三重のナロートークの打算と誤算
あぢー。PCも熱暴走しそうな陽気で、ブログ更新が滞っております(笑)。流石にこんだけ暑いと電力需給も逼迫しているらしいのですが、相変わらず節電のお願いだけということで、やっぱり電気は余ってたということです。一応こんなんがありますが。
6電力会社 この夏の「需要」を更新 NHKニュースというわけで、よほど突発的な発電所または送電系統の事故でもない限り、停電は起きないということで、電力の逼迫は伝えたいけど甲子園中継のテレビを消されたくないNHKが遠慮がちに伝えているのが笑えます。あんまり電気が足りない足りないと言えないメディアの苦悩も窮まりました。
もちろん需給が逼迫すると系統の制御が難しくなって、周波数が不安定になるなどの弊害はあり得ます。それによってハイテク機器の中には誤作動を起こすものもあり得ます。そういえばこんなニュースも。
緊急地震速報、過去最大規模の“誤報” 原因は「地震計のノイズの途切れ」 - ITmedia ニュース大誤報は暑さのせい(笑)。もちろん裏は取れてませんが。というわけで、脳ミソもとろけそうな暑さの中で、広軌に続いて狭軌の話題です。
近鉄が内部・八王子線のBRT化を打ち出したのは2012年8月21日なので、まもなく1年になりますが、地元四日市市が反発しており、両者の議論は平行線のまま、今月末のタイムアウトを迎えそうです。鉄道での存続を求める地元に対して、近鉄は施設と車両の無償譲渡を前提とした鉄道存続案を提示しておりますが、地元は受け入れ姿勢を示していないようです。
そもそも大近鉄にとって年間3億円程度の赤字路線の存続がなぜ問題なのかといえば、2ft6ibn(762mm)の特殊狭軌線であることに行き着きます。国内では10年前に同じ近鉄から三岐鉄道へ移管された北勢線と、富山県の黒部渓谷鉄道のみという特殊規格が災いし、車両も施設も一点物の特注品にならざるを得ず、老朽化に伴う更新投資が手詰まり状態にあるということです。しかも最小曲線半径100m、最急勾配25/1,000で、ポイント番数7番相当の急角度の分岐器の路線を、かつてやはり特殊狭軌線だった湯ノ山線のように改軌するのは非現実的です。全線四日市市内の立地し、沿線が市街地化されているだけに困難です。
逆に言えば、だからこそ特殊狭軌の意味があったとも言えるわけで、普通規格の鉄道では建設すら困難な路線でも小資本で実現できるという意味で、全国に多数の2ft6in(ニブロク)ゲージ鉄道が建設されたわけですが、その能力の低さゆえに、既に戦前段階で、台頭するバスとの競争に敗れ去った路線も多数にのぼります。
逆に急曲線や急分岐が可能で小回りが利くので、黒部渓谷鉄道の前身の日本電力専用線のように、電源開発目的など土木工事や資材搬入の目的で建設された専用線も多数あったのですが、これも戦後は工事用道路を作って大型トラックやダンプや重機を直接現場へ向かわせるようになり廃れます。余談ですが大井川鐵道井川線も元々は電源開発用にニブロクゲージで建設された後に貨車直通のため3ft6in(1,067mm)ゲージに改軌されたものの、車両限界が元のままという珍しい路線です。一方豪雨で不通となっているJR東日本只見線の只見―田子倉間は、電源開発(株)の専用線を国鉄に編入したものですが、当初から国鉄規格で作られており、国策による電源開発とはいえ破天荒な資金力による力技ぶりが際立ちます。
で、ニブロクゲージのサイズ感を示すのが、近鉄式ATSの地上子の位置で、レール間に収まらないのでレール脇にオフセットされた状態で設置されているわけです。そんな風ですから駆動用モーターも小型でなければならないですが、それ以上に困難なのが駆動装置です。
標準規格の鉄道では、台車枠に架装されるモーターと車軸の偏倚仁対応するために、モーターの回転子軸と車軸の歯車装置の間に、合成樹脂たわみ板またはギヤカップリングの自在継手を介したカルダン軸を置くことで対応しており、回転子軸を中空にしてカルダン軸をその中を通すなどの工夫をして1,067mmの狭軌にも対応してきたんですが、さすがに762mmではそれも困難ということで、モーター重量の半分を車軸に担わせる旧式の吊り掛け駆動にせざるを得ないのですが、メーカーに打診してもそれができないと言われてしまう現状があります。吊り掛け式の場合、構造上モーター筐体に強度を持たせる必要があり、特殊設計の一点モノになるのでお値段ガーという話になります。
過去にはガソリンカー改造で駆動装置を転用し、床下にモーターを吊るしてプロペラシャフトで駆動するとか、モーターを垂直に立ててウォームギヤで駆動する垂直カルダンドライブなどの変てこなものもありましたが、いずれも過去帳入りしておりとても使えません。となると老朽化が進む現在の車両を新車に置き換えることすら困難ということになります。加えて冷房化というハードルも存在します。つまり鉄道で残そうとすれば下手すれば冷房もついてない車両で我慢することすら覚悟しなければならないわけで、乗客目線で考えればBRT化はやむなしというところでしょう。
実はこれらの問題は三岐鉄道に移管された北勢線にも当てはまる問題ですが、こちらは員弁川沿いの集落を結ぶ生活路線という性格が強く、自治体の補助でやっと存続して入るものの、将来展望が描けないのは同じです。近鉄時代に改軌も検討されたことはありますが、近鉄名古屋線と関西本線を乗り越す橋梁部分は強度上も線形上も放棄せざるを得ず、やはり桑名市内の市街地で別ルートをというほとんど不可能な課題を抱えています。移管から10年の今年は、やはり何らかの動きが出てくる可能性はあります。
というわけで、趣味的には残してほしい特殊狭軌線ではありますが、残念ですがもはや大近鉄の内部補助頼みでは成り立たないところまで来てしまっているということになります。しかも沿線にこれといった集客施設があるわけでもないし、輸送能力からいって本線に客を送り込む培養効果もほとんどなしという中で、BRT化は近鉄がそれでも単純に撤退しないということでもあるわけですから、地元がもう少し歩み寄るしかないでしょう。
で、地元が拘るのは、伊賀線と養老線の子会社化による存続という近鉄のローカル線対策の分かりにくさにも原因がありそうです。この問題に関しては、課税特例を悪用した疑惑の処理の可能性を繰り返し指摘いたしました。もちろん裏づけはありませんし、その後の不動産市況の変化で、鉄道用地の評価替えをこっそり元に戻されている可能性がありますので、北勢線や内部・八王子線では当てはまらないだろうと思います。まぁそれ以前に上野市や大垣市などの重要拠点を抱え、本線の培養効果もそれなりにあるなど、支線の位置づけにも違いはありますが。
四日市市の立場として、伊賀線や養老線でできた子会社化による存続が何故できないのかという疑問はわかりますし、近鉄が納得的な回答をできるのかというあたりに、問題を複雑にする要素がありそうです。延長7km程度の路線で減価償却も進んでますから、簿価は幾らでもないでしょうし、施設や車両の無償譲渡も近鉄としてはわけもない話でしょうけど、ならば近鉄保有のまま運営部門の子会社化が何故できないのかというのは明確な回答が難しいのではないかと思います。企業として答えにくい租税回避問題が絡んでいると仮定すればですが。
アップルの米議会証言で注目された租税回避問題ですが、海外展開する日本企業の多くが、ケイマンやシンガポールなどのいわゆるタックスヘイブンにペーパーカンパニーを置いているのは公然の秘密ですし、運輸業などのドメスティック企業にとっては、祖特法による課税特例は、業界に対する救済策と認識されていて、拡大解釈が普通に行われている現状もあります。例えば個人事業主の青色申告では3年までしか認められない損失繰り越しが、企業に対しては延長に延長が重ねられ、9年になっているということなど典型的ですが、民主党政権時代に法人税減税の財源として言及されたときに、恩恵を受けるはずの財界が一斉に反発したなんてことがありました。民主党の考え方自体は、国際的な法人税減税の流れに沿った課税ベースの拡大による税率ダウンというものでしたが、日本を代表する大企業が、実は祖特法の恩恵を受けていて、民主党案が実現すると増税になってしまうという矛盾を抱えているわけです。
またJALの再建で過去最大の増益を実現しながら、損失の9年繰り越で納税義務を負わないということで、ANAのロビーに呼応して自民党がJALの再建にイチャモンつけたのも記憶に新しいところです。大企業にとっては、本業の競争力を高めるよりも、数年毎に大規模なリストラをして減損処理で損失を出すことで、課税を逃れ続けることすら可能です。そんな連中の主張する法人税減税なんぞチャンチャラおかしいんですが。
というわけで、この話題に突入すると果てしなく拡散してしまうので、この辺にしておきます。というわけで、愛のピロートークならぬ三重のナロートークは打算と誤算の産物かも。あれ、同んなじ?
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Comments
こんにちは。
興味深い記事の数々、いつも楽しく拝見しています。
すでにご存知かとは思いますが、内部・八王子線に関しては以前に杉山淳一氏の記事でも取り上げられていて、やはり四日市市に歩み寄りが必要との見解を述べてみえましたね。
http://bizmakoto.jp/makoto/spv/1303/15/news013.html
Posted by: ポポロ | Monday, August 12, 2013 08:20 AM
近鉄の話とはずれますが、欧米の車両御三家(シーメンス、アルストム、ボンバルディア)にとっては、1067mm(およびメーターゲージ)も762mm同様、ナローゲージとして一種特殊な扱いのようです。(あくまでも東南アジアで、聞いたことと当方の推測ですが)
バンコク市内の鉄道整備で、レッドラインと呼ばれる部分が「メーターゲージ」になったので、標準軌以外に手を出したくない欧米御三家ではなく日系の受注のチャンスが大きい、と聞いたことがあります。(他は地下鉄・スカイトレイン・エアポートリンク同様の標準軌)
日本の場合1067mmが一種のスタンダードになっており、特殊な製品ではないですが欧米では762mm同様特注品になるのかも、と感じた次第です。
Posted by: あかぐま | Monday, August 12, 2013 10:28 AM
車体装架カルダンは、アルナ車両のリトルダンサー最新モデル採用されており、現在でも利用はされています。
ただ、ナローゲージに適用できるかどうかは別ですが・・・。
3億赤字の事業に新規投資しても回収見込みが不透明ですから、近鉄だけじゃなく企業としては当然の対応な訳で、公共性を盾にとって存続を主張する自治体に毎回ながら違和感を感じます。
まぁ、鉄道からバスになるとレベルが下がった的な古い見方しか出来ない人が多いという事ですかね。
Posted by: Shimono | Monday, August 12, 2013 12:34 PM
培養効果の多寡はどのような基準で判定しているのですか?
内部・八王子線の四日市付近は、輸送量でいえばそれなりの水準にあるはずと推測されるのですが。
Posted by: しょくぱん | Monday, August 12, 2013 09:57 PM
多数のコメントありがとうございます。
えー、個別にお答えすべきところですが、やはり今ホットな話題ということなんですね。「何が何でも鉄道で残せ」というのはほぼ不可能というのは、まぁ間違いなさそうです。
リトルダンサーの車体架装カルダンに関しては、論じるだけの知見を持ち合わせておりませんので、今回は取り上げませんでしたが、おそらく打診はされてるんじゃないかとは思います。まさか元阪急グループだからガン無視?
あかくまさんご指摘のアジアの鉄道事情と鉄道ビッグ3の弱点?も興味深いところです。軌間を巡るあれやこれやは、深い問題をはらんでいるようですね。日本の場合1,067mmがスタンダードというのは、強みでもあるし、逆にガラパゴス的な弱みにもなり得るという両面がありそうです。
しょくぱんさんご指摘のように、内部・八王子線の輸送量自体は、それなりの量はあるようですが、定期券利用の通学生だったりすると、あんまりうまみはないでしょうし、逆にマイカーへの逸走もないわけで、自治体持ちのスクールバスではなく、おそらく三重交通あたりに委託されるにしても、BRTとして近鉄がコミットするというのは、地元への配慮も感じられます。
タイムリミットは今月末ということで、どうなるか注目しましょう。
Posted by: 走ルンです | Tuesday, August 13, 2013 01:02 AM
伊賀線と養老線の子会社化も上下分離方式で運行部門の子会社化だけで設備は近鉄が保有しています。内部・八王子線では同じように運行は近鉄子会社ですが、設備は近鉄の無償譲渡により市が保有する事になります。この違いは公共交通活性化法の施行時期にあります。公共交通活性化法では上下分離による公設民営が法制化されましたが、この法律は平成19年5月26日成立、10月1日施行です。伊賀鉄道、養老鉄道による運行は平成19年10月1日(本来は4月1日からを目指していた)からで公共交通活性化法が成立される前から経営形態の見直しが検討されていたため、公設民営方式は元々無理でした。内部・八王子線は公共交通活性化法施行後のため、公設民営による上下分離が可能になりました。
上記の部分が大きいのですが、やはりナローである事も影響したものと考えられます。特殊なナローであるため、設備投資費や補修部品や消耗品なども高コストになり、また将来の動力車更新問題による継続可能性からも、内部・八王子線を伊賀線・養老線の様に保有し続ける事が営利企業である近鉄には出来ないとの判断になったものだと思われます。
あかぐまさんへの回答
アルナ車両の車体装架カルダンは台車が車体にほぼ固定されており、曲線で旋回しない構造のため、推進軸の偏倚を考慮する必要がありません。よって台車が車体に対し旋回するボギー車では使用できません。つまり数mの車体を連ねる連接車でないと使用不可能であり、事実上内部・八王子線や北勢線に適用できません。
Posted by: みやさん | Saturday, September 14, 2013 12:54 AM
コメントありがとうございます。ご指摘の公共交通活性化法の施行以前に、青い森鉄道が実質的な公設民営方式で開業しています。
国鉄改革関連法の鉄道事業法で元々第一種、第二種、第三種の形で上下分離が定義されていましたし、鉄道事業法以前の地方鉄道法時代から、公的セクター保有の鉄道資産の固定資産税免除の規定もありましたので、法の建て付けとして元々可能でした。同法施行で変わったのは、条文で明文化されたことで、手続きがスムーズになったことで、例えば同年11月に三陸鉄道が沿線市町村によるインフラ部無償譲渡が同法の認定を受けたのは確かです。
また元々上下分離が定義されていなかった軌道法準拠の富山ライトレールに関しては、同法施行が大きく背中を押しました。同法自体、LRT事業育成の意図があったかもしれません。
ですから同法施行時期の制約はあまり関係ないのではないでしょうか。三陸鉄道の場合でも、同法施行以前から、沿線市町村による経営支援策が検討されていて、渡りに船だったわけで、近鉄の場合それ以前から検討されていたとしても、同法成立は関係者も承知していたはずで、公設民営が実現不可能だった理由にはならないと思います。
よく考えてほしいんですが、伊賀鉄道も養老鉄道も鉄道資産を保有する近鉄は沿線自治体に固定資産全を払い続けているわけで、沿線自治体にとってはある意味破格の条件での鉄道存続になっている点で、やはり合理的に説明がつかないスキームということは言えます。
Posted by: 走ルンです | Saturday, September 14, 2013 04:31 PM