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November 2013

Saturday, November 23, 2013

温暖化ガス削減目標で政権後退

何つーか政権も変だけど、メディアも変な昨今です。例えばコメの減反廃止報道ですが、正確には廃止されるのはコメ農家の戸別所得補償制度に紐付けされた減反の地域割り当て制度であって、元々民主党政権で実現した戸別所得補償制度を批判し続けた自公両党の政権復帰に伴うものに過ぎません。加えて財源は飼料用米作付などへの補助金へ転用し、コメの作付を減らさずに主食米の値崩れを防ぐというもので、減反の目的であるコメ価格維持政策は継続どころか強化されます。ぶっちゃけ何も変わっていません。

一方2011年に試験上場されたコメ先物取引が2年の期限を迎えますが、農協が無視し、組合員に暗に圧力をかけてガン無視して店晒しされた結果、見るべき実績をあげられずにいます。元々自民党が難癖つけて認めてこなかった試験上場が民主党政権下で実現し、コメの価格形成に一石を投じられるか注目されておりましたが不発でした。機能すればコメの価格指標となり、コメ農家の作付計画に反映され、例えば小規模農家が自前で作付するか大規模農家へ貸し出すかといった判断ができますから、自然に農地集約が可能でリスクヘッジにもなるのですが、農協の政治力の前に無力でした。コメが安くなれば農協の手数料収入が減るということで、農協にとっては死活問題でしょうけど、民間企業に過ぎない農協のために税金使ってコメの価格維持を行うことのどこが改革なんだってことです。

減反継続は農業専門紙では報じられている事実ですが、新聞テレビなどの大手メディアが揃いも揃って「減反廃止」というミスリードをやらかしているってことは、メディアがアホなのか政権のメディアコントロールが機能しているのか。何れにしても現在国会審議中の特定秘密保護法の成立如何に拘らず、日本には報道の自由は実体として存在しないってことですね。国民の知る権利は風前の灯火です。

てなヤケクソトークはさておき、ワルシャワで国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)開催中ですが、京都議定書を離脱し、2020年の削減目標を大幅下方修正した日本に批判が集まっています。その一方で京都議定書の目標年2008-2012年の平均値で日本は目標を達成しました。

温室ガス8・2%削減/日本、京都議定書を達成/原発事故後は増加 : 47トピックス - 47NEWS(よんななニュース)
前半リーマンショックがあって経済が停滞したことに助けられたのですが、2011年の震災以降は増えています。とはいえ原発事故で原発が止まって火力発電に切り替わったからという説明は事実に反します。石油やLNGなどの輸入量は原発事故後も量としては増えていません。金額が増えているのは価格上昇と円安の影響で2012年の輸入量の2010年比+0.6%に対して金額は+46%ですから、原発停止とCO2排出量の増加は無関係です。

増えている理由は震災復興や公共事業の増加による重機やトラックの稼働率アップと、低調だった国内製造業の回復が影響していると見るべきでしょう。それでも鉱工業生産指数(基準年2010年)で95程度での推移ですから、基準年がリーマン後で稼働率の低い状態での数値であることを加味すれば、低位安定ではあります。余談ですが設備投資減税が無駄と言える根拠でもあります。11年12年の排出量増加は震災復興の影響と見るべきでしょう。

また原発停止による石油やガスの輸入増が貿易赤字の原因とされておりますが、上記のように輸入量は増えていないのに、円安で金額が膨らんだわけですが、輸出金額は横ばいです。これは輸出数量が減っていることを意味します。つまり貿易赤字の原因は輸出の減少ということになります。つまりアベノミクスで国富が流出しているということになります。地域別に見れば中国向けが大幅減なわけですから、尖閣問題で悪化した日中関係に原因があると考えられます。とすると、対策は中国と和解することです。

で、日本が示した新目標のあまりの後退ぶりに世界中から落胆や非難の声が寄せられておりますが、政府の対応は「原発止まったんだからしょーがないじゃん」というもの。というか、そもそも原発のCO2削減効果そのものに疑義があるんです。原発は発電工程だけを見ればCO2を排出しませんが、前工程でも後工程でもCO2を排出します。具体的に見ていきましょう。

まず発電プラント自体が安全性を考慮して頑丈な鉄とコンクリートの塊ですから、原材料の鉄やセメントの製造工程から、砂利などの骨材調達で運搬が発生し、建設工程で重機が動きトラックが動くわけです。特に地震国である日本では尚更ということになります。また人口の疎らない地方の更に不便な場所に建設されますから、道路や埠頭などの付帯設備建設もあります。

燃料のウランも元素としてはありふれたものですが、放射性がありますから、どこでも掘れるわけではなく、例えば国内では岡山県の人形峠が有望と言われて調査の結果採算が合わないとなって放置され、今でも周辺は立ち入り禁止ですし、その影響かどうかはわかりませんが、空間線量も他地域より多く検出されています。必然的に輸入に頼らざるを得ないわけですから、長旅でCO2を出しますし、また燃料へ加工するためには遠心分離器にかけて濃縮し、ペレットと称する固形体に成型し、ジルコニウムという金属の鞘に納めて燃料棒に加工するわけですから、掘削、輸送、加工の各工程でCO2を排出します。

ただしこれら前工程は、現存する原子炉で保有する燃料棒を使って発電する限りにおいては無視できますが、後工程は時差を置いてのしかかってきますので、長い目で見れば逆効果の可能性は指摘しておきます。端的には使用済み核燃料の冷却ですが、水を動かすポンプの動力源が火力発電由来の電力だったら、それだけで発電工程の排出ゼロ効果を減殺します。ここから言えることは、本気で原発再稼働を目指すなら、電力の自然エネルギー転換はかなり頑張らなければならないということです。その意味では不安定な太陽光発電依存ばかりが注目されているのは危ういところです。

京都議定書でも森林の吸収効果を大きく見積もっていますが、現状は活かしきれていません。森林を吸収源としてカウントするFSC森林認証という制度がありますが、木の生長に合わせて間伐や下草がりをして、地面に太陽光を届かせることが求められますが、間伐もされずに放置された日本の多くの森林は要件を満たしません。ささやかながら一部で認証を受ける森林が出てきていますが、間伐材原料のパルプ紙でパンフレットを作って環境アピールをするといった取り組みが一部企業でなされていますが、もっと踏み込んで木質バイオマスの資源化というところまで考えるべきでしょう。

具体的には暖房用に木質ペレットストーブを用い、調理用に木炭コンロ等を使い、木質バイオマス発電で電力を得るといったことを積み重ねていくわけです。間伐で森林認証を得て排出権を取得して火力発電をする電力会社に売って、間伐で発生した木材を燃料で活用すれば、ルール上CO2排出ゼロとなりますから、吸収分の排出権は完全な付加価値となりますし、間伐材を集成材に加工して建材にすれば、コンクリートの建造物よりもCO2排出が少なくなります。

そして重要なのは国産であるということです。国内調達ならば貿易収支を悪化させることなく、また輸送工程でのCO2排出も抑えられますし、何より地方に雇用を生み出す新産業になり得るという点も魅力です。おさらいすれば、木質バイオマスで発電すれば、発電工程の排出量はがゼロ評価されるに留まらず、FSC森林認証による排出権取得によって、見かけ上排出量がマイナスになるということで、太陽光や風力でもできない芸当ですし、森林認証自体日本の主張が元になってますし、利用しない手はありません。翻って原発再稼働の既成事実づくりにCO2削減を利用しようという政治的小細工は何も生み出しません。

2013年以降の議定書離脱で、京都メカニズムと呼ばれる海外からの排出権クレジット取得が難しくなります。達成した1次目標でもおもに東欧圏から排出権を取得してきましたが、背景として旧社会主義国では旧式の非効率な火力発電所が現役という現実があります。それを最新式の省エネプラントに置き換えるだけでクレジットが発生するわけですが、日本の近くに宝の山がありますね。言うまでもなく中国ですが、2013年以降の議定書離脱を決めた日本では、これを利用しにくくなっています。ある意味自業自得ですが、国内削減の比重が高くなるから、2005年比3.8%減という大甘な目標しか打ち出せず、批判の嵐となっています。議定書離脱は民主党政権下の話ですが、日本の政治家も官僚も問題の本質を理解していないですね。

本来ならば議定書の枠組みに留まって、排出が増えているにも拘らずルールが定まっていない運輸部門の削減ルールの策定に関わっていくべきでした。その中で都市鉄道や貨物鉄道の近代化など、特にアジア地域で日本が関われるプロジェクトは多数あると思われますが、排出権クレジットを梃子に優位なビジネスを展開できる可能性はあると思います。まぁ離脱しちゃった以上死んだ子の齢を数えるようなものです。高コスト体質の中、欧州や韓国と競り合って事業化するハードルは高いと思いますが、後の祭りと気づく日は来るでしょうか。

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Sunday, November 10, 2013

羽田空港新アクセス鉄道の深層

構想自体は昔から存在するけれど、いつしか沙汰止みになった計画の復活です。

羽田空港へ新鉄道路線、JR東日本が検討 休止中の貨物線を軸に:ハフィントンポスト
現在休止中の東海道貨物線田町(札の辻分岐)―東京貨物ターミナル間の線路を活用して都心と羽田空港を結ぶ新ルートということですが、現時点ではJR東日本からの公式発表はありませんので、あくまでも検討段階ということでしょう。何だか田町電車区跡地の新駅構想と同様の気持ち悪さを感じますが、どんな「大人の事情」があるのかについて掘り下げてみるのも悪くないと思い直して取り上げます。

JR東日本は既に東京モノレールを傘下に収めており、羽田空港アクセスルートを一応自前で確保してはいるんですが、ターミナルの浜松町が足場として弱く、以前から新橋または東京駅までの都心延伸を検討していたわけですが、今や国内唯一のアルヴェーグ式低床モノレールで、荷重制限はあるし床は段差があるし、台車部分は車体中央にタイヤハウスがあって背中合わせのロングシートや荷物台を設置して誤魔化しており、輸送力に限界があるのは確かですが、京急の攻勢の前に劣勢であることは否めないところで、仮に東京モノレールの都心延伸が実現しても、輸送力の面で劣勢は変わらないわけですから、投資を躊躇せざるを得ないのが本音でしょう。そこへ2020年の東京オリンピック開催で交通インフラ見直しの機運が高まっており、その流れに乗ろうということで検討が始まったというストーリーは考えられます。

でも釈然としないんですよね。そもそもJR東日本の貨物線活用は、典型は湘南新宿ラインですが、武蔵野線の開業で線路容量に余裕の出た東北貨物線を活用し、初期は赤羽折り返しで東北線高崎線の中電を補完するところから始まって、やはり線路に空きがある山手貨物線を利用して池袋へ延伸し、埼京線の新宿延長を合わせて新宿へ、渋谷へ、恵比寿へと伸ばし、大崎から品鶴線(横須賀線)へ直通という風に、時間をかけてインフラ整備し、需要を見ながら定着させるという手堅すぎる手順を踏んでます。

また現在進行中の相鉄都心プロジェクトでも、西谷―羽沢間の新線整備は相鉄に投げて、JR東日本は羽沢の接続部だけを担当しています。しかも名だたる貨物幹線だけに、工事作業間合いの確保に苦労して工事は遅れに遅れ、2015年4月の開業予定が3年伸びて2018年度中になっています。つまり東北貨物線や山手貨物線の旅客転用の場合と異なり、線路容量に空きが少ない中では、整備にも時間がかかるし、完成しても運行本数が大きく制約されるということは覚悟する必要があるわけです。

それを踏まえて新ルートを見ると、現状天空橋駅付近を地下トンネルで通過する東海道貨物線から分岐して空港内へ地下トンネルで延伸するという前提で見る限り、相当bな難工事が予想されます。貨物列車が運行する地下トンネルでの分岐ですから、地上での線路付け替えの羽沢駅ですら予定通り進まなかった中で、作業間合いの確保はかなり困難が伴いますし、それ以上に空港内への延伸は、軟弱地盤の中、滑走路やターミナルビルその他の空港施設を支障しないことが求められますから、簡単ではありません。2020年の東京オリンピックに間に合わせるのはほぼ不可能でしょう。

蛇足ですが、東京貨物ターミナル―鶴見間は基本計画上の建設線名称は京葉線ですが、国鉄分割民営化で新木場―大井ふ頭(東京タ)間が欠けた状態で移管されたこともあり、東海道貨物線に組み込まれました。その後第三セクターの東京臨海高速鉄道りんかい線2期工事で大井ふ頭への回送線ができたこともあり、結果的に線路がつながり、東海道と千葉方面を結ぶ貨物ルートが形成され、国鉄時代の京葉線の計画路線が実現した形です。

あと都心側のルートも一筋縄ではいきません。旧汐留駅へ通じていた貨物線ですが、分割民営化後も浜松町までは単線でルートが残っていましたが、東海道新幹線を挟んで旅客線とは分断されており、現状のままでは都心へたどり着けません。東海道新幹線を乗り越して、旅客線に合流させるには犬猿の仲のJR東海の協力が欠かせないわけで、意外と高いハードルかもしれません^_^;。また旅客線へ合流させても線路容量に余裕は乏しく、列車設定は支障されます。高高架の二層式で東京まで伸ばして中央線につなげるという手も考えられますが、東北縦貫線の神田駅周辺で環境アセス手続きが難航したように、これも簡単ではありません。地下へ潜らせて横須賀線ルートへ繋げることも考えられますが、やはり難工事は覚悟する必要があります。ただし既存の成田空港アクセスルートとの連携は可能ですので、有力な選択肢ではあります。

というわけで、客観的には不確定かつ困難な条件が多数ある中、このニュースがこのタイミングで流れた理由は何なのかという疑問が湧いてきます。一つは上記の京急に対する東モノの劣勢を挽回したいということもあるでしょうし、噂レベルですが、オリンピック関連で押上と泉岳寺を結ぶ短絡線建設構想が動くのではないかという憶測もあります。ただし事業主体に見込まれる東京都があまり乗り気ではありません。ま、ここで新線建設を見込んで負債を増やせば、ささやかな単年度黒字が吹っ飛んで都がメトロを飲み込むという都主導の地下鉄一元化にマイナスですから、よほどの手厚い補助金でもつかない限りないと見ますが、安倍政権で公共事業に前のめりな状況では先が読めませんから、そちらへ補助金が付く前に名乗り出てアピールしようという本心はあるかもしれません。

というのも、震災復興が道半ばの中で、失われた20年で構造不況業種として縮小を余儀なくされてきた建設業だけに、人材と資材の不足から人件費と資材費の高騰に直面しており、そこへ公共事業の大盤振る舞いですから、東北の復興が遅れるに留まらず、公共事業の入札が参加企業不在や予定価格オーバーで不調が続いており、事業費の見直し即ち肥大化が不可避な状況で、先に手を挙げておけということで、浅草線バイパスの実現可能性を狭めることができるという読みがあるんじゃないでしょうか。

羽田空港アクセスでの京急に対する劣性に留まらず、成田スカイアクセス開業後のN'EXの不振もあります。結果的に253系よりも両数の多いE259系の稼働率が低いため、伊豆方面への季節臨に投入されたりして、185系踊り子の置き換え観測が出されましたが、実際は中央線あずさ・かいじに車体傾斜システム搭載の新車を投入してねん出されたE257系で置き換えということになります。朝夕のライナー列車充当を考慮すれば、妥当なところですが、リゾート列車への新車投入は難しいのでしょう。

というわけで、浅草線バイパスが実現すれば、JR東日本は空港アクセス輸送でかなりダメージを受けると考えられますから、それを遅らせ、あわよくば沙汰止みに持ち込みたいと考えても不思議ではありません。そんな微妙な事情が裏にあると見るのは穿ちすぎでしょうか。いずれ公共事業の大盤振る舞いは続かないでしょうから、事業化のチャンスはかなりきわどいタイミングとは言えそうです。

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Monday, November 04, 2013

嗚呼ふけいざい

民主党政権で閣議決定されながら廃案となった交通基本法ですが、自公政権でこんな形で法案提出に向けた動きがあります。

交通政策基本法案、地域活性化や災害対応に重点 国交省骨子 :日本経済新聞
民主党政権時代に閣議決定されながら震災や原発事故の混乱で廃案となった交通基本法と名称は似ていますが、中身はかなり違うようです。交通基本法が憲法の基本的人権の概念の拡張としての移動の自由の保証として、国、自治体、交通事業者の役割を定義するという趣旨に対し、今回の法案は地域活性化や災害対策に重点を置くということで、言うまでもなく国土強靭化のバラマキ政策の実現に重点が置かれているという意味で、似て非なる法案です。

具体的には多重化、ミッシングリンク解消、災害復旧の迅速化、地域興し支援などが考えられますが、何のことはない、国土法の焼き直しと見た方が良いようです。当然採算性はあまり考慮されていないわけで、土建屋は喜ぶでしょうけど、交通事業者にとってプラスになるかどうかは微妙です。むしろJRなどは事業着手への圧力が増す可能性もあり、例えば北陸新幹線大阪延伸などでJR西日本が矢面に立つなどは考えられます。

個別事業については災害に強くなるとか地域が元気になるとか、あらん限りの美辞麗句を並べて事業を推進できるという意味では、一番の受益者は、事業誘致を手柄にできる国会議員かもしれない、そんな法案になりそうです。消費税上げてもこんなことに使われるんじゃ、財政再建も遠のきます。特定機密保護法に隠れてトンデモな法が通るというシナリオは意識しておく必要があります。

原発関連でも動きが出てきてます。東電の分社化です。

東電分社化求める 自民、汚染水対策急ぐ  :日本経済新聞
これは1日に衆院で可決した電気事業法改正案で発送電分離が盛り込まれたことと紛らわしいんですが、ある意味どさくさ紛れで、福一の除染と汚染水処理と廃炉作業を東電本体から切り離して、福一のトラブルを抱えた状態で柏崎刈羽の再稼働準備に批判が出ている状況をかわし、且つ国費投入を決めたとはいえ東電本体へ直接ではなく分社化部門へ国費を入れることで、根強い破綻処理の議論をかわそうとするものです。安倍政権になってから、この手の国民をだますレトリックが多数見られますが、メディアは沈黙したままです。

他にも気になる動きがあるんですが、前エントリーでも取り上げたみずほ銀行の反社取引問題です。これも散々報道されており、みずほの旧三行対立などまで根掘り葉掘り報道されましたが、冷静に見ると該当する取引は230件計2億円ほど、1件当たり87万円という、メガバンク絡みの経済事件としては、言い方は悪いですがショボい事件です。不正取引で米英当局から追い込まれているJPモルガン・チェースの不正事件とは比べるべくもないところです。それだけ邦銀はクリーンなんでしょうか。

これもいろいろ言われておりますが、発覚したのは氷山の一角で実態はこんなもんじゃなく何倍もあるという見方もありますが、私は別のことに注目しております。金融庁の検査マニュアル改定という微妙な時期に発覚したという意味で、特異な事件に見えるからです。

検査マニュアル自体は、前身の金融監督庁時代から何度も改定されていますが、そもそも90年代の金融危機を受けて行われた財金分離で旧大蔵省から分離した金融庁の検査マニュアルは、銀行に不良債権処理を促し財務の健全化を迫るという基本スタンスは変わらなかったのが、今回は積極的な融資を促す方向へシフトするものですが、その中で反社取引という膿みを出す必要があったということです。

そもそもかつてはろくな審査もなく開設できた銀行口座が、最近は本人確認などかなり厳格化しています。暴対条例の全国施行で暴力団への利益供与が刑事罰の対象となったわけですから当然の変化ではありますが、それ以前に開設された口座には遡及しませんし、口座開設後に組員や構成員になれば防ぎようがないですし、そもそも昨今は切った張ったの武闘派よりも、経済事件に絡む経済ヤクザが主流となり、株式会社など堅気を装ったフロント企業としてステルス化しているわけで、銀行といえども情報把握は困難で、結局情報を持っているのは警察だけですから、何かグレーな要素を見つけて警察に相談するなどして取得した情報ということになります。

今回のみずほ銀行の事件は、関連会社のオリコの提携ローンで、事前審査はオリコが行う仕組みで、資金はみずほが出しオリコが信用保証するというものです。仮に反社取引などローンを停止すべき事案が発覚した場合は、直ちにオリコに通知して代位弁済させるというもので、みずほ本体は傷まない仕組みです。もちろん関連会社で持分法適用会社のオリコの損失は連結業績に反映されるわけではありますが、早い時点で通知していれば、オリコの信用情報が更新されて以後実行されなかったローンがあると考えれば、結局損切りを遅らせて損失を拡大したことになりますから、みずほ銀行が免責されるわけではありません。

この構図は経産省所轄の地方信用保証協会の連帯保証と同じで、窓口の銀行はいざとなれば信用保証協会に代位弁済を求められるため、ろくな審査もしないで貸し出して1割相当を焦げ付かせた前科と酷似します。これらのかなりの部分は反社取引に流れたと言われておりますが、損失は国民負担に付け回されました。また経営の苦しい中小企業の融資を付け替えて破綻後に代位弁済を実行した事例も多く、中小企業対策と銘打って実際は銀行救済という風に、すり替えられた過去があります。

そういう中で、成長戦略として設備投資を促進する政権の意向を反映して融資後押しを狙う新金融検査マニュアルの実行を迫られて暗に銀行に融資の見直しを迫るという隠れたメッセージではないかと推測されます。いつまでも国債投資や信用保証ローンに頼るなということですね。

それはそれで結構なことなんですが、実際には企業の設備投資は低調です。それもそのはずで、日本企業特に製造業は、バブル期の過剰投資の解消道半ばで、とても新規の設備投資を行う環境にありませんし、また過剰投資の副産物として固定資本減耗が拡大しているという点にも注意が必要です。

固定資本減耗は企業会計の減価償却費と同義ですが、約500兆円規模の日本で、この固定資本減耗が107兆円と2割を超える水準です。通常は減価償却費を設備の更新投資に振り向けることで、資産規模を維持しながら生産を継続できるわけで、さらに成長するためには減価償却費を超える水準の設備増強投資を行うことになりますが、増強部分については需要の裏付けがあるとは限りませんから、経営による慎重な見極めが必要になります。

しかしそもそも設備水準が過剰な場合はどうなるかといえば、設備を除却することでフリーキャッシュフローを得られます。つまり古い設備を廃棄することで、新たな収益部門への投資に回す原資が得られるわけですから、設備投資に前向きな企業であっても、銀行融資に頼る必要性は乏しいわけで、いかに金融庁が検査マニュアルで尻叩いたところで、企業はお金を借りてくれないわけです。同時に固定資本減耗がこれだけ高水準であれば、その分雇用者報酬も企業の営業余剰も圧迫されるわけですから、それ自体が経済を圧迫する要因にもなります。そこへ追加的に設備投資を求めれば、雇用者報酬も営業余剰もさらに圧迫されて窮乏化するわけで、これこそがアベノミクスのなれの果てです。これこそ安倍政権最大のレトリックです。

そして黒田日銀の質的量的緩和(QQE)で国債を大量購入し国債市場から銀行を締め出そうとしているわけですから、銀行は出口がない状態にあるわけです。そうでなくても長く続く量的緩和で長期金利が低下している状況では、長短金利差が縮小して銀行の利ざやを圧迫しているわけですから、行政が強権的に融資を後押ししても実現可能性は低いわけですが、にらみを利かせるネタとしてはみずほ事件はうってつけだったと言えるのではないでしょうか。

という具合に旧ソ連も真っ青な強権的な政権運営とは裏腹に、国民を騙すテクニックは確実に高めている政治家たちですが、そんな中で園遊会での山本太郎議員による天皇陛下への手紙の手渡しという椿事が起きました。それに対する与野党議員のリアクションがバカバカしくて笑えます。特に憲法問題を盾に天皇の政治利用とする声が多いのには驚きです。

山本議員の行動は非常識でばかげてますが、法律的には禁止事項ではありません。帝国憲法では国家元首にして主権者と定義されていた天皇は、日本国憲法では決められた国事行為を行うのみで公権力っから切り離されているわけですから、元々政治的な権限も権能も持ち合わせていないはずです。「売名行為」を言うならば4月28日の「主権回復の日」とやらの政治性の強いイベントに天皇を担ぎ出したことはどうなるんだということも問われますし、そもそも園遊会に議員を呼ぶなという話にもなりかねません。

ま、お行儀が悪いと批判することはできますが、それで終わらせてれば良いものを、請願法を持ち出して天皇への請願は内閣に提出すべきところを直接手渡したと言い出したあたりで迷走が始まります。請願法は手続法に過ぎませんし、そもそも今回の手紙を請願とするならば、日本国憲法第16条で国民の請願権の保証が謳われていて、請願を理由とする差別は禁止されているわけですから、そもそも山本議員を処罰できませんし、天皇が受け取ったとしても手続き上の瑕疵として内閣へ回付されれば、内閣はその請願に誠意を以て答える義務が生じるんですがねぇ(笑)。

というわけで、元々憲法なんざ守る気もないからきちんと読み込んでいない政治家が共産党を含む与野党に溢れかえっている現状を顕にしたという意味で、山本議員はいい仕事をしたのかもしれません。脇が甘いのはいただけませんが。

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