安全は創られるもの
JR北海道がまたぞろニュースになっております。日常的に接する機会もないし、得られる情報は限定的なんで、あまり突っ込んだ話はできないのですが、国鉄末期を思い起こさせるトラブルの多さは、やはり異常と申し上げるしかありません。
JR北海道、レール異常放置97カ所に 社長が謝罪 :日本経済新聞JR北海道の立地条件から言って、自然条件の厳しさは指摘しておく必要はありますが、それにしてもマニュアル遵守が求められる現場でマニュアルが守られていなかったのですから、言い訳の余地はありません。と同時に、マニュアルがなぜ守られなかったについても見ておく必要があります。
JR北海道に関しては、車両トラブルの多さもあり、当ブログでも過去にディーゼル特急の火災事故の話題を2度に亘って取り上げておりますが、トラブルは電車列車であるスーパーカムイなどでも起きており、車種を問わずメンテナンス全般でマニュアルが守られていなかったという意味で、今回の線路の不具合と同じ背景の出来事と見て良いでしょう。
マニュアルが守られない理由として考えられるのは、マニュアルが実態とかい離しているということがっ考えられます。鉄道のメンテナンスは経験工学の世界で、過去の事故やインシデント(ヒヤリハット)の結果を反映しながら改定が繰り返される性格のものですから、マニュアル通りに作業が行われていれば、ベテランだろうが若手だろうが派遣社員だろうが、同じレベルで可能なはずです。
しかし実際にはそういった過去の経験の積み重ねであることの意義を作業者に理解させることができずに、面倒だからと手抜きされたり、見られてなければといった甘い認識が生まれたりすることはあり得ます。また現実的に作業時間が短かったり、マニュアル通りに作業できない例外的な事象が多かったりすれば、やはり守られなくなります。つまるところは現場の作業環境が適切に管理されているかどうかという問題でもあり、現場の怠慢で済ませる話ではなく、すぐれてマネジメントの問題であるということが言えます。
実際、問題が発覚した後のJR北海道の混乱ぶりを見ると、現場の状況を把握できていなかったとしか見えません。また保線や車両検修部門に留まらず、駅員や乗務員にも問題が見られる点からいって、組織マネジメント全般に問題を抱えていると考えられます。それを示すニュースです。
JR北海道の運転士、停止装置壊す 札幌運転所で操作ミス隠し-北海道新聞[道内]
JR北海道・特急列車が無断発車 島松駅で指示確認怠る-北海道新聞[道内]前者は寝台特急北斗星の乗務員が操作ミスでATSスイッチが作動したために、自分のミス隠しでATS装置をハンマーでたたき壊して誤魔化した事案ですし、後者は千歳線島松―北広島間で落雷で信号がブラックアウトしたことから、通知式と呼ばれる代用閉そくで運転していたのですが、通知式というのは、駅間に1列車のみの運行のために、先行列車が次駅(北広島駅)を出発したことを指令を通じて通知することで、後続列車の発車を許可するという厳格な手順が定められていますが、勘違いした島松駅の駅員が手信号で発射合図し、特急列車の運転士も指令仁確認せずに発車させたもので、指令が気付いて停止を指示したことで緊急停止し事なきを得たものです。保安装置が働かない代用閉そく運行でのマニュアル無視は、信楽高原鉄道事故の例を引くまでもなく、重大事故につながる問題です。
なぜJR北海道でこういった不祥事が続くのか、正直なところはわかりません。社長の自殺というスキャンダラスな事件があり、遺書に36協定違反事件への言及があったことから、労使関係の問題に解を求めようとする向きもありますが、この点はどうかなと思っております。
元々労基法36条は、超過勤務について1日8時間、1月45時間、1年360時間、法定休日出勤2日という上限を定め、やむを得ない事情でこれを超える場合は、事前に労使協議で1月30時間を限度に1年に6回まで延長が認められるとするもので、ただし1年360時間の上限は越えられないとする規定を根拠とする労使協議のことです。2011年7月8日に、札幌中央労基署のサンプル調査で、本社計画部門の1名に36協定違反があると指摘され、その後の調査で3年間で延べ450人が当てはまると発表されたものですが、直後にJR総連系の北鉄労が会社を非難する姿勢を見せ、対立するJR連合がそれを非難するという労組間の対立が見えたことで、このことをJR北海道のトラブル多発と関連付けて論じる人たちがいますが、彼らはそもそも36協定の実態を知らないか、意図的に伏せているとしか思えません。
好況期にも滅多に増員しない日本企業で定時退社は不況期だけと言われる実態があり、36協定はオーバーワークで残業定位の現実を追認するどころか、上限を超える部分の残業手当をカットする口実に使われているのが実態です。労組の強かった旧国鉄でもその実態は変わらず、日本独自の労使慣行として定着していたものです。つまりはサービス残業促進条項として機能しており、賃上げに熱心な日本の労組はスルーしておりました。その流れを受けて、JR北海道自身も36協定の必要性をそもそも認識していなかったし、実態として守られていなかったわけです。その中での労基署の調査というのがなぜ行われたかはわかりませんが、調査が入ればクロ判定が出ても不思議ではない実態はあったと考えられますが、そもそも今の日本でシロ判定が出る会社があるのかという疑問も拭えません。
それよりも、サービス残業が常態化していて、且つ経営が苦しくてコスト削減圧力が強い企業においては、容易にマンパワー不足に陥る危険があります。そうなればマニュアルなんて守ってられない事態は考えられます。あるいは労基署の調査も内部者あるいは退職者の通報があったのかもしれません。それだけ現場が疲弊していたと仮定すれば、現在のトラブル多発は説明がつきますし、現場の疲弊を見過ごした経営の責任は重いといえます。しかし困ったことにJR北海道は通常の事業会社と違って公益企業ですから、潰しちゃえというわけにはいかないわけで、最終的にJALのような破たん処理による再生というところへ行きつくしかないかなと見ております。
労組間の対立はJR各社がすべからく抱えている問題でもあり、JR北海道だけの問題ではないわけですから、その点でも労組問題とトラブル多発を結び付ける議論は疑問です。むしろ北海道固有の問題としては、国鉄末期の特定地方交通線転換で大幅に事業規模が縮小したことで、他地域よりも余剰人員が多数出たということがあります。その選別過程で国労系組合員が新会社の雇入れから漏れたことで、中労委から不当労働行為を宣せられるということがありました。そのとばっちりで受け入れを表明していたJR東日本まで非難を浴びることになり、総連系の東労組が受け入れに反対し、労使がぎくしゃくしたなんてこともありました.
JR東日本の首都圏の運行管理システムのATOSがありますが、多数のサーバで分散処理を前提とした自律分散システムに特徴がありまして、保線に関しても、現場で異常を発見すると端末からサーバへアクセスして直ちに運転抑止、線路閉鎖を手配できる仕組みが組み込まれており、緊急工事を機動的に行える体制になっております。もちろんそのせいでよく止まるという面もあるんですが^_^;、通信ログの蓄積でトラブルの傾向が掴めますから、先回り対策も可能で、中長期で安全性が高まります。
それだけに留まらず、例えば風が吹く度に荒川中川放水路橋梁の規制値越えで止まっていた京葉線も、防風壁の設置で規制値が見直されるなど、安全に安定運行できる環境が出来上がっています。ま、流石に台風18号直撃の時は止まりましたが。またこんなことも。脱線:ホーム下の土が崩れ、電車進入 JR中央線相模湖駅- 毎日jp(毎日新聞)脱線を知らせる「防護無線」というのは、多数の加速度センサーで車両の挙動を監視し、異常を検知して防護無線を自動で発報するものです。脱線そのものは完全には防ぎようがないのですが、東京メトロ日比谷線の中目黒事故のように、脱線状態のまま走行して中目黒のケースでは保線機械の横取りレールに案内されて対向列車と衝突したわけですから、脱線を検知して緊急停止することは重要です。元々ガテン系の鉄道の現場仕事は、少子化と共に人集めも困難になる傾向に抗うことはできません。自動化できるところは自動化して、現場仕事のバックアップを図ることは重要です。
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Comments
いつもためになるブログの提供、ありがとうございます。
特急列車が無断発車は恥ずかしながら初めて知りました。
もう酷いの一言につきます。
鉄道は他の交通手段に比べて安全がうりだと思うのですが、
それがないがしろにされてるのは残念です。
JR北海道には本当の安全対策をして頂きたいです。
Posted by: okeihansen | Saturday, September 28, 2013 04:22 PM
コメントありがとうございます。保線部門に限らず、現場の劣化が進んでいる現状はため息が出ます。
とはいえ気になる動きとして、政府の関与が気になります。本文中に労組問題をさらっと触れましたが、旧動労系主体のJR総連系労組への圧力が高まりそうな気配です。
JR北海道の場合、財務体質の弱さが現場の疲弊に原因ですから、財務的なてこ入れをするべきなんですが、労組のせいにして現場の荒廃を進めないか危惧しています。
Posted by: 走ルンです | Saturday, September 28, 2013 10:30 PM
走ルンです様
こんにちは。いつも興味深く拝見しております。
本当なら楽しく拝見、と書きたいのですがやはり楽しからぬ話題で、コメントさせていただかずにはおれませんでした。
この話題は、杉山淳一氏の鉄道連載記事でも二度ほど取り上げられておりますが、皆さん共通している見解は本当の意味の原因はどうやら根が深そうだというところだと思います。不幸中の幸いで、尼崎の様な悲劇にまではまだ行きついてはいないですが、次々と報道される異常放置や基準誤認などの問題の数々を見ていると、正直時間の問題だったのかもしれません。ヒヤリハットの塊が沢山の人を乗せて走っているような印象を受けます。
これらの種類の異なる事故や問題の数々は決して個別対処で済まされる問題ではなく、企業の中で最も上に来るべき(いや、少なくともJR北海道はそのような順序で会社概要を説明している)経営理念が全く遂行されていないわけですから、組織構造や経営方針のような企業の根幹の部分での見直しが迫られていると思います。ならば社外からの取締役を招き抜本的な組織改革を行わない限りは何も解決されないのではないでしょうか?
少なくとも、報道各社には反省だとか姿勢だとか努力の様な精神論なんかでこの問題を語っても欲しくないですし、さらに言えばJR北海道にはどうか出直すことでピンチをチャンスに変えてほしいと、鉄道好きとしては心底願ってやみません。
なぜJR北海道でトラブルが続くのか http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1307/26/news016.html
JR北海道の問題はどこにあるのか。そして解決する方法はあるのか。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1309/27/news021.html
Posted by: ポポロ | Saturday, September 28, 2013 11:03 PM
いつもありがとうございます。その後の報道でいろいろなことが出てきて、続編も書くべきか迷っております。愉快ではない話題ですから。
28年前に保線作業の基準値が変わったのに、旧基準のまま許容値を拡大した新基準で保守していたということで、明らかに旧国鉄の荒廃で情報が正しく継承されなかったという意味で気の毒な面はあります。
また6,822億円ある経営安定基金の運用も、自主運用が建前ながら、ほとんどは鉄道・運輸機構への貸出となっており、その金利が3.7%というあり得ない法定の高金利ですが、ここから敷衍されるのは、この仕組みが事実上赤字補填の補助金であるということです。
ここから逆算した赤字許容額を起点に資金配分されていたとすると、現場の荒廃をかなり説明できてしまいます。巷間言われる組合問題や新規採用手控えによる技術継承問題などは本質的な問題ではないと見ます。
あと私自身の勘違いですが、JR北海道は旅客鉄道に関する法律に準拠した全株政府保有の特殊会社で、JALのような破綻処理は基本的にできません。やるとすれば会社清算のための特別法を作る必要がありますが、今の政権でそんなめんどくさいことをやるとも思えません。とりあえずJR東日本に要員派遣を要請してお茶を濁してますが、資本関係のないJR東日本に頼るだけで済まない問題です。
というわけで、PCの前で悶々としています。
Posted by: 走ルンです | Sunday, September 29, 2013 11:41 AM
こんにちわ、いつも楽しく読ませていただいております。
JR北海道は難しいですね。
破たん処理はほぼできない以上、ごまかすしかないのですよね。
私個人は好きですよ、JR北海道。
あの極寒の北海道でよく生き抜いてるものだとおもってます。
むしろ、このタイミングで経営側も社員側も一度どこに無理があるのが根つめて探してみるべきじゃないでしょうか。
ただし、根性論だけが台頭するようだったら危ないですけどね。
Posted by: 幻月 | Thursday, October 17, 2013 01:05 PM
JR北海道の問題は深刻ですね。さまざまな報道がされてますが、週刊東洋経済の最新号で首都圏の遅延問題と共に取り上げられておりますが、しっかりした調査報道で核心に迫っております。
仰るように精神論ではどうにもならない問題ですが、気になるのが経営サイドのどこか他人事感です。現場が強すぎて口を挟みにくい空気があるとか、現場の頑張りに胡坐をかいて丸投げしているか。いずれにしても基本的な情報共有すらできていない感じで、何らかの抜本的な対策が必要であることは間違いありません。
今の流れだと11月のスピードダウン改正が恒久化してしばらく凌ぐだけで、次の矢が見当たらない感じです。速度落とせばとりあえず線路破壊の進行は遅らせることができますから。ただその先の展望が開けません。
Posted by: 走ルンです | Thursday, October 17, 2013 10:47 PM