東京メトロ銀座線渋谷駅も東口側に移転する長期構想が発表されるなど、渋谷駅周辺はまだまだ変化しそうですが、谷間の地形で高低差を利用した空中回廊の計画などで人口構造物の大集積となるわけですが、商業集積の特徴として歩行者動線を最大限延ばす方向へシフトするわけですから、原理的には乗り換え時間はますます延びるということになります。ちょっとおぞましい未来図です。

下北沢の方は破局的なカオス状態です。元々千代田線と小田急線の相互直通以後、乗換客は減少傾向とはいえ、急行線を用いた暫定的な線路切り替えで、将来の緩行線ホームを暫定通路としている現状ですから、今後通路の切り替えを何度も行うことになります。また小田急線が地下に潜ったことで一時的にランドマークを失うことになるわけで、渋谷とは対照的に街の空洞化の恐れすらあります。逆に言えば渋谷ヒカリエというランドマークを先に作った東急の事業の運びの巧みさが際立ちます。高架か地下かでもめた下北沢ではないものねだりではありますが、地元を敵に回してしまった小田急の戦略ミスではあります。

両者に共通するのは、大都市圏でのインフラ整備が、さまざまな社会的要請でますます複雑化し、コストのかかるものになっているということです。元々集積度の高いエリアでは事業着手前の利害調整に手間取り、コストを押し上げてしまう一方、商業集積の拡大で動線計画が混乱することが避けられず、結果的に乗換時間の増大などのマイナス要素を生み出してしまうということです。端的に言えば装備拡大の一方で機能の低下が見られるということです。大都市圏のインフラ整備は今後このような困難の中で、結果的に限界収益逓減の法則に則った傾向を避けられないということです。ぶっちゃけインフラ投資が景気を底上げするのではなく、むしろ社会全体の生産性を押し下げてしまうということで、既に公共投資では見られる現象が、いよいよ民間投資の世界でも実現してしまう局面に至ったということです。

というわけで実は日本の病理を際立たせる3つのキーワードということですね。あーあ。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

Sunday, April 07, 2013

ブラック化する日本のこれから

白川日銀総裁の後任の黒田日銀総裁が「次元の異なる金融緩和」を行ったということで市場が跳ね上がっております。ま、基本的に国債の買い増しですから、異次元でもなんでもないですし、実務面で反映されるのはこれからですから、実は何も起きていないのに市場が反応したというのが事実関係です。ま、根拠なき熱狂という意味でバブルの始まりはこんなもんでしょう。

気になるのは10年もの国債金利を指標とする長期金利が異常に低下し0.4%台というあり得ない値と示しています。このことの意味に無頓着の報道ばかりですが、一見良いことのように思える長期金利低下は、長短金利差の縮小を通じて金融機関の収益を圧迫することを意味しますから、むしろ金融機関はリスクを取りづらくなるということでもあります。つまり日銀の供給マネーは増えても民間融資は増えず、以前にも指摘したように国債とマネーの交換が政府と日銀と銀行の間で起こるだけということになります。

つまりお金は民間へ流れず、流動性が空回りする状況は変わらないわけで、デフレ脱却どころかそれ自身がデフレ要因になりますし、国土強靭化など無意味な公共事業のバラマキと、政府系金融や政府系ファンドなどのいわゆる埋蔵金の増加で、政府資産も膨張が見込まれますから、マネーの増加は政府の低稼働資産を増やす結果、国全体の潜在成長率を押し下げます。

まぁ百歩譲ってこれで人々の期待に働きかけてデフレ脱却できたと仮定しても、その先に難題が待ち受けます。仮にインフレ目標2%が達成されたとすると、国債価格が低下し長期金利が上昇しますから、日銀は大量保有する国債の処理に窮することになります。財政ファイナンスではないことを証明するためには保有国債を売らなきゃならないけれど、売れば国債暴落のトリガーを引く恐れがあり、結局国債売却ができないけれど、そうするとやはり財政ファイナンスだったと見なされて国債が売り浴びせされて長期金利が上昇します。整理すると国債暴落で銀行の資産が痛みますから金融危機となり、しかも長期金利上昇が景気を抑制するばかりか財政の悪化も同時並行で進みますから、結局財政赤字は拡大し、財政出動どころか財政緊縮化を迫られるということになります。回避するためには政府財政の緊縮化を進めるしかありません。国土強靭化などもってのほかです。

黒田総裁はリフレ派ではなく、クルーグマンやスティグリッツなどアメリカのリベラル派経済学者の立場に近いと言われますが、彼らはアメリカの経済データを見て日銀批判をしているに過ぎないんで、当然出口戦略も存在しません。とにかく将来のインフレ期待を生み出すために今、金融緩和をせよと言っているわけで、無責任ですし、今の金融緩和が将来のインフレ期待につながるということは、異時点間の貨幣交換で、それを繋ぐ係数こそ金利ですから、インフレが実現する前に金利が上昇するというのが正統派経済学の見解となり、変動相場制の下では金利上昇は為替の通貨高で代替されますから、論理的にも破綻しています。岩田副総裁などリフレ派は更にあほらしい19世紀の貨幣数量説の遺物です。フリードマンのマネタリズムもそれをモダンに化粧しただけで、いずれも実証的にはほぼ否定されてます。

というわけで白から黒に転換した日銀総裁の下でもデフレは止まらないということになります。一方でローソンをはじめ一部企業で賃上げの動きが伝えられていますが、実はコンビニ業界は以前からベースアップに積極的で、業績上昇に合わせて去年までも賃上げを行っています。ただしベース賃金が製造業よりも低く、波及効果はほとんどないのが実情です。つまり単にメディアが取り上げただけで、別にアベノミクスのおかげではありません。

あと直近の円安傾向で業績の上方修正が見込まれる自動車などの輸出関連企業でボーナスなど一時金を積み増したものの、ベースアップは見送られてますから、むしろ消費税アップを後押しするためのポーズと捉えた方が良いでしょう。輸出企業は消費税率アップで輸出戻し税の恩恵がありますから、ボーナスを弾むぐらいどうってことないわけです。むしろゼロ年代以降のベアゼロ春闘の定着や定期昇給の抑制、派遣や請負など非正規労働の拡大など、終身雇用、年功賃金で長期安定の雇用関係を育んできた日本的労使関係が崩壊し、賃金抑制圧力が増している現状です。その必然的帰結が日本企業のブラック企業化です。

元々終身雇用と年功賃金は、若年の低賃金を将来の昇給を約束することで安定雇用をもたらすものですが、企業業績のブレに対しては硬直的です。ゆえに繁忙期の残業や業績に応じたボーナスの支給などで微調整してきたわけです。重要なのは、こうした雇用慣行は労働者にも支持されていましたし、その労働者を組織した組合は、専ら賃上げ要求に絞ることができたわけですが、その一方である意味会社に人生を預ける形となり、過剰な忠誠心を求められ、それが有給休暇未消化やサービス残業などの温床となってきました。

それ故にバブル期には好調な企業業績と安定した物価の中で、労組の賃上げ一辺倒は成り立たなくなり、残業ゼロや時短や有給消化などに活動目標をシフトしますが、そこは企業内組合の限界で、目標達成はならず、そのうちにバブル崩壊や金融危機、デフレといった経済環境の激変で、むしろ雇用確保のために賃金抑制を呑まされる形で弱体化していきます。その間隙を突いて企業のブラック化が進行しているのが現状です。

そんな中で前回の安倍政権で取り沙汰された裁量労働制や解雇規制の緩和などがまたぞろ議論されているのですが、懲りない話です。これらは日本型雇用慣行が崩壊しながら、抜け殻のように過剰な忠誠心のみが求められる必然的結果として、現状では企業のブラック化を後押しすることにしかなりません。裁量労働制を採用するなら、それ以前に転職がキャリアアップにつながる欧米並みの転職市場が形成されなければ、単なるサービス残業の合法化にしかなりません。

また解雇規制についても、例えば欧米企業でよく行われるレイオフですが、工場の閉鎖や勤務シフトの削減で行われますが、あくまでも一定期間雇用主が正規賃金の一定割合を保証する形で行われますし、対象は特定事業所勤務を労働契約で明記している者で、元々レイオフの可能性が契約で明らかになっていることが前提です。日本でも総合職、一般職、地域限定職など正社員雇用の多様化は認められており、雇用契約で明記すれば済む話です。正規雇用の見返りに過剰な忠誠心を強いるツールとして解雇をちらつかせ、選別のツールとすることは許されません。

というわけで、新年度早々のネタがブラック企業というのもどうかと思いますが、現状は危機的です。申し上げにくいですが、鉄道事業者でもブラック企業と疑われる事例が存在します。

中日新聞:<はたらく>始業前出勤 強制か心掛けか 「出勤遅延未遂」責められた駅員が自殺:暮らし(CHUNICHI Web)
いや流石社員が体を張って新幹線を止めたり、2度も無人ディーゼルカーを走らせたり、2000年9月の東海豪雨で社長指示の逝っとけダイヤで70本以上の立ち往生を発生させるなど、枚挙に暇のない会社ですが、元々葛西現会長は国鉄時代から労務管理でのし上がった人物で、国鉄改革では改革派課長3人組の1人として知名度を上げました。しかしこの記事で見る限り、国鉄時代からの悪習である日勤教育を引きずっているようです。JR西日本でさえ尼崎事故で叩かれて見直しているのにです。

国鉄も労使関係が崩壊し、分割民営化により解体されたことを指摘しておきたいと思います。元を質せば磯崎総裁時代の生産性向上運動(マル生運動)が始まりですが、公社だった当事の国鉄で、東海道新幹線の開業した1964年から民間準拠の会計規則変更で資産の減価償却が始まったのですが、開業で引き渡された東海道新幹線により償却資産が水ぶくれ状態でスタートした不幸により赤字転落し、以後国鉄経営陣は黒字転換を模索するのですが、帳簿上の赤字とは裏腹に現金売上主体で潤沢なキャッシュフローを生む国鉄の事業ゆえに、経営陣に錯誤が生じた可能性は既に指摘しましたが、首都圏の通勤五方面作戦や電化、複線化などの動力近代化、全国新幹線網整備などの大盤振る舞いと共に、生産性を改善すれば黒字化できるという安易な発想で結果的に労務管理の強化に走ったわけです。何か昨今の日本企業のブラック化を先取りしているように見えますが、気のせいでしょうか。くしくもJR東海は国鉄の赤字化への関与が疑われる東海道新幹線を継承した会社ですが、そこで旧国鉄ばりの前近代的な労務管理がまかり通っているとすれば皮肉です。

それに比べればオーナーの手を離れた西武HDは、社員の手でスマイルトレイン30000系を登場させるなど、社員のモチベーションを高めている点は評価されます。その意味でサーベラスとの紛争は残念ですが、相手が大株主である以上、路線廃止などの無茶な要求に対しても、実現可能性の検討結果を説明するなどの対応は必要です。その意味で悪い冗談がこれです。

「鉄道に外資規制の導入も一考」 JR東海社長、西武問題受け :日本経済新聞
ブラック企業の助言など聞く必要はありません。サーベラスの態度豹変は確かに問題ですが、それをネタに外資規制とは悪い冗談です。航空法は制空権や有事の後方支援など安全保障に直結しているのに対し、鉄道にはそういった要素はありません。公共性を云々するならば、支配的株主を作らないための議決権制限、例えば20%以内などはあり得ますが、国籍は問わずとすべきです。例えば東京メトロの東京都保有議決権も制限の対象となるのは当然です。

鉄道業界では他にも相鉄の労使対立が世間を騒がせましたが、安全に直結する運輸事業では安定した労使関係は必須であり、ある意味日本的雇用慣行は望ましいのですが、現実はそれを許さない方向へ向かう可能性もあります。鉄道ウォッチャーとして気を引き締めたいところです。鉄道に限らず日本企業のブラック化は、結局解体された旧国鉄の轍を踏む可能性もあります。ある意味ソニー、シャープ、パナソニックなど家電メーカーの凋落は必然だったのかもしれません。

というわけで、新年度の新社会人へのはなむけとして、会社に人生を預けるなということは申し上げておきたいです。こんな社会しか残せなかった世代の自省も込めてですが。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

« March 2013 | Main | May 2013 »