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Monday, January 13, 2014

なにわ無くとも江戸村先五輪ですよ

てことでイノベーションを掲げたイノセントな知事の辞任で降って沸いた都知事選ですが、脱原発を掲げて細川元首相が小泉元首相の支援の下で立候補という話が出て、一気に構図が変わりました。原発問題が都政と関係あるのかという声がありますが、東電の株主にして、最大消費地の自治体つまりユーザー代表の性格も有する東京都が現実的に直面する問題という意味で、ステークホルダーとして深い関わりがあります。

東電問題については、破綻処理を回避した処理スキームの問題は度々指摘しておりますが、現在進行中の経営改革では、発電その他の部門を分社して持株会社化する方向ですが、発送電部門がコア事業として残る形が最終形になりそうです。一応福一事故後に東電内部の有志社員による幻の再建計画に見かけ上沿った形です。首都圏の巨大な送電網の管理だけでも、収益性は確保できます。

むしろ老朽化した発電部門は積極的に分社して外部資本を入れた方が本体の負担が減りますし、国内最大の天然ガスユーザーとして東京ガスよりも輸入量が多くまた東京ガスの大口ユーザーである東電ですから、ガス事業への参入も模索しております。この辺は形ばかりの発送電分離で料金の総括原価方式は維持された中途半端さと、その中途半端さをそのまま移植したガス事業の参入規制改革など、政府の打ち出す政策が東電を助ける方向にバイアスがかかっており、このままではどう足掻いても電力料金は高くなる方向性ですから、株主である東京都がユーザー代表として関わることで政府の政策にもインパクトを与えられますから、都知事選びは大事です。

てわけで、有力候補と言われる中で、脱原発を掲げる候補として弁護士の宇都宮健児氏と細川元首相の2人が立つわけですが、全原発即廃炉を掲げる共産党の支持を得る宇都宮氏よりも、中道派と見られる細川氏を私は評価します。熊本県知事を務めtましたし、行政の長としての手腕もこなれていると見て良いでしょう。原発を現実的になくすつもりなら、全原発廃炉の主張はむしろ害悪です。

一部で「5千万円で辞めた知事の後釜が1億円の人」というような声がありますが、その5千万円の人も1億円の人も刑事訴追されていないということは事実として指摘しておきます。猪瀬氏に関しては刑事告発されてはいるものの、不起訴処分で検察審査会で起訴相当の判断が2回出て検事役の弁護士による代理起訴に至る可能性はありますが、陸山会事件の顛末でわかる通り、有罪にはならないでしょう。そもそも検察が本気なら捜査情報をリークするはずがありません。これは佐川急便事件の細川氏や陸山会事件の小沢氏も同様です。ただし本人の政治活動は大きく制約されることは間違いありません。事実上の検察の政治介入です。

逆に実際に刑事司法手続きで訴追された鈴木宗男氏は、選挙区の地場の林業会社ヤマリンからの600万円献金で有罪判決を受け実刑を受けてます。猪瀬氏の5千万、細川氏の1億、小沢氏の4億と比べて何とも些末な事件で実刑ですから、検察が本気ならここまでやるということです。まして石川知裕議員は自らの政治資金ではなく陸山会の4億円土地取引当時の秘書だったというだけで。虚偽記載の罪で有罪判決を受けておりますが、小沢氏本人の立件はできないのに変ですよね。云わば一罰百戒による脅しですが日本の刑事司法はこんなんです。

で、笑えるのが維新ですが、石原慎太郎氏が田母神元空自幕僚長支持を公言したために、早々と自主投票となりました。そんな維新のおひざ元の大阪府議会である議案が否決され、反対に回った議員4名が会派離脱して維新は過半数割れで少数与党に転落しました。逆風の絶えない昨今の維新ですが、その議案とは第三セクターの大阪府都市開発(OTK)株式の米投資ファンドへの売却でした。

ローンスターの大阪3セク鉄道会社買収を否決=大阪府議会 | ビジネスニュース | Reuters
OTKと言えば泉北高速鉄道を運営する第一種鉄道事業者ですが、元々は大阪でトラックターミナルを運営する第三セクターだったものが、泉北ニュータウン開発で鉄道構想が持ち上がり、南海j高野線中百舌鳥から分岐して光明池までの区間の鉄道整備が求められ、当初は南海電気鉄道による整備が考えられていたのですが、当時重大事故を重ねて当時の運輸省から業務改善命令を受けていた南海は、ATS整備など安全対策投資で新線建設どころじゃなかったということで、同じ運輸業ということでOTKに白羽の矢が当たり、鉄道事業を定款に加えて建設、運営することになりました。

首都圏で言えば北総鉄道や東葉高速鉄道が三セク方式のニュータウン鉄道ですが、いずれも出資自治体や鉄道事業者の都合で複雑な経緯を経て成立しているのに対し、泉北では既存三セクのOTKに鉄道事業を担わせるというのが独特です。敢えて三セクを新設せず、既存の組織を活用したわけです。ただし鉄道事業の経験のないOTKですから、当初は線路その他の施設一式と車両などの動産を保有した上で、運営は南海電気鉄道に委託するという方法を取りました。面白いのはその後で、駅員など新規採用でプロパーの鉄道事業従事社員を育成し、駅業務から運転業務へと徐々に直営化して、現在は朝ラッシュ時の中百舌鳥通過の区間急行で全区間南海の乗務員が乗務するのを例外として完全な独立鉄道となっています。車両も南海車の廉価版でスタートしながら、現在は独自設計のオリジナル車両を入れており、独立性を高めています。というわけで、とかくお荷物になりがちな自治体出資の第三セクターでありながら、独自の成長路線を歩んでいるのが面白いところです。

そのOTKが今なぜ株式売却かと言えば、維新の政策による民営化の一つ覚えです。OTKに関しては大阪府に年間12,000万円を配当する黒字企業で大阪都構想と絡んだ重要案件でもありました。というのは都構想に欠かせない堺市の懐柔のために、割高運賃の泉北高速鉄道の運賃値下げの意図があったからです。現状はこうです。

 南海難波―中百舌鳥 320円
 中百舌鳥―和泉中央 320円
 南海難波―和泉中央 620円(乗継割引-20円)
地下鉄難波―なかもず 310円(参考)
実は泉北の運賃は南海の運賃と比べても特に高いわけではなく、新設のニュータウン鉄道としてはこなれた運賃と言えます。割高になるのは中百舌鳥で打ち切り合算となるためで、乗継割引で20円値引きされていても、難波―和泉中央間27.1kmが620円となり、南海の通し運賃ならばほぼ等距離の難波―河内長野間27.5kmで540円と比較すると割高感が鮮明になります。

で、入札が2013年に行われ、米投資ファンドのローンスターが落札し、2位の南海電気鉄道と60億円もの差をつけました。ややこしいのはOTKが物流事業と鉄道事業を両輪とする事業で、両者の収益性に差があり、ネット通販の普及で好調な物流事業と、手堅いとはいえ収益性に劣る鉄道事業ということで、当初分割して民営化を検討したものの、鉄道単独では経営が厳しいということで、一体での民営化となった経緯があります。その結果、利に敏い米投資ファンドが入札して混乱しているわけです。で、元々保守色の強い維新の議員団に抵抗感が生じ、造反へとつながったわけです。

ローンスターは破綻した東京相和銀行の事業を継承した東京スター銀行の再生を成功させたほか、ゴルフ場やレジャー施設など多数の案件を手掛けて実績を積んでおり、外資だからと警戒するような存在ではないと思いますが、鉄道事業の経験はおそらくない点で、民営化の狙いとされていた運賃値下げで大差の2位となった南海と差がつきました。南海は乗継割引を80円増やして100円引きとし、難波―和泉中央間540円とするとしているのに対し、ローンスターの提示したのは乗継割引10円追加のみです。

これは当然でして、元々南海高野線の支線形態で直通運転も頻繁に行われている南海との統合ならば、管理、保守、運転すべての部門で重複を排除して合理化できますから、値引きの原資を得やすい上に、市営地下鉄のなかもず延長で大阪へ向かう乗客が抜かれる状況に対する戦略価格という意味もありますが、ローンスターの場合、泉北線の一方的な割引追加に留まりますし、中百舌鳥から先は南海でも地下鉄でも関係ありませんから、経営の観点から大幅値引きは難しいわけです。

入札に当たってはこういったことも考慮されるはずですが、松井府知事の判断は株式売却価格を優先しました。そりゃ12,000万円もの税外収入と引き換えですし、大阪府以外の株主の意向も無視できませんから、高値で売りたかったのでしょうけど、その結果乗客の負担の軽減は中途半端では、有権者の理解は得られないでしょう。でもおそらく松井府知事は少しでも株式売却価格を高くしたかったのでしょう。

考えられるのは、大阪市の地下鉄民営化との連動です。どういうことかと言えば、大阪市の橋下市長がこんな表明をしました。

なにわ筋線の府市検討を正式表明 都心部に複数の駅設置  :日本経済新聞
ここで地下鉄民営化による株式売却益の投入を示唆しているのですが、府市共同事業ですから、大阪府も資金の当てが必要です。つまりOTKの株式売却をより高値でという思惑があったのでしょう。結果ヤブヘビとなったわけです。ま、仮に全てうまくいっても、事業費の1/3を負担するJR西日本と南海電気鉄道は、事業費次第の半身の姿勢ですし、一方で震災以来の人件費や資材費の高騰に加えて、景気対策と東京オリンピック絡みの公共事業積み増しもありますから、事業費の膨張は避けられないでしょう。

というわけで、タイトルのような状況というわけです。お粗末さまです。m(_ _)m

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