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Sunday, January 26, 2014

西武戦線異状あり?

いや浅村の成長と中村の復活で大阪桐蔭コンビ揃い踏みで優勝まっしぐらって、そりゃライオンズの話です。いやまぁそのライオンズも身売りの危機があったことをお忘れでしょうか。そう、サーベラスに身売りを迫られたとかなんとか。ほぼ半年前のエントリーで話題にしました。そのときも株安のタイミングというのは味わい深いですが偶然です。

その後サーベラスとは水面下で折衝が続けられ、合意の見通しが報じられるまでになりました。

道筋見えた、西武の「良い形での上場」 | 企業 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
これはこれでグッドニュースではありますが、一方でこんな報道も。
再送-〔焦点〕サーベラス、対日戦略見直しの動き 西武・国際興業株売却は撤退の布石との見方も | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters
サーベラスが国際興業にも出資していたというのは驚きですが、その国際興業株を売却していて、西武HDに関しても、持分35%のうち20%を西武側の要請で売却し、上場後残り15%も早期に売却の意向のようです。記事によればサーベラス側はニューヨーク本社が直接交渉しているようで、昨年の騒ぎはどうも本社に手柄を献上したい東京支社の独走だった可能性もあります。とはいえ当時の株価水準から導き出された公開価格が低すぎたことは確かでしょうから、結局株式相場の上昇トレンドが幸いしたというのが実際でしょう。と同時にサーベラスが立て続けに日本企業の大型案件から撤退することの意味は、外国人投資家に支えられてきた昨年11月以来の上げ相場の終わりが見えてきたということでもあると見ます。

元々アベノミクス=Asset Bubble Economicsであるとして、いずれ宴の終わりが来ることを指摘し続けてきましたが、予想以上に早いのかもしれないと思う昨今です。エコノミスト達は様々な経済指標を示して、現状がバブルではないと主張しておりますが、そもそも信用通貨の供給の仕組みである近代銀行システムでは、通貨発行は銀行融資による信用創造であるわけで、融資は融資先名義の口座への残高積み増しで、それを引き出して現金化するか、口座振替や振込で決済することで、交換を媒介し実体経済を動かすわけですから、融資を通じた通貨発行量分だけ見かけ上社会全体の資産が増えるわけです。一種の錯覚であり、ケインズは「貨幣錯覚」とか「貨幣愛」といった言葉を使って本質を指摘しています。

以前マネーサプライと言われたものですが、現在はマネーストックと呼ばれます。要は紙切れや電子データでしかないものが、見かけ上価値を持つわけで、バブル的な要素がそもそも備わっているわけで、今はバブルではないと主張するエコノミストたちは、銀行システムによる通貨発行の仕組みが理解できていないということになります。金融緩和はつまるところ日銀が銀行に対して行う貨幣供給を通じてベースマネーを増やし、それを通じてマネーストックを増やそうということですから、元々バブル化狙いでしかないのは度々指摘しております。

そしてとりあえず目論見通り株価や地価などの資産価格の上昇が認められるわけですから、その意味では大成功ということのようですが、子細に見れば株価が底を打って上昇に転じたのは12年11月で民主党政権時代ですから、アベノミクスのおかげというのは、時系列を無視した議論です。この時何が変わったかと言えば、単純化すればリーマンショックのダメージから抜け出してグローバルな投資家のマインドがポジティブに変化した結果、低金利通貨である日本円が資金調達に使われ外貨に交換された結果、円安となるわけです。いわゆるリスクオン状態になったわけです。

その結果円安が進み、それと並行して株価も上昇していったものです。ザックリいえばドル円78円→104円で対ドルで25%円が減価した結果、ドル建て表示で割安感の出た日本株に買いが入ったわけで、12,000円→16,000円と33%増ですから、丁度円の減価分の逆数になっているわけで、明らかに連動しているわけです。個別銘柄の値動きはともかく指標としての株価は完全に円安と連動しているだけです。だからアルゼンチン・ペソの下落を引き金に円高になると株価も連動して下落するわけです。

今回の出来事は現在のリスクオン相場を終わらせるリスクシナリオとして想定されるものの1つではあります。いわゆる投資マネーの先進国シフトと呼ばれる現象で、高成長を求めて新興国に流れ込んだ投資マネーが先進国へ回帰する流れは既にあったのですが、米QE3の終了でそれが加速されるというものです。もちろん87年の米ブラックマンデーの暴落が日本のバブル景気で打ち消されたように、単純にバブルの終焉を意味するかどうかは現時点では不明ですが、日本がアベノミクス景気で浮かれている間に、世界は激変してしまったと言うべきでしょう。

大きく変わったのは、アメリカの経常赤字が減ったことです。大幅赤字を垂れ流し続けてきたアメリカが、いわゆるシェール革命で大変化しているのです。というのは、シェールガスの生産が活発になった結果、天然ガスの値崩れが起きている一方、戦略物資であるエネルギー資源は輸出禁止されていることもあり、出口が見えない状況にあり、同様の技術でシェール層などに埋蔵されている石油の生産にブームが移行しているのです。シェールガスに関しては、生産は進む一方、消費地へ送るパイプライン整備が追い付かない状況も災いしていて、連日のニューヨーク大寒波では消費量が増えてガス小売り価格が逆に上昇すらしている状況で、当面シェールガス開発は減速せざるを得ない状況です。

いわゆるシェールオイルと日本で呼ばれるものですが、頁岩層のみならず砂岩層に含まれるタイトサンドオイルも含むので、正確にはタイトオイルと呼ぶべきものですが、いずれにしろこのような非伝統的埋蔵エネルギー資源の発掘が進んだ結果、アメリカの原油輸入量が劇的に減少したものです。元を辿れば大量消費と国内産業の劣化で赤字続きだった結果、金本位制を維持できなくなって71年のニクソンショックに至り、米ドルの減価によって原油価格に上昇圧力が働いた結果がオイルショックに繋がるわけですから、アメリカは積年の課題を脱しつつあると言えます。

加えてシェールガスやタイトオイルの開発で設備投資が活発化したに留まらず、これらを原料とするエチレンなどの化成品プラントが国内産の安価な原料が利用可能になり活性化していて、それがオバマ政権が目指していた製造業の復権による輸出拡大路線に乗って拡大してきております。この点は従来相対的に安価だった中東産重質油に依存していた日本の化成品メーカーの比較優位が失われることを意味しますから、二重の意味で日本経済にダメージを与えます。

アメリカの経常赤字縮小は、同時に貿易相手国の経常収支に大きな影響をを与えます。それが顕著に表れるのが新興国と言われていたのですが、実際は貿易規模の問題から中国と日本が受ける影響は巨大です。新興国に関しては、経常赤字国に選択的限界的に影響が表れるけれど、規模の点では大きくないわけで、今回のアルゼンチンショックはそれに当たるわけですが、心理的影響でバブルの終わりとなるイベント性は持ち合わせているわけで、上述の通りリスクシナリオの1つではあるわけです。

ちなみにほかのリスクシナリオは、アメリカ経済の失速とユーロ危機ですが、それぞれ可能性は指摘できます。まず前者はこの報道です。

シェールオイルに新たなリスク:ワールドビジネスサテライト:テレビ東京
赤の女王シンドロームという新語も出るほど、生産量の急激な落ち込みで無理な生産を強いられており、いずれ矛盾が噴き出す可能性はあります。当面すぐどうこうはあにとしても、リスクが意識され始めたということではあります。後者はEUが進める銀行同盟が中途半端で、いずれ何らかの形でユーロ危機が再燃するというものです。あるいは今回のアルゼンチンショックのような外生的要因がトリガーになる可能性はあります。

皮肉な話なんですが、シェール革命を背景とするアメリカの復活は、凍りついた投資家心理を融解させてリスクオン相場を形成しました。アメリカの復活といっても、政治の混乱による財政の崖問題や雇用の拡大が伴わないなどで力強さに欠けており、それがFRBのQE3へと駆り立てたということになります。これも裏でドルの信認低下による減価を嫌った中国の圧力があったと言われます。尖閣や靖国で角突き合わせる日本の立ち位置の危うさは、この辺の動きを見落としているということでもあります。アメリカは中国と軍事的に争う意思はないのです。

で、リスクオン相場をアベノミクスとはやし立てて自己陶酔に陥っている日本で、実体経済が蝕まれる結果になっているのですから皮肉です。アメリカの経常赤字縮小に呼応するように日本の経常黒字も縮小しておりますが、この辺はマクロ経済をちゃんと観察していれば一目瞭然なんですけど、閣僚から「思ったほど輸出が伸びない」という発言が出るぐらい政府の認識は呑気で鈍いものです。

貿易赤字は原発停止で化石燃料輸入が増えたからという説明も、数量は増えていないのに原油高と円安で円建て輸入価格が増えただけである一方、輸出は円建てで横ばいですから、実質は減少であるという事実には目を背け、原発再稼働すれば改善するとか、中国の成長鈍化が原因といった話ばかりしているのですから、本当に危ういです。素直に見れば円安で交易条件が悪化して実体経済を弱めているのであって、仮にアルゼンチンショックでリスクオン相場が終われば、最悪のタイミングで4月の消費税率アップを迎えるわけで、堅調だった消費も暗転し、当然円高株安となり、冒頭の西武HDの再上場に黄信号ということも考えておく必要があります。堤家の呪いかも。

冗談はさておきまして、仮に再上場にこぎつけたとしても、サーベラスの株式売却は早い時点で行われると考えられますから、上場後の上値は重い展開となり、場合によっては公開価格を割り込む事態も視野に入れておく必要があるでしょう。というわけで、西武HD株式は手を出さない方が無難です。

で、もう1つ鉄道業界で大型IPOが考えられるのが、東京メトロです。最大のネックだった猪瀬知事が辞めたんで、とりあえず障害はなくなりましたが、現政権では視野に入っていないようです。ま、アベノミクスに浮かれて税収増もあり、それを公共事業に突っ込んで財政再建は後回しというスタンスですから、必要性を感じていないのかもしれませんが、仮に宴が終わって税収が伸びないとなると、どう転ぶかわかりません。ただしこういう状況でのIPOは株式売却益が財政出動の原資に消える可能性を高めますから、国民的にはバッドタイミングの上場ということになります。都知事選の渦中ですから、誰が都知事になるかによっても展開は変わるでしょうけど、注視していきたいところです。

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