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Monday, May 20, 2013

中間駅のジレンマ

何だか色んなニュースがありまして、何を取り上げるか迷いに迷いましたが、リニアネタでいきます。

リニア駅コンパクトに 山梨・長野・岐阜、JR東海が概要公表 - 山梨日日新聞 みるじゃん
中間駅自己負担を発表したときから漂っていましたが、やっぱりという話です。なにしろ完全予約指定制で駅には乗車券類の券売機すら設置しないというローコスト設計で、高架下のテナント活用は地元負担を前提に協議に応じるということで、「利用するな」と言わんばかりです。自己負担で駅を作るんだから、地域振興なんぞ知ったことかということですね。

ま、ある意味戦略的な対応ですが、その是非を云々するつもりはありません。地元負担を嫌った沿線自治体にも責任のある話ですんで。それよりも、そもそも東海道新幹線のバイパスという建設目的からすれば、元々中間駅はJR東海としてはどうでも良い話で、だからこそ諏訪伊那谷経由を捨てて南アルプス長大トンネルルートとしたわけですから。

加えて本来東海道新幹線のバイパスルートとするのであれば、鉄軌道式で建設し、名古屋で東海道新幹線に繋ぐようにすれば、スピードアップの恩恵は名古屋以西にも波及しますし、元々過密ダイヤでこれ以上の増発もスピードアップも無理と言っていたわけですから、その解決策にもなるわけで、リニアである必要は元々あまりありません。

加えて鉄軌道敷ならば、ポイントは保安装置連動でトングレールとノーズを動かすだけで短時間に切り替えられるわけですが、U字型走行路のリニアの場合、駆動用コイルを仕込んだ壁を動かす大掛かりな仕掛けとなり、転轍時間も延びると考えられます。東海道新幹線のようにのぞみやひかりなどの速達列車とこだまタイプの各駅停車を並存させるとすると中間駅は専ら速達列車を各停列車が待避するための存在ですから、大掛かりな仕掛けでコストも嵩むわけで、余分なコストはかけられないわけです。つまり鉄軌道敷ではなくリニア方式を選択した時点で、中間駅の意味自体も変わらざるを得ないという点を指摘しておきます。むしろ中間駅での待避による時間ロスを考えると、各停列車の設定は時隔を詰められない要因となります。

とすると、1列車あたりの提供座席数の少なさと相俟って、東海道新幹線のバイパス機能という建設目的自体があやしいところです。実はJR東海もとっくにその辺は織り込んで、リニアをアメリカに売り込むことに照準を合わせています。どうも狙いはワシントン-フィラデルフィア―ニューヨーク―ボストンのいわゆる北東回廊への導入を狙っているようです。というか、高価なリニアシステムを輸出できる可能性のある輸送市場は世界中でここぐらいしかなさそうですが。

リニアに限りませんが、日本の新幹線はそもそも駅が多すぎます。それだけ人口密集地を走っているということもありますし、災害や事故により運行が抑止されたときに列車を最寄り駅に収容するという意味もあり、運転密度の高い日本の新幹線では中間駅は作らざるを得ないという見方も可能ではあります。これがリニアでも同じでしょうけど、そうなると疑問なのが、災害や事故時の運行停止で列車を最寄り駅に収容したとして、大胆に機能を絞り込んだ中間駅で乗客を降ろしてどうなるかということですね。いいだといちだエントリーで候補地とされる高森町の田園地帯に停車したリニア列車から吐き出された乗客たちの受け皿を用意できるのかどうか。下手すればリニア中間駅はとんでもない迷惑施設にすらなりかねません。

仏TGVや独ICEなどの高速新線では元々中間駅は極端に少ないのですが、これは元々都市間部は集落を避けた丘陵地帯に建設され、しかも元々強固な岩盤に地上や掘割で直接線路を敷く形とし、35/1,000の急勾配を容認する一方、端やトンネルなどの構造物は極力作らないなど、コストダウンが徹底していますが、一定間隔で車両収容線とプラットホームを備えた信号場を整備し、非常時にはここへ列車を収容する仕様になっています。人口密度の違いもあって、欧州では割り切った対応をしているわけです。

というわけで、中央リニアは輸出商談のためのサンプル程度にしか考えていないということで、もはや東海道新幹線のバイパスはおろか、東海道新幹線の大規模改修も長期運休なしにローコストで実施する計画ですから、この面でもリニア建設の大義名分はなくなっているわけです。

元々保有機構からリースする形で旧国鉄長期債務を間接負担していたJR発足時のスキームを資産買い取りで負担が確定した結果、長期債務返済で生じる超過利潤をリニアに投資するという流れですから、言ってみれば東海道新幹線の儲けでリニア輸出を模索するという戦略的道楽(笑)と化しているわけです。だからリニア自体は当面赤字でも構わないわけで、もうこうなりゃ勝手にやってよって話です。

まぁ尤もリニアに限らずインフラ輸出は言われるほど簡単ではありません。ブラジルの高速鉄道計画が度々入札不調に終わっているように、事業の収益性はそれほど確かとは言えません。東海道新幹線の場合は、元々高度経済成長の入り口で、また重化学工業重視、輸出振興という国の産業政策から、外航海運向けの大型船舶が接岸できる港湾がほぼ東京湾、伊勢湾、大阪湾にしかなかった当時、東名阪を結ぶ輸送インフラへの投資は確実にリターンを得られるものでしたし、だからこそ東海道新幹線や名神高速道路は大成功を収めたわけです。

特に新興国の輸送インフラ整備に関しては、その国の産業政策との整合性や、若年労働力の厚みなどの条件を見極めるのはかなり難しいと言えます。逆にアメリカなど既にインフラの整った国では、高速新線の建設自体が用地取得などで困難性を伴います。この点は都市近郊で既存路線へ乗り入れ、都市間部の人口の少ない部分だけ新線を建設する欧州方式がコスト面で有利です。逆に実車試験までして衝突安全を求めるアメリカの安全基準を日本の新幹線車両はクリアできません。その点でもはや鉄道ですらないリニアはその基準に縛られない可能性があるというのがJR東海の見立てのようで、現地コンサルを雇って政府や議会へのロビーイングに精を出す算段のようです。

とはいえ元々温暖化対策として行き過ぎた車社会の是正の切り札とされた高速鉄道建設ですが、例の財政の崖問題で連邦予算が強制削減されている状況では、高速鉄道建設に予算が回る可能性は低く、更にシェールガス革命でいわゆるグリーンニューディールと言われる環境関連産業への熱も冷める中、カリフォルニアをはじめとする州政府の投資意欲も冷めている状況です。それでいてシェールガス関連などで雇用が生まれていてアメリカの経済指標は悪くないですから、高速鉄道など公共投資で雇用対策を打つこと必要性も薄く、アメリカが高速鉄道システムを導入するのは暫く先の話となりそうです。

というわけで、アメリカはとりあえずリーマンショックの後遺症を払拭したようですが、それが高速鉄道投資には結びつかず、一方でユーロ危機の終息が見通せない欧州は長期停滞を余儀なくされますし、中国も明らかに成長が鈍化しており、当面はアメリカ頼みの世界経済となりそうです。インフラ輸出で日本で晩は案外少なそうです。

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Comments

リニア方式も新幹線方式もメリット・デメリットがあります。

リニア方式のメリットは
・運転士不要で人件費を抑えられる
・省メンテナンス(レール交換やバラスト突固めが不要)
・登山鉄道並みの急勾配でも高速運転ができる
・加減速性能が良い(理論上は自動車並みの急加速も可能で、新幹線より大幅に時隔を詰められる)
・モーターやレール摩擦による騒音がない
・将来スピードアップの余地がある(新幹線はせいぜい400km/h程度が限界)
など。

そもそも東海道新幹線にバイパス路線が必要なのかという部分に議論の余地はありますけどね。

リニアの特性(HSST含む)を考えれば、本来は空港輸送に向いている気がします。妄想になりますが、もし東京モノレールがHSSTだったら、24時間無人運転で国際線に対応することもできます。

Posted by: yamanotesen | Saturday, May 25, 2013 at 08:28 PM

リニアのメリットですが、幾つか疑問があります。運転士不要は鉄軌道式でも不可能ではありませんが、法令の縛りや、追加的なシステム投資と運転士を乗せる人件費の見合いもあるのが現状です。またメンテナンスも本当に鉄軌道式より少ないのかは、現時点では判断材料がありません。

高加速はそのとおりですが、時隔はそれだけでなく、分岐器の構造や性能次第ですし、駅での低速分岐が前提とすると、高速走行の列車群が駅手前で団子になるわけで、現実的な時隔はむしろ現行新幹線より伸びると考えられます。また定員超過はほぼ不可能と考えると、多客期の需要の弾力性に対しても脆弱と考えるべきでしょう。実際リニモでは運転停止の実績もありますし。

あと騒音面ではリニアは本当に静かなのかというと、高速走行の宿命で風切音は避けられませんし、コイルやインバータだって無音ではないですよね。むしろ日本の新幹線は80dbという厳しすぎる規制値をクリアしているわけですが、リニアは鉄道ではないということで、離発着時のジェット機との比較がされているようですが、そもそも比べるものさしが違い、評価しようがありません。

ただリニアが中距離の高速輸送機関に向いているというところは私も同じ感想です。空港連絡はともかく、100km程度の安定した需要のあるところへの導入はそれなりに意味があるでしょうけど、それでもリニアでなければならない必然性は果たしてあるのかというと、なかなか説明が使いないでしょう。

とはいえ中央リニアは何しろ戦略的道楽ですから、後戻りできないところまで突っ走りそうですね。アメリカへの輸出が失敗すれば末はシャープかパナソニック?

Posted by: 走ルンです | Sunday, May 26, 2013 at 12:18 AM

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