安値大サーカス
タイトルどおりまさに波乱の1週間でした。とにかく株も為替も黒田日銀の4月の異次元緩和以前の水準に逆戻りです。しかも世界全体が連動した点は見逃せません。
世界の株式、19市場で下落 米量的緩和の縮小観測で :世界株WEEKLY :海外 :マーケット :日本経済新聞原因として米FRBの金融緩和(QE3)縮小の観測でということになっておりますが、FRB自身は何も言っていないのがミソです。主に住宅ローン証券の購入で、競売物件の放出で市場が軟化しやすい住宅市場の下支えが狙いです。ちなみにQE3はQuontitative Easing program ver.3 の短縮形ですが、日銀の異次元緩和も Qualitative Quontitative Easing program で異次元量的緩和ということで、略してQQEで以下この表記といたします。
米住宅ローンはノンリコースローン(非訴求型融資)で、返済が焦げ付いて担保差し押さえするとローンが消滅しますから、融資した金融機関が担保物件の損切り売りで回収を図る結果住宅価格が下落し、逆資産効果で消費が冷えるという連座を断ち切る必要に迫られたもので、国内要因によるものですが、その米消費市場への依存度をた高めつつある日本の輸出製造業の業績に依存する Nikkei225 がむしろ敏感に反応してしまうというカラクリは既に指摘しているとおりです。FRBのバーナンキ議長も、ゼロ年代のITバブルの轍を踏まないために、こうした市場の過剰反応をむしろ利用しているわけで、遮二無二力技で市場を屈服させようとする黒田日銀より役者が一枚上手です。6月の政策決定会合後の定例会見で意気消沈の黒田総裁でしたが、あそこは裏声で「クロちゃんです」だろが(笑)。
しかも安倍首相の「第三の矢」発表のタイミングを計ったように株価が下落、為替は円高と動いたんですから笑えます。市場は安倍政権の成長戦略に失望したというストーリーが語られ始めました。その真偽はともかく、成長戦略に欠かせない規制改革の目玉がクスリのネット販売解禁というのですから呆れます。最高裁判決では改正薬事法がネット販売禁止やその根拠とされる対面販売を予定していないから、これを省令で禁止することに根拠がないとしたわけですから、既にクスリのネット販売は事実上解禁されているわけで、それを第一類の一部の25品目を除外して解禁する法律を作るということは、司法判断を無視して新たに禁止事項を法で定めるという話ですから、規制緩和ではなくて新たな規制の導入なんですね。こうしたレトリックがちりばめられた成長戦略なんぞ、とっくに市場からは相手にされちゃいません。
為替と株が動いた一方で、4月のQQE直後に乱高下した長期金利はむしろ安定傾向にあります。つまりリスク資産から安全資産に資金が回帰したわけで、こちらも元の木阿弥というわけですが、注意が必要なのは市場で流通する国債自体は日銀の大量買入れで減っているわけですから、単純に資金が戻ったわけではなく、消えたわけです。
種明かしすれば不安定な国債保有を銀行が嫌って手放したのが長期金利上昇のカラクリでしたが、さりとて融資先が現れるわけでもなく、日銀当座預金に超過準備としてブタ積みされているのが実際です。なにしろ責任準備金の超過分には政策金利と同じ0.1%の利息が付きますから、下手にリスクを取るより賢い運用といえるからです。かくしてベースマネーは増えてもマネーサプライは増えない流動性のわなからは抜け出せないわけです。
危惧されるのは国債市場の流動性の低下です。過去にも90年代末のゼロ金利政策で、銀行間で短期資金をやり取りするインターバンク市場が機能しなくなったことがあります。それが2000年8月のゼロ金利解除に日銀が踏み込んだ理由だったんですが、景気を失速させた失敗として非難され、2001年3月の量的緩和政策へとつながります。厳密にはゼロ金利復帰ではないんですが、テクニカルな話なので、ここでは説明を割愛します。
そして低金利の弊害についても度々指摘しておりますが、1つは低金利による財政規律の緩みで、財政赤字がいつまでも解消できないということ、その結果無駄な公共事業で低稼働公共資産の増加で国全体の生産性を押し下げている点などは既に指摘しておりますが、加えて低金利ゆえに例えばシャープの堺工場やパナソニックの尼崎プラズマパネル工場のように、甘い事業見通しで過剰投資に踏み込んで経営を圧迫している例にあるように、低稼働資産への投資は民間も同じです。そして更に、これらを踏まえて民間設備投資そのものが不活発になっていくことで、低成長に拍車がかかります。
この点はあまり指摘されておりませんが、そもそも企業の利益率が利子率に収斂されるというのは経済学の基本的命題の1つです。企業の総資産利益率(ROA)が銀行利子を下回るならば、保有資産を現金化して銀行に預けるほうが賢い資産運用になるわけですから、企業経営ではROAが利子率を上回ることが求められるわけです。もちろん企業の保有資産には換金すると値を下げてしまうものもあるわけですし、リスクを取って投資して損失を計上することもありますから、長期的には利子率に修練されてくるわけです。その意味で低金利は企業のリスクテイクのインセンティブを奪うことになります。言葉を変えればぶっちゃけ低金利だと企業は競争しなくなるということです。
思えば80年代後半以降、為替調整の裏の意図もあって米金利を下回る政策金利を長く続けた結果、日本企業はリスクを取らなくなり、欧米企業と比べて利益水準が低い状態で推移してきました。上記のとおり中長期で利益率が利子率に収斂されるとすれば説明がつきます。そしてこのことが、企業に人件費圧縮のインセンティブを与えているとすれば、ゼロ年代以降の賃金低下も説明がつきます。結果、低金利を長く続けた結果、賃金デフレを招いたということになりますから、QQEの結末は賃金デフレの重症化でデフレ脱却どころか事態を悪化させるだけとなります。
政府も投資が不活発な点は気にしているようで、投資減税に言及するようになりましたが、実は意味がありません。投資減税はあくまでも黒字企業しか恩恵がないばかりか、JAL再生で自民党が問題視した最大9年の損失繰越で、実は黒字企業でも法人税を納めていない企業は多数あります。上述のシャープやパナソニックも該当します。そういった企業は減税の恩恵は無関係ですから、積極的な設備投資のインセンティブにはならないわけですね。
といいつつ、JALつながりで前エントリーで指摘したエアアジア・ジャパンの撤退の可能性ですが、動きがありました。結果的には合弁の解消でエアアジア・ジャパンはエアアジア出資分の49%部分をANAが肩代わりして完全子会社化するということが報じられました。意外な結末ですが、エアアジア側からはANAに対する不満も聞こえます。曰く、エアアジア側は地方空港の活用を主張していて、発着枠が窮屈で門限もあって使い勝手の悪い成田に拘るANAの方針に不満があったようです。
エアアジア・ジャパン自体はANAの完全子会社としてブランドを変更して運航を継続するようですが、同時期にANAの関連会社でLCC事業を軌道に乗せたピーチが関空―成田線へ秋から2往復参入することになり、その発表会見でエアアジア・ジャパンの路線引継ぎなどの質問が飛んだようですが、「知らない、あっちに聞いてくれ」ということで全く無関係でした。元々ピーチは新業態ということで、親会社の意向に左右されない自由度を考慮してANAは20%出資に留まっており、持分法適用会社の位置づけですが、エアアジア・ジャパンはANA51%出資の連結子会社であることと共に、羽田の国際化で持て余し気味の成田発着枠を手放さないためということもあったのですが、搭乗率でピーチが78%、同じ成田フランチャイズのジェットスター・ジャパンでも74%に対し、エアアジアジャパンは50%の体たらくで、ANAにとっては問題にならない赤字補填も、ぎりぎりのコスト圧縮で運航するエアアジアにとっては唯一最大の赤字部門となるわけで、合弁維持は無理だったということですね。
エアアジア自身は日本の国内線参入意欲を失っておらず、提携先を変えて再参入を目指すということですが、大手以外の国内エアラインでANAの資本が入っていないのはスカイマークとFDAですが、航空以外の資本が入る可能性も捨て切れません。具体的にはJR三島会社や地方の有力企業などですが、地方空港活性化に自治体が後押しとかって展開も考えられますし、今回の破談は狼を野に放ったことになるかもしれません。ま、低金利下でも民間がリスクを取って投資が活発になることは歓迎すべきことですが、ANAがロビー活動で芽を摘む可能性もあり、注視していきましょう。
とにかく日本じゃ外資は嫌われる傾向が顕著です。西武HDの再上場問題を巡る経営陣とサーベラスの対立も、サーベラスが仕掛けたTOBが不調で、結局議決権の36%に留まりました。赤字路線の廃止などのエキセントリックな提案が報じられたこともあり、個人株主の応募が少なかったようですが、それでも重要事項を拒否できる1/3以上を押さえており、取締役の選任で総会でプロキシーファイト(委任状争奪戦)が展開されて、取締役会でサーベラス陣営が多数派を占める可能性もあるだけに予断を許しません。
以下与太話ですが、サーベラスの一部路線廃止提案の中に安比奈線(南大塚―安比奈)が入っていないことで「サーベラスは甘い」というネットの書き込みも一部で見られましたが、休止線で運行コストがかからない安比奈線と、営業線で運行コストを運賃収入でカバーできない路線の違いを理解していないものです。安比奈線に関しては、かつて新宿線の複々線化計画で車両基地の建設が取り沙汰されてましたが、その後の乗客の減少で計画が撤回されて宙に浮いたものの、高田馬場で東西線直通構想などもあり、将来に備えて維持されているものと思われます。維持費用そのものは期限毎の国への届出などの事務コストと固定資産税負担がありますが、鉄道資産の特例で評価額が1/3になりますから、休止線として維持することそのもののコストは西武の事業規模から言ってタダ同然と考えてよいでしょう。
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