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Sunday, July 28, 2013

スペイン高速列車事故の背景

いやひどい事故が起きました。スペイン北西部のサンティアゴ・デ・コンポステーラ近郊で起きた事故は、画像が公開されて繰り返し再生されたこともあり、世界に衝撃を与えました。事故原因は一目瞭然。速度超過による転覆脱線で、JR西日本福知山線尼崎事故と同じですが、80km/h制限のカーブを190km/hで通過ということで、原因はははっきりしているのですが、メディアの反応は「保安装置ガー」とか「遅延払い戻しガー」というようなものだったり、某鉄道アナリスト氏にコメントを求めて、氏も知ったかぶりコメントで結局何を言いたいのかわからないのは尼崎事故のときとソックリです。

ま、それでもドイツICEのエシュデ事故や中国高速鉄道温州事故のときのような「日本の新幹線の方が安全で優秀」というバイアスのかかったミスリードが前面に出ることはないようですが、鉄道が各国の風土や社会によってさまざまな背景を持っていることなどはほとんど無視されています。ここではその辺に絞って進めます。

スペイン国鉄(RENFE)は、1,668mmという広軌を採用していることは知られていますが、大陸欧州に広がる国際標準軌の4ft8in1/2(1,435mm)と異なる軌間の採用はいろいろ言われていますが、ピレネー山脈で接するフランスとの歴史的角逐を理由とする軍事的側面は否定できません。

もちろん当時の技術でピレネー山脈越えが直ちに実現できたかどうかという問題もありますが、スペインの国内事情を見ると、起伏の多い地形で真っ直ぐ線路を引けず、また中世の城塞都市が多く、都市へのアクセスが難しいなどの問題もあり、カーブの多い線形ですから、曲線通過性能に優れる狭軌の方が適しているはずです。実際英連邦南アフリカ連邦では、鉱山関連で重量物輸送を強いられるにも関わらず、ケープゲージと言われる3ft6in(1,067mm)が採用されてますし、スイスを中心にアルプス地域の小鉄道でメーターゲージ(1,000mm)が多数見られるのも、地域の地理的特性からすれば自然です。

この観点から言えば大隈重信が後年痛恨の極みと述べた日本のケープゲージ採用も、当時としては適切な判断だった可能性が高いという評価が可能ですし、国際標準機で別規格の新幹線の建設によるブレークスルーで、高速鉄道の可能性を広く世界に示したという意味での歴史的評価も可能です。

というわけで、かつて無敵艦隊で大航海時代の覇権国だったスペインが広軌を採用した理由は「エゲレスごときのローカルルールに従う必要なし」というニュアンスが感じられます。その結果、線路が真っ直ぐならば高速運行や大量輸送の能力は高いかもしれませんが、RENFEの在来線の線形はそれと程遠いものでもあります。また大陸欧州では国境を越えて線路がつながり、多様な国際列車が行き来する一方、同一軌間のポルトガルを例外として、国内に閉じたネットワークが長く続きました。案外近代におけるスペインの停滞はこんなことも影響しているかもしれませんね。

もちろん内戦以後の長期軍事政権下での停滞は大きな要素だったと思いますが、その結果RENFEの路線には非電化区間が多数残り、効率的な鉄道輸送を阻んできたという点も見逃せません。そんな中で考案されたのがTalgoシステムです。広軌で曲線通過時に内外車輪の回転差をセルフステアリングで吸収できないため、車輪のタイヤやフランジの磨耗が激しく、改善を求められていました。その答えとして、車軸の通っていない左右独立車輪で過剰磨耗を防止すると共に、床面を下げて曲線通過性能を高めるなどの意図があったものですが、その驚くほどシンプルな仕組み故に、軌間可変システムや支持点を高くしただけのシンプルな振り子システムなどの機能を追加しやすかったというのも特徴的です。

そんなスペインですが、1975年のフランコ将軍死去による王政復古で、ファン・カルロス王子は専制政治を引き継がず、内政の民主化が行われ、また西欧諸国との国際協調も進み、1986年にはEUの前身のECにポルトガルと共に加盟します。その結果多くの企業が生産拠点をスペインに移し、工業化が進み、奇跡の経済成長を遂げることになります。進出企業は日産などの日本企業もあり、欧州単一市場の形成と共に、相対的に賃金水準の低かったスペインが注目されたわけです。スペインで生産された製品はEC→EU域内で関税なしで販売できたわけです。

またスペインの奇跡の成長は欧州にとって統合の果実として認識され、市場統合から通貨統合へ、さらに東欧圏への加盟国拡大という形で以後の欧州のあり方を規定することにもなりますが、皮肉なことに統合の成功が年用を帯び、2007年のサブプライムショックを契機とするバブル崩壊で一転、停滞へと向くことになります。スペインでも国内の地価高騰は明らかにバブル水準でしたが、ドイツやフランスなど他国と比べて小規模銀行が多い国内事情から、実態経済は比較的健全なのに金融危機の影響を大きく受けることになります。

というわけで、PIIGSという屈辱的な呼称で一くくりされる南欧各国ですが、スペインは専ら金融危機が財政危機に飛び火したもので、結果的に公共投資が抑制を余儀なくされますが、AVEは1992年のマドリード―セビリア間の開業に始まり、速いペースで建設が進んだ点で、中国高速鉄道と似た側面があります。また地質上の問題や信号システムが非対応であるなどのさまざまな問題で最高速が実現しておらず、またバルセロナでは19世紀の脆い基礎の下にトンネルを通して地権者を激怒させたりと、いろいろ問題も起こしており、急成長のひずみという意味で中国高速鉄道に似ています。

一方で曲線の多い在来線は平均時速60km/h程度の低規格の路線が多く、AVEの開業区間との不均衡が問題視された結果、建設促進を求める地方の声が強く、今回の事故地点を含むオウレンセ―サンティアゴ・デコンポステーラ―ア・コルーニャ間のような孤立路線まで開業し、マドリードからの直通ルートに非電化区間があるということで、Talgo/Bombardierの期間可変タイプの130系にディーゼル発電機を搭載した電源車を連結して電気/ディーゼルのモード変換が可能な730系を用意することになりますが、いかにも急ごしらえでバランス悪そうです。ただし今回の事故では火災の発生の原因にはなっておりますが、そもそも速度超過の程度がひどすぎるので、車両構造の問題は切り離して考えるべきではあります。ま、一部メディアが明らかにしている運転士のスピード狂振りは驚きですが、運転士の裁量が大きいのが欧州流かもしれません。そういえば2010年の氷河急行の事故も運転士の速度超過という司法判断がされています。

むしろ市街地へのアクセス区間で在来線並行区間で、ここだけ在来線タイプの簡易な保安装置しか装備されていなかったというのが特異です。高速新線区間だけで見ればドイツ方式のLZBと呼ばれる日本のATC相当のシステムが導入されていますが、事故地点の手前で在来線モードのシステムに切り替わるというよくわからない仕様だったようで、この辺は福知山線事故と酷似します。財政制約がある中での整備促進に無理があった可能性はあります。

ただ厳しすぎる遅延払い戻しの影響はそれほど大きくないと考えられます。元々日本の鉄道と比べれば運行密度は低く、その一方で国境を越える国際列車が多数設定されている欧州では、余裕時分は多めに取られてて、早着も珍しくない状況で、元々タイトなダイヤから更に余裕時分を削ったJR西日本のケースは当てはまりません。むしろ上記のように早期整備に前のめりになった結果の事故という意味で、中国温州事故と似た背景があるということが言えます。

というわけで、日本人の私たちに何か教訓があるとすれば、整備新幹線の問題を指摘したいところです。とりわけ今まで新幹線の運営が未経験な三島会社の参入は、結構なリスクかもしれません。実際こんなことが起きています。

九州新幹線立ち往生、多重トラブルが原因か | 日テレNEWS24
これ自体は単純な経験不足かもしれませんが、国鉄時代からの継続性のある本州会社と違って、純粋に新規参入となる三島会社にはそれなりのハードルがあると考えた方が良さそうです。特に最近トラブル続きでメンテナンス体制に疑義を持たれているJR北海道は洒落にならない感があります。何しろ当ブログでもスーパーおおぞら事故エントリーが連日アクセストップですし。

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Comments

I really enjoy the blog.Really looking forward to read more. Cool.

Posted by: men shoe lifts | Thursday, August 08, 2013 at 02:06 AM

Thank you.

Posted by: 走ルンです | Thursday, August 08, 2013 at 10:25 PM

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