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June 2013

Sunday, June 30, 2013

通信傍受でワシントン混線さす

どえらい事件が現在進行形で起きています。

焦点:スノーデン容疑者の暴露と逃走、米当局の対応に疑問符 | Reuters
スノーデン氏は現在モスクワの空港に滞在中といわれますが、おそらくこのまま長期滞留となるものと思われます。まるでスパイ映画のような展開ですが、リアルに起きている事件から、いろいろなことが見えてきます。

アメリカの通信傍受そのものは、9.11を受けてブッシュ政権時代に成立した愛国者法によって令状なしで可能なのですが、イラク戦争に反対しブッシュ政権に対決姿勢を示していたオバマ大統領だけに、国民の失望は大きく、支持率も急降下しています。しかもカリフォルニアでの周金平中国主席との首脳会談で中国発のサイバー攻撃を名指ししていただけに、当のアメリカがやってたって話ですから具合が悪いですが、是非はともかくサイバー空間での主権国家のせめぎ合いの実態を垣間見ることはできます。

とはいっても個人情報を直接収集していたというわけではなく、通信ログの収集が中心で、通信の相手やアクセス先、時間や頻度などで突出したものをアルゴリズムで絞り込んでターゲットを抽出するわけで、無差別に国民や外国人の個人情報を集めていたわけではないんですが、元々移動体通信では端末の位置情報が通信キャリアに把握されていましたし、昨今のスマホのようにGPS機能建ついていたりすれば、特定個人の行動記録が完全に把握できてしまうわけですから、テロ対策や犯罪捜査のためとはいえ、当局にフリーハンドを与えることは問題ですが、日本ではよく議論のされないまま、通信傍受法を成立させており、貧弱な個人情報保護法だけで対応という心許ない状態ですが、メディアも取り上げないし国民も無関心という困った状態です。

話をアメリカに戻しますと、こうしてターゲットを絞り込んで特定個人を監視し、テロの実行を未然に防げるかといえば、ボストン爆弾テロのような事件も起きるわけですし、むしろ無人攻撃機によるビンラディン殺害のように、いわゆる「危険人物」の排除に使われるのが関の山です。ある意味通信ログから抽出されプロファイリングされた挙句に裁判を経ずに殺人マシンの餌食というのは、人権上も問題がありますが、いわゆる「テロとの戦い」を標榜する限り、相手は主権国家ではなく民間人なんですから、サイバー空間における主権国家の対応はこうならざるを得ないという程度のリアリティは持ち合わせておくべきでしょう。是非はともかくとして。

アメリカ政府は否定していますが、以前からエシュロンと呼ばれる通信傍受組織の存在は言われておりましたし、この分野はイギリスがハブの役割を果たしているらしいことは以前から言われていました。スノーデン氏の告発では2009年のG20首脳会合や財務省・中銀総裁会合の出席者の通信傍受までしていたということで、サイバー空間では既に主権国家同士の虚虚実実の駆け引きは行われていると見るべきでしょう。また米CIAによるイラン核施設のコンピュータをウイルス感染させたとか、イラクが大量破壊兵器を隠し持っているという英情報機関のうその情報でイラク戦争が始まったなどなど、この手の話は枚挙に暇がありません。

そういや先日のG8ではシリア情勢で米ソ間で応酬がありましたが、アメリカが渋っていた反政府勢力への武器供与に踏み切る決断をしたのも、シリア政府がサリンを撒いたという英情報機関の報告によるものですが、なんかデジャビュな感じです。ロシアは外から見ているからその辺が冷静に見えるのでしょう。ソ連時代からの軍事基地設置などの蜜月関係がメディアで報じられますが、実態は浮き桟橋1つで重大な利権なのかというこtもあり、メディアによるロシアのネガティブキャンペーンと見たほうが良さそうです。メディアが嘘をつくのは日本に限った話ではないようですね。ちなみにG8ではシリア問題の比重が高かったので、日本のいわゆるアベノミクスに「理解を得た」というのも大ウソ。そもそも日本に対する関心は低かったというべきです。

気をつけたいのは、これらはいわゆるIT技術の進化によるもので、最近言われるビッグデータのダークサイト問題として捉えられるわけで、以前に指摘した武雄市のTUTAYA図書館やFB良品の問題点はかなり鮮明になるかと思います。上記の通信傍受法のように、世界のトレンドを後追いする日本では、危なっかしい法律が議論もなく素通りするという意味で、より怖い状況にあるということは指摘しておきます。

同時に、サイバー空間の拡大は、主権国家同士のせめぎ合いの場もサイバー空間に移行して、リアルな軍隊の意味も変化を余儀なくされます。有体に言えば、使えない戦略核兵器はもとより、殺傷能力を高めた通常兵器の使用も現実的には難しくなる中で、リアルな軍備増強は単なる金食い虫に成り下がりつつあるということで、いち早く気づいたアメリカはその方向にシフトしつつあるわけです。オバマ大統領の核廃絶も、その文脈で理解すべき事がらです。「憲法変えて国防軍作ろう」という議論の周回遅れっぷりはひどすぎますね。

そうすると厄介なのは、アメリカの軍事的プレゼンスを頼みにしている西側諸国の立ち位置が微妙になってくるわけで、シリア反政府軍への武器供与問題に限らず、欧州主導で進められたボスニアやコソボなどの旧ユーゴ地域の紛争に典型的に見られた、アメリカの軍事的コミットを引き出すいわゆるワシントンコンセンサスが機能しなくなる可能性があるわけです。シリア問題に引き寄せれば、チュニジアやエジプトで平和裏に政権交代が実現したいわゆる「アラブの春」にかこつけて、親欧米的な湾岸産油国が絡んで反政府勢力への資金供与が行われている現実があり、それに欧州諸国が相乗りして例えばリビアで政変が起きたわけで、周辺国から嫌われているシリア政府の毒ガス使用という情報も、一応疑っておくことも必要じゃないかと愚考いたします。

とはいえこういったダークサイド問題を踏まえつつ、テクノロジーの進化による社会の変化は押し止めることは不可能なわけで、むしろダークサイドに留意しつつ、ビッグデータ活用による消費者へのポジティブフィードバックがどれだけあるかという点にこそ注目すべきでしょう。その点から注目したニュースがこれです。

日立、Suicaビッグデータから駅利用状況を分析するサービス - ITmedia ニュース
ある意味日本のビッグデータ活用が初歩レベルに留まっていることを証明するようなニュースです。POSシステム導入で大量取得されたPOSデータをコンビにチェーンがメーカーに売っていたのがPOS導入初期ですが、統計処理でデータマイニングしてクラスター分析や回帰分析などの統計手法を用いて初めて有意なデータとなるのがビッグデータですが、改札データから年齢や性別などの属性を抽出しただけで何ができるのかは疑問です。残念ながら日本ではまだこんなレベルなんですね。

例えばグーグルは検索連動広告をはじめ、廉価に集めたビッグデータを巧みに収益化していますし、アマゾンは自社の基幹システムをクラウド環境で構築して自社のコスト構造を改善したに留まらず、システムの外販までしている状況で、しかもグーグルにしろアマゾンにしろユーザーから支持されている一方、日立のこの取り組みに対しては「気持ち悪い」といった批判が寄せられています。これはビッグデータの企業向け加工に留まっていて、末端ユーザーのメリットが見えないことが原因と考えられます。逆にフェイスブックとGPSを連動させたチェックイン機能など、ユーザーに見えるメリットのあるサービスは受け入れられているわけです。つまりはビッグデータの活用は、ユーザーメリットをどれだけ見せられるかにかかっていると言えるかと思います。その意味で日本企業の意識のガラパゴスっぷりこそが問題です。

身近なところでは交通系ICカードの共通化が典型ですが、関西のPiTaPaはポストペイ方式で電子マネー機能は共通利用できませんし、広島のPASPYはICOCAとのみ一部連携だったり、JR四国はそもそもICカード乗車券の導入ができないままで、現状は高松・坂出両駅限定でICOCAの岡山・福山エリア間で利用可能なだけです。しかも費用は全額JR西日本持ちでカードの発売はなしです。一応四国共通カードの構想はあり、高松琴平電鉄のIruCa、伊予鉄道のICいーカード、土佐電気鉄道のですかがそれぞれ現状スタンドアローン状態で導入されていて、資金難にあえぐJR四国の導入を待っている状況です。

また首都圏でいえばSuicaエリアとTOICAエリアの間に除外区間がありますし、ここに限らずエリア間に跨って利用ができない状況です。公式の説明では、経路検索の能力の限界を超えるためとされておりますが、EXICやモバイルSuicaで新幹線利用の場合に限って使えるようにしているように、新幹線利用への誘導の意図が丸見えです。加えてSuicaとTOICAではシステム自体も別物で、現状ではこれ以上の共通化はできない(少なくともJR東海は消極的)というのが現状です。

以前にも取り上げましたが、そもそもベースとなるFeliCaシステムが割高だという根本問題もあるわけで、SuicaにEdy機能を搭載したいというJR東日本の申し出を断ったソニーに近視眼が、結果的に互換性のない類似システムの乱立を招いたわけです。

またSuicaが振替輸送の対象外となっていることや、消費前が二段階に小刻みに上がるためにシステムの改修に多大なコストを要することなど、様々なマイナス面も出てきております。挙句にICカード限定で10円未満の端数容認で事実上の二重運賃なんてふざけた話まで飛び出します。

一方でJR東日本では気仙沼線と大船渡線のBRT区間限定のICカード乗車券システムを導入湯します。

JR東日本、東北BRT専用のICカード「odeca」導入…8月3日から | レスポンス
これは単純に鉄道での復旧が長引く中で、BRTの利用促進策を迫られた結果と見るべきでしょう。Suicaシステムと別建てとしたのは、接続路線がいずれもワンマン運転のローカル線で、仙台のSuicaエリアと接続していないため、接続線区のSuica導入のコストと天秤にかけて別システムとしたということでしょう。現状でも交通系ICカード共通化で勘違いしてPASMO1枚でワンマン列車でローカル線の無人駅に突撃する人が後を絶たない状況で、混乱回避を優先したということでしょう。

というわけで、ますます複雑化するICカード乗車券事情ですが、上記のように個人情報を容易に特定できるダークサイドを抱えるビッグデータ利用に関しては、ユーザーの目に見える明らかなメリットを示さないと、ビッグデータの利用自体が進まないジレンマに陥ると考えられますから、日本企業がマインドセットをリセットしないと取り残されそうです。

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Sunday, June 16, 2013

安値大サーカス

タイトルどおりまさに波乱の1週間でした。とにかく株も為替も黒田日銀の4月の異次元緩和以前の水準に逆戻りです。しかも世界全体が連動した点は見逃せません。

世界の株式、19市場で下落 米量的緩和の縮小観測で :世界株WEEKLY :海外 :マーケット :日本経済新聞
原因として米FRBの金融緩和(QE3)縮小の観測でということになっておりますが、FRB自身は何も言っていないのがミソです。主に住宅ローン証券の購入で、競売物件の放出で市場が軟化しやすい住宅市場の下支えが狙いです。ちなみにQE3はQuontitative Easing program ver.3 の短縮形ですが、日銀の異次元緩和も Qualitative Quontitative Easing program で異次元量的緩和ということで、略してQQEで以下この表記といたします。

米住宅ローンはノンリコースローン(非訴求型融資)で、返済が焦げ付いて担保差し押さえするとローンが消滅しますから、融資した金融機関が担保物件の損切り売りで回収を図る結果住宅価格が下落し、逆資産効果で消費が冷えるという連座を断ち切る必要に迫られたもので、国内要因によるものですが、その米消費市場への依存度をた高めつつある日本の輸出製造業の業績に依存する Nikkei225 がむしろ敏感に反応してしまうというカラクリは既に指摘しているとおりです。FRBのバーナンキ議長も、ゼロ年代のITバブルの轍を踏まないために、こうした市場の過剰反応をむしろ利用しているわけで、遮二無二力技で市場を屈服させようとする黒田日銀より役者が一枚上手です。6月の政策決定会合後の定例会見で意気消沈の黒田総裁でしたが、あそこは裏声で「クロちゃんです」だろが(笑)。

しかも安倍首相の「第三の矢」発表のタイミングを計ったように株価が下落、為替は円高と動いたんですから笑えます。市場は安倍政権の成長戦略に失望したというストーリーが語られ始めました。その真偽はともかく、成長戦略に欠かせない規制改革の目玉がクスリのネット販売解禁というのですから呆れます。最高裁判決では改正薬事法がネット販売禁止やその根拠とされる対面販売を予定していないから、これを省令で禁止することに根拠がないとしたわけですから、既にクスリのネット販売は事実上解禁されているわけで、それを第一類の一部の25品目を除外して解禁する法律を作るということは、司法判断を無視して新たに禁止事項を法で定めるという話ですから、規制緩和ではなくて新たな規制の導入なんですね。こうしたレトリックがちりばめられた成長戦略なんぞ、とっくに市場からは相手にされちゃいません。

為替と株が動いた一方で、4月のQQE直後に乱高下した長期金利はむしろ安定傾向にあります。つまりリスク資産から安全資産に資金が回帰したわけで、こちらも元の木阿弥というわけですが、注意が必要なのは市場で流通する国債自体は日銀の大量買入れで減っているわけですから、単純に資金が戻ったわけではなく、消えたわけです。

種明かしすれば不安定な国債保有を銀行が嫌って手放したのが長期金利上昇のカラクリでしたが、さりとて融資先が現れるわけでもなく、日銀当座預金に超過準備としてブタ積みされているのが実際です。なにしろ責任準備金の超過分には政策金利と同じ0.1%の利息が付きますから、下手にリスクを取るより賢い運用といえるからです。かくしてベースマネーは増えてもマネーサプライは増えない流動性のわなからは抜け出せないわけです。

危惧されるのは国債市場の流動性の低下です。過去にも90年代末のゼロ金利政策で、銀行間で短期資金をやり取りするインターバンク市場が機能しなくなったことがあります。それが2000年8月のゼロ金利解除に日銀が踏み込んだ理由だったんですが、景気を失速させた失敗として非難され、2001年3月の量的緩和政策へとつながります。厳密にはゼロ金利復帰ではないんですが、テクニカルな話なので、ここでは説明を割愛します。

そして低金利の弊害についても度々指摘しておりますが、1つは低金利による財政規律の緩みで、財政赤字がいつまでも解消できないということ、その結果無駄な公共事業で低稼働公共資産の増加で国全体の生産性を押し下げている点などは既に指摘しておりますが、加えて低金利ゆえに例えばシャープの堺工場やパナソニックの尼崎プラズマパネル工場のように、甘い事業見通しで過剰投資に踏み込んで経営を圧迫している例にあるように、低稼働資産への投資は民間も同じです。そして更に、これらを踏まえて民間設備投資そのものが不活発になっていくことで、低成長に拍車がかかります。

この点はあまり指摘されておりませんが、そもそも企業の利益率が利子率に収斂されるというのは経済学の基本的命題の1つです。企業の総資産利益率(ROA)が銀行利子を下回るならば、保有資産を現金化して銀行に預けるほうが賢い資産運用になるわけですから、企業経営ではROAが利子率を上回ることが求められるわけです。もちろん企業の保有資産には換金すると値を下げてしまうものもあるわけですし、リスクを取って投資して損失を計上することもありますから、長期的には利子率に修練されてくるわけです。その意味で低金利は企業のリスクテイクのインセンティブを奪うことになります。言葉を変えればぶっちゃけ低金利だと企業は競争しなくなるということです。

思えば80年代後半以降、為替調整の裏の意図もあって米金利を下回る政策金利を長く続けた結果、日本企業はリスクを取らなくなり、欧米企業と比べて利益水準が低い状態で推移してきました。上記のとおり中長期で利益率が利子率に収斂されるとすれば説明がつきます。そしてこのことが、企業に人件費圧縮のインセンティブを与えているとすれば、ゼロ年代以降の賃金低下も説明がつきます。結果、低金利を長く続けた結果、賃金デフレを招いたということになりますから、QQEの結末は賃金デフレの重症化でデフレ脱却どころか事態を悪化させるだけとなります。

政府も投資が不活発な点は気にしているようで、投資減税に言及するようになりましたが、実は意味がありません。投資減税はあくまでも黒字企業しか恩恵がないばかりか、JAL再生で自民党が問題視した最大9年の損失繰越で、実は黒字企業でも法人税を納めていない企業は多数あります。上述のシャープやパナソニックも該当します。そういった企業は減税の恩恵は無関係ですから、積極的な設備投資のインセンティブにはならないわけですね。

といいつつ、JALつながりで前エントリーで指摘したエアアジア・ジャパンの撤退の可能性ですが、動きがありました。結果的には合弁の解消でエアアジア・ジャパンはエアアジア出資分の49%部分をANAが肩代わりして完全子会社化するということが報じられました。意外な結末ですが、エアアジア側からはANAに対する不満も聞こえます。曰く、エアアジア側は地方空港の活用を主張していて、発着枠が窮屈で門限もあって使い勝手の悪い成田に拘るANAの方針に不満があったようです。

エアアジア・ジャパン自体はANAの完全子会社としてブランドを変更して運航を継続するようですが、同時期にANAの関連会社でLCC事業を軌道に乗せたピーチが関空―成田線へ秋から2往復参入することになり、その発表会見でエアアジア・ジャパンの路線引継ぎなどの質問が飛んだようですが、「知らない、あっちに聞いてくれ」ということで全く無関係でした。元々ピーチは新業態ということで、親会社の意向に左右されない自由度を考慮してANAは20%出資に留まっており、持分法適用会社の位置づけですが、エアアジア・ジャパンはANA51%出資の連結子会社であることと共に、羽田の国際化で持て余し気味の成田発着枠を手放さないためということもあったのですが、搭乗率でピーチが78%、同じ成田フランチャイズのジェットスター・ジャパンでも74%に対し、エアアジアジャパンは50%の体たらくで、ANAにとっては問題にならない赤字補填も、ぎりぎりのコスト圧縮で運航するエアアジアにとっては唯一最大の赤字部門となるわけで、合弁維持は無理だったということですね。

エアアジア自身は日本の国内線参入意欲を失っておらず、提携先を変えて再参入を目指すということですが、大手以外の国内エアラインでANAの資本が入っていないのはスカイマークとFDAですが、航空以外の資本が入る可能性も捨て切れません。具体的にはJR三島会社や地方の有力企業などですが、地方空港活性化に自治体が後押しとかって展開も考えられますし、今回の破談は狼を野に放ったことになるかもしれません。ま、低金利下でも民間がリスクを取って投資が活発になることは歓迎すべきことですが、ANAがロビー活動で芽を摘む可能性もあり、注視していきましょう。

とにかく日本じゃ外資は嫌われる傾向が顕著です。西武HDの再上場問題を巡る経営陣とサーベラスの対立も、サーベラスが仕掛けたTOBが不調で、結局議決権の36%に留まりました。赤字路線の廃止などのエキセントリックな提案が報じられたこともあり、個人株主の応募が少なかったようですが、それでも重要事項を拒否できる1/3以上を押さえており、取締役の選任で総会でプロキシーファイト(委任状争奪戦)が展開されて、取締役会でサーベラス陣営が多数派を占める可能性もあるだけに予断を許しません。

以下与太話ですが、サーベラスの一部路線廃止提案の中に安比奈線(南大塚―安比奈)が入っていないことで「サーベラスは甘い」というネットの書き込みも一部で見られましたが、休止線で運行コストがかからない安比奈線と、営業線で運行コストを運賃収入でカバーできない路線の違いを理解していないものです。安比奈線に関しては、かつて新宿線の複々線化計画で車両基地の建設が取り沙汰されてましたが、その後の乗客の減少で計画が撤回されて宙に浮いたものの、高田馬場で東西線直通構想などもあり、将来に備えて維持されているものと思われます。維持費用そのものは期限毎の国への届出などの事務コストと固定資産税負担がありますが、鉄道資産の特例で評価額が1/3になりますから、休止線として維持することそのもののコストは西武の事業規模から言ってタダ同然と考えてよいでしょう。

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Sunday, June 02, 2013

成田スカアクセス

昨今問題になっているヘイトスピーチ問題ですが、橋下大阪市長の大炎上っぷりであらぬ方向へ向かっています。呆れてものも言えませんが、またその釈明がどんどん傷口を広げてドツボにはまっています。

sex slave(性奴隷)問題は決して日本固有の問題ではないことはそのとおりなんですが、だからこそ時代と共に高まる人権意識の中で、多くの国が格闘してきた問題なのに、選挙で選ばれた公人がそれをスルーして「日本だけが悪いんじゃない」というズレた認識が問題なんです。21世紀の現代に70年前のことの釈明を必死に行うことの異常さこそが問題なんで、この点は侵略戦争に関する認識のあいまいな安倍首相や、オリンピック候補のライバル批判と取られた猪瀬都知事のイスラム批判なども同様ですが、選挙で選ばれた公人のこの手の失言は、諸外国から見て国民の民度への疑義を想起させるだけに悪質です。

ま、そんな国際感覚だから、国際競争力会議なるもので、羽田空港と成田空港を1時間で結ぶ浅草線バイパスで、キャリーバッグ引いて徒歩で乗り継げる仁川空港に対抗して東京の競争力を高めようというんですから眩暈がします。そもそも成田のリアルな実情を知らないんじゃないかとさえ感じます。

羽田の国際化で成田には異変が起きています。成田のピークタイムは到着便が15-17時、出発便が17-19時と、必ずしも国内ユーザーの使い勝手を反映していません。何故こうなったかといえば、主に北米とアジアを結ぶゲートウエーとしての地位を成田が固めつつあるからです。国内基点ならば、利便性に勝り今後も発着枠が増える羽田に比べて見劣りは否めないところですし、深夜や早朝が使えないのもマイナスです。というわけで、羽田と成田の役割分担は既に始まっていて、今さら成田空港のアクセス改善で活性化は画に描いた餅でしかありません。

そもそも成田へのLCC誘致こそが活性化の目玉だったはずですが、皮肉なことに、夕刻のピークタイムがボトルネックとなって、度々門限問題で欠航を生じている状況で、成田拠点のジェットスターとエアアジアの2社は、搭乗率が低迷し、黒字転換の見込みが立たない状況にあります。つまり夕刻のピークタイムでは出発も到着も待ち時間が発生し、特に到着便が成田上空で1時間以上旋回待機となれば燃料費も嵩みますし、夜のフライトを後ずれさせて最終便が門限に引っかかるという悪循環を引き起こしているわけです。成田はLCCにとっても使い勝手の悪い空港というわけです。

そんな中で関空拠点のピーチだけは好調なんですが、ジェットスターは関空を、エアアジアは中部を第2拠点とすべく空港側と交渉中ですが、関空に関してはピーチが反対しているということで、すんなりいきそうにありません。エアアジアに関しては機材の追加調達を凍結するなどしてコスト圧縮に努めているという状況で、社長の退任などもあり、撤退も視野に入っているかもしれません。ジェットスターにしてもJALとのコードシェアで親掛かりで搭乗率を上げようとしている状況ですが、そもそも同一空港をLCC2社が拠点とするということ自体に無理があるので、ジェットスターとしてはエアアジアの撤退待ちが本音かもしれません。この辺は親会社のJALとANAの体力差の問題もあり、自民党政権のJALバッシングもあるので、予断を許さないところではあります。

こういった現実を見ないふりをしてアクセス改善で活性化しようという発想がそもそもおかしいわけですが、そのほかにもいろいろ問題があります。国土交通省の公表資料から見てみましょう。

成田・羽田両空港間及び都心と両空港間の鉄道アクセス改善に係る調査結果概要①(pdf)
運行本数の少なさが驚きですが、これは泉岳寺と押上が現行のままであれば、両駅がボトルネックとなり、浅草線とバイパスの合計で28本/時が限界ということです。つまり浅草線の輸送力を維持する前提ではバイパス線経由は4本しか設定されませんし、逆にバイパス線経由を増やせばその分浅草線の列車本数を減らさなければならないわけで、一応ケース3の浅草線18本、バイパス線10本を想定して需要予測として約22万人/日とはじいております。注意が必要なのは、これが純増を意味するわけではないということです。

これがメディア報道ではこうなるわけです。成田・羽田アクセス短縮 都営浅草線にバイパス新線 :日本経済新聞国交省の資料では、整備費用に問題があることをぼかしてはいるものの認めていますが、日経の記事では東京都の懸念という形で触れる程度です。そもそも国交省資料は突っ込みどころ満載なのに、報道機関としてどうなんだろうかと思います。矛盾ははっきりしていますね。バイパス線はできても前後区間のボトルネックに制約されて列車本数はあまり増やせないわけです。仮に需要予測の22万人/日がほぼ純増だとすると、今度は浅草線の輸送力が2/3に減って混雑を助長することになるわけですから、浅草線の利用者にとってははた迷惑な計画ということになります。

そして整備費用を3,500億円+αとしていて、車両基地や運行管理システムの改善、泉岳寺駅改良や両空港駅への引上線設置その他、事業費の試算に盛り込めなかったわけで、実は事業費自体は確定していないわけです。また事業主体が東京都交通局とすると、都市利便増進事業のスキームでは国と自治体と整備主体となる事業者で1/3ずつ負担するわけですが、当然交通局が整備主体となれば実質東京都が2/3を負担することになります。もちろん交通局分は地方公営事業として別会計ですが、それはとりもなおさず交通局の地下鉄事業に新たな負荷を与えることになるわけで、黒字転換で鼻息荒くメトロ併合をぶち上げる猪瀬都知事の一元化構想が遠のくことになります。

というわけで、国交省は苦肉の策として整備主体が30年償還可能な工事費の上限として4,700億円という数字を示しておりますが、これも要注意です。というのは、両空港駅の引上線設置などの+α部分を誰が負担するかがあいまいで、京成、京急を巻き込んだ負担の押し付け合いに発展する可能性もあり、関係社局間の協議がまとめられるのかなど、課題ばかりが目に付く計画です。

それともう1つ、大深度地下利用の鉄道計画という意味で、目新しさはありますが、それ故に通常の地下鉄と異なり、換気兼避難路としての中間駅を多数設置する都市地下鉄とは異なり、トンネルと並行する換気ダクト通路と避難通路を確保することになります。というのは、折角私権を制限した大深度地下利用でも、立抗を地上にd洗馬その部分は私権の影響を受けるわけで、中央リニア同様中間駅は極力減らす必要があり、実際バイパス線では丸の内仲通を想定した新東京駅以外の中間駅設置は明言されておりません。あくまでも速達化による需要誘発が狙いということになります。

その意味で小渕政権時代の緊急経済対策として事業化された副都心線との類似性の指摘もありますが、副都心線は純粋に輸送力増強であったことや、南北線や大江戸線で顕在化した人口の都心回帰による高層マンション建設などの再開発など需要誘発効果が見込めたことから、整備主体となる東京メトロが積極的に動いたことが指摘できます。早い段階で計画図面を公開し、東新宿の待避線を明記する一方で、渋谷駅は島式ホーム1面2線の最低限のものとして描いて、東横線の副都心線直通に興味を示していた東急を巧みに誘うという知恵を働かせました。つまり直通のために渋谷駅の規模が大きくなるとすれば、その拡大部分は東急の負担になるよということを暗に示唆して後に横浜高速を含む直通6社協議会へと繋げたわけです。東京都交通局にこんな寝技まがいのことができるのかどうか、はなはだ疑問です。

北総線という低稼働インフラと幻の計画線成田新幹線の未成区間を繋いで160km/hの高速運転でアクセス改善を果たした成田スカイアクセスと比べても意が足りないから「スカイ」じゃなくて「スカ」にしかならないわけです。ま、こういうわけですから、この浅草線バイパス計画は、かなりスジが悪いと言わざるを得ません。

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